Ep.36 まだ見ぬ明日へ(5・終)「ゆっくりと、驚くほどのスピードで」
遊園地を、満喫しきった俺たち。
裏目的である「隼人と松宮の急接近大作戦」は成功したのかよくわからないが、まぁ失敗もしていないだろう。
駅を出たところで、女子たちはまとまって帰ると言い出した。
望月 美羽:
「女子は今からお茶して帰るのっ」
ウキウキしながら、そう言う望月。
おそらく、女子会なるものを開催しに行くのだろう。女は元気だ。
大谷 圭介:
「俺らも帰るかー」
夕焼けの駅前で、男子メンバーに声をかける。
中曽根 悠:
「おう、明日も部活だしな」
井本:
「帰ったらひと眠りしよー」
男どもは帰る気満々である。
まぁ、いつも顔を合わせるメンバーだからな。
小池 隼人:
「今日は楽しかったね。ケイちゃん、ありがとう」
隼人は俺の隣でニッコリと笑い、そう言ってくれた。
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まだ見ぬ明日へ
(5)「ゆっくりと、驚くほどのスピードで」
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家が反対方向の井本とは、しばらくして別れた。
大中小トリオの俺たちは、その名のとおりに横に並び、帰路を歩く。
大谷 圭介:
「そういやさ、中曽根、今回トレセンの断ったんだって?」
ふと思い出して、中曽根に聞いてみる。
中曽根は今年も、地区トレセン選考会メンバーの推薦に選ばれていた。
トレセンに出ると、いろんな同年代のサッカーをしているやつらが集まって、スキルアップがはかれる。
俺も、小学生の頃に少年サッカークラブから参加したことがあるし、隼人もその時一緒に参加していた。
中曽根 悠:
「んー、そろそろ、勉強マジにやんねぇとやばくてさ」
小池 隼人:
「まぁたしかに、時間は取られるからね。悠くん、高校ではサッカー続けないの?」
隼人の口から、高校というキーワードが出ててドキリとする。
やっぱりみんな、考えているんだ。
中曽根 悠:
「ん、サッカーは中学までにしようって考えててさ」
小池 隼人:
「へぇ、そうなんだ。何か、やりたいことあるの?」
中曽根 悠:
「それは内緒だ」
大谷 圭介:
「なんだよそれー」
隼人も中曽根も「内緒」ばっかだ。この秘密主義者たちめ!
そんな俺に、隼人が聞いてくる。
小池 隼人:
「ケイちゃんは、高校もサッカー続けるの?」
大谷 圭介:
「おう、もちろん!」
高校でどうするかなんて考えていなかったので、何も考えずにそう言った。
小池 隼人:
「そっか。僕はどうしようか、まだ迷ってるんだ」
別のスポーツにもチャレンジしてみたいしね、なんて隼人は言う。
意外だった。
何だか俺たちは、いつまでもサッカーボールを一緒に追いかけ回しているような気がしていたのに。
なのに2人は、違うことを考えていたんだ。
大谷 圭介:
「…………」
わかってる。
ずっとこのままだなんてことは、ないんだ。
俺たちだって、いつかそれぞれの高校に散らばって、別々の生活を送っていく。
でもそれは、まだ遠い、いつかの話だったような気がしていた。
けれど、その日は確実に近づいている。
静かにゆっくりと。
時に、驚くほどのスピードで。
大谷 圭介:
「………なんか」
ポツリとつぶやいた。
大谷 圭介:
「卒業とか、さみしいなぁ」
本音がこぼれた。
俺の言葉に、隼人と中曽根が目を丸めて見てくる。
中曽根 悠:
「お前、気が早えよ」
小池 隼人:
「つい最近、卒業生を送り出したばっかりじゃない」
大谷 圭介:
「隼人が、高校の話とかするからだろー」
俺たちはそうして帰りながら、まだぼんやりとしている高校の進路について話をした。
隼人は以前から、徳瑛高校の特進クラスを狙っていたことを教えてくれた。
中曽根はまだ、決めてないという。
俺は望月と話した桜塚高校が頭を掠めたが、それは言わずに、まだ決めかねていると話した。
中曽根 悠:
「ま、まだまだ時間はあるさ」
中曽根がお気楽そうにそう言ってくれるから、俺も少しホッとする。
気がつけば陽はかなり傾いていて、いつしかの日のように、長い影法師が足元に伸びる。
いつまで、この影法師を見ていられるだろうか。
ぼんやりとした切なさが、胸をついた。
・ ・ ・
大谷 圭介:
「ただいまー」
家に帰ると、もうみんなは夕飯を済ませていた。
母ちゃんは俺のご飯を準備するためにキッチンへ向かい、父ちゃんはリビングの床で寝転がる橙也を見つめている。
父ちゃん:
「遊園地は楽しんできたか?」
大谷 圭介:
「おう、めっちゃ楽しんできた!」
橙也の近くで床にあぐらをかき座っている父ちゃんと話をしながら、目の前に並べられた夕食に手を合わせる。
今日は、和風豆腐ハンバーグだ。
母ちゃん:
「はい、どうぞ」
大谷 圭介:
「いただきまーす」
遊んですっかり腹は減っている。
ガツガツと箸で口にかきこんでいる俺を、母ちゃんは苦笑して見た。
母ちゃん:
「相変わらず、でかいお口だ」
大谷 圭介:
「育ち盛りだ、しょうがないだろ」
父ちゃん:
「それ以上育つのか……」
父ちゃんが、橙也にタオルケットをかけながらつぶやく。
じつはもう俺は、父ちゃんの身長を越している。
おそらく今は、180センチあるのではなかろうか。
ここいらでストップして欲しいところだが、それは俺にも親にもわからない。
大谷 圭介:
(これ以上伸びると、望月との差がなぁ)
今では定規一本分以上の差ができている。
これ以上開くと、彼女に威圧感を与えそうでいやだ。
まぁ望月なら、そんなことないよって、言ってくれそうだけどさ。
そんなことを考えていた俺の横に、父ちゃんが座った。
俺と橙也を交互に見て、感慨深く言う。
父ちゃん:
「あれが、こうなるのか」
寂しそうにも嬉しそうにも見える顔だった。
大谷 圭介:
「これも、あれだったんだよ」
父ちゃん:
「わはは、まったくだ」
父ちゃんは豪快に笑い、
父ちゃん:
「時が経つのは早いな」
と言った。
大谷 圭介:
「……まぁね」
静かにおかずを嚥下して、すやすや眠る橙也を見つめた。
ちっこい橙也は、小さい敷布団に転がって、安心したように眠っている。
不思議だな。
俺が中2に上がった頃なんて、まだその存在にも気づいていなかったのに。
今ではこうして誕生して、俺たち家族の中心になってしまっている。
大谷家の1日のサイクルは、すっかりこいつのペースに合わせられているのだ。
大谷 圭介:
(いつかこいつも、俺みたいにでっかくなるのかなぁ)
想像しようとしても、ピンとこない。
自分の将来でさえ想像できないのに、弟の成長した姿なんか考えられるわけもなかった。
でも。
その将来も、未来も。
いつかはきっと、やってくる。
今はまだ遠くに見えるそれも、確実に近づいている。
変化は止まらない──いつだって。そう。
家族が増えたように。
俺が望月と、両想いになれたように。
部長となったように。
いつまでも同じ「今」じゃないから。
大谷 圭介:
「………」
大谷 圭介:
(ま、なるようになれ、だ!)
見えない未来を考えていたって、仕方ない。
また食事を再開する。
食事による満腹だけでない何かが、少しだけ喉をつかえさせるけど。
それすらも飲み込んで、俺は成長していくのだ。
大谷圭介。
今は14歳。
2ヶ月後には15歳になる、まだ新米の兄ちゃんだ。
控えている受験のことを考えて、ちょっとナーバスにもなるけれど、大好きな彼女の顔さえ思い浮かべれば元気になれる、ノーテンキ男。
そんな俺は、最後の中学校生活がいいものになりますように、と。
大好きな家族の輪の中で、そっと願ったのだった。
◇ 終わり ◇
これにて第二章はおしまいです。よければ感想・評価いただけるとうれしいです!
❀3年生編へ続く




