Ep.35 君と最後のキスを(6)「中3、卒業前」
ようやく、高校受験を終えた俺。
何とか第一希望の公立高校に合格することができ、やっと安心して一息入れられる状態となった。
さて、そうなると気になるのは、るりちゃんのことだ。
るりちゃんを思っていた以上に好きだったと自覚しても、卒業前の俺には後の祭りで。
長年培ってきた諦めやすい性格も、すぐに変えられるはずもなく、るりちゃんと話すのはもう無理かもしれないと思っていたとき。
廊下を1人で歩く、彼女を見つけた。
放課後の今、さいわい辺りに人はいない。
数秒のためらいののち、俺は声をかけることを決意した。
五十嵐 蒼太:
「るりちゃん」
戸田 るり:
「!」
振り返ったるりちゃんは、声をかけた俺に対して眉間にしわを寄せる。
ああ、そんな顔もちょっと可愛いなぁなんて思った俺は、やっぱり案外、彼女が好きなのだろう。
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君と最後のキスを
(6)「中3、卒業前」
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五十嵐 蒼太:
「今、大丈夫?」
近寄りながら、優しそうに見えるはずの笑顔を浮かべる。
しかしるりちゃんは、肩にかけたカバン紐をぎゅっと握って、ちょっと後ずさった。
戸田 るり:
「大丈夫じゃありません」
思いきり警戒されている。当たり前か。
しかし、思ったよりも強気で負けん気のあるるりちゃんだ。
思わず苦笑がもれる。
五十嵐 蒼太:
「警戒しないでよ。もう、あんなことしないからさ」
るりちゃんに気を遣って、そう言ったんだけど。
戸田 るり:
「……もう、気にしてませんからっ」
彼女は強気な態度で赤くなりながら、そう言った。
五十嵐 蒼太:
「え?」
彼女だったら、三日三晩悩んでいそうなことをしてしまったのに(本当はしてないけれど)、その考えに反して、るりちゃんは強い瞳を向けてくる。
戸田 るり:
「第一私、寝てましたし」
戸田 るり:
「犬に噛まれたと思って、忘れます」
五十嵐 蒼太:
「……はぁ」
なんと、犬や猫のように思われていたのは俺の方だったらしい。
ポカンと口を開けている俺に、さらにるりちゃんは言葉を重ねる。
戸田 るり:
「そ、それに、初めてなんて大切じゃないんですっ」
戸田 るり:
「大事なのは、最後なんですっ」
五十嵐 蒼太:
「……最後?」
よくわからない。
というか中曽根くん、るりちゃんに本当のことをまだ伝えてないわけ?
それだけ俺が信用されてないってことか、と思うけれど。
なんともまぁ、失礼なカップルだ。
呆気に取られている俺に対して、るりちゃんはもう一度唇をきゅっと結び、強く見つめると頭をぺこりと下げた。
戸田 るり:
「──失礼します!」
そう言って、彼女は走り去る。
俺が止める隙もなく、背中を小さくして向こう側へ行ってしまう。
五十嵐 蒼太:
「……」
五十嵐 蒼太:
「最後、ね」
ぽつりと1人、つぶやいた。
思っていた以上に、しっかりと俺を拒絶してくれたるりちゃん。
気にしてません、忘れます、なんて言ってくれた。
──それはちょっとだけ、寂しいな、なんて思った。
・ ・ ・
家の近い柴田と下校していた。
こいつとこうして歩くのも、もうすぐ終わりになるのだ。
柴田:
「もうすぐ卒業だなぁ」
五十嵐 蒼太:
「ようやくお前と離れられるな」
柴田:
「五十嵐、冷てーよ」
「そんなに俺が嫌いかよ」と、作りめいたガッカリ感を演出する柴田。
でも、こいつとあの公園で出会わなければ、俺はサッカー部に入っていなかっただろう。
サッカー部に入ってなければ、他人とサッカーをする楽しさも知らずに。
ずっとあの公園で、1人遊びをしていたのかもしれない。
五十嵐 蒼太:
「俺、お前のことはけっこう好きよ?」
柴田:
「……お前の好意は、わかりづらいな」
五十嵐 蒼太:
「そう?」
今まで、のらりくらり適当にやってきたせいか、俺が人に与える印象もそんなものらしい。
そんな俺とは対照的な一直線バカ、柴田。
やつは「んなことより」と、自分の話にすり替える。
柴田:
「卒業式後、俺はもう一度、桑原に告白する!」
五十嵐 蒼太:
「え、まだ諦めてなかったの?」
たしかバレンタインに「これが最後のチャンスだ!」と息巻いて、逆告白してたよな。
それも玉砕していたことは知っていたが、まだ諦めてなかったとは。
柴田:
「だって卒業式が、本当の本当に最後じゃんかよ!」
五十嵐 蒼太:
「まぁ……そうだけど」
やつが言った「卒業式が本当の本当に最後」という言葉が、胸をつく。
柴田はバカだが、ここまでくると逆にすごい。
どこからくるんだ、そのエネルギーは。
昔から変わらない、単純バカだ。
五十嵐 蒼太:
「……」
──ああ、でも、そうだな。
俺はきっと、柴田のこういう単純バカなところが好きなんだろう。
まっすぐ。
素直で。
自分に正直であろうとする。
そんなやつらを、俺はいつも眩しく見ていた。
坂本先生:
「俺が、もっと早くにお前の異変に気づいてたらな……」
素直じゃない俺は、坂もっちゃんにも平気だと言った。
彼は悲しそうに笑っていた。
小池 隼人:
「僕、レギュラー落ちしそうなんです。どうしたらいいと、思いますか?」
真摯にサッカーと向き合う小池くん。
俺も、君くらい本気で向き合えていたらよかったのかな。
中曽根 悠:
「俺が勝ったら、2度とるりに近寄るな!」
真っ向勝負を挑んできた中曽根くん。
負けてたらどうしたんだよ、と苦笑する。
そして。
戸田 るり:
「大事なのは、最後なんですっ」
こんな俺にも、まっすぐ見つめてそう言ったるりちゃん。
彼女がそう言った意図は、よくわからなかったけれど。
でも、最後が大事だと、君が言うのなら。
最後に。
まっすぐに。
素直に。正直に。
ぶつかってみても、いいだろうか。
この隣で笑っている、単純バカのように。
柴田:
「待ってろよ~! 桑原ー!」
五十嵐 蒼太:
「……ははは」
──まいったな。
バカというものは、伝染するらしい。
◇ 続く ◇




