Ep.3 さよならシザーガール(6・終) 「4人のゴール」
パァン!!
青空に向けられた、ピストルの音。
一斉に駆け出す、第一走者たち。
そのトップに、松宮さんがいた。
クラスメイト:
「いけー! 茜〜〜!」
クラスメイト:
「松宮、頑張れー!」
クラスメイトたちの応援が、グラウンド中に響き渡る。
私は、ドキドキと高鳴る心臓を抑えながら、軽やかに走っている松宮さんを見つめた。
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さよならシザーガール(6)
「4人のゴール」
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早乙女 茉莉:
(すごい、松宮さん……!)
まるで、草原を駆けるチーターみたい。
走る順番を決めた時に言ったとおり、彼女はしなやかな体で風を切り、トップを走っている。
「なんとなーく、わかったよ。早乙女さんのキャラ」
「信じられないんだよね。早乙女さんがリレー嫌がっているなんてさ」
私のことを理解しようとし、信じてくれた松宮さん。
気さくでかっこよくて、しっかりと意見が言える松宮さんが、私は素敵だと思った。
「ほらみろ詩音〜!早乙女さんってこういう子なんだって!」
笑ってそう言ってくれた時、私の真意が伝わったみたいで嬉しかった。
早乙女 茉莉:
(いけ、松宮さん!)
ぎゅっと手を握って祈る。
松宮さんは、2位の選手に大きく差をつけて、ついに第二走者の飯田さんにバトンを渡した。
練習が見事功を奏したのか、2人の息がそもそもぴったりなのか、そのバトン渡しはとても鮮やかだ。
松宮 茜:
「いけー! 詩音ー!」
無事にバトンを渡した松宮さんが、飯田さんの背中に向けて吠える。
私はそれを見届けると、自分のスタートラインに立った。
飯田さんも、必死に走る。
しかし2位の選手はかなり足が速いらしく、徐々に距離を縮めていた。
早乙女 茉莉:
(飯田さん、頑張って!)
飯田さん。
最初はちょっと怖いな、苦手だな、なんて私は思っていた。
見た目や雰囲気で勝手にそう思って、自らバリアを張ろうとしていた自分を、今ならバカだなって思える。
「やっぱりリレーの要はバトンよ!」
「ねえ、みんなでお揃いのリボンつけようよ!」
今ならわかる。
彼女は誰よりも、このメンバーで走ることを楽しみにしてくれていたんだ。
そして。
「……リボン、つけてくれたんだ」
「お揃いじゃん」
私に本気で怒って、認めてくれて、受け入れてくれた。
今度は私が、飯田さんに何かしたい。
そう思えたのは、初めてだったの。
クラスメイト:
「うわー、2位になった!」
クラスメイト:
「次って……え、早乙女!? 大丈夫かぁ!? 」
どんどん近づいてくる飯田さんを見つめる私の耳に、クラスメイトの不安の声が入る。
私は唇をぐっと噛んだ。
早乙女 茉莉:
(大丈夫、大丈夫、大丈夫!)
何も知らないクラスメイトよりも。
同じ時間頑張った、リレーメンバーを私は信じる。
苦しい顔をして、バトンを差し出そうとする飯田さん。彼女に背を向け、私も走り出した。
幾度となく繰り返した練習を思い出す。
そうだ。飯田さんはいつも、私に取りやすい位置にバトンを置いてくれていた。
今回も苦しそうな顔をしながらも、しっかりと私の手にバトンを渡してくれる。
早乙女 茉莉:
「──任せて!」
飯田 詩音:
「!」
気づいたら、私はそう言ってバトンを受け止めていた。
すぐに前を向いた私には、飯田さんがどんな顔をしていたのかなんてわからない。
でも。
飯田 詩音:
「いっけーー!! 茉莉ーーー!! 」
早乙女 茉莉:
「!!」
飯田さんの、私の名を呼んだ大きな声に。
グン、と背中から押された。
クラスメイト:
「え、あいつ速くね?」
クラスメイト:
「うわ、早乙女さんすごい!」
無我夢中で私は走った。
目の前を走る走者が遠くて、でも近づきたくて。
周りの喧騒なんか、聞こえないくらいに目の前に集中して走った。
大丈夫。
何度も視界に入る手首には、ブルーリボン。
背中を押してくれる風は、みんなの声。
そして。
羽鳥 梢:
「茉莉! 頑張れー!」
その先に、私に大切なことを教えてくれた人がいる。
「結べばいいんだよ」
早乙女 茉莉:
(羽鳥さん……!)
1位との差は縮められたものの、追い越すことはできなかった。
最後の希望を羽鳥さんに託そうと、私はバトンを前に出す。
早乙女 茉莉:
「──お願いっ!」
羽鳥 梢:
「任せて!!」
パシン、と叩きつけるように渡してしまったバトンを、羽鳥さんはしっかりと受け止める。
こんな時でも笑顔の羽鳥さんは、どこか楽しそうに、嬉しそうに走り出した。
グングン、グングン、1位に迫る羽鳥さん。
割れんばかりの声援が、グラウンドに響き渡る。
クラスメイト:
「あともう少しだ、羽鳥ー!」
クラスメイト:
「いけー! 羽鳥ーー!!」
早乙女 茉莉:
(頑張れ……)
走り終えたばかりの私は膝に手をつき、息を整えながらその姿を追った。
1位の選手に、迫る羽鳥さん。
その額につけたリボンを、なびかせて。
早乙女 茉莉:
(お願い……!)
いつの間にか私の願いは、口から溢れていた。
早乙女 茉莉:
「羽鳥さん、頑張れー!!」
次の瞬間。
見事、ゴール手前で選手を追い抜いた羽鳥さんが、テープを切った。
いつの間にかそばにいた松宮さんと飯田さんと一緒に、私は歓声を上げて喜ぶ。
クラスメイトも、私たちの元に集まってくる。
テープを切った羽鳥さんは、私に向けてニコッと笑い、Vサインをくれた。
・ ・ ・
松宮 茜:
「茉莉ー、早くお昼にしようよ」
早乙女 茉莉:
「うん」
お昼の時間。
私は松宮さん……じゃなくて、茜ちゃんに呼ばれて席に近づいた。
茜ちゃんの席には飯田さん……じゃなくて、詩音ちゃんもいて、お弁当を広げている。
スポーツ大会があった翌日から、なぜか2人は私を頻繁に、いろいろと誘ってくれるようになった。
下の名前で呼んで!
と茜ちゃんは言い。
下の名前で呼んでもいいわよ?
と詩音ちゃんは言う。
それが私はなんだかとても嬉しくて、気恥ずかしくて、くすぐったく思った。
飯田 詩音:
「あんたの弁当、相変わらず美味しそうね」
詩音ちゃんが、私のお弁当を覗き込みながらそう言う。
早乙女 茉莉:
「そうなの?」
飯田 詩音:
「そうなの、ってあんたねぇ〜」
早乙女 茉莉:
「……食べる?」
飯田 詩音:
「いいの?」
パァ、と明るくなる詩音ちゃん。
松宮 茜:
「ププ…… 詩音、餌付けされてら 」
飯田 詩音:
「茜はうるさい!」
明るい2人のやり取りは、とても居心地がいい。
早乙女 茉莉:
「ふふ」
松宮 茜:
「!」
飯田 詩音:
「!」
松宮 茜:
(……笑った?)
飯田 詩音:
(笑ったよね?)
飯田 詩音:
(まったく、わかりづらいなぁ)
松宮 茜:
(無表情で笑うんだもんなぁ)
飯田 詩音:
(ま、でもそんなところが)
茜 & 詩音:
(茉莉らしいよね)
早乙女 茉莉:
「?」
何やらニヤニヤ、こちらを見る2人の向こうで、別の子とお弁当を食べている羽鳥さんと目が合った。
早乙女 茉莉:
(……いつか羽鳥さんも、梢ちゃんって、呼びたいな)
そんなふうに私が思えるなんて、今までの私なら考えられなかった。
でも私はもう、同じ過ちは繰り返さない。
自ら切ってしまわないように。
切ってしまっても、また結べるように。
今までの私とはさよならするの。
さよなら、シザーガール
私は小さく呟いた。
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




