Ep.3 さよならシザーガール (5)「好き」
羽鳥さんから教えてもらった飯田さんの居場所へ、私は急ぐ。
グラウンド北側にある倉庫。
スポーツ大会で使われる物品は運び終えられているから、倉庫付近に人気はない。
そんな倉庫の陰に隠れるように立つ、飯田さんと松宮さんを見つけた。
2人はまだ、私が近づいていることに気づかずに、何やら話し込んでいた。
飯田 詩音:
「だからぁ、そう言ってたって言ってるでしょ!」
早乙女 茉莉:
「!」
飯田さんの声に、ピタリと足が止まった。
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さよならシザーガール
(5)「好き」
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松宮 茜:
「なーんかね、信じられないんだよね」
松宮さんの声も、後から聞こえた。
松宮 茜:
「早乙女さんが、リレーを嫌がってるなんてさ」
早乙女 茉莉:
「!」
私の名前を出されて、思わず身を隠してしまった。
倉庫の角の向こう側にいる2人に、見つからないような位置に立つ。
飯田 詩音:
「でも、言ってたよ。 リレーが億劫だって 」
早乙女 茉莉:
「………」
たしかに私は言った。
リレー選手に選ばれたその日、みっちゃんにそう愚痴ったんだ。
それは、消しようのない事実。
そしてそれを否定しなかったあの雨の日も、事実だ。
飯田 詩音:
「あんなに一緒に練習頑張ってたのに……、あの子、イヤイヤだったんだよ!」
飯田 詩音:
「なんかそれって、バカにしてるよ! 私たちを!」
飯田さんの声が、ポツリと溢れた。
松宮 茜:
「詩音……」
動揺する松宮さんの声は、初めて聞く。
飯田さんの、寂しそうな声も。
私が、ちゃんと言えなかったからだ。
誤解を、そのままにしてしまったからだ。
自分の行いが、こんなふうに他人に影響するなんて、初めて実感した。
私はぐっと唇を噛み締め、勇気を奮い立たせた。
───いけ! 私!
早乙女 茉莉:
「ち、違うの!!」
勇気を振り絞って出した声に、2人が同時に振り向いた。
飯田 詩音:
「!!」
松宮 茜:
「! 早乙女さん!」
2人の視線に一瞬、ひるみそうになる。
でも。
ここで逃げたら私は一生、後悔する。
早乙女 茉莉:
「私、嫌なんかじゃないの!」
早乙女 茉莉:
「そりゃ、最初は嫌だなって、正直思った」
早乙女 茉莉:
「こんな暗い私が、元気いっぱいのみんなについていけるか、不安で心細くて」
早乙女 茉莉:
「億劫だなって、友達に愚痴っちゃった。でも…… 」
でも、今は。
どう表現したらいいのだろう。
どう伝えたらいいのだろう。
またしても、言葉がうまく見つからない。
どう言ったら上手に伝えられるのか、誤解されないのかを不安に感じて、また臆病になりそうになる。
早乙女 茉莉:
(怖い……)
震えそうになって、思わず両手を握りしめ胸を押さえる。
すると、あのブルーリボンが目に入った。
羽鳥さんが結んでくれた、あのリボンが。
「また結べばいいんだよ」
早乙女 茉莉:
(お願い、力を貸して!)
ぎゅっと目をつぶり、私は思うままに口走った。
早乙女 茉莉:
「今は好きなの!!」
飯田 詩音:
「!?」
松宮 茜:
「!?」
早乙女 茉莉:
「私、みんなと走るの好きなの!」
早乙女 茉莉:
「3人とリレーするの、大好きなの!」
早乙女 茉莉:
「だから、嫌じゃないの!」
早乙女 茉莉:
「好きなの!」
嫌、キライの反対は「好き」だから。
単純な私の脳みそはとにかく「好き」って伝えるしかないと判断してしまった。
飯田 詩音:
「な、え……ちょっと……」
早乙女 茉莉:
「飯田さんも好きなの!」
飯田 詩音:
「!?」
早乙女 茉莉:
「最初は怖いって思ったけど、意外とはしゃぐし、リボンとか可愛い提案してくれるし、笑顔もじつは優しくて、今は本当に大好き──」
飯田 詩音:
「わ、 わかった! わかったから!! 」
松宮 茜:
「────っぷ」
松宮 茜:
「あはははは!」
なぜか顔を真っ赤にし慌てだす飯田さんの背後で、松宮さんが豪快に笑った。
松宮 茜:
「ほらみろ詩音〜! 早乙女さんって、こういう子なんだって! 」
飯田 詩音:
「……そ、そうみたいね」
早乙女 茉莉:
「……え?」
うまく伝えられたかわからず動揺する私。
ちゃ、ちゃんと伝わった?
私がもう3人と走るのは億劫じゃないってことは、うまく伝わったのかな?
飯田 詩音:
「………リボン、つけてくれたんだ」
早乙女 茉莉:
「!」
顔をまだ、ほんのり赤くしている飯田さんが、ちらりと私の手元に視線を送る。
飯田さんも、私と同じように手首につけていることを、その時初めて気づいた。
飯田さんは、自分のリボンが付いている右手を私に差し出し、私のリボンにコツンと当てる。
飯田 詩音:
「お揃いじゃん」
早乙女 茉莉:
「………っ」
ニコリと笑った飯田さん。
その後ろで松宮さんも、首にぶら下げたブルーのリボンを笑って見せてくれた。
お揃いのリボンをつけていることが、こんなにも誇らしく、嬉しく思える。
ああ。
私は本当に、この子たちが大好きだ。
羽鳥 梢:
「ちょっとー! 私だけのけ者にしないでよ 」
早乙女 茉莉:
「! 羽鳥さん!」
いつの間にか羽鳥さんもやってきて、私たちに近づいた。
羽鳥 梢:
「リレーは4人でやるんだからね!」
松宮 茜:
「あはは。 拗ねんなよー羽鳥 」
そのとき丁度、見計らったかのように、スピーカーからリレーの案内が流れた。
「女子400メートルリレー走の選手の方は、本部に集まってください」
松宮 茜:
「あ、もうすぐじゃん!」
羽鳥 梢:
「だからみんなを呼びに来たの。行くよー?」
羽鳥 梢:
「でも、その前に……」
羽鳥さんは何やら、右手を前に差し出した。手の甲を上にして、何かを待っている。
それを見て松宮さんが笑って、その手に自分の手を重ねた。
飯田さんがさらに、その上に手を重ねる。
飯田 詩音:
「ほら、あんたも」
早乙女 茉莉:
「え?」
飯田さんが、私に視線を送る。
その視線に後押しされ、私もそっと3人の手の甲に自分の手を重ねた。
4人の手が1つになる。
羽鳥 梢:
「あんだけ練習したんだ、絶対1位取るよ!!」
松宮 & 飯田:
「もちろん!!」
「エイ、エイ」
「オーーーーー!!」
空に向かって解き放たれたみんなの手の中で、青いリボンが高々しく揺れていた。
◇ 続く ◇




