Ep.3 さよならシザーガール (4)「リボン」
あんなに土砂降りだった天気は、スポーツ大会前日には快晴となり、グラウンドを見事に乾かしてくれた。
でもそのせいで、当日まで朝練はできなくなっていた。
飯田 詩音:
「無理して付き合ってくれてありがとう」
飯田さんの誤解は解けぬまま。
ついに、当日が訪れた。
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さよならシザーガール
(4)「リボン」
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お母さん:
「茉莉、そろそろ出る時間じゃないのー?」
早乙女 茉莉:
「……わかってる!」
一階から、お母さんの声が聞こえる。
私は自分の部屋で、じっと青いリボンを見つめていた。
飯田さんがみんなに用意してくれた、お揃いのアイテム。
そんなものを、私がつける資格なんてあるのだろうか。
早乙女 茉莉:
(でも、持っていかなきゃ……羽鳥さんと松宮さんは、何も知らないんだから)
早乙女 茉莉:
(あ、裾がほつれてる)
リボンの端の糸が、ほつれていた。
私はそれを切ろうと、ハサミを取り出した。
リボンくらいは、キレイにしておきたかった。
私の心は汚いから。
お母さん:
「ちょっと茉莉、大丈夫なの?」
バン!
とお母さんが突然、扉を開けた。
早乙女 茉莉:
「!?」
ジャキン!!
とビックリした私の手は滑って、リボンを裁断してしまった。
早乙女 茉莉:
「──あ」
パラリと落ちた、リボンの3分の1ほどの端くれ。
私は朝から、泣きたくなった。
・ ・ ・
「──次は2年生の借り物競争です。みなさん応援しましょう」
放送委員会による進行放送が、スピーカーから流れる。
楽しげなBGMと、生徒たちのはしゃぐ声。
普段の勉強ばかりとは違う非日常な今日は、みんなのテンションも高い。
でも私は。
クラスメイトとの会話を楽しむでもなく、どんよりと校庭に並べられた自分の椅子に、ただ座っていた。
羽鳥 梢:
「早乙女さん、リレーもうすぐだね」
早乙女 茉莉:
「え」
突然話しかけられて、ハッと顔を上げる。
私の空いていた隣の椅子に、羽鳥さんが手をかける。
羽鳥 梢:
「ここいい?」
早乙女 茉莉:
「う、うん」
隣の子は、次の種目出番のために今はいない。
羽鳥さんはにこにことしながら、私の隣に座った。
青いリボンをカチューシャのように頭に巻いていて、可愛かった。
羽鳥 梢:
「雨でしばらくできなかったけど、あんなに練習したもんね! 今日は頑張ろう!」
早乙女 茉莉:
「うん……」
明るい羽鳥さんの表情が、今はまともに見られない。
こんな私にも、声をかけてくれる羽鳥さん。なのに私は。
羽鳥 梢:
「そういえばリボン、早乙女さんも持ってきた?」
早乙女 茉莉:
「……」
私は卑怯だから。
「忘れたんだ」なんて、ごまかそうと考えていた。
でも。
それで、本当にいいのかな?
今まで口下手のせいで、うまくいかないことが多々あった。
その度に私は「まあいっか」と、投げ出していた。
物事がうまくいかない時も。
髪を切りすぎた時も。
誤解された時も。
なってしまったものは、誤解されてしまったものは仕方ないのだと、思おうとしていた。
でも、本当は。
本当に関わりを切っていたのは。
誰でもない。
私の方だったんだ。
自分からすべてを切ってしまっていた。
ハサミみたいに。
ジャキンと。
早乙女 茉莉:
「………た……の」
でも。
早乙女 茉莉:
「……切っちゃった、の」
私はもう。
切りたくなんかないの。
羽鳥 梢:
「え?」
早乙女 茉莉:
「朝、手が滑って、ハサミで切っちゃったの」
声が震える。
ポケットから2つに分かれてしまったリボンを取り出す。
きっと今の私は、とんでもなく情けなくてブサイクにちがいない。
早乙女 茉莉:
「キレイに揃えようとしたのに、私……こんなふうに切っちゃって」
脳裏に飯田さんの冷たい視線が蘇って、ますます唇が震える。
そんなつもりじゃなかったの。
本当はキレイに──仲良く──したかったの。
でも不器用な私は、こんなふうに裁断してしまう。
こんなんじゃ、嫌われても仕方がなかった。
羽鳥 梢:
「早乙女さん……」
羽鳥さんの声が、小さく響く。
羽鳥 梢:
「──大丈夫だよ!」
羽鳥 梢:
「ほら!」
早乙女 茉莉:
「!?」
羽鳥さんは突然、私の手からリボンを奪ってしまった。
そして、2つのリボンの両端を結ぶ。
器用に可愛く、結んだそこから蝶々のようなリボンが作られた。
羽鳥 梢:
「ほら、ね」
羽鳥 梢:
「また結べばいいんだよ」
早乙女 茉莉:
「………!!」
そう言って羽鳥さんはそのまま、私の手首にリボンを巻いてくれた。
ちょうど、作られたリボンが上から見える位置にくる。
両端を結んだそれは。
しっかりと、ぎゅっと。
誇らしげに手首でなびいていた。
早乙女 茉莉:
「ありがとう……」
そうだ、ね。
切れても、また結んで繋げばいい。
そんな当たり前のことを、私はずっと忘れていた気がする。
また──もう一度!
早乙女 茉莉:
「あ、あの」
羽鳥 梢:
「ん?」
早乙女 茉莉:
「飯田さん今、どこにいるか知ってる?」
羽鳥 梢:
「詩音ちゃんなら、さっき茜ちゃんと倉庫の方にいたよ」
倉庫はグラウンドの北側、こことは反対の奥にある。
早乙女 茉莉:
「ありがとう!ちょっと行ってくるね」
羽鳥 梢:
「え? うん」
羽鳥さんはきょとんとして、こちらを見た。
走っていく私に「もうすぐリレーだからねー?」と投げられた掛け声は、私の背中をグンと押してくれた。
◇ 続く ◇




