↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
PR
14/273

Ep.3 さよならシザーガール (4)「リボン」

 あんなに土砂降りだった天気は、スポーツ大会前日には快晴となり、グラウンドを見事に乾かしてくれた。

 でもそのせいで、当日まで朝練はできなくなっていた。



 飯田 詩音:

「無理して付き合ってくれてありがとう」



 飯田さんの誤解は解けぬまま。

 ついに、当日が訪れた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 さよならシザーガール

(4)「リボン」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 お母さん:

「茉莉、そろそろ出る時間じゃないのー?」


 早乙女 茉莉:

「……わかってる!」


 一階から、お母さんの声が聞こえる。

 私は自分の部屋で、じっと青いリボンを見つめていた。

 飯田さんがみんなに用意してくれた、お揃いのアイテム。

 そんなものを、私がつける資格なんてあるのだろうか。


 早乙女 茉莉:

(でも、持っていかなきゃ……羽鳥さんと松宮さんは、何も知らないんだから)


 早乙女 茉莉:

(あ、裾がほつれてる)


 リボンの端の糸が、ほつれていた。

 私はそれを切ろうと、ハサミを取り出す。

 リボンくらいは、キレイにしておきたかった。

 私の心は汚いから。


 お母さん:

「ちょっと茉莉、大丈夫なの?」


 バン!

 とお母さんが突然、扉を開けた。


 早乙女 茉莉:

「!?」


 ジャキン!!

 とビックリした私の手は滑って、リボンを裁断してしまう。


 早乙女 茉莉:

「──あ」


 パラリと落ちた、リボンの3分の1ほどの端くれ。

 私は朝から、泣きたくなった。



 ・   ・   ・



「──次は2年生の借り物競争です。みなさん応援しましょう」


 放送委員会による進行放送が、スピーカーから流れる。

 楽しげなBGMと、生徒たちのはしゃぐ声。

 普段の勉強ばかりとは違う非日常な今日は、みんなのテンションも高い。


 でも私は。

 クラスメイトとの会話を楽しむでもなく、どんよりと校庭に並べられた自分の椅子に、ただ座っていた。


 羽鳥 梢:

「早乙女さん、リレーもうすぐだね」


 早乙女 茉莉:

「え」


 突然話しかけられて、ハッと顔を上げる。

 私の空いていた隣の椅子に、羽鳥さんが手をかける。


 羽鳥 梢:

「ここいい?」


 早乙女 茉莉:

「う、うん」


 隣の子は、次の種目出番のために今はいない。

 羽鳥さんはにこにことしながら、私の隣に座った。

 青いリボンをカチューシャのように頭に巻いていて、可愛かった。


 羽鳥 梢:

「雨でしばらくできなかったけど、あんなに練習したもんね! 今日は頑張ろう!」


 早乙女 茉莉:

「うん……」


 明るい羽鳥さんの表情が、今はまともに見られない。

 こんな私にも、声をかけてくれる羽鳥さん。なのに私は。


 羽鳥 梢:

「そういえばリボン、早乙女さんも持ってきた?」


 早乙女 茉莉:

「……」


 私は卑怯だから。

「忘れたんだ」なんて、ごまかそうと考えていた。

 でも。


 それで、本当にいいのかな?


 今まで口下手のせいで、うまくいかないことが多々あった。

 その度に私は「まあいっか」と、投げ出していた。


 物事がうまくいかない時も。

 髪を切りすぎた時も。

 誤解された時も。


 なってしまったものは、誤解されてしまったものは仕方ないのだと、思おうとしていた。


 でも、本当は。

 本当に関わりを切っていたのは。


 誰でもない。

 私の方だったんだ。

 自分からすべてを切ってしまっていた。

 ハサミみたいに。

 ジャキンと。


 早乙女 茉莉:

「………た……の」


 でも。


 早乙女 茉莉:

「……切っちゃった、の」


 私はもう。


 切りたくなんかないの。


 羽鳥 梢:

「え?」


 早乙女 茉莉:

「朝、手が滑って、ハサミで切っちゃったの」


 声が震える。

 ポケットから2つに分かれてしまったリボンを取り出す。

 きっと今の私は、とんでもなく情けなくてブサイクにちがいない。


 早乙女 茉莉:

「キレイに揃えようとしたのに、私……こんなふうに切っちゃって」


 脳裏に飯田さんの冷たい視線が蘇って、ますます唇が震える。


 そんなつもりじゃなかったの。

 本当はキレイに──仲良く──したかったの。

 でも不器用な私は、こんなふうに裁断してしまう。

 こんなんじゃ、嫌われても仕方がなかった。


 羽鳥 梢:

「早乙女さん……」


 羽鳥さんの声が、小さく響く。


 羽鳥 梢:

「──大丈夫だよ!」


 羽鳥 梢:

「ほら!」


 早乙女 茉莉:

「!?」


 羽鳥さんは突然、私の手からリボンを奪ってしまった。

 そして、2つのリボンの両端を結ぶ。

 器用に可愛く、結んだそこから蝶々のようなリボンが作られた。


 羽鳥 梢:

「ほら、ね」


 羽鳥 梢:

「また結べばいいんだよ」


 早乙女 茉莉:

「………!!」


 そう言って羽鳥さんはそのまま、私の手首にリボンを巻いてくれた。

 ちょうど、作られたリボンが上から見える位置にくる。

 両端を結んだそれは。

 しっかりと、ぎゅっと。

 誇らしげに手首でなびいていた。


 早乙女 茉莉:

「ありがとう……」


 そうだ、ね。


 切れても、また結んで繋げばいい。

 そんな当たり前のことを、私はずっと忘れていた気がする。


 また──もう一度!


 早乙女 茉莉:

「あ、あの」


 羽鳥 梢:

「ん?」


 早乙女 茉莉:

「飯田さん今、どこにいるか知ってる?」


 羽鳥 梢:

「詩音ちゃんなら、さっき茜ちゃんと倉庫の方にいたよ」


 倉庫はグラウンドの北側、こことは反対の奥にある。


 早乙女 茉莉:

「ありがとう!ちょっと行ってくるね」


 羽鳥 梢:

「え? うん」


 羽鳥さんはきょとんとして、こちらを見た。

 走っていく私に「もうすぐリレーだからねー?」と投げられた掛け声は、私の背中をグンと押してくれた。




 ◇ 続く ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。