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Ep.3 さよならシザーガール (4)「リボン」

あんなに土砂降りだった天気は、スポーツ大会前日には快晴となり、グラウンドを見事に乾かしてくれた。

でもそのせいで、当日まで朝練はできなくなっていた。



飯田 詩音:

「無理して付き合ってくれてありがとう」



飯田さんの誤解は解けぬまま。

ついに、当日が訪れた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


さよならシザーガール

(4)「リボン」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



お母さん:

「茉莉、そろそろ出る時間じゃないのー?」


早乙女 茉莉:

「……わかってる!」


一階から、お母さんの声が聞こえる。

私は自分の部屋で、じっと青いリボンを見つめていた。

飯田さんがみんなに用意してくれた、お揃いのアイテム。

そんなものを、私がつける資格なんてあるのだろうか。


早乙女 茉莉:

(でも、持っていかなきゃ……羽鳥さんと松宮さんは、何も知らないんだから)


早乙女 茉莉:

(あ、裾がほつれてる)


リボンの端の糸が、ほつれていた。

私はそれを切ろうと、ハサミを取り出した。

リボンくらいは、キレイにしておきたかった。

私の心は汚いから。


お母さん:

「ちょっと茉莉、大丈夫なの?」


バン!

とお母さんが突然、扉を開けた。


早乙女 茉莉:

「!?」


ジャキン!!

とビックリした私の手は滑って、リボンを裁断してしまった。


早乙女 茉莉:

「──あ」


パラリと落ちた、リボンの3分の1ほどの端くれ。

私は朝から、泣きたくなった。



・   ・   ・



「──次は2年生の借り物競争です。みなさん応援しましょう」


放送委員会による進行放送が、スピーカーから流れる。

楽しげなBGMと、生徒たちのはしゃぐ声。

普段の勉強ばかりとは違う非日常な今日は、みんなのテンションも高い。


でも私は。

クラスメイトとの会話を楽しむでもなく、どんよりと校庭に並べられた自分の椅子に、ただ座っていた。


羽鳥 梢:

「早乙女さん、リレーもうすぐだね」


早乙女 茉莉:

「え」


突然話しかけられて、ハッと顔を上げる。

私の空いていた隣の椅子に、羽鳥さんが手をかける。


羽鳥 梢:

「ここいい?」


早乙女 茉莉:

「う、うん」


隣の子は、次の種目出番のために今はいない。

羽鳥さんはにこにことしながら、私の隣に座った。

青いリボンをカチューシャのように頭に巻いていて、可愛かった。


羽鳥 梢:

「雨でしばらくできなかったけど、あんなに練習したもんね! 今日は頑張ろう!」


早乙女 茉莉:

「うん……」


明るい羽鳥さんの表情が、今はまともに見られない。

こんな私にも、声をかけてくれる羽鳥さん。なのに私は。


羽鳥 梢:

「そういえばリボン、早乙女さんも持ってきた?」


早乙女 茉莉:

「……」


私は卑怯だから。

「忘れたんだ」なんて、ごまかそうと考えていた。

でも。


それで、本当にいいのかな?


今まで口下手のせいで、うまくいかないことが多々あった。

その度に私は「まあいっか」と、投げ出していた。


物事がうまくいかない時も。

髪を切りすぎた時も。

誤解された時も。


なってしまったものは、誤解されてしまったものは仕方ないのだと、思おうとしていた。


でも、本当は。

本当に関わりを切っていたのは。


誰でもない。

私の方だったんだ。

自分からすべてを切ってしまっていた。

ハサミみたいに。

ジャキンと。


早乙女 茉莉:

「………た……の」


でも。


早乙女 茉莉:

「……切っちゃった、の」


私はもう。


切りたくなんかないの。


羽鳥 梢:

「え?」


早乙女 茉莉:

「朝、手が滑って、ハサミで切っちゃったの」


声が震える。

ポケットから2つに分かれてしまったリボンを取り出す。

きっと今の私は、とんでもなく情けなくてブサイクにちがいない。


早乙女 茉莉:

「キレイに揃えようとしたのに、私……こんなふうに切っちゃって」


脳裏に飯田さんの冷たい視線が蘇って、ますます唇が震える。


そんなつもりじゃなかったの。

本当はキレイに──仲良く──したかったの。

でも不器用な私は、こんなふうに裁断してしまう。

こんなんじゃ、嫌われても仕方がなかった。


羽鳥 梢:

「早乙女さん……」


羽鳥さんの声が、小さく響く。


羽鳥 梢:

「──大丈夫だよ!」


羽鳥 梢:

「ほら!」


早乙女 茉莉:

「!?」


羽鳥さんは突然、私の手からリボンを奪ってしまった。

そして、2つのリボンの両端を結ぶ。

器用に可愛く、結んだそこから蝶々のようなリボンが作られた。


羽鳥 梢:

「ほら、ね」


羽鳥 梢:

「また結べばいいんだよ」


早乙女 茉莉:

「………!!」


そう言って羽鳥さんはそのまま、私の手首にリボンを巻いてくれた。

ちょうど、作られたリボンが上から見える位置にくる。

両端を結んだそれは。

しっかりと、ぎゅっと。

誇らしげに手首でなびいていた。


早乙女 茉莉:

「ありがとう……」


そうだ、ね。


切れても、また結んで繋げばいい。

そんな当たり前のことを、私はずっと忘れていた気がする。


また──もう一度!


早乙女 茉莉:

「あ、あの」


羽鳥 梢:

「ん?」


早乙女 茉莉:

「飯田さん今、どこにいるか知ってる?」


羽鳥 梢:

「詩音ちゃんなら、さっき茜ちゃんと倉庫の方にいたよ」


倉庫はグラウンドの北側、こことは反対の奥にある。


早乙女 茉莉:

「ありがとう!ちょっと行ってくるね」


羽鳥 梢:

「え? うん」


羽鳥さんはきょとんとして、こちらを見た。

走っていく私に「もうすぐリレーだからねー?」と投げられた掛け声は、私の背中をグンと押してくれた。




◇ 続く ◇

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