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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.33 新たなる発見

1話完結

 大谷 圭介:

「望月、誕生日おめでとう!」


 望月 美羽:

「わぁ!」


 12月3日。

 今日は私、望月美羽の誕生日。

 日曜日だった今日の午前に、スマホに突然入った大谷くんからの連絡。

 近くの公園で、待ち合わせをした。


 呼ばれた瞬間から大谷くんの目的はわかっていたけれど、知らないフリをして私はやってきた。

 ベンチに座ってから、おもむろに渡してくれた可愛いラッピングのそれを、喜んで私は受け取る。


 望月 美羽:

「ありがとう! 嬉しいっ!」


 梢ちゃんからすでに、大谷くんが準備していたのは聞いていたけれど、やっぱり嬉しい。

 思わず笑ってしまうと、横に座る大谷くんも、嬉しそうに微笑んでくれた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 新たなる発見


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 さっそくもらったプレゼントを開けてみる。

 カラフルなビニール袋から現れたのは、柔らかな手袋だった。

 クリームっぽい白に、赤と黄色のアーガイル模様のそれは、とっても素敵。


 望月 美羽:

「可愛い~! ありがとう!」


 大谷 圭介:

「よかった、喜んでもらえて」


 ホッとしたように大谷くんは言う。

 そんな彼が、悩んでこれを選んでくれたのかなと思うと、それだけで嬉しかった。


 望月 美羽:

「へへー、さっそくつけちゃおう」


 早々に手袋に手を通す。

 五本指にすっとなじんだそれは温かくて、見ているだけで嬉しくて、何度も甲や手のひらをパタパタひっくり返して眺めてしまう。


 大谷 圭介:

「あんま見過ぎてると、穴が開くぞ」


 望月 美羽:

「えー、それは困るなぁ」


 と言いつつも、見るのをやめない私。

 そんな私の横で、大谷くんはベンチの背もたれに腕を乗っけて背中を預けた。


 大谷 圭介:

「ま、喜んでくれて何よりだ」


 のんびりとした声で言う。

 私と大谷くんのお付き合いが、2ヶ月経った。

 クラスも一緒の私たちは、ほぼ毎日ラブラブだ。

 といっても、以前と何か変わったかというと、そこまで大きな変化はない。

 付き合う前は、あんなに友達関係からの変化を怖がっていたのに、拍子抜け。


 望月 美羽:

(……でも)


 望月 美羽:

(前よりはちょっと、ドキドキするかも)


 教室ではなく、こうして外で私服で会うのは初めてだ。


 背が高い私服の大谷くんは、学ランの時よりも大人っぽく見える。

 私はその隣にいて、ちんちくりんに見えてないかな。

 お気に入りの白のワンピースを着てきたけれど、子どもっぽくないかな、なんて考えちゃう。


 凸凹カップルだって自覚はしている。

 でも、恋人っぽくなりたい。


 望月 美羽:

「……!」


 そうだ、いいこと思いついた!


 望月 美羽:

「ねぇ大谷くん、名前で呼んでいい?」


 大谷 圭介:

「へ?」


 お付き合いしても、あまり変わらない私たち。

 でも、呼び方を変えるくらいならいいよね!

 るりっちたちもいつの間にか、下の名前で呼び合ってたし。


 突然の提案だったけど、大谷くんは嬉しそうにコクコクうなずいてくれる。


 大谷 圭介:

「うん、もちろん!」


 やった!


 望月 美羽:

「わーい! じゃあよろしくね、ケイケイ!」


 大谷 圭介:

「!?」


 ずるっ、と大谷くんの背中がベンチから落ちた。


 大谷 圭介:

「け、ケイケイ!?」


 望月 美羽:

「うん、ケイケイ!」


 大谷 圭介:

「普通、呼び捨てとかじゃないか?」


 望月 美羽:

「えー、呼び捨てー?」


 圭介ー! って、なんかお母さんみたいじゃない?

 なんて言った私に、大谷くんはうなだれる。


 大谷 圭介:

「呼び捨てじゃなくてもいいから、別の呼び方にしてくれ……」


 望月 美羽:

「んー、ケイちゃん?」


 大谷 圭介:

「それは隼人っぽいから、やだ」


 望月 美羽:

「もー、ワガママー」


 結局「圭介くん」になった。

 うーん、シンプルすぎじゃないかなぁ。可愛いのに、ケイケイ。

 首をひねる私に大谷くん、もとい圭介くんは、苦笑している。


 大谷 圭介:

「俺も、ミウミウって呼べばいいか?」


 望月 美羽:

「うん、いいよ!」


 大谷 圭介:

「……いや、俺が無理だ……」


 なーんだ、つまんないの。

 まいっかと思い、私は圭介くんを見つめる。


 望月 美羽:

「じゃあ、美羽って呼んでね」


 大谷 圭介:

「……み……」


 大谷 圭介:

「…………」


 するとなぜか、圭介くんは顔を背けてしまった。

 小さな声で、ボソリと言う。


 大谷 圭介:

「無理」


 望月 美羽:

「えっ、何で?」


 ガーン、とショックを受ける私をチラリと見た圭介くんの顔は、ほんのり赤くなっている。


 大谷 圭介:

「照れる」


 望月 美羽:

「ええー、恥ずかしがらなくていいのに」


 うるせー、と圭介くんは、ガシガシと私の頭をかいた。

 うわぁ、せっかくお出かけ前に、セットしたのに!


 でも、照れている圭介くんが可愛くて、私はつい小さく笑ってしまう。

 手袋をはめたままの手を口元に持っていって、くふふ、と笑いをこぼした。


 望月 美羽:

「圭介くん、可愛いー」


 大谷 圭介:

「可愛くねーよ」


 意外や意外。

 エロ親父キャラのくせに、圭介くんはじつは、彼女を呼び捨てすることにも照れちゃうくらいの恥ずかしがり屋さんだったのだ!


 新たな一面を発見して、嬉しい私。

 そんな私の横で、圭介くんは急に立ち上がる。


 大谷 圭介:

「さて、明日からまたテストだっ」


 望月 美羽:

「う、急に現実が……」


 そう、今は期末テスト期間中なのだ。

 だから本当なら、今日はこのままデートもしたかったけれど、それはまた今度にしようと連絡が来たときに2人で決めた。


 私も立ち上がり、圭介くんの隣に並ぶ。

 私を見下ろして圭介くんは、ちょっと悪戯っ子のように笑った。


 大谷 圭介:

「昼メシくらいなら、大丈夫?」


 望月 美羽:

「!」


 望月 美羽:

「うん、大丈夫っ」


 まだ一緒にいられることが嬉しくて、元気に答えてしまう。

 すると突然圭介くんが、私の手を握った。


 望月 美羽:

(えっ!?)


 大谷 圭介:

「うっし、行くか!」


 圭介くんは、そのまま歩き出した。

 私も慌てて足を動かす。

 でも。


 望月 美羽:

(手……手、握ってる!)


 手袋越しに、私の手を握っている圭介くんの手のひら。

 大きくて、寒さのせいかちょっと赤い。

 急にドキドキしてしまって、どうしたらいいのかわからずに、私はうつむいてしまう。

 そんな私のちょっと先を歩く圭介くんから、小さく声が聞こえた。


 大谷 圭介:

「やっぱり、マフラーにすればよかったかな」


 望月 美羽:

「え?」


 大谷 圭介:

「これだと、直接じゃないじゃん」


 望月 美羽:

「!」


 それはたぶん、手袋越しにつないでいる今の手のことを言っているんだろう。

 そう言われて、ますますドキドキしてしまった私は、つないだ手に力を入れてしまう。


 大谷 圭介:

「あ、望月照れた」


 望月 美羽:

「そ、そりゃあ照れるよっ」


 さっき「可愛い」って言った、仕返しなのかな。

 圭介くんはそのまま、私の手を上着のポケットに突っ込んでしまうから、私たちの距離はぐっと近くなった。


 望月 美羽:

「わっ」


 大谷 圭介:

「はははー、望月確保したっ」


 圭介くんは楽しそうに笑う。


 意外や意外。

 照れ屋だと思った圭介くんは、スキンシップに関しての照れはないようだ。

 そういえば前も、いきなりたかいたかいされたし、頭もよく撫でられるし。

 新たな発見である。


 望月 美羽:

(むー。これはますます、目を離せないねっ)


 大好きな圭介くんの新しい一面を、これからも発見できますように。

 そう願って、彼の隣にひっついた。




 ◇ 終わり ◇

❀次エピソードへ続く

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