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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.32 落ち葉の季節(6)「圭介の決断」

 帰りのホームルームも終わると、生徒たちは解散となり動き始める。

 部活へ行こうと席を立つと、明るい声が俺を呼んだ。


 望月 美羽:

「ケイケイ! 部活行ってらっしゃいっ」


 その声掛けに、ずっこけそうになる。


 大谷 圭介:

「望月、その呼び方はやめてくれって言ったろぉ~」


 望月 美羽:

「えー、可愛いのに。ケイケイ」


 可愛いのは、望月である。

 付き合い始めてわかった、彼女の変な癖。

 それは、変なあだ名をつけることだった。


 そういや「るりっち」とか「さとみん」とか言ってたな。でも羽鳥には「梢ちゃん」と呼ぶあたり、ちゃんと相手を選んでいることが窺える。

 ケイケイ……俺はパンダじゃないんだぞ!


 望月 美羽:

「じゃあ圭介くん、手を出して」


 大谷 圭介:

「ん?」


 素直に手のひらを出すと、そこにお菓子を放られた。

 小さなキャンディとチョコの包み紙だ。


 望月 美羽:

「これ食べて、頑張ってね」


 大谷 圭介:

「……ん、ありがとう」


 もう1つ知れた、彼女のこと。

 それは俺が落ち込んでたりすると、こうしてお菓子をくれることだ。


 隼人とのことは言ってないけれど、何となく望月は、気づいてるっぽい。

 敵わないなと思いつつも、もらった気遣いが嬉しくて、俺は望月の頭に軽く手を置く。


 大谷 圭介:

「じゃーな、また明日」


 望月 美羽:

「うん! また明日」


 薄く赤らんで笑う望月に目を細めて、俺は勇んで、部活へと足を向けた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 落ち葉の季節

(6)「圭介の決断」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 その日の部活、俺は坂本先生と一緒にグラウンドへ赴く。

 話をし過ぎたせいで、少し遅れてしまった。


 まだ慣れない部員への声掛けを、グラウンドに散らばっているサッカー部員に、届くように響かせた。


 大谷 圭介:

「全員、集合ー!」


 サッカー部員:

「うーっす!!」


 集まった部員たちが、俺と坂本先生の前に集まる。

 その中にはもちろん、中曽根と隼人もいた。2人とも視線をそらさず、こちらを見ている。

 俺の背後で、坂本先生が声を出した。


 坂本先生:

「あー、今日の練習だが、大谷部長と相談して、あることを行うことにした」


 部員たちが、少しざわついた。

 坂本先生は咳を小さくひとつし、あらためて伝える。


 坂本先生:

「冬休みの西中との練習試合のレギュラーを、今日のテスト結果で、あらためて審議する」


 サッカー部員:

「ええ!?」


 そこで部員たちのざわめきは、大きくなった。

 隼人たちの表情が変わったことに、俺も気がついた。

 コクンと小さく、生唾を飲みこむ。


 部員:

「テストって、何の?」


 部員:

「えー、レギュラーが変わるのかよー」


 レギュラーである者の戸惑いや、レギュラーでない者の期待の声が、ざわめきの中で生まれる。

 俺は、それに応えるべく声を張った。


 大谷 圭介:

「テストは、シュートやドリブル、あとは簡単な体力テストだ。もちろんポジションによって、その内容は違うけどな」


 そう言いながら、部員たちを見渡す。

 中にいた隼人と目が合う。

 でも俺はそらさずに、その先を続けた。


 大谷 圭介:

「この結果次第で、レギュラー編成をもう1度考え直す。今回で成果を出せたやつは1年でもスタメン入れるし、出せなかったら2年でもレギュラーは落とす」


 小池 隼人:

「……!」


 隼人の顔つきが変わる。

 俺も決して、視線をそらさなかった。


 そうだよ。

 これは、隼人への挑戦状なんだ。



 なぁ、隼人。

 お前だって、本当はレギュラーでいたいんだろう。

 本当は、1年なんかに負けたくないんだろう。

 それでも追ってくるやつらが、怖くて。

 がむしゃらに頑張ることに、限界を感じてて。


 でもさ。

 俺ももう、隼人に頼ることはやめるんだ。

 だからお前も頑張って、結果を出してくれよ。


 そしたら俺──今度こそ胸を張って、お前とコートに立てる気がするんだ。



 部長になってから、何でもかんでも隼人に相談していた俺。

 でも今回のことは、自分自身で決めた。


 大谷 圭介:

「フォワードとミッドフィルダーは坂本先生、ディフェンダーとキーパーは俺の前に集まってくれ」


 サッカー部員:

「はいっ」


 隼人は先生の前に集まるべく、動き始める。

 でも、俺の前を通り過ぎる一瞬。


 小池 隼人:

「──ありがとう」


 大谷 圭介:

「!」


 小さく届いた、隼人の言葉。

 隼人はちゃんとわかっている。

 俺の考えも、やりたいことも。


──隼人、頑張れよ。


 部長としてではない、親友としての言葉をかけられず。

 俺は小さく、拳を握った。




 ◇ 続く ◇

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