Ep.32 落ち葉の季節(6)「圭介の決断」
帰りのホームルームも終わると、生徒たちは解散となり動き始める。
部活へ行こうと席を立つと、明るい声が俺を呼んだ。
望月 美羽:
「ケイケイ! 部活行ってらっしゃいっ」
その声掛けに、ずっこけそうになる。
大谷 圭介:
「望月、その呼び方はやめてくれって言ったろぉ~」
望月 美羽:
「えー、可愛いのに。ケイケイ」
可愛いのは、望月である。
付き合い始めてわかった、彼女の変な癖。
それは、変なあだ名をつけることだった。
そういや「るりっち」とか「さとみん」とか言ってたな。でも羽鳥には「梢ちゃん」と呼ぶあたり、ちゃんと相手を選んでいることが窺える。
ケイケイ……俺はパンダじゃないんだぞ!
望月 美羽:
「じゃあ圭介くん、手を出して」
大谷 圭介:
「ん?」
素直に手のひらを出すと、そこにお菓子を放られた。
小さなキャンディとチョコの包み紙だ。
望月 美羽:
「これ食べて、頑張ってね」
大谷 圭介:
「……ん、ありがとう」
もう1つ知れた、彼女のこと。
それは俺が落ち込んでたりすると、こうしてお菓子をくれることだ。
隼人とのことは言ってないけれど、何となく望月は、気づいてるっぽい。
敵わないなと思いつつも、もらった気遣いが嬉しくて、俺は望月の頭に軽く手を置く。
大谷 圭介:
「じゃーな、また明日」
望月 美羽:
「うん! また明日」
薄く赤らんで笑う望月に目を細めて、俺は勇んで、部活へと足を向けた。
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落ち葉の季節
(6)「圭介の決断」
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その日の部活、俺は坂本先生と一緒にグラウンドへ赴く。
話をし過ぎたせいで、少し遅れてしまった。
まだ慣れない部員への声掛けを、グラウンドに散らばっているサッカー部員に、届くように響かせた。
大谷 圭介:
「全員、集合ー!」
サッカー部員:
「うーっす!!」
集まった部員たちが、俺と坂本先生の前に集まる。
その中にはもちろん、中曽根と隼人もいた。2人とも視線をそらさず、こちらを見ている。
俺の背後で、坂本先生が声を出した。
坂本先生:
「あー、今日の練習だが、大谷部長と相談して、あることを行うことにした」
部員たちが、少しざわついた。
坂本先生は咳を小さくひとつし、あらためて伝える。
坂本先生:
「冬休みの西中との練習試合のレギュラーを、今日のテスト結果で、あらためて審議する」
サッカー部員:
「ええ!?」
そこで部員たちのざわめきは、大きくなった。
隼人たちの表情が変わったことに、俺も気がついた。
コクンと小さく、生唾を飲みこむ。
部員:
「テストって、何の?」
部員:
「えー、レギュラーが変わるのかよー」
レギュラーである者の戸惑いや、レギュラーでない者の期待の声が、ざわめきの中で生まれる。
俺は、それに応えるべく声を張った。
大谷 圭介:
「テストは、シュートやドリブル、あとは簡単な体力テストだ。もちろんポジションによって、その内容は違うけどな」
そう言いながら、部員たちを見渡す。
中にいた隼人と目が合う。
でも俺はそらさずに、その先を続けた。
大谷 圭介:
「この結果次第で、レギュラー編成をもう1度考え直す。今回で成果を出せたやつは1年でもスタメン入れるし、出せなかったら2年でもレギュラーは落とす」
小池 隼人:
「……!」
隼人の顔つきが変わる。
俺も決して、視線をそらさなかった。
そうだよ。
これは、隼人への挑戦状なんだ。
なぁ、隼人。
お前だって、本当はレギュラーでいたいんだろう。
本当は、1年なんかに負けたくないんだろう。
それでも追ってくるやつらが、怖くて。
がむしゃらに頑張ることに、限界を感じてて。
でもさ。
俺ももう、隼人に頼ることはやめるんだ。
だからお前も頑張って、結果を出してくれよ。
そしたら俺──今度こそ胸を張って、お前とコートに立てる気がするんだ。
部長になってから、何でもかんでも隼人に相談していた俺。
でも今回のことは、自分自身で決めた。
大谷 圭介:
「フォワードとミッドフィルダーは坂本先生、ディフェンダーとキーパーは俺の前に集まってくれ」
サッカー部員:
「はいっ」
隼人は先生の前に集まるべく、動き始める。
でも、俺の前を通り過ぎる一瞬。
小池 隼人:
「──ありがとう」
大谷 圭介:
「!」
小さく届いた、隼人の言葉。
隼人はちゃんとわかっている。
俺の考えも、やりたいことも。
──隼人、頑張れよ。
部長としてではない、親友としての言葉をかけられず。
俺は小さく、拳を握った。
◇ 続く ◇




