Ep.32 落ち葉の季節(5)「圭介の想い」
小池 隼人:
「僕を、そんな理由でレギュラー入りさせるの?」
冷たい隼人の声が、何度もこだました。
小池 隼人:
「バカにするなよ! そんなの僕は、ちっとも嬉しくないっ」
怒りに任せて、怒鳴った声も。
以前も、あんな声を聞いたことがある。
あれは隼人が、森たちに体育館倉庫に閉じこめられたときだ。
隼人は、一緒に閉じこめられた松宮のために怒っていた。
そして今度は、他のサッカー部員のために。
そうだ。
いつだって隼人は、他人のために怒るんだ。
自分を後に回して。
他人を優先させて。
俺は、隼人のそんな部分が──キライだ。
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落ち葉の季節
(5)「圭介の想い」
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もうすぐ、冬休みになる頃。
めずらしく昼飯を一緒に食おうと教室に来た中曽根と、向き合っていた。
こいつの目的は、わかっている。
中曽根 悠:
「お前ら、早く仲直りしろよ」
大谷 圭介:
「んなこと言ったってよぉ」
俺と隼人がギクシャクしているから、何とかしたいのだろう。
クラスの女子は、突然やってきた中曽根に熱い視線を送っている。
だがやつは、気づきもせずに俺に言い聞かせた。
中曽根 悠:
「お前も言い方が悪かったって、わかってるだろ」
大谷 圭介:
「まぁ、そりゃあマスコットは言い過ぎたけど……」
大谷 圭介:
「でも、隼人にコートにいてほしいのは、本心なんだよ……」
うつむいてそう言った俺に、中曽根はきょとんとする。
中曽根 悠:
「どういう意味だよ?」
大谷 圭介:
「……んー、なんつーかさぁ」
このところ考えていた、隼人とのサッカーを思い浮かべる。
思えば小4の頃からずっと、隼人とコートを駆け回っていたんだ。
大谷 圭介:
「隼人がコートにいないと、物足りねーんだよ」
それは、東中の練習試合のときに感じたことだった。
怪我をして、退場した隼人。
コートの中にも外にも、隼人の姿が見えなくて、俺は一気に不安になった。
あの時は怒ったみんなをなだめたけれど、あれは自身への鼓舞だったんだ。
大谷 圭介:
「隼人は、コートにいた方がいいんだよ」
俺のサッカーコートに欠かせないもの。
それは、大きな空と隼人だ。
中曽根 悠:
「……ふーん」
中曽根 悠:
「でもそれは、お前の我儘じゃないか?」
大谷 圭介:
「!」
容赦ない中曽根の言葉に、ぐっと息を飲む。
中曽根 悠:
「ようは、お前が小池にいてほしいから、チームに入れてるってことだろ」
大谷 圭介:
「そういうわけじゃ……隼人はボールも、うまく回してくれるし」
中曽根 悠:
「それなら御手洗だって、十分動いてたろ。てゆーか、最近は御手洗の方がうまく動くぜ」
大谷 圭介:
「!」
中曽根の言葉にムカッときた。
まるで、隼人が戦力になっていないかのような物言いに腹が立つ。
大谷 圭介:
「中曽根、お前……っ」
中曽根 悠:
「それに、1年の黒田も伸びてる。サッカー初心者のあいつは伸び代がまだあるし、育てる必要があるんじゃねぇのか?」
大谷 圭介:
「……っ」
そんなの。
そんなの俺だってわかってる。
隼人以外のミッドフィルダーが、上達していること。1年生も、追い上げてきていること。
隼人の実力を、徐々にだが抜きつつあること。
わかっていたのに。
──俺は。
大谷 圭介:
「……」
はぁ、と小さく息を吐いた。
目の前の中曽根は、俺の言葉を待っている。
小さく、つぶやいた。
大谷 圭介:
「……俺ってさ。部長失格かな」
すると中曽根は、素っ気なく「さぁね」と返した。
くそぅ、男には容赦なく冷たいやつだぜ。
しかし、中曽根はつけ加えるかのように小さく告げる。
中曽根 悠:
「チームをまとめたり盛り上げたりは、お前にしかできねーよ」
大谷 圭介:
「……そっか」
中曽根のフォローに、少しだけ救われる。
隼人は他人のために。
でも、俺は。
俺自身のためのチームを、作ろうとしていたのかもしれない。
・ ・ ・
その日の放課後。
日直のため、教室の鍵を返しに職員室へと向かった。
中に入り鍵を戻したとき、ある女生徒と先生の会話が聞こえた。
先生:
「向こうへ行っても、頑張ってね」
飯田 詩音:
「はい。今までありがとうございました」
それは、去年同じクラスの飯田詩音の声だった。
少しだけ寂しげに笑う彼女と先生の、会話の内容。
そこから導き出された結果に興味を覚えて、俺は職員室を出たところで飯田に声をかけた。
大谷 圭介:
「飯田、お前、転校するの?」
飯田 詩音:
「わ、大谷!? ……ビックリした~」
あんたでっかいんだから後ろに立たないでよね、なんて言う飯田は可愛くねぇ。
やっぱり俺の彼女、望月だけが女神である。
飯田 詩音:
「そ、転校するの。しかもイタリア」
大谷 圭介:
「い、イタリア!? てゆーと、パリとかロンドンとか?」
飯田 詩音:
「……あんた、地理やり直してきたら?」
ヨーロッパの地図がごちゃごちゃに見える俺には、イタリアもイギリスもよくわからない。
だがそんな地に、飯田は引っ越すという。
俺にとっては未知の世界だ。
大谷 圭介:
「すげぇなぁ」
飯田 詩音:
「別に、親の転勤についてくだけだし」
ふい、と顔を背ける飯田。
でもその表情は少し寂しげで、俺と違わない中学2年生の女の子だった。
そういえばこいつ、松宮とか早乙女と仲良かったな。
大谷 圭介:
「松宮と早乙女も、寂しがってんだろ」
俺がそう言うと、飯田は何かを思い出したかのように、小さく笑った。
飯田 詩音:
「ふふ。茉莉が泣いちゃって、大変だったよ」
大谷 圭介:
「へぇ、あの早乙女がねぇ」
あの大人しくて目立たない早乙女が泣くことに、俺はピンとこない。
でも飯田は目を細めて、どこか愛おしそうに言葉を続ける。
飯田 詩音:
「友達とは離れちゃうけどさ。そこで終わりじゃないもんね」
メールもネットもあるし、と飯田は笑う。
飯田 詩音:
「同じ場所に立ってなくても、気持ちが一緒なら、寂しくないよ」
大谷 圭介:
「……」
──同じ場所じゃなくても。
ふと、隼人のことが脳裏をよぎる。
飯田 詩音:
「……なんて、あんたに言っても仕方ないけどね」
大谷 圭介:
「お? おう」
少しぼーっとしていた俺は、ハッとして我に返る。
飯田が呆れたように、俺を見上げていた。
そして何やら、思い出したかのように言う。
飯田 詩音:
「あ、そうだ大谷! あんた、美羽ちゃんが最近茜と仲良いって知ってる?」
大谷 圭介:
「へ? 松宮と?」
望月と松宮が仲が良いとは、意外だった。
だって小学校も違うし、同じクラスになったこともねーよな?
あ、もしかして、こないだのハロウィンパーティーで仲良くなったのかな?
飯田 詩音:
「そうそう。だから今後は、茜もよろしくねっ! 小池くんにも伝えといて!」
大谷 圭介:
「は、隼人に?」
なぜここで、隼人の名前が。
やっぱ俺と隼人って、ひとまとめに見られてんのかな。
まぁ、それだけずっと、つるんでるってことか。
思わず苦笑する。
海外へ引っ越すことになっても、友人を信じて旅立つ飯田。
その後のフォローもきちんと入れて。
やっぱり女の方が強いのかもしんないな、なんて思って、俺は笑った。
──なあ、隼人。
お前は、レギュラーから外れてもいいって言ったけどさ。
やっぱり俺は、すんなりとはそうは思えないよ。
ぐっと唇を噛みしめる。
俺だって。
男として。
友人として。
できることをしたい。
そう思ったんだ。
◇ 続く ◇




