Ep.32 落ち葉の季節(4)「隼人と五十嵐」
木枯らしにしばらく吹かれた後、五十嵐先輩がこちらを見た。
五十嵐蒼太:
「俺、今はパソコン部なんだ。プログラミングとかしてんだよ」
小池 隼人:
「そうなんですか。すごいですね」
たしかにうちの中学には、パソコン部がある。
僕はよく知らないが、小さなロボットを動かしたりゲームを作ったりしていると、聞いたことがある。
五十嵐 蒼太:
「面白いぜー。 自分が考えた通りのゲームを作ったり、システム組めた時はさ」
そこで五十嵐先輩は、少しだけ苦笑した。
五十嵐 蒼太:
「でもまぁ、作ってるのは結局、サッカーゲームだったりするんだけどな」
小池 隼人:
「………」
その言葉を聞いて、やっぱりこの人は、サッカーが好きなんだと思った。
ボロボロのサッカーボールを、器用に操って。
夜の公園で1人、リフティングをしている。
不器用にサッカーが好きな先輩だった。
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落ち葉の季節
(4)「隼人と五十嵐」
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小池 隼人:
「……怪我、残念でしたね」
こんなにうまい人が、怪我が原因で退いているのはもったいない気がした。
でも五十嵐先輩は、あっけらかんと言う。
五十嵐 蒼太:
「ま、俺はサッカーに縁がなかったんだよ」
軽くそんなことを言う。
五十嵐 蒼太:
「怪我だって、完治しないやつじゃないんだから、復帰もできた。でも俺はしなかった。だから仕方なかったんだよ」
ほんのりと五十嵐先輩の口から、白い息がこぼれる。
気温が低くなっている。
寒風が吹きつけて、僕らの髪の毛を揺らした。
小池 隼人:
「……何で、復帰しなかったんですか?」
五十嵐 蒼太:
「そりゃだって、他のやつらとハンデがすげぇできてたからなー」
五十嵐先輩は、また器用にリフティングを始めた。
足で曲芸のように、サッカーボールを操る。
五十嵐 蒼太:
「悔しかったんだよ。で、自暴自棄。で、退部。で、おしまい」
小池 隼人:
「……」
リズムよく弾むボールを、僕も目で追う。
そんな中、五十嵐先輩がこぼした言葉が、僕の胸をついた。
五十嵐 蒼太:
「……でもさ、今は少し後悔してる」
五十嵐 蒼太:
「ばっさり切る必要はなかったんだよな。やっぱりサッカーは、好きなんだから」
小池 隼人:
「………」
その言葉は、僕の心を少しだけ揺さぶった。
だって僕も、諦めかけていたから。
サッカー部のレギュラーを。
1年生に抜かされることを。
体が小さいから、仕方ないんだと。
努力の限界だから、仕方ないんだと。
自分で決めつけていた。
小池 隼人:
「あの……僕……」
五十嵐 蒼太:
「ん?」
なぜだろう。
この人になら、弱音を吐いてもいいかと思えた。
以前、偶然会った羽鳥さんにこぼしてしまった弱音とは違う。
前向きになるための、弱音を。
小池 隼人:
「僕、レギュラー落ちしそうなんです。どうしたらいいと、思いますか?」
五十嵐 蒼太:
「はぁ? そんなの……」
五十嵐先輩はあきれたように笑い、そして自信たっぷりに言った。
五十嵐 蒼太:
「一に努力、二に努力!三から五まで、ぜーんぶ努力だよ!」
ビシッと差された指先。
それを見つめて寄り目になりそうな僕は、思わず笑ってしまった。
小池 隼人:
「……はは、ですよね」
五十嵐 蒼太:
「そうだよ」
笑い合った後、僕と五十嵐先輩はパスを互いにしたり、ボールを奪い合う1オン1をした。
先輩のボールコントロールはやっぱりうまくて、退部をしてなければ、悠くん以上のエースだったのかもしれないと思えるほどだ。
そうしてしばらくプレイをしていると、五十嵐先輩が公園の時計を見上げて「そろそろ終わるか」と声をあげた。
夜の九時半。
いつもなら、もうランニングを終えて帰っている時間だ。
小池 隼人:
「今日は、ありがとうございました」
五十嵐 蒼太:
「おう、気ぃつけて帰れよ」
五十嵐先輩は、この公園近くのマンションに住んでいるという。
急いで帰ろうとした僕は、しかし公園の出入り口で振り返ってしまう。
小池 隼人:
「そういえば先輩、ポジションはどこだったんですか?」
なんとなく気になって聞いてみた。
こちらを見ていた彼は、サッカーボールを持ったまま笑って答える。
五十嵐 蒼太:
「フォワードだよ」
悠くんや前部長と、同じポジションだった。
花形とも言えるそのポジションは、五十嵐先輩にピッタリな気がした。
もう一度お礼を言って、公園から去る。
気分がスッキリしているのは、ランニングのおかげだけじゃない。
ようやく吹っ切れそうな自分の心が少し、軽くなっていたからだ。
・ ・ ・
そしてその夜、僕は懐かしい夢を見ていた。
小学4年生の頃の夢だ。
塾へ行く途中、偶然、ケイちゃんが入っているサッカークラブの練習を見かけた。
あのとき僕は、楽しそうにサッカーをプレイしているケイちゃんが羨ましくて、一緒にしたいって思ったんだ。
小池 隼人(小4):
「ケイちゃんすごいね! 上手だねぇ!」
当時、今よりもっと過保護な母さんに逆らえなかった僕。
自由にボールを追って駆け回るケイちゃんたちが、キラキラと輝いて見えたんだ。
大谷 圭介(小4):
「隼人もやろうぜ!」
小池 隼人(小4):
「え、僕も?」
大谷 圭介(小4):
「うん、隼人となら、ぜってー楽しいよ!」
屈託なくそう言ってくれたケイちゃんの言葉が、嬉しかった。
一緒にやろうと笑ってくれたことが、嬉しかった。
ケイちゃん。
僕だって今も、ケイちゃんとサッカーをしていると楽しいんだよ。
それは本当だよ。
──本当だよ。
言い訳でもない、本音のそれを。
僕は夢の中、何度も呟いていたんだ。
◇ 続く ◇




