Ep.32 落ち葉の季節(3)「夜の出会い」
ハンバーガー屋から出る。
後ろから、悠くんが僕の肩をつかんで、振り向かせた。
中曽根 悠:
「待てよ小池! 大谷のやつ、お前のことを軽んじてああ言ったわけじゃないんだよ」
悠くんは必死な顔をして、そう言った。
でもそれなら、なぜケイちゃんは僕を追って来ないのだろうか。
図星だからじゃないだろうか。
小池 隼人:
「……別にいいんだよ、悠くん」
中曽根 悠:
「よくないって! お前、誤解してるだろ」
小池 隼人:
「してない。僕はちゃんとわかってるよ。自分がレギュラー入りしてるのは、変だって」
中曽根 悠:
「……!?」
悠くんは驚いて、僕の肩から手を離す。
僕は向き合って、少し辛いけど──言った。
小池 隼人:
「黒田くんがレギュラー入りした方が、チーム的にも戦力になる。悠くんだって、そう思っているだろ?」
中曽根 悠:
「……それは……」
そこで言葉がつまることが、何よりも答えになっていた。
悠くん。君は間違っていない。
間違っているのは、僕に固執している、ケイちゃんなのだから。
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落ち葉の季節
(3)「夜の出会い」
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あれから、数日が過ぎた。
今週末には冬休みに入ってしまうのに、ケイちゃんとはギクシャクしたままだ。
別にそれはいいんだ。
ケイちゃんはちょっと、頭を冷やせばいい。
ただ、冬休み前には、西中との練習試合のレギュラー及びスタメン発表があるはずだった。
それを、ケイちゃんはどうするつもりでいるのかが、僕は気がかりでならない。
そんな12月の夜。
僕は最近始めた夜のランニングのため、玄関でスニーカーの靴紐を結んでいた。
小池 隼人:
「行ってきまーす」
母さん:
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
心配性な僕の母さんは、いつも玄関まで見送りをする。
夜といってもまだ8時だし、男だし。
過保護すぎやしないかなぁと苦笑する。
冬の夜空に飛びだすと、気持ちのいい冷たい風が迎え入れてくれた。
今日は良い天気だ。
星もよく見える。
体力作りのために始めたランニングだけれど、ちょうど良いリフレッシュにもなっていた。
毎日出来るわけじゃなかったけれど、なるべく出来る日はするようにしている。
走っていると、無になれる。
それが心地良い。
そうしてしばらく走って、ちょっと離れた町の、小さな公園の横を通ったときだった。
小池 隼人:
(……ん?)
小池 隼人:
(……サッカーボールの音?)
聞き慣れたその音は、誰かがサッカーボールを操っている音だ。
公園を見ると男の子が一人、リフティングをしていた。
夜に黒く見えるその影は、華麗にボールを操っている。
小池 隼人:
(へぇ……うまいなぁ)
つい足のスピードを緩めて、そちらを見てしまう。
すると向こうも、こちらの存在に気がついてボールを止めた。
?:
「!」
小池 隼人:
「!」
目が合った。
知らない男の子だった。
おそらく年上だろうその人は、サッカーボールを器用に上にあげて肩でキャッチすると、なんとこちらに手を振ってきた。
?:
「やあ。君、小池くんだろ?」
小池 隼人:
「え!?」
何で、僕の名前を知っているのだろう?
驚いた僕はつい、公園内に足を運んだ。
サッカーボールを持ったその人と対面する。
やっぱり、知らない人だった。
?:
「小池隼人くん、だよね?」
小池 隼人:
「は、はい」
五十嵐 蒼太:
「俺、3年の五十嵐蒼太っつーんだ。同じ青葉中」
ニッと笑って五十嵐と名乗るその人は、なんと同じ学校の先輩だという。
先輩全員の顔なんて把握してないから、知らないのも無理はなかった。
でも……。
小池 隼人:
(サッカー部……でもなかったよね)
ちらりと、五十嵐先輩の持つサッカーボールを見てしまう。
かなり使い込まれているのか、それはボロボロで、傷もあちこちについていた。
僕の視線に気がついたのだろう。五十嵐先輩は言った。
五十嵐 蒼太:
「俺、元サッカー部なんだよ。1年生の冬に辞めたから、知らなくて当然だな」
そして人懐っこく笑う。
五十嵐 蒼太:
「サッカー部の大中小トリオは、有名だから。小池くんのこと、俺は知ってたぜ」
五十嵐 蒼太:
「てか、柴田が同じクラスだからな。たびたび聞いてたんだよ。あいつらに抜かされるー、やべーって」
小池 隼人:
「ああ、部長が」
なるほど。
前部長の柴田先輩と、クラスメイトなのか。
納得がいったと同時に、部長もそんな風に焦っていたのかと、少し笑ってしまう。
同じポジションの悠くんを、やたら目の敵にしていた部長の顔を思い出していた。
五十嵐 蒼太:
「小池くんの活躍も知ってるよ。柴田が、小さいのにすげぇうまいって。努力家だっつってた」
小池 隼人:
「! ……ありがとう、ございます」
まさか、部長がそんなふうに評価してくれていたとは思ってもみなかった。
たしかに中学に入ってから、僕はまわりに置いていかれないよう、ずっと遮二無二に頑張っていた。
だから、レギュラーになれたときは本当に嬉しかった。
そう、だから……。
小池 隼人:
(ケイちゃんの変な理由で、1年生がレギュラー入りできないのは、やっぱり許せないよ)
そう思ってしまう。
そんなことを考えている僕の前で、五十嵐先輩がまた軽やかにリフティングを開始する。
本当に上手だった。
まるでボールが生き物みたいに、彼の体中を駆け巡っている。
小池 隼人:
「上手ですね」
五十嵐 蒼太:
「まぁね」
小池 隼人:
「そんなにうまいのに、何でサッカー部を辞めたんですか?」
五十嵐 蒼太:
「あ、やっぱり聞いちゃう感じ?」
五十嵐先輩は苦笑して、ポンとサッカーボールを額で高く上げる。
それらを胸元で見事にキャッチすると、右足の膝をポンポン叩いた。
五十嵐 蒼太:
「まぁ、よくある話。靭帯やっちゃったんだよ」
小池 隼人:
「!」
デリケートなことを聞いてしまったと、今さらながらに申し訳なくなる。
すみません、とうつむくと、五十嵐先輩は僕の反応をわかっていたかのように笑った。
そんな僕らの間に、冬の冷たい風が吹きつける。
公園の隅に散らばっている枯葉が、静かに巻き上げられた。
◇ 続く ◇




