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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.32 落ち葉の季節(3)「夜の出会い」

 ハンバーガー屋から出る。

 後ろから、悠くんが僕の肩をつかんで、振り向かせた。


 中曽根 悠:

「待てよ小池! 大谷のやつ、お前のことを軽んじてああ言ったわけじゃないんだよ」


 悠くんは必死な顔をして、そう言った。

 でもそれなら、なぜケイちゃんは僕を追って来ないのだろうか。

 図星だからじゃないだろうか。


 小池 隼人:

「……別にいいんだよ、悠くん」


 中曽根 悠:

「よくないって! お前、誤解してるだろ」


 小池 隼人:

「してない。僕はちゃんとわかってるよ。自分がレギュラー入りしてるのは、変だって」


 中曽根 悠:

「……!?」


 悠くんは驚いて、僕の肩から手を離す。

 僕は向き合って、少し辛いけど──言った。


 小池 隼人:

「黒田くんがレギュラー入りした方が、チーム的にも戦力になる。悠くんだって、そう思っているだろ?」


 中曽根 悠:

「……それは……」


 そこで言葉がつまることが、何よりも答えになっていた。


 悠くん。君は間違っていない。

 間違っているのは、僕に固執している、ケイちゃんなのだから。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 落ち葉の季節

(3)「夜の出会い」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 あれから、数日が過ぎた。

 今週末には冬休みに入ってしまうのに、ケイちゃんとはギクシャクしたままだ。


 別にそれはいいんだ。

 ケイちゃんはちょっと、頭を冷やせばいい。


 ただ、冬休み前には、西中との練習試合のレギュラー及びスタメン発表があるはずだった。

 それを、ケイちゃんはどうするつもりでいるのかが、僕は気がかりでならない。


 そんな12月の夜。

 僕は最近始めた夜のランニングのため、玄関でスニーカーの靴紐を結んでいた。


 小池 隼人:

「行ってきまーす」


 母さん:

「行ってらっしゃい。気をつけてね」


 心配性な僕の母さんは、いつも玄関まで見送りをする。

 夜といってもまだ8時だし、男だし。

 過保護すぎやしないかなぁと苦笑する。


 冬の夜空に飛びだすと、気持ちのいい冷たい風が迎え入れてくれた。

 今日は良い天気だ。

 星もよく見える。

 体力作りのために始めたランニングだけれど、ちょうど良いリフレッシュにもなっていた。


 毎日出来るわけじゃなかったけれど、なるべく出来る日はするようにしている。

 走っていると、無になれる。

 それが心地良い。

 そうしてしばらく走って、ちょっと離れた町の、小さな公園の横を通ったときだった。


 小池 隼人:

(……ん?)


 小池 隼人:

(……サッカーボールの音?)


 聞き慣れたその音は、誰かがサッカーボールを操っている音だ。

 公園を見ると男の子が一人、リフティングをしていた。

 夜に黒く見えるその影は、華麗にボールを操っている。


 小池 隼人:

(へぇ……うまいなぁ)


 つい足のスピードを緩めて、そちらを見てしまう。

 すると向こうも、こちらの存在に気がついてボールを止めた。


 ?:

「!」


 小池 隼人:

「!」


 目が合った。

 知らない男の子だった。


 おそらく年上だろうその人は、サッカーボールを器用に上にあげて肩でキャッチすると、なんとこちらに手を振ってきた。


 ?:

「やあ。君、小池くんだろ?」


 小池 隼人:

「え!?」


 何で、僕の名前を知っているのだろう?


 驚いた僕はつい、公園内に足を運んだ。

 サッカーボールを持ったその人と対面する。

 やっぱり、知らない人だった。


 ?:

「小池隼人くん、だよね?」


 小池 隼人:

「は、はい」


 五十嵐 蒼太:

「俺、3年の五十嵐蒼太《いがらし そうた》っつーんだ。同じ青葉中」


 ニッと笑って五十嵐と名乗るその人は、なんと同じ学校の先輩だという。

 先輩全員の顔なんて把握してないから、知らないのも無理はなかった。

 でも……。


 小池 隼人:

(サッカー部……でもなかったよね)


 ちらりと、五十嵐先輩の持つサッカーボールを見てしまう。

 かなり使い込まれているのか、それはボロボロで、傷もあちこちについていた。

 僕の視線に気がついたのだろう。五十嵐先輩は言った。


 五十嵐 蒼太:

「俺、元サッカー部なんだよ。1年生の冬に辞めたから、知らなくて当然だな」


 そして人懐っこく笑う。


 五十嵐 蒼太:

「サッカー部の大中小トリオは、有名だから。小池くんのこと、俺は知ってたぜ」


 五十嵐 蒼太:

「てか、柴田が同じクラスだからな。たびたび聞いてたんだよ。あいつらに抜かされるー、やべーって」


 小池 隼人:

「ああ、部長が」


 なるほど。

 前部長の柴田先輩と、クラスメイトなのか。


 納得がいったと同時に、部長もそんな風に焦っていたのかと、少し笑ってしまう。

 同じポジションの悠くんを、やたら目の敵にしていた部長の顔を思い出していた。


 五十嵐 蒼太:

「小池くんの活躍も知ってるよ。柴田が、小さいのにすげぇうまいって。努力家だっつってた」


 小池 隼人:

「! ……ありがとう、ございます」


 まさか、部長がそんなふうに評価してくれていたとは思ってもみなかった。

 たしかに中学に入ってから、僕はまわりに置いていかれないよう、ずっと遮二無二に頑張っていた。

 だから、レギュラーになれたときは本当に嬉しかった。

 そう、だから……。


 小池 隼人:

(ケイちゃんの変な理由で、1年生がレギュラー入りできないのは、やっぱり許せないよ)


 そう思ってしまう。


 そんなことを考えている僕の前で、五十嵐先輩がまた軽やかにリフティングを開始する。

 本当に上手だった。

 まるでボールが生き物みたいに、彼の体中を駆け巡っている。


 小池 隼人:

「上手ですね」


 五十嵐 蒼太:

「まぁね」


 小池 隼人:

「そんなにうまいのに、何でサッカー部を辞めたんですか?」


 五十嵐 蒼太:

「あ、やっぱり聞いちゃう感じ?」


 五十嵐先輩は苦笑して、ポンとサッカーボールを額で高く上げる。

 それらを胸元で見事にキャッチすると、右足の膝をポンポン叩いた。


 五十嵐 蒼太:

「まぁ、よくある話。靭帯やっちゃったんだよ」


 小池 隼人:

「!」


 デリケートなことを聞いてしまったと、今さらながらに申し訳なくなる。

 すみません、とうつむくと、五十嵐先輩は僕の反応をわかっていたかのように笑った。


 そんな僕らの間に、冬の冷たい風が吹きつける。

 公園の隅に散らばっている枯葉が、静かに巻き上げられた。




 ◇ 続く ◇

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