Ep.31 愛だの恋だの(7・終)「笑顔」
堂本くんに連れてこられたのは、駅前の大きなゲームセンターだった。
私も友達とプリクラを撮りに、何度か来たことがある。
でも堂本くんは、当たり前だけどプリクラ機の横を素通りして、奥へ行こうとする。
堂本 信広:
「お前、こういうとこ来るの?」
羽鳥 梢:
「来るけど、プリクラぐらいだよ」
そんな会話をしながら、何で私は素直にこいつの後について行ってるんだろうと考える。
口が悪くて、昔は茜ちゃんもいじめて、ケンカっ早い堂本くん。
それなのに。
一瞬見せた彼の柔らかい笑顔に引きずられて、ここまで来てしまった。
堂本くんは、奥のある機械の前で止まる。
堂本 信広:
「うっし。手始めにこれでもすっか」
最新のシューティングゲームだ。
彼はお金を入れて、慣れた様子でゲームの銃をこちらに渡した。
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愛だの恋だの(7)
「笑顔」
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堂本 信広:
「ちょ、お前、邪魔すんなよ!」
羽鳥 梢:
「邪魔してんのそっちでしょー! 私が仕留めてたのにー!」
目の前の大きなスクリーンで蠢くゾンビ。
それに対抗するこっちのコンビネーションは、最悪である。
足を引っ張り合い、肩をぶつけ合い。
まだ序盤の第2ステージも、クリアできなかった。
堂本 信広:
「マジかよ、こんなとこでコンティニューは初めてだぞ」
それは暗に、私のせいだと言いたいのかな? 堂本くん!
羽鳥 梢:
「する? コンティニュー」
堂本 信広:
「しねー。違うやつやろうぜ」
彼は無造作に銃を戻して、次のゲームを探す。
中途半端に戻された銃を、私は「ああもう!」と嘆いて、きちんと直した。
私たちは、いろいろなゲームで遊んだ。
音楽ゲームにエアホッケー、懐かしのモグラたたきに格闘ゲーム。
やっぱりというか当たり前というか、どれも堂本くんの方が上手だった。
容赦ない彼は、わざと負けてくれるなんてことはもちろんなく、大体が私の負け。
でも。
それなのに。
羽鳥 梢:
「あはは、もー、また負けたー!」
気がつけば、そんなことさえも愉快になっていて、いつの間にか私は笑っていた。
笑っていることに気づかないくらい、ごく自然に。
堂本 信広:
「羽鳥、弱えな」
羽鳥 梢:
「当たり前でしょ! ゲーセンなんて、久しぶりなんだから」
そう言い返したときに、堂本くんの近くのクレーンゲームのキャラに目がいった。
羽鳥 梢:
「あ、紳士ねこ!」
堂本 信広:
「は?」
べたりと手をつけ、ガラス越しにそれを見つめる。
紳士ねこは、赤い蝶ネクタイがトレードマークの、手足が長い黄色の猫キャラだ。
昔から大好きで、グッズもいくつか持っている。
羽鳥 梢:
「うわぁ、可愛いストラップ」
堂本 信広:
「お前、こんなのが好きなの?」
こんなのとは失礼な!
やれば? と堂本くんは、興味なさげに言う。
でも自信がなかった私は「ううん、大丈夫」と首を振った。
本当はちょっと欲しいけど。
でも似たようなの持っているし、いいか。
そうして一通り満喫して私たちは、隅の休憩所に移動して、飲み物を買った。
夢中で遊んだから、喉はカラカラだ。
羽鳥 梢:
「あー、楽しかった!」
座った私はつい、そう言ってしまう。
それを聞いて、コーラを飲んでいた堂本くんは、また目を細めて笑った。
堂本 信広:
「そりゃよかったな」
なんて、他人事みたいに言う。
羽鳥 梢:
「…………」
羽鳥 梢:
「……あの、ありがとう」
堂本 信広:
「は?」
羽鳥 梢:
「元気づけてくれたんでしょ?」
私が落ち込んでたから……とつけ加えてうつむいた。
リンゴジュースを飲む私に、隣に座った堂本くんは「はぁ~?」と、呆れたような声を出す。
堂本 信広:
「んなわけねーだろ、自意識過剰」
羽鳥 梢:
「!?」
堂本 信広:
「お前がへこんでるのめずらしいから、ゲームでもへこませてやろうと思ったんだよ」
羽鳥 梢:
「…………」
……うーん。
なんていうか。
堂本くんって、素直じゃないんだなぁ。
へこませてやろうと思って、ゲームセンターで一緒に遊んでくれるなんて、結局目的は果たせてないじゃないの。
だって、私は楽しんじゃったんだから。
さっきまで胸の奥でくすぶっていた悩みが、吹き飛んでいるんだから。
羽鳥 梢:
「……ふふ」
堂本 信広:
「……何、笑ってんの」
羽鳥 梢:
「べっつにー? 不良もいいとこあるんだなぁって」
堂本 信広:
「……お前やっぱり、可愛くねぇな」
別にいいですよ、可愛くなくたって。
だって、私には愛だの恋だのはまだいらない。
こうして、笑っていられたらいい。
そんなことを思い出させてくれた堂本くんには、ちょっと感謝している。
ただのクラスメイトから、友達にしてあげてもいいよ、なんて心の中で舌を出した。
・ ・ ・
結局、1時間もゲームセンターで遊んでしまっていた私は、スマホにかかっていたお母さんからの電話に気づいて慌てて帰った。
堂本くんとは現地解散したから、彼があれからちゃんと帰ったのかはわからない。
お母さんには、友達と偶然会って話し込んじゃった、と弁解した。
別に、まったくの嘘じゃないよね? なんて、ちょっとどぎまぎしながら。
夕食後の勉強は、頭がスッキリしたせいか、滞りなく進めることができた。
でも、遊んでいた分を取り返さなくてはいけない。
翌日の朝。
早く登校した私は、教室でテスト勉強をしていた。
松宮 茜:
「おはよう、羽鳥! 朝から偉いね」
羽鳥 梢:
「おはよう! 茜ちゃん」
返事をした私は、茜ちゃんの顔がいつもよりにやけていることに気がついた。
羽鳥 梢:
「ん、何かいいことあった?」
松宮 茜:
「へへ。さっき小池くんと、下駄箱んとこで会えたんだ~」
そう言って笑う茜ちゃんの今の顔は、恋する乙女だ。
以前なら、ここでちょっとからかって、赤くなる茜ちゃんをニヤニヤ見つめた。
でもそれはきっと、まだ恋を知らない私の腹いせみたいなものだったのかななんて、ちょっと思う。
けれど、今は。
羽鳥 梢:
「よかったね」
穏やかな気持ちで、そう言える。
茜ちゃんが自分の席に着くと、前の扉から堂本くんが教室に入ってきた。
いつものように、眠たそうな顔をしてこちらに向かっている。
羽鳥 梢:
「おはよう、堂本くん!」
昨日の件で、仲良くなれたと思っていた私。
でも。
堂本 信広:
「…………」
堂本くんは、そんな私をチラリと見ただけで、返事も返してくれずに自分の席に向かう。
ありゃ、いつもの堂本くんだ。
彼は、私と自分の席の間に体を入れて通る。
その時、彼の手が私の机に触れた。
羽鳥 梢:
(ん?)
何かが私の机に置かれる。
それは、小さなストラップ。
昨日、私がクレーンゲームで見つけた、紳士ねこのものだった。
羽鳥 梢:
「! これ……っ」
堂本くんを見れば、彼は自分の席にドカッと座って、眠たそうにあくびをしている。
こちらを見もせず、呟いた。
堂本 信広:
「俺、そんな趣味の悪いやついらねーし」
そう言って、いつも通り机に上半身を倒して寝てしまう。
顔は向こう側に向けられているので、どんな表情をしているのかはわからない。
羽鳥 梢:
「…………」
羽鳥 梢:
「ありがとう!」
笑った私の顔は、堂本くんには見えないだろう。
でも彼は、ちょっとだけ肩を動かして、返事をしてくれた──ように思う。
置いてくれたストラップを、指でぶら下げて見つめる。
ゆらゆら揺れるそれを見るうちに、元気が出てくるような気がして、また小さく微笑んだ。
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




