Ep.31 愛だの恋だの(3)「困惑」
桑原先輩:
「あなたが、羽鳥梢ちゃん?」
羽鳥 梢:
「え?」
羽鳥 梢:
「……は、はい。そうですけど」
見知らぬ女の先輩に教室前で呼び止められて、思わず立ち止まる。
こんな美人な先輩、私話したことあったっけ?
なんて考えていたら。
桑原先輩:
「そう、あなたが……」
その先輩は小さく言うと、じろじろと私を上から下まで、品定めのように見てきた。
い、一体何なの?
桑原先輩:
「……まさかのダークホースよ!」
羽鳥 梢:
「へ?」
先輩は私にビシッと指をさすと、腰に手を当て言い放った。
桑原先輩:
「中曽根くんをるりちゃんから奪っていいのは、私だけなんだから!」
羽鳥 梢:
「……へ!?」
一瞬、思考回路が停止する。
中曽根をるりから奪う……?
羽鳥 梢:
(え、えぇ~~!?)
何を言ってるのこの人!?
戸惑った私の口の端っこが、慣れないようにひくついた。
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愛だの恋だの
(3)「困惑」
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口をポカンと開けた私をおかまいなしに、目の前の先輩は言葉を続ける。
桑原先輩:
「噂になってるのよ! あなたが中曽根くんの第2の彼女だって!」
羽鳥 梢:
「第2の彼女~?」
彼女に1も2もあるかい! とツッコミたくなる。
ていうか!
羽鳥 梢:
「そ、そんな噂が立ってるんですか!?」
慌てて私は、先輩に逆に詰め寄った。
デジャヴを感じるこの展開に、いやな冷や汗が流れてきそうだ。
桑原先輩:
「そうよ! 最近聞いたんだからっ」
羽鳥 梢:
「誰からです?」
桑原先輩:
「えーと、うーん。……あれ、誰だったかな」
もう! あやふやな情報で責めないでほしい!
でも気になったのは、るりだ。
こんな噂、もしるりが聞いていたら……!
先日の、美羽に誤解されたときを思い出す。
またあんなふうに、友達とゴタゴタするなんて嫌だよ!
焦る気持ちを抑えて、るりの教室へと向かった。
その背後で先輩が「あ、ちょっと!」と呼び止める声も聞こえたけれど、そんなのは無視だ。
るり、こんな噂、信じないで──!
・ ・ ・
戸田 るり:
「え、信じてないよ?」
羽鳥 梢:
「…………」
ハァハァと、息を整える私の前で、るりはあっけらかんとそう答えた。
始業前の2年1組に飛び込むなり「中曽根との噂はでたらめだから、信じないでね!」と叫んだ私に対して、るりは落ち着いていた。
それどころか、焦る私を見て小さく笑う。
戸田 るり:
「梢ちゃんがそんなに焦ってるところ、久しぶりに見た」
なんてことまで言う。
安心した私は、へなへなと脱力した体をるりの机に預けた。
羽鳥 梢:
「笑い事じゃないよ~。なんか、変な先輩に責められるしさぁ」
戸田 るり:
「あ、もしかして桑原先輩かな」
心当たりがあるのか、るりはそう呟く。
「美人な女の先輩?」と聞かれたのでうなずくと、るりは苦笑した。
戸田 るり:
「私もその先輩から聞いたんだよ、梢ちゃんの噂」
戸田 るり:
「でも、梢ちゃんと悠のことなら昔から知ってるからさ。本当じゃないって、すぐにわかったよ」
うう、私の友達は天使だらけだ。
少しだけうるっとした私に、るりは可愛く首をかしげる。
戸田 るり:
「でも、何で今さらそんな噂が立ったんだろうね? 悠と梢ちゃん、前からよく話してたのに」
羽鳥 梢:
「わかんないよ。こないだも、大谷との変な噂聞いたし……」
そのことまでは、るりも知らなかったらしい。
説明をすると「それは大変だったねぇ」なんてのん気に言った。
さすが親友で幼馴染み。私のことをよくわかっている。
戸田 るり:
「でもさ。梢ちゃんに恋愛の噂が立つなんて、めずらしいね」
戸田 るり:
「梢ちゃんて、今まで好きな人とかいなかったの?」
羽鳥 梢:
「いないよ、そんなの」
るりが期待するような色恋話は、私にはまだない。
小さく「ちぇー、そうなんだ」なんてるりは言うけど、ないものはないのだから仕方がない。
唇を尖らせて私の返答にがっかりしているるり。可愛くなったな、なんてぼんやり思う。
昔から可愛かったけど、中曽根に恋をしてから、るりはますます可愛くなった気がする。
付き合ってからはさらに、だ。
恋は女の子をキレイにする、なんて使い古された言い回しも、るりを見ていたら本当にそうかも、なんて思っちゃう。
でも、私にはやっぱり恋愛はほど遠い。
羽鳥 梢:
「あーあ、何で立て続けに、こんな噂になるかなぁ」
ぼやいた私に。
戸田 るり:
「不思議だねぇ」
なんて、るりはのん気につぶやく。
とりあえず、るりに誤解されていなかったことに安心して、私は自分の教室に戻ることにした。
ただ、廊下ですれ違う子たちの視線が気になる。
みんなが、あの変な噂を信じてないといいなと、少しだけ気落ちして歩いたのだった。
◇ 続く ◇




