Ep.31 愛だの恋だの(2)「誤解」
私と大谷がデートをしたという、とんでもない噂を携えてやってきた美羽。
慌てて私は否定した。
羽鳥 梢:
「デートなんかしてない、偶然会っただけだって!」
友達の彼氏と、噂なんて立ってほしくない。
美羽は私の言葉にホッとしたが、すぐにまた悩み顔になる。
望月 美羽:
「じゃあなんで大谷くん、嘘ついたんだろう」
──大谷のバカ! 誕生日プレゼントを買いに行ったことを隠したいからって、私と会ったことまで、否定しなくてもいいのに。
きっと、素直にひとつのことに答えたら、ずるずると全部しゃべってしまう性格を少なからず自覚しているからだろう。
しかし、そんなことで友情にヒビを入れられては困る!
私は見えぬ大谷に、悪態をついた。
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愛だの恋だの
(2)「誤解」
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私と美羽の友情と、大谷が美羽を喜ばせたいという気持ち。
そんなの私の秤にかければ、前者に大きく傾く。
羽鳥 梢:
「あのね、美羽。大谷は、美羽への誕生日プレゼント買いに行ってたの」
望月 美羽:
「え?」
美羽はびっくりして目を丸くした。
羽鳥 梢:
「私は家族と買い物に来てただけ。大谷に美羽には内緒にしといてって言われたけどさ」
もうこのさいだ、全部言ってしまおう。
羽鳥 梢:
「サプライズにしたかったみたいだよ。嘘つくの下手だから、中途半端に隠せなくて全部隠しちゃったんじゃない?」
望月 美羽:
「そ、そうなの……?」
驚いた美羽の顔は、みるみる緩んで。
望月 美羽:
「……えへへ」
ようやく、私の好きな笑顔が現れた。
望月 美羽:
「なら私も、知らないフリしよーっと!」
あっという間に機嫌を直した美羽は、そんなことを言う。
すると隣の席から、突然、声がかかった。
堂本 信広:
「羽鳥が嘘ついてるとか、考えねーの?」
居眠りしてたはずの、堂本くんだった。
望月 美羽:
「へ?」
声をかけられた美羽は、そちらに顔を向ける。
堂本くんは、机に転がったままニヤニヤと笑っていた。
堂本 信広:
「羽鳥が、嘘ついてるかもしんねーじゃん。本当はデートしててさ」
羽鳥 梢:
「な……!」
カチンとしたが、先に美羽が堂本くんに言葉を返した。
望月 美羽:
「だいじょーぶ! 梢ちゃんは、私に嘘つかないもんっ」
羽鳥 梢:
「美羽……」
ああ、美羽が天使に見える!
そんな反応に肩透かしを食らったのか、堂本くんは「あっそ」と、また興味なさげに机に突っ伏した。
もう!
黒髪に戻して前より丸くなったかと思ったけど、やっぱり堂本くんは堂本くんだ。
でもそんなことよりも、美羽にあらぬ誤解が解けてホッとした私は、胸をなで下ろしす。
羽鳥 梢:
(……でも)
羽鳥 梢:
(何でそんな噂、立っちゃったんだろう?)
外で男子としゃべっただけで噂が立つなら、学校中噂だらけだ。
首をかしげて、困惑した。
・ ・ ・
そんなことがあった、翌日の休み時間。
私はいつものように、先生から雑務を頼まれて荷物を運んでいた。
別に頼まれるのは苦ではないが、あの先生は私を便利な小間使いにしていないだろうかと、学年主任の顔を思い浮かべる。
羽鳥 梢:
「よいしょっと」
今運んでいるのは、これまた重い教材冊子である。
あごに届きそうなそれを持って廊下を歩いていると、背後から声がかかった。
中曽根 悠:
「羽鳥、大変そうだな」
るりの彼氏の中曽根だ。
中曽根 悠:
「手伝ってやるよ」
ひょい、と半分以上持ってくれた中曽根は、天然のモテ男だ。
すんなりとこういうことができてしまうから、女の子に好かれてしまうんだろう。
羽鳥 梢:
「……ありがとう」
そう言った私の横顔を、中曽根がじっと見てきた。
中曽根 悠:
「へー、素直ー」
羽鳥 梢:
「? どういう意味よ」
中曽根 悠:
「だって今までの羽鳥なら『大丈夫大丈夫ー』なんて言って、人の親切を無下にするじゃん?」
るりと同じく幼馴染みである中曽根は、私のこともよく知っている。
でも、そんなふうに思われていたのかと、少なからずびっくりした。
羽鳥 梢:
「そんなことないし」
中曽根 悠:
「いやー、そんなことあったぜ?」
なんて言って、中曽根はケラケラと笑う。
その手には、私よりも大量の冊子を持っているのに、全然重たくなさそうに歩いていた。
背もいつの間にか高くなって、見上げないといけない。
幼い頃を知っている私は、ちょっとだけ驚く。
羽鳥 梢:
「私だって、ちゃんとまわりに頼るよ」
少し悔しくて、そうつぶやく。
思い出してしまうのは、2学期の始めに堂本くんに言われたセリフだ。
「お前は1人で頑張りすぎなんだよ。こうやって他に頼れ! 」
そのセリフと今の中曽根の言葉に、私は今まで上手くやっていたようで、じつはできていなかったんじゃないかと不安になる。
少しうつむいた私の横で、何も知らない中曽根はのん気に歩いた。
私にとって親友である、るりの彼氏、中曽根。
昔は、るりをいじめていたくせに。
るりが好きだから応援してあげたけど、まさか本当に、付き合っちゃうなんてさ。
親友を取られて、ちょっと憎からず思っていた私は、少しだけ意地悪をしたくなった。
羽鳥 梢:
「そういえば、るりと最近ハロウィンパーティーしたんだけどさぁ」
中曽根 悠:
「!」
ピク、と中曽根が小さく反応したのを見逃さなかった。
羽鳥 梢:
「その時のるり、アリスの恰好してて、すっごく可愛かったんだよねー」
中曽根 悠:
「へ……へぇー」
ふふ、中曽根のやつ、声色変わってやがんの。
ぴょこん、と私の頭から悪魔の角が出てきそうになる。
羽鳥 梢:
「写真をクラスの男子に見せたら、もうすごい人気──」
中曽根 悠:
「見せたのかよ!?」
羽鳥 梢:
「──出そうなくらい可愛くてさぁ」
中曽根 悠:
「!!」
簡単に騙された中曽根は、プルプル震えている。
それは冊子が重いからではなく、まんまと引っかかった羞恥からである。
中曽根、きみはなんて簡単なんだ。
羽鳥 梢:
「あんたもヤキモチ妬くのね~」
中曽根 悠:
「お前……意地が悪すぎだろう……」
るりのことになると、こんなに情けなくなるとは知らなかったな。
中曽根をおちょくってスッキリした私は、真っ赤な彼の隣でにこにこと笑った。
・ ・ ・
後日。
そんなことがあったことを忘れていた私は、朝教室に向かう途中で、先輩に呼び止められた。
桑原先輩:
「あなたが、羽鳥梢ちゃん?」
廊下で私を待ち伏せていたかのように、2年4組の前に立っていた女の先輩。
背が高くてスリムで、とっても美人。
羽鳥 梢:
「え?」
きょとんとして、その先輩と向き合った。
◇ 続く ◇




