Ep.31 愛だの恋だの(1)「発端」
恋愛になど、興味はない。
それよりも友達と遊んでいる方が楽しいし、本でたくさんの物語と出会う方がドキドキする。
それなのに、中学生となったとたん、まわりは恋愛だらけ。
あの子がカッコいい、あの2人は怪しい、好みのタイプはどーたらこーたら。
恋愛の何が楽しいんだろう。
羽鳥梢、14歳。
恋をしたことはまだ──ない。
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愛だの恋だの
(1)「発端」
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日曜日、お昼過ぎのショッピングモール。
専門店が並ぶエリアで、妹の芽衣と歩いていたら、意外な人物と出会った。
羽鳥 梢:
「あれ、大谷じゃん」
大谷 圭介:
「お、羽鳥。偶然だな」
同級生の大谷と、ばったり出くわした。
友達の美羽の彼氏である大谷は、小学校も同じでよく知っている。
昔から背が高かった彼は、今では180センチ近い長身となっており、そんな大谷にまだ幼稚園児である芽衣は怯えたのか、私にひっついた。
大谷 圭介:
「お、芽衣ちゃん。こんにちは」
芽衣:
「こ……こにちはっ」
芽衣はビクッとなりながらも、小さくちゃんと返事をした。
うーん、うちは姉妹だからか、年上の男の子への免疫がないようだ。
いや、大谷がでかすぎるからなのか。
大谷はビビられることに慣れているのか、苦笑してこっちを向いた。
大谷 圭介:
「羽鳥、2人で買い物来てんの?」
羽鳥 梢:
「ううん、お母さんの買い物待ち」
芽衣がいると、なかなかゆっくり買い物ができない。そんなお母さんのために、たまにこうして芽衣とブラブラしながら待つことがあった。
今はキッズコーナーに、向かおうとしているところだ。
羽鳥 梢:
「大谷は1人で買い物?」
大谷 圭介:
「おう! じつはさー」
そこでデレッと、大谷の顔が崩れた。
大谷 圭介:
「もうすぐ、望月の誕生日じゃん? プレゼント、何がいいかなーって」
普通、男子なら恥ずかしがりそうなことも、大谷は臆面もなく嬉しそうに言う。
たしかにあと2週間後に、美羽の誕生日が控えていた。
じつは私も、もうプレゼントを用意していたりする。
羽鳥 梢:
「へえ、いい彼氏だねぇ」
大谷 圭介:
「へっへーん、だろだろ」
大谷 圭介:
「あ、でもこのこと、望月には内緒な! 俺、誕生日知らないフリしてんだよ」
羽鳥 梢:
「へ? 何でそんなこと」
大谷 圭介:
「そりゃあサプライズよ! 驚かせてやりたいじゃん」
なぜかそこで、ふんぞり返る大谷。
すると、大谷の方から何やら不思議な香りがして私の鼻をくすぐった。
羽鳥 梢:
(……ん?)
それは、どこかで嗅いだことがあるような、不思議と懐かしい香りだ。
クンクン、と思わず大谷の近くに寄る。
大谷 圭介:
「へ? 何だよ羽鳥?」
羽鳥 梢:
「大谷……あんたなんか、匂う」
大谷 圭介:
「ええ!?」
大谷は慌てて、自分の腕やら服やらの匂いを嗅ぐ。
すると、さらに強くなる香り。
隣の芽衣が目に入って「あ」と思い出した。
羽鳥 梢:
「……赤ちゃんの匂い?」
昔、芽衣がまだ生まれたばかりの頃を思い出した。
甘いような乳くさいような、少しむわんと感じるその香り。
それは、生まれたばかりの赤ちゃんの匂いだった。
大谷 圭介:
「あ、俺んとこ、弟が生まれたばっかなんだよ!」
大谷に年の離れた兄弟ができる。
そういえばそんな話を、美羽から聞いてたな。
大谷 圭介:
「最近、母ちゃんと一緒に退院したばっかでさ」
大谷 圭介:
「出る前に抱っこしたせいかなー。そんな匂うんだ」
クンクンと、自身の匂いを嗅ぐ大谷。
そんな彼を見上げて、つい笑ってしまう。
羽鳥 梢:
「いいお兄ちゃん、してるじゃん」
大谷 圭介:
「おう、俺はいい彼氏で、いい兄ちゃんなんだよ」
そこんとこ望月によーく言い聞かせといてくれよ、なんて大谷は言う。
別に私から言わなくても、美羽は十分そう思っていると思うけどねぇ。
なんて考えたけど、目の前の大谷があまりに真剣だったから、苦笑してうなずく。
そして、たわいない会話をして、すぐに大谷とは別れた。
──これが、事の発端だったのである。
・ ・ ・
数日後、変な顔をした美羽が、私のクラスに来た。
望月 美羽:
「こ、梢ちゃん……正直に、答えて!」
羽鳥 梢:
「どうしたの、美羽?」
私の席の前に立ち、小さな美羽はチワワみたいにプルプル震えている。
泣くのを我慢しているみたいな顔だから、心配になる。
望月 美羽:
「日曜日、大谷くんと会ってた!?」
羽鳥 梢:
「へ、大谷?」
そして、すぐに日曜日のショッピングモールのことを思い出した。
羽鳥 梢:
「ああ、うん。会ったよ」
偶然だけど、と付け加えようとしたのに、美羽が変な顔をするもんだから言えなかった。
望月 美羽:
「ふぇ!」
へにゃん、なんて崩れた表情は、情けなくて可愛い。
そして美羽は、困った顔をしてうなだれた。
望月 美羽:
「やっぱり大谷くん嘘ついてたー! 会ってないって言ったのにー!」
羽鳥 梢:
「へ?」
そしてさらに美羽は、とんでもないことを言う。
望月 美羽:
「なんか今ね、変な噂を聞いちゃったの」
望月 美羽:
「大谷くんと梢ちゃんが、デートしてたって。ラブラブに寄り添ってたって」
羽鳥 梢:
「!?」
望月 美羽:
「梢ちゃん……嘘だよね!?」
羽鳥 梢:
「あ、当たり前でしょー! 」
何、何、何なの!?
そのとんでもない噂は!
慌てた私は、思わず大声を張り上げる。
その声がうるさかったのだろう。
最近、隣の席になった金田くん改め堂本くんが、寝ていた上半身をかすかに揺らした。
◇ 続く ◇




