Ep.29 おまけの男子会
1話完結
10月の最終日曜日。
俺、中曽根悠は同じサッカー部の井本の家に向かってる。
井本が買った最新のゲーム機で、遊ぼうということになっていた。
大中小トリオである大谷と小池は、先に着いていて、遅れた俺は走っている。
着いてインターホンを鳴らすと、井本が私服姿で現れた。
中曽根 悠:
「わりーわりー、遅れちまって!」
井本:
「おっせーよ中曽根! なかなか来ないから心配したぞ」
中曽根 悠:
「道、間違えちまった」
井本:
「ったく。お前もスマホ、買ってもらったらー? そしたら連絡つくのに」
中曽根 悠:
「俺んち厳しいんだよ。高校上がってからだってよ」
本当は姉貴が厳しいから、なんだけど。
俺は井本の家に上がると「お邪魔しまーす」と大きく言って、一緒に部屋に向かった。
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おまけの男子会
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ゲームが一段落つくと、ポテトチップスやジュースを広げながらだべり始めた。
その中で、大谷は待ってましたとばかりにのろけ始めやがった。
最近の大谷は、やけにうざい。
大谷 圭介:
「──でさあ、そんときの望月が、めっちゃ可愛くてさ〜」
ゲヘヘ、と下品な笑いもついてきそうな笑い方だった。
望月と付き合い始めた大谷。
1年越しの片想いを経て彼氏になった大谷は、とにかく嬉しいらしく、最近は会えば望月の話ばかりだ。
井本:
「チューは? チューまだしてねーの!?」
井本が突つくから、さらに大谷の口は滑らかになる。
大谷 圭介:
「へっへー! したぜ!!」
中曽根 悠:
「!? 」
小池 隼人:
「え!?」
大谷のまさかの回答に、俺も小池もつい反応してしまった。
ちょ、ちょっと待て!
お前らまだ付き合って、一ヶ月だろうが!?
慌てそうになる俺の前で、大谷がほっぺを撫でながらうっとりと言った。
大谷 圭介:
「ほっぺだけどなー。お前らの地獄キスを浄化してくれたぜー」
井本:
「なんだ、ほっぺかよ」
つまんね、と井本はポテトチップスに手を伸ばす。
俺はホッとしてジュースをすすった。
いや、こういうのは勝ち負けとかではないんだろうけど、やっぱり大谷に先を越されるのはなんかムカつく。
そんなことを考えていた俺に、井本がニヤニヤと声をかけた。
井本:
「中曽根はもう、してんだろー?」
中曽根 悠:
「へ、俺!?」
し、したっちゃあしたが、あれもほっぺだし……しかも、るりに隠れてだし……。
どう答えていいのかわからずにもごもごしていると、大谷がそんな俺に何かを察したのか、フッと嫌な笑いを浮かべた。
大谷 圭介:
「なんだい中曽根クン。チューもまだかい」
中曽根 悠:
「る、るっせーよ!」
井本:
「ええー、1年以上付き合ってるくせに、何してんだよー!」
るっせー井本!
そんな井本の横で大谷が「お、望月から連絡だ!」と、嬉しそうにスマホを手にした。
大谷は最近、スマホを買ってもらったらしい。
望月とは同じクラスだからいつも一緒のくせに、休みの日にまで、こうして連絡してるなんてな。
楽しそうにスマホをいじる大谷を、ついじっと見てしまう。
小池 隼人:
「ケイちゃん、浮かれてるねぇ」
俺の隣で、小池が優しくそう言った。
中曽根 悠:
「付き合いたてだからだろ。ったく、浮かれすぎだっつーの」
小池 隼人:
「悠くん、クールだね!」
井本:
「さすが、モテ男は言うことが違うねー」
小池と井本はそんな風に言うが、俺は別にクールぶっているつもりはない。
ただ、カッコ悪いことはしたくなくて振る舞っているだけなんだけど、周りからはそう見えるようだ。
周りの目を気にせず、望月とののろけ話を語る大谷がちょっぴり羨ましいとも思えるが……うーん。
でも俺は、あんなに鼻の下を伸ばして語らいたくねーぞ。
なんて考えていたら。
大谷 圭介:
「……おおおおぉ! 」
スマホをいじっていた大谷が、変な唸り声をあげた。
な、なんだ一体?
小池 隼人:
「どうしたの、ケイちゃん」
大谷 圭介:
「は、隼人! 俺は今、モーレツに幸せだ……っ」
プルプルと震えだした大谷。
口元を抑えて、必死に何かに耐えようとしている。
中曽根 悠:
「どうしたんだよ」
そう声をかけると、大谷は俺をじっと見て──ニヤリと笑った。
大谷 圭介:
「ふははは。まずは隼人クンと井本クン、来なさい」
井本:
「俺ら?」
小池 隼人:
「何なに?」
なぜか俺だけのけ者にして、小池と井本にスマホを見せる。
がっちり背中でガードしているもんだから、見えやしない。
すると。
井本:
「ほーう。これはこれは。いいですなぁ」
小池 隼人:
「ふふ、可愛いことしているね」
なんて、2人が言い出した。
井本は鼻の下を伸ばし、小池は微笑ましそうに笑っている。
同じものを見ているのに、てんで違う反応をしている2人に、ハテナが頭に浮かぶ。
一体、何を見てるんだ?
中曽根 悠:
「おい何だよ、俺にも見せろよ」
気になって、大谷の肩に乗っかった。
大谷 圭介:
「へっへー。見てもいいけど、鼻血出すなよ」
中曽根 悠:
「は?」
ほらよ、と俺の手に放られた大谷のスマホ。
するとその中には。
中曽根 悠:
「!? 」
なんと、るりが写っていた。
しかも。
やたら可愛い水色のワンピースに、フリル満載の白エプロン。髪の毛を下ろしてリボンなんか結んでいる。
どこかで見たことがあるようなその服装は、たしか「不思議の国のアリス」の主人公ではなかろうか。
周りには、同じように仮装している女の子たちがいる。
その誰もがおそらく、アリスに関するキャラクターに扮していることは何となくわかった。
と、いうか、これは……!!
中曽根 悠:
(あいつ、何してんだよー!!)
スマホの中のるりは、恥ずかしがっている様子もなく、楽しそうに笑っている。
正直ちょっと──いや、かなり可愛い。
というか、可愛すぎる。
というか、何なんだ、これは一体!!
中曽根 悠:
「何だよこれ!?」
大谷 圭介:
「今、女子で集まってハロウィンパーティーしてんだって。やー、いいコスプレですなぁ」
ですなぁ、なんて井本も乗っかって2人は親父くさく笑っている。
デレッとニヤける大谷は、望月の猫姿しか見ていないのだろう。
だが、しかし。
その中にはるりも写っているのだ。
中曽根 悠:
「……大谷、消せ」
大谷 圭介:
「へ?」
中曽根 悠:
「その画像、お前のスマホから消せ! 保存すんなよ!」
大谷 圭介:
「えー、何でだよ!? これには望月の貴重な猫耳が……」
バカヤロ!
るりのこの写真を、エロ親父のお前のスマホなんかに残せるかよ!
大谷 圭介:
「ていうか、メッセージに添付されてっから、保存しなくてもいつでも見られるしー」
中曽根 悠:
「じゃあ、そのメッセージごと消せ!」
大谷 圭介:
「バーカ、するわけねーじゃん!」
大谷は高い身長と長い手足を駆使して、スマホを俺から遠ざける。
くっそー、大谷マジでムカつくー!!
そんな俺と大谷の背後では、小池と井本が呆れるように見守っていた。
小池 隼人:
「彼女がいると、大変だねぇ」
井本:
「小池……お前だけは、そのままでいてくれよな」
・ ・ ・
その夜、俺は必死に母さんに頼み込んでいた。
中曽根 悠:
「だから必要なんだって。もうみんな、持ってるしさ」
母さん:
「えー、でも、高校からって約束だったでしょう」
皿洗いを手伝いながら、何とかスマホを買ってもらえないかと交渉している。
もうこの際、カッコ悪いとか言ってられない。
大谷を見ていたら、やっぱりスマホがあった方がいいな、なんて思っちまった。
いや別に、あの写真をもらおうだなんて考えでは、なくてだな。
純粋に友人やるりと、もっと連絡が取り合えたらいいなーという思いで、だ。
うん、そうなのだ。
中曽根 雫:
「めずらしいわね、あんたがそんなに必死に頼むなんて」
げ、2階にいたはずの姉貴が、いつの間にかリビングに来ていやがった。
大学受験を控える高3の姉貴は、今は勉強漬けの毎日だ。
少し疲れた顔をのぞかせて、口を挟んでくる。
中曽根 悠:
「だ、だって、やっぱり欲しいじゃん」
中曽根 雫:
「ふーん?」
俺がスマホを持てない最大の理由。
それは、姉貴がスマホを高校から持ったから、それに付き合わされているためだ。
姉貴、頼むよ……!
なんて、俺の考えが通じたのか。
中曽根 雫:
「ま、いいんじゃない? スマホくらい」
中曽根 悠:
「!」
珍しく俺の味方をしてくれた。
母さん:
「あら、いいの? 雫」
母さんも意外だったのか、そんなことを言う。
姉貴はあくびを1つもらし、興味なさげに答えた。
中曽根 雫:
「別にいいと思うわよー? 今の若い子は、スマホなくちゃ大変だろうし」
お前も若い子だろうが、というツッコミはあえてしない。
姉貴がこんな風に言ってくれるなんて、どんな風の吹き回しだ?
でもせっかくのチャンスだ。
俺はそれに乗っかって、母さんに頼んだ。すると。
母さん:
「わかったわよ。じゃあ、冬休みになったらね」
中曽根 悠:
「やっりー! ありがとう、母さん!」
ついに俺は、買ってもらえる約束をしてもらえたのだ。
へっへー、これで俺もスマホデビューだぜ!
皿洗いの手伝いを終えて、ウキウキしながら自分の部屋へ戻ろうとした。
が、そこに姉貴が背後から引き止めて、こそっと耳元で言う。
中曽根 雫:
「どうせ、るりちゃんの為でしょ。わかりやすいわね、あんた」
中曽根 悠:
「うるせーなぁ」
中曽根 雫:
「あーら、今の私に、そんな口を利ける立場かしらねぇ?」
中曽根 悠:
「くっ……」
受験が終わるまで、週1でおやつやケーキを買わされる羽目になった俺。
ああ。スマホをゲットするために、こんなカッコ悪い約束させられたなんて、死んでもあいつらやるりには言えねーよ。
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




