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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.29 おまけの男子会

1話完結

 10月の最終日曜日。

 俺、中曽根悠は同じサッカー部の井本の家に向かってる。


 井本が買った最新のゲーム機で、遊ぼうということになっていた。

 大中小トリオである大谷と小池は、先に着いていて、遅れた俺は走っている。

 着いてインターホンを鳴らすと、井本が私服姿で現れた。


 中曽根 悠:

「わりーわりー、遅れちまって!」


 井本:

「おっせーよ中曽根! なかなか来ないから心配したぞ」


 中曽根 悠:

「道、間違えちまった」


 井本:

「ったく。お前もスマホ、買ってもらったらー? そしたら連絡つくのに」


 中曽根 悠:

「俺んち厳しいんだよ。高校上がってからだってよ」


 本当は姉貴が厳しいから、なんだけど。

 俺は井本の家に上がると「お邪魔しまーす」と大きく言って、一緒に部屋に向かった。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 おまけの男子会


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 ゲームが一段落つくと、ポテトチップスやジュースを広げながらだべり始めた。

 その中で、大谷は待ってましたとばかりにのろけ始めやがった。

 最近の大谷は、やけにうざい。


 大谷 圭介:

「──でさあ、そんときの望月が、めっちゃ可愛くてさ〜」


 ゲヘヘ、と下品な笑いもついてきそうな笑い方だった。


 望月と付き合い始めた大谷。

 1年越しの片想いを経て彼氏になった大谷は、とにかく嬉しいらしく、最近は会えば望月の話ばかりだ。


 井本:

「チューは? チューまだしてねーの!?」


 井本が突つくから、さらに大谷の口は滑らかになる。


 大谷 圭介:

「へっへー! したぜ!!」


 中曽根 悠:

「!? 」


 小池 隼人:

「え!?」


 大谷のまさかの回答に、俺も小池もつい反応してしまった。


 ちょ、ちょっと待て!

 お前らまだ付き合って、一ヶ月だろうが!?


 慌てそうになる俺の前で、大谷がほっぺを撫でながらうっとりと言った。


 大谷 圭介:

「ほっぺだけどなー。お前らの地獄キスを浄化してくれたぜー」


 井本:

「なんだ、ほっぺかよ」


 つまんね、と井本はポテトチップスに手を伸ばす。

 俺はホッとしてジュースをすすった。


 いや、こういうのは勝ち負けとかではないんだろうけど、やっぱり大谷に先を越されるのはなんかムカつく。

 そんなことを考えていた俺に、井本がニヤニヤと声をかけた。


 井本:

「中曽根はもう、してんだろー?」


 中曽根 悠:

「へ、俺!?」


 し、したっちゃあしたが、あれもほっぺだし……しかも、るりに隠れてだし……。


 どう答えていいのかわからずにもごもごしていると、大谷がそんな俺に何かを察したのか、フッと嫌な笑いを浮かべた。


 大谷 圭介:

「なんだい中曽根クン。チューもまだかい」


 中曽根 悠:

「る、るっせーよ!」


 井本:

「ええー、1年以上付き合ってるくせに、何してんだよー!」


 るっせー井本!


 そんな井本の横で大谷が「お、望月から連絡だ!」と、嬉しそうにスマホを手にした。

 大谷は最近、スマホを買ってもらったらしい。

 望月とは同じクラスだからいつも一緒のくせに、休みの日にまで、こうして連絡してるなんてな。

 楽しそうにスマホをいじる大谷を、ついじっと見てしまう。


 小池 隼人:

「ケイちゃん、浮かれてるねぇ」


 俺の隣で、小池が優しくそう言った。


 中曽根 悠:

「付き合いたてだからだろ。ったく、浮かれすぎだっつーの」


 小池 隼人:

「悠くん、クールだね!」


 井本:

「さすが、モテ男は言うことが違うねー」


 小池と井本はそんな風に言うが、俺は別にクールぶっているつもりはない。

 ただ、カッコ悪いことはしたくなくて振る舞っているだけなんだけど、周りからはそう見えるようだ。


 周りの目を気にせず、望月とののろけ話を語る大谷がちょっぴり羨ましいとも思えるが……うーん。

 でも俺は、あんなに鼻の下を伸ばして語らいたくねーぞ。


 なんて考えていたら。


 大谷 圭介:

「……おおおおぉ! 」


 スマホをいじっていた大谷が、変な唸り声をあげた。

 な、なんだ一体?


 小池 隼人:

「どうしたの、ケイちゃん」


 大谷 圭介:

「は、隼人! 俺は今、モーレツに幸せだ……っ」


 プルプルと震えだした大谷。

 口元を抑えて、必死に何かに耐えようとしている。


 中曽根 悠:

「どうしたんだよ」


 そう声をかけると、大谷は俺をじっと見て──ニヤリと笑った。


 大谷 圭介:

「ふははは。まずは隼人クンと井本クン、来なさい」


 井本:

「俺ら?」


 小池 隼人:

「何なに?」


 なぜか俺だけのけ者にして、小池と井本にスマホを見せる。

 がっちり背中でガードしているもんだから、見えやしない。

 すると。


 井本:

「ほーう。これはこれは。いいですなぁ」


 小池 隼人:

「ふふ、可愛いことしているね」


 なんて、2人が言い出した。

 井本は鼻の下を伸ばし、小池は微笑ましそうに笑っている。

 同じものを見ているのに、てんで違う反応をしている2人に、ハテナが頭に浮かぶ。

 一体、何を見てるんだ?


 中曽根 悠:

「おい何だよ、俺にも見せろよ」


 気になって、大谷の肩に乗っかった。


 大谷 圭介:

「へっへー。見てもいいけど、鼻血出すなよ」


 中曽根 悠:

「は?」


 ほらよ、と俺の手に放られた大谷のスマホ。

 するとその中には。


 中曽根 悠:

「!? 」


 なんと、るりが写っていた。

 しかも。

 やたら可愛い水色のワンピースに、フリル満載の白エプロン。髪の毛を下ろしてリボンなんか結んでいる。

 どこかで見たことがあるようなその服装は、たしか「不思議の国のアリス」の主人公ではなかろうか。


 周りには、同じように仮装している女の子たちがいる。

 その誰もがおそらく、アリスに関するキャラクターに扮していることは何となくわかった。


 と、いうか、これは……!!


 中曽根 悠:

(あいつ、何してんだよー!!)


 スマホの中のるりは、恥ずかしがっている様子もなく、楽しそうに笑っている。


 正直ちょっと──いや、かなり可愛い。

 というか、可愛すぎる。

 というか、何なんだ、これは一体!!


 中曽根 悠:

「何だよこれ!?」


 大谷 圭介:

「今、女子で集まってハロウィンパーティーしてんだって。やー、いいコスプレですなぁ」


 ですなぁ、なんて井本も乗っかって2人は親父くさく笑っている。

 デレッとニヤける大谷は、望月の猫姿しか見ていないのだろう。


 だが、しかし。

 その中にはるりも写っているのだ。


 中曽根 悠:

「……大谷、消せ」


 大谷 圭介:

「へ?」


 中曽根 悠:

「その画像、お前のスマホから消せ! 保存すんなよ!」


 大谷 圭介:

「えー、何でだよ!? これには望月の貴重な猫耳が……」


 バカヤロ!

 るりのこの写真を、エロ親父のお前のスマホなんかに残せるかよ!


 大谷 圭介:

「ていうか、メッセージに添付されてっから、保存しなくてもいつでも見られるしー」


 中曽根 悠:

「じゃあ、そのメッセージごと消せ!」


 大谷 圭介:

「バーカ、するわけねーじゃん!」


 大谷は高い身長と長い手足を駆使して、スマホを俺から遠ざける。


 くっそー、大谷マジでムカつくー!!


 そんな俺と大谷の背後では、小池と井本が呆れるように見守っていた。


 小池 隼人:

「彼女がいると、大変だねぇ」


 井本:

「小池……お前だけは、そのままでいてくれよな」



 ・   ・   ・



 その夜、俺は必死に母さんに頼み込んでいた。


 中曽根 悠:

「だから必要なんだって。もうみんな、持ってるしさ」


 母さん:

「えー、でも、高校からって約束だったでしょう」


 皿洗いを手伝いながら、何とかスマホを買ってもらえないかと交渉している。

 もうこの際、カッコ悪いとか言ってられない。

 大谷を見ていたら、やっぱりスマホがあった方がいいな、なんて思っちまった。

 いや別に、あの写真をもらおうだなんて考えでは、なくてだな。

 純粋に友人やるりと、もっと連絡が取り合えたらいいなーという思いで、だ。

 うん、そうなのだ。


 中曽根 雫:

「めずらしいわね、あんたがそんなに必死に頼むなんて」


 げ、2階にいたはずの姉貴が、いつの間にかリビングに来ていやがった。

 大学受験を控える高3の姉貴は、今は勉強漬けの毎日だ。

 少し疲れた顔をのぞかせて、口を挟んでくる。


 中曽根 悠:

「だ、だって、やっぱり欲しいじゃん」


 中曽根 雫:

「ふーん?」


 俺がスマホを持てない最大の理由。

 それは、姉貴がスマホを高校から持ったから、それに付き合わされているためだ。

 姉貴、頼むよ……!


 なんて、俺の考えが通じたのか。


 中曽根 雫:

「ま、いいんじゃない? スマホくらい」


 中曽根 悠:

「!」


 珍しく俺の味方をしてくれた。


 母さん:

「あら、いいの? 雫」


 母さんも意外だったのか、そんなことを言う。

 姉貴はあくびを1つもらし、興味なさげに答えた。


 中曽根 雫:

「別にいいと思うわよー? 今の若い子は、スマホなくちゃ大変だろうし」


 お前も若い子だろうが、というツッコミはあえてしない。

 姉貴がこんな風に言ってくれるなんて、どんな風の吹き回しだ?

 でもせっかくのチャンスだ。

 俺はそれに乗っかって、母さんに頼んだ。すると。


 母さん:

「わかったわよ。じゃあ、冬休みになったらね」


 中曽根 悠:

「やっりー! ありがとう、母さん!」


 ついに俺は、買ってもらえる約束をしてもらえたのだ。

 へっへー、これで俺もスマホデビューだぜ!


 皿洗いの手伝いを終えて、ウキウキしながら自分の部屋へ戻ろうとした。

 が、そこに姉貴が背後から引き止めて、こそっと耳元で言う。


 中曽根 雫:

「どうせ、るりちゃんの為でしょ。わかりやすいわね、あんた」


 中曽根 悠:

「うるせーなぁ」


 中曽根 雫:

「あーら、今の私に、そんな口を利ける立場かしらねぇ?」


 中曽根 悠:

「くっ……」


 受験が終わるまで、週1でおやつやケーキを買わされる羽目になった俺。


 ああ。スマホをゲットするために、こんなカッコ悪い約束させられたなんて、死んでもあいつらやるりには言えねーよ。




 ◇ 終わり ◇

❀次エピソードへ続く

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