Ep.28 シュガー・アンド・スパイス(6・終)「女の子は知っている」
飯田 詩音:
「茉莉、これもらっていってね」
パーティーの終わり。
そう言って詩音ちゃんが渡してくれたのは、白うさぎの仮装のときに使わせてもらった懐中時計だった。
アンティークのそれは、シャラリとチェーンをなびかせて私の手に落ちる。
少しだけ、くすんだゴールド。
年月が、その色に染みこんでいるみたいだった。
早乙女 茉莉:
「……ありがとう」
受け取ったそれを、ぎゅっと握る。
私、詩音ちゃんに与えられてばかりだ。
楽しかった思い出も、他の子と仲良くする勇気も、笑い合えた時間も。
いつだって私は、もらってばかり。
早乙女 茉莉:
(私も……詩音ちゃんに何かしたいな)
寂しい気持ちをぐっと抑えながら、私は思った。
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シュガー・アンド・スパイス
(6)「女の子は知っている」
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11月の教室の片隅。
私は、るりちゃんの席の前に座って、眉間に思いきりシワを寄せていた。
早乙女 茉莉:
「むむむむ……」
早乙女 茉莉:
「む、難しい!」
戸田 るり:
「えっとね、そこはこうするんだよ」
見かねたるりちゃんが手を伸ばして、不器用な私の手元を誘導してくれた。
私の指先に摘まれていた針と糸が、さっきとは違いすいすいと器用に泳ぎだす。
早乙女 茉莉:
「あ、こうするのか」
戸田 るり:
「そうそう、上手い上手い」
上手いのは、るりちゃんの教え方だ。
さすがは家庭科部。料理やお菓子だけでなく、裁縫もお手のものなるりちゃんに、私は頼りっぱなしだ。
詩音ちゃんに、何かを贈りたい。
そう考えた私は、詩音ちゃんに手作りのテディベアを作ることにした。
詩音ちゃんは、くまのキャラクターやテディベアが大好きだったからだ。
私なんかの手作りじゃ、見劣りするかもしれないけれど。
でも、気持ちを込めて何かを贈りたかった。
早乙女 茉莉:
「詩音ちゃん、喜んでくれるかなぁ」
戸田 るり:
「もちろんだよ。頑張って、冬休み前に仕上げようね!」
早乙女 茉莉:
「……うんっ」
とその時、見知った顔がるりちゃんの背後に現れる。
るりちゃんの彼氏の、中曽根くんだった。
中曽根 悠:
「ぬいぐるみ作り?」
戸田 るり:
「わっ、悠? びっくりした」
背後から突然声をかけられたるりちゃんは、驚いて振り返った。
後ろに立った中曽根くんは、英語の教科書を持っている。
中曽根 悠:
「これ、サンキュー。返しにきた」
ほい、と渡されたそれを、るりちゃんは受け取る。
中曽根くんは忘れん坊らしく、るりちゃんのところによく物を借りにくる。
戸田 るり:
「あ、よかった。今日、英語あるから取りに行こうかと思ってたんだ」
2人がそんなやり取りをしている横で、私はまた「むむむ」と、眉間にしわを寄せながら針を扱っていたのであった。
・ ・ ・
英語教師:
「マザーグースは、英語圏での童謡ですね。今日はいくつかの曲を紹介しましょう」
英語教師がプリントを配っていく。
それを私は受け取って、また後ろの人にまわす。
でも私の頭の中には、詩音ちゃんへのテディベアがちゃんと完成できるかなぁ、なんてことしか浮かんでいなかった。
たぶん、完成には間に合うはず……!
早乙女 茉莉:
(完成したら、あのブルーリボンをテディベアにつけてあげよう)
リレーメンバーだけが持っている、お揃いのブルーリボン。
私のリボンはハサミで切ってしまったせいで、2つに分かれている。
今は結んであるそれを解いて、1つを詩音ちゃんへのテディベアにつけてあげよう、なんて考えた。
詩音ちゃん、喜んでくれるといいな。
そんな私の耳には、先生が話す英語が音楽のように流れていく。
留学経験が長かったという先生の英語は、とても流暢。聞いていて心地いい。
英語教師:
「──で、この『Sugar and spice』は、女の子の特徴を表しています」
ふと、そんな先生の言葉が私の意識を向けさせた。
英語教師:
「シュガーアンドスパイス。砂糖と香辛料……つまり、甘さと辛さってところですね」
早乙女 茉莉:
「……」
先生のその言葉に、先日のハロウィンパーティーを思い出す。
まるで、砂糖菓子のようだった、あの楽しかった時間。
でもそれは今思い出すと、ちょっぴり切ない気持ちも思い出させる。
それはきっと、わかっているから。
あの楽しかった時間は、あの時にしか体験できなかったものだと、わかっているから。
だからきっと、女の子たちはその限られた時間の中で楽しもうと頑張る。
息つく暇もなくおしゃべりを楽しむ。
お菓子と素敵なもの、そして、大好きな友達に囲まれながら。
もうその時間が戻らないことを、無意識に知っているから。
砂糖とスパイス。
そしてステキなものたち。
そういったもので、女の子はできている。
甘くないだけのその歌を、私は小さく口ずさんだ。
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




