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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.28 シュガー・アンド・スパイス(4)「シュガータイム」

 チョコレートにクッキー、ビスケット。

 シュガーポットに紅茶にジュース。


 甘い香りが立ち込めるテーブル上では、これまた甘い恋愛トークが花開いている。


 とは言っても、恋愛経験ゼロであり、とくに好きな人もいない私は、聞き役にまわるしかない。

 でも、同い年の子たちの恋愛トークは私にはちょっとドキドキもので、胸を高鳴らせながら耳を傾けていた。


 羽鳥 梢:

「でも、まさか本当に大谷と付き合うとはねぇ。杉野先輩とは全然タイプ違うよね」


 望月 美羽:

「杉野先輩もすっごくカッコよかったんだけどね! 大谷くんはすっごく可愛いんだよ!」


 松宮 茜:

「あんなにデカイ図体なのにー?」


 戸田 るり:

「ふふ、でも美羽といると、大型犬みたいだよね。しっぽ振ってる感じするもん」


 望月 美羽:

「あはは! それは言えてるのかもっ」


 飯田 詩音:

「てか杉野先輩って、今年卒業したあの杉野先輩!? カッコよかったよねー!」


 あちこちに飛び交う女子トーク。


 私は聞くのに精一杯で、あわわと目と耳を忙しく働かせていたのだった。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 シュガー・アンド・スパイス

(4)「シュガータイム」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 一段落ついた頃、るりちゃんが思い出したようにつぶやいた。


 戸田 るり:

「そういえば、茜ちゃんの好きな子って」


 戸田 るり:

「もしかして小池くん?」


 松宮 茜:

「!」


 鋭いその指摘に、茜ちゃんが固まった。

 す、すごいるりちゃん!


 松宮 茜:

「な、何でわかったの!?」


 ポロッと言ってしまった茜ちゃん。

 正解です、と答えたようなそのセリフに気づいて、慌てて口を抑えたがもう遅かった。

 るりちゃんは「やっぱりそうなんだ」と笑って美羽ちゃんは「そうなの!?」と驚いている。


 戸田 るり:

「だって1年のとき、よくトリオの方を見てたでしょ」


 松宮 茜:

「うっ……」


 戸田 るり:

「今思うと、見てる先が悠でも大谷くんでもなかったなーって、ちょっと思い出したんだ」


 早乙女 茉莉:

「……るりちゃん、観察眼すごいね!」


 思わず私がそう言うと、梢ちゃんがニヤニヤして口を挟んだ。


 羽鳥 梢:

「違うよ茉莉ちゃん。るりはね、中曽根狙いの女の子に敏感なのよー。彼女の座にいても安心できないもんね、あの鈍感男が相手だと」


 戸田 るり:

「うー、梢ちゃんは、ちょっと黙ってて!」


 るりちゃんは困ったように梢ちゃんを見つめる。この2人は、昔からの幼馴染みらしく、互いのことをよく知っているみたいだ。


 望月 美羽:

「てゆーか! 小池くんを好きって本当!? 茜ちゃん!」


 美羽ちゃんはやや興奮して、茜ちゃんに詰め寄った。

 キラキラとした瞳に見つめられては、さすがの茜ちゃんも降参するしかなかったようだ。


 松宮 茜:

「う……うん」


 ようやく認めた茜ちゃんに、美羽ちゃんがパッと顔を明るくさせた。


 望月 美羽:

「ひゃー! なら私、協力するよー! 大谷くん経由で、いろいろ聞いちゃう!」


 松宮 茜:

「そ、それは大丈夫だから!」


 慌てて、美羽ちゃんのちょっと暴走しそうな協力を止める茜ちゃん。

 そんな茜ちゃんに、詩音ちゃんは肩をすくめた。


 飯田 詩音:

「もー。茜ってば、せっかくのチャンスなのにー」


 松宮 茜:

「だ、だってさぁ」


 茜ちゃんの眉毛がふにゃりと下がり、ちょっと情けなくなった。


 松宮 茜:

「私は今、見られたり話せたりしただけで満足してるもん」


 普段キリッとしている茜ちゃんは、小池くんのことになると、いつもこんな顔になる。

 それをじつは、可愛いなぁ、なんて私が思っていることは内緒だ。


 飯田 詩音:

「茜は本当、シャイだよねぇ」


 羽鳥 梢:

「ま、そんな恋があってもいいんじゃない?」


 詩音ちゃんの言葉を梢ちゃんは、そんな風にフォローする。

 クールな梢ちゃんは、やっぱり恋愛面でも落ち着いているようだ。

 しかしその横から、立ち上がるほどに茜ちゃんに詰め寄ったのは、やはり美羽ちゃんだった。


 望月 美羽:

「えー、でもさ、その間に小池くんが誰かに取られたらどうするの!?」


 松宮 茜:

「うっ」


 飯田 詩音:

「だよねぇ。小池くん、お姉さまからやけに人気あるし」


 松宮 茜:

「うぅっ」


 美羽ちゃんと詩音ちゃんからの攻撃に、茜ちゃんはたじろぐ。

 この2人、息が合っているのかも。

 恋バナにはヒートアップしやすいのか、美羽ちゃんは腰に手を当て、ついに立ち上がった。


 望月 美羽:

「よーし、ここは一肌脱いじゃおう! 今度、男子も誘ってどっか行こうよ!」


 松宮 茜:

「ええ!?」


 茜ちゃん以外のメンバーも、ちょっと驚いて、そんな美羽ちゃんを見る。


 望月 美羽:

「ほら、団体行動にしちゃえばいいんだよ! 遊園地かどっか行ってさ。サッカー部の子たち数人誘ってみよーよ」


 飯田 詩音:

「あ、それいいね!」


 松宮 茜:

「え、えぇ?」


 戸惑う茜ちゃんの肩に、梢ちゃんがポンと手を乗せた。


 羽鳥 梢:

「美羽がああなったら、もう止められないよ」


 るりちゃんはクスクス笑って、赤くなる茜ちゃんに笑いかけた。


 戸田 るり:

「でもさ、楽しいよきっと。みんなで遊ぶの」


 松宮 茜:

「……うん」


 この2人になだめられては、観念するしかないのか、茜ちゃんは小さくうなずいた。


 そんなこんなで、裏目的を達成しても女子トークは止めどなく続いていく。


 恋バナにファッションの話。

 学校であった面白話に流行の話。

 くるくる変わりゆくお喋りはキャンディみたいにカラフルで、色とりどりの内容。

 それは、不思議の国のアリスが迷い込んだお茶会のように賑やか。


 早乙女 茉莉:

(……へへ)


 早乙女 茉莉:

(楽しいな)


 あんまりお喋りが得意じゃない私の口数は少なかったけど、この輪の中にいるだけで楽しかった。

 こんな時間が、今後も過ごせたらいいな。

 私はこのパーティーを開いてくれた詩音ちゃんに、感謝の気持ちを込めて視線を向けた。


 すると、詩音ちゃんはちょっとだけ目を細めて、みんなを見ていた。


 少しだけ、何かが眩しそうに。

 愛おしそうに。


 早乙女 茉莉:

「………」


 早乙女 茉莉:

(詩音ちゃん?)


 そんな詩音ちゃんの表情を、初めて見る気がして。

 少しだけ小さく、私の心臓がはねた。




 ◇ 続く ◇

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