Ep.28 シュガー・アンド・スパイス(4)「シュガータイム」
チョコレートにクッキー、ビスケット。
シュガーポットに紅茶にジュース。
甘い香りが立ち込めるテーブル上では、これまた甘い恋愛トークが花開いている。
とは言っても、恋愛経験ゼロであり、とくに好きな人もいない私は、聞き役にまわるしかない。
でも、同い年の子たちの恋愛トークは私にはちょっとドキドキもので、胸を高鳴らせながら耳を傾けていた。
羽鳥 梢:
「でも、まさか本当に大谷と付き合うとはねぇ。杉野先輩とは全然タイプ違うよね」
望月 美羽:
「杉野先輩もすっごくカッコよかったんだけどね! 大谷くんはすっごく可愛いんだよ!」
松宮 茜:
「あんなにデカイ図体なのにー?」
戸田 るり:
「ふふ、でも美羽といると、大型犬みたいだよね。しっぽ振ってる感じするもん」
望月 美羽:
「あはは! それは言えてるのかもっ」
飯田 詩音:
「てか杉野先輩って、今年卒業したあの杉野先輩!? カッコよかったよねー!」
あちこちに飛び交う女子トーク。
私は聞くのに精一杯で、あわわと目と耳を忙しく働かせていたのだった。
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シュガー・アンド・スパイス
(4)「シュガータイム」
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一段落ついた頃、るりちゃんが思い出したようにつぶやいた。
戸田 るり:
「そういえば、茜ちゃんの好きな子って」
戸田 るり:
「もしかして小池くん?」
松宮 茜:
「!」
鋭いその指摘に、茜ちゃんが固まった。
す、すごいるりちゃん!
松宮 茜:
「な、何でわかったの!?」
ポロッと言ってしまった茜ちゃん。
正解です、と答えたようなそのセリフに気づいて、慌てて口を抑えたがもう遅かった。
るりちゃんは「やっぱりそうなんだ」と笑って美羽ちゃんは「そうなの!?」と驚いている。
戸田 るり:
「だって1年のとき、よくトリオの方を見てたでしょ」
松宮 茜:
「うっ……」
戸田 るり:
「今思うと、見てる先が悠でも大谷くんでもなかったなーって、ちょっと思い出したんだ」
早乙女 茉莉:
「……るりちゃん、観察眼すごいね!」
思わず私がそう言うと、梢ちゃんがニヤニヤして口を挟んだ。
羽鳥 梢:
「違うよ茉莉ちゃん。るりはね、中曽根狙いの女の子に敏感なのよー。彼女の座にいても安心できないもんね、あの鈍感男が相手だと」
戸田 るり:
「うー、梢ちゃんは、ちょっと黙ってて!」
るりちゃんは困ったように梢ちゃんを見つめる。この2人は、昔からの幼馴染みらしく、互いのことをよく知っているみたいだ。
望月 美羽:
「てゆーか! 小池くんを好きって本当!? 茜ちゃん!」
美羽ちゃんはやや興奮して、茜ちゃんに詰め寄った。
キラキラとした瞳に見つめられては、さすがの茜ちゃんも降参するしかなかったようだ。
松宮 茜:
「う……うん」
ようやく認めた茜ちゃんに、美羽ちゃんがパッと顔を明るくさせた。
望月 美羽:
「ひゃー! なら私、協力するよー! 大谷くん経由で、いろいろ聞いちゃう!」
松宮 茜:
「そ、それは大丈夫だから!」
慌てて、美羽ちゃんのちょっと暴走しそうな協力を止める茜ちゃん。
そんな茜ちゃんに、詩音ちゃんは肩をすくめた。
飯田 詩音:
「もー。茜ってば、せっかくのチャンスなのにー」
松宮 茜:
「だ、だってさぁ」
茜ちゃんの眉毛がふにゃりと下がり、ちょっと情けなくなった。
松宮 茜:
「私は今、見られたり話せたりしただけで満足してるもん」
普段キリッとしている茜ちゃんは、小池くんのことになると、いつもこんな顔になる。
それをじつは、可愛いなぁ、なんて私が思っていることは内緒だ。
飯田 詩音:
「茜は本当、シャイだよねぇ」
羽鳥 梢:
「ま、そんな恋があってもいいんじゃない?」
詩音ちゃんの言葉を梢ちゃんは、そんな風にフォローする。
クールな梢ちゃんは、やっぱり恋愛面でも落ち着いているようだ。
しかしその横から、立ち上がるほどに茜ちゃんに詰め寄ったのは、やはり美羽ちゃんだった。
望月 美羽:
「えー、でもさ、その間に小池くんが誰かに取られたらどうするの!?」
松宮 茜:
「うっ」
飯田 詩音:
「だよねぇ。小池くん、お姉さまからやけに人気あるし」
松宮 茜:
「うぅっ」
美羽ちゃんと詩音ちゃんからの攻撃に、茜ちゃんはたじろぐ。
この2人、息が合っているのかも。
恋バナにはヒートアップしやすいのか、美羽ちゃんは腰に手を当て、ついに立ち上がった。
望月 美羽:
「よーし、ここは一肌脱いじゃおう! 今度、男子も誘ってどっか行こうよ!」
松宮 茜:
「ええ!?」
茜ちゃん以外のメンバーも、ちょっと驚いて、そんな美羽ちゃんを見る。
望月 美羽:
「ほら、団体行動にしちゃえばいいんだよ! 遊園地かどっか行ってさ。サッカー部の子たち数人誘ってみよーよ」
飯田 詩音:
「あ、それいいね!」
松宮 茜:
「え、えぇ?」
戸惑う茜ちゃんの肩に、梢ちゃんがポンと手を乗せた。
羽鳥 梢:
「美羽がああなったら、もう止められないよ」
るりちゃんはクスクス笑って、赤くなる茜ちゃんに笑いかけた。
戸田 るり:
「でもさ、楽しいよきっと。みんなで遊ぶの」
松宮 茜:
「……うん」
この2人になだめられては、観念するしかないのか、茜ちゃんは小さくうなずいた。
そんなこんなで、裏目的を達成しても女子トークは止めどなく続いていく。
恋バナにファッションの話。
学校であった面白話に流行の話。
くるくる変わりゆくお喋りはキャンディみたいにカラフルで、色とりどりの内容。
それは、不思議の国のアリスが迷い込んだお茶会のように賑やか。
早乙女 茉莉:
(……へへ)
早乙女 茉莉:
(楽しいな)
あんまりお喋りが得意じゃない私の口数は少なかったけど、この輪の中にいるだけで楽しかった。
こんな時間が、今後も過ごせたらいいな。
私はこのパーティーを開いてくれた詩音ちゃんに、感謝の気持ちを込めて視線を向けた。
すると、詩音ちゃんはちょっとだけ目を細めて、みんなを見ていた。
少しだけ、何かが眩しそうに。
愛おしそうに。
早乙女 茉莉:
「………」
早乙女 茉莉:
(詩音ちゃん?)
そんな詩音ちゃんの表情を、初めて見る気がして。
少しだけ小さく、私の心臓がはねた。
◇ 続く ◇




