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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.28 シュガー・アンド・スパイス (2)「ハロウィンといえば!」

 ハロウィンとはいわば、西洋版お盆だ。

 というのを、聞いたことがある。


 死者が蘇るといわれる10月31日に、子どもたちが仮装し、お菓子をもらうため近所をまわる……らしい。

 正直あんまり詳しくないその行事は、私の中では仮装のためのイベントかな、なんて思っている。

 テレビやネットで東京のスクランブル交差点を練り歩くゾンビや魔女、アニメキャラにまで扮している人たちを毎年見ていた。


 だから、私たちも何か仮装した方がいいのかな?

 なんて考えて、詩音ちゃんに聞いてみたんだけど。


 飯田 詩音:

「大丈夫! みんなはお菓子だけ持って私んちに来てよ!」


 と詩音ちゃんは答えてくれた。

 そして、ハロウィンパーティー当日となった今。

 私たちはぞろぞろと、茜ちゃんの引率で詩音ちゃんの家へと向かっている。


 松宮 茜:

「詩音、何か企んでそうだなぁ」


 先頭を歩く茜ちゃんが、そう呟いた。

 じつは今回の裏目的に、茜ちゃんの恋愛サポート強化が入っていることは、もちろん秘密。

 茜ちゃんのつぶやきに、裏目的を知っている私と梢ちゃんは、こっそり目を合わせてほくそ笑んだ。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 シュガー・アンド・スパイス

(2)「ハロウィンといえば!」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 松宮 茜:

「着いたよ、ここが詩音の家」


 羽鳥 梢:

「うわあ、すごい家!」


 早乙女 茉莉:

「ほぇ〜……豪邸だぁ」


 茜ちゃんの案内でたどり着いた詩音ちゃんの家。

 それを見て私たち4人は、ポカンと口を開けた。

 目の前にあるのは、とても大きな一軒家。

 門まで豪華な装飾がされているそこは、白を基調とした洋館のような建物だった。

 お城みたい……なんて言ったら、言い過ぎだけど、それに近いぐらいの豪邸だ。


 戸田 るり:

「詩音ちゃんって、お嬢様だったんだ」


 そう呟いたるりちゃんに。


 松宮 茜:

「なんか、おばあちゃんが服飾会社の社長さんらしいよ」


 と、小学校から仲のいい茜ちゃんは答える。

 私も詩音ちゃんの家に来るのは初めてだったから、とても驚いた。

 友達でもまだまだ知らないことって、あるんだなぁ。


 望月 美羽:

「わー、なんか緊張しちゃう。私、来てよかったのかなぁ?」


 詩音ちゃんとの接点があまりなかった美羽ちゃんは、めずらしく緊張しているみたい。

 私はコクコクと、美羽ちゃんに対して何度もうなずいた。


 早乙女 茉莉:

「もちろんだよ! 詩音ちゃんが、ぜひって言ってるんだし」


 すると美羽ちゃんは、ホッとしたように笑った。


 望月 美羽:

「えへへ、マリリンありがとう」


 美羽ちゃんがそう言うと、茜ちゃんと梢ちゃんは「マリリン?」ときょとんとした。

 このニックネームは、美羽ちゃんだけが使ってくれる私の愛称だから、なんだかくすぐったいな。


 そんなやり取りをしたのちに、茜ちゃんが玄関ブザーを押す。

 カメラで確認したのか、マイクの向こうからすぐに、詩音ちゃんの声が聞こえた。


 飯田 詩音:

「待ってたよー! 今いくね!」


 ほどなくして、門向こうの玄関から詩音ちゃんが姿を現した。


 飯田 詩音:

「ようこそ! さ、早く入って入って」


 笑顔で出迎えてくれた詩音ちゃんに促され、私たちはぞろぞろと豪邸の中に入る。



 ・   ・   ・



 豪邸の中も、やっぱりすごかった。

 通されたリビングには、おそらく輸入品であろうと窺える家具が並んでいる。

 まるで、ホテルみたいに生活感のないそこは、私の家とはまったくの別物だった。


 早乙女 茉莉:

(す、すごい!!)


 いつも仲良くしていた詩音ちゃんが、こんな素敵な空間で生活していたなんて……!


 私たちはその内装に圧倒され、どう振る舞っていいのかわからず、リビングで突っ立っているしかなかった。

 テーブルの上には、すでにお菓子やジュースが並べられている。

 ハロウィン仕様のお菓子に紛れてキャンドルや花が飾られているのも、素敵な演出だった。


 羽鳥 梢:

「詩音ちゃんち、すっごいねぇ」


 みんなの声を代弁するように、梢ちゃんがつぶやいた。

 とたんに、圧倒されていたるりちゃんや美羽ちゃんも、感想を述べる。


 戸田 るり:

「本当! 素敵なお家だねぇ」


 望月 美羽:

「ねー! お城みたいっ! すごい!」


 茜ちゃんもテーブルの上を見ながら、詩音ちゃんにお礼を言っていた。


 松宮 茜:

「なんか、いろいろ用意してくれてありがとう。お菓子、私たちのも出してね」


 詩音ちゃんはその言葉を受け、含み笑いをする。


 飯田 詩音:

「ふっふっふー。用意しているのは、お菓子だけじゃないんだなー」


 早乙女 茉莉:

「へ?」


 きょとんとした私たちを見ながら、詩音ちゃんは隣の部屋に続く扉を開けた。

 すると。


 飯田 詩音:

「じゃーん! 仮装グッズもバッチリだよー!」


 早乙女 茉莉:

「!!」


 望月 美羽:

「うわわ、すごーい!」


 松宮 茜:

「こ、これは……!」


 現れたそれに美羽ちゃんは食いつき、茜ちゃんは口を引きつらせた。

 るりちゃんと梢ちゃんは、ポカンと口を開けている。

 私は目をまんまるくして、それを見つめた。


 開けた扉の向こう側。

 キャスター付きハンガーラックには、きらびやかな服……いや、衣装がずらりと並んでいる。

 その向こうには、たくさんの帽子や小物類も見えていた。


 こ、これはすごい……!


 飯田 詩音:

「ハロウィンといえばやっぱりコスプレ……じゃなくて仮装でしょう!」


 飯田 詩音:

「おばあちゃんのツテで、家にはたくさん服があるの!」


 飯田 詩音:

「ということで、みんなには衣装に着替えてもらいまーす!」


 詩音ちゃんからのとんでも提案に。


 戸田 るり:

「えええ!?」


 るりちゃんは戸惑い。


 羽鳥 梢:

「へー、面白そう」


 梢ちゃんは意外にも食いついた。

 そんな反応に詩音ちゃんは気を良くしたのか、笑みをこぼして説明を続ける。


 飯田 詩音:

「ちなみにテーマも決めてるの!『不思議の国のアリス』がテーマだからねっ。誰がどのキャラに扮するかは、くじで決めよー!」


 早乙女 茉莉:

「ほぇ~……」


 この展開に私はついていけず、ただ口から感嘆をもらすしかない。

 そんな私の後ろでは、茜ちゃんが「やっぱりね」と、苦笑していたのだった。




 ◇ 続く ◇

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