Ep.26 背中の向こう側 (8)「決着」
2対2の同点で、終了となった後半戦。
逆転はできなかったけれど、後半の追い上げがすごかった。
青葉中のメンバーの表情も、明るい。
テント下の私たちも、健闘をたたえて拍手を送っていた。
戸田 るり:
「いい試合だったね〜!」
望月 美羽:
「うん、すごかった!」
女の子たちはすっかり、試合終了モード。
しかし。
なぜかテント前で坂本先生が、あの東中のイケメン先生と対面し話をしていた。
山川先生:
「やはり、きちんと決着はつけるべきだと思うんだ」
坂本先生:
「もちろんです。絶対に負けませんよ」
──ん? 気のせいだろうか?
何だかあの2人の間に、火花が散っているように見える……?
山川先生:
「じゃあ決定だね」
東中イケメン先生の頭上には
──龍が舞い……
坂本先生:
「あれしかないですね」
坂本先生の背後には
──唸る虎が見える……!?
2人は声を揃えて、選手たちに言い放った。
坂本先生&山川先生:
「PK戦だ!! 」
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背中の向こう側
(8)「決着」
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PK戦。
それはサッカーの試合で、同点のまま決着がつかなかった場合に行われる、ゴールキーパーと選手1対1の勝負である。
ボールを蹴る者をそれぞれのチームから5名ずつ選出し、多くゴールした方がその試合の勝者となる。
──という説明を、私は小池くんから受けた。
望月 美羽:
「ええと、つまり」
望月 美羽:
「また大谷くんが、頑張るってこと?」
小池 隼人:
「まぁ、簡単に言えばそうなるのかな」
練習試合くらいなら普通はやらないんだけどね、と小池くんはつけ加える。
井本:
「今回、坂本先生かなり力入ってるよな~! なんかあの先生との個人的理由でもあるんじゃね?」
井本くんはそう言ってケラケラと笑っている。
そんな私たちの前では、PK戦の準備ができている。ゴール前には、東中のゴールキーパーが立っていた。
こちらは先攻らしい。
ゴールキーパーに対峙するように、中曽根くんが前に立つ。
戸田 るり:
「悠、頑張れ……!」
るりっちが小さくつぶやいたと同時に、辺りはシンと静まり返る。
みんながキッカーである中曽根くんに注目した。
すごい緊張感だった。
るりっちの祈りが、届いたのかもしれない。
中曽根くんの蹴り上げたシュートは、ゴールキーパーが飛んだ逆に曲がりネットに吸い込まれた。
中曽根 悠:
「いよっし! 」
歓声が、チームメイトとテントから上がる。
次は後攻、東中のキッカーが立つ。
大谷くんもパシン、とグローブをはめた手を叩きゴール前に立った。
うう、PK戦って、かなりキーパーにプレッシャーだよねぇ。
私はやたら心臓がドキドキして、自分のことじゃないのに緊張してしまう。
それなのに大谷くんは、どこかワクワクしているように両手を広げた。
大谷 圭介:
「っしゃ、こい! 」
体を揺らし、サッカーボールと相手選手を見つめる大谷くん。
東中の1番手のキッカーは、右上に大きくボールを放った。
大谷 圭介:
「はっ! 」
パシン、といい音を響かせ、シュートはブロックされた。
望月 美羽:
「やったぁ!」
私は大きく叫んで、まわりの子と喜び合った。
すごいすごい! 流れはこっちにあるよ!
そうして見ていた1球目だったけど、その後点数はなかなか入らなかった。
こっちも相手チームも、中曽根くんの1点だけでシュートは決まらない。
東中のキーパーも負けず劣らずの防御力を発揮し、PK戦は4球目へと突入していた。
そして4球目裏、東中の攻撃のとき。
大谷 圭介:
「くっ!」
大谷くんの手を抜けたボールが、ついにネットを揺らしてしまった。
これでまた、同点となってしまう。
井本:
「5球目は部長か……」
井本くんがつぶやいたとおり、ゴール前に立ったのは、あの10番の部長さんだった。
少し緊張した面持ちで、足をならしているのか、ぐるぐる回している。
息を大きく吸い込み体を揺らす。
そして次の瞬間。
部長さん:
「──っ!」
東中のキーパーは大きく左側に飛び、部長さんはゴールど真ん中にシュートを決めた。
とうとう逆転できたのだ。
思わず興奮したチームメイトが、部長さんのまわりに集まり、彼をもみくちゃにした。
それを受け、部長さんは大きく笑っている。
部長さん:
「おっしゃあ! 見たか中曽根め! お前ばっかにカッコつけさせねーからな!」
なぜか部長さんは、中曽根くんに対して指を突きつけてそう言った。
中曽根 悠:
「すげー! さすがッス先輩!」
中曽根くんは本当に嬉しいらしく、破顔して答えたものだから、部長さんも「そ、そうか」と少したじろぐ。
うーん、サッカー部って、仲がいいんだなぁ。
さとみん:
「逆転できたってことは、勝ったの?」
そう井本くんに聞いたさとみんの言葉にドキッとする。
井本:
「いや、まだだ。次で大谷が止められたら俺たちの勝ち。止められなかったら、また決まるまでサドンデスだ」
望月 美羽:
「……!」
次の相手選手の1球。
それがどうなるかで、また試合が決まってしまう。
私は、緊張した面持ちでグラウンドを見た。
5球目を蹴る相手選手のキッカーが、すでに立って大谷くんと対峙していた。
あの選手って、確か前半戦で最初にゴールしてた子だ……!
私は今日1番の緊張感をもって見つめた。
その視線の先には、もちろん大谷くん。
腰を落とし、前方の選手を睨みつけるように体を揺らしている彼は真剣だった。
望月 美羽:
(頑張れ大谷くん……!)
今日1日で何度つぶやいたかわからないその言葉を、これで最後と心で叫ぶ。
思わず祈るように、手を胸の前で組んだ。
グラウンドは静寂に包まれる。
そして。
大谷 圭介:
「───っ!」
大谷くんは大きく飛び上がった。
空に溶け込むんじゃないかと思うくらい、高く。
差し出された左手が、放たれたボールに追いつこうと伸ばされる。
望月 美羽:
(大谷くん──!)
思わず、ぎゅっと目をつむってしまう。
そんな私の耳に、飛び込んできた音。
パシン!
それは、たしかにボールが叩かれた音。
と同時に、大きな歓声が私の周りを包んだんだ。
戸田 るり:
「ひゃあー! 大谷くんすごい!」
早乙女 茉莉:
「本当に逆転しちゃった! 」
望月 美羽:
「!! 」
るりっちとマリリンの言葉で、私は大谷くんがボールを止められたことを把握した。
え、え、え、本当に!?
本当に勝っちゃったの!?
いつの間にか、テント内の選手たちもグラウンドに集まって、井本くんや1年生にももみくちゃにされている大谷くんの姿があった。
小池くんはさすがに駆け寄れなかったけど、隣のテントで嬉しそうに大きく拍手をしている。
喜んでいるサッカー部の子たちは、本当に嬉しそうに勝利を分かち合っていた。
中曽根 悠:
「大谷、まじファインプレー!」
御手洗 満:
「今日だけでいくつボール止めてるんだよ! すげーじゃん!」
大谷 圭介:
「ハッハッハッ! 守護神大谷と呼びたまえ!」
のっぽの大谷くんは、みんなから頭1つ分飛び出してそんな風に笑っていた。
土と汗で汚れたユニフォームの中、眩しいほどの笑顔で。
それを見て、私の心臓はやたらドキドキした。
よかった、大谷くんたちが勝てて。
でも……。
望月 美羽:
(キス……することなっちゃった!?)
いまさらながらに、私は恥ずかしくなっていた。
◇ 続く ◇




