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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.26 背中の向こう側 (8)「決着」

 2対2の同点で、終了となった後半戦。

 逆転はできなかったけれど、後半の追い上げがすごかった。

 青葉中のメンバーの表情も、明るい。

 テント下の私たちも、健闘をたたえて拍手を送っていた。


 戸田 るり:

「いい試合だったね〜!」


 望月 美羽:

「うん、すごかった!」


 女の子たちはすっかり、試合終了モード。

 しかし。

 なぜかテント前で坂本先生が、あの東中のイケメン先生と対面し話をしていた。


 山川先生:

「やはり、きちんと決着はつけるべきだと思うんだ」


 坂本先生:

「もちろんです。絶対に負けませんよ」


──ん? 気のせいだろうか?


 何だかあの2人の間に、火花が散っているように見える……?


 山川先生:

「じゃあ決定だね」


 東中イケメン先生の頭上には

──龍が舞い……


 坂本先生:

「あれしかないですね」


 坂本先生の背後には

──唸る虎が見える……!?


 2人は声を揃えて、選手たちに言い放った。


 坂本先生&山川先生:

「PK戦だ!! 」



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 背中の向こう側

(8)「決着」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 PK戦。

 それはサッカーの試合で、同点のまま決着がつかなかった場合に行われる、ゴールキーパーと選手1対1の勝負である。


 ボールを蹴る者をそれぞれのチームから5名ずつ選出し、多くゴールした方がその試合の勝者となる。


──という説明を、私は小池くんから受けた。


 望月 美羽:

「ええと、つまり」


 望月 美羽:

「また大谷くんが、頑張るってこと?」


 小池 隼人:

「まぁ、簡単に言えばそうなるのかな」


 練習試合くらいなら普通はやらないんだけどね、と小池くんはつけ加える。


 井本:

「今回、坂本先生かなり力入ってるよな~! なんかあの先生との個人的理由でもあるんじゃね?」


 井本くんはそう言ってケラケラと笑っている。

 そんな私たちの前では、PK戦の準備ができている。ゴール前には、東中のゴールキーパーが立っていた。

 こちらは先攻らしい。

 ゴールキーパーに対峙するように、中曽根くんが前に立つ。


 戸田 るり:

「悠、頑張れ……!」


 るりっちが小さくつぶやいたと同時に、辺りはシンと静まり返る。

 みんながキッカーである中曽根くんに注目した。


 すごい緊張感だった。


 るりっちの祈りが、届いたのかもしれない。

 中曽根くんの蹴り上げたシュートは、ゴールキーパーが飛んだ逆に曲がりネットに吸い込まれた。


 中曽根 悠:

「いよっし! 」


 歓声が、チームメイトとテントから上がる。

 次は後攻、東中のキッカーが立つ。

 大谷くんもパシン、とグローブをはめた手を叩きゴール前に立った。


 うう、PK戦って、かなりキーパーにプレッシャーだよねぇ。


 私はやたら心臓がドキドキして、自分のことじゃないのに緊張してしまう。

 それなのに大谷くんは、どこかワクワクしているように両手を広げた。


 大谷 圭介:

「っしゃ、こい! 」


 体を揺らし、サッカーボールと相手選手を見つめる大谷くん。

 東中の1番手のキッカーは、右上に大きくボールを放った。


 大谷 圭介:

「はっ! 」


 パシン、といい音を響かせ、シュートはブロックされた。


 望月 美羽:

「やったぁ!」


 私は大きく叫んで、まわりの子と喜び合った。

 すごいすごい! 流れはこっちにあるよ!


 そうして見ていた1球目だったけど、その後点数はなかなか入らなかった。

 こっちも相手チームも、中曽根くんの1点だけでシュートは決まらない。

 東中のキーパーも負けず劣らずの防御力を発揮し、PK戦は4球目へと突入していた。


 そして4球目裏、東中の攻撃のとき。


 大谷 圭介:

「くっ!」


 大谷くんの手を抜けたボールが、ついにネットを揺らしてしまった。

 これでまた、同点となってしまう。


 井本:

「5球目は部長か……」


 井本くんがつぶやいたとおり、ゴール前に立ったのは、あの10番の部長さんだった。

 少し緊張した面持ちで、足をならしているのか、ぐるぐる回している。


 息を大きく吸い込み体を揺らす。

 そして次の瞬間。


 部長さん:

「──っ!」


 東中のキーパーは大きく左側に飛び、部長さんはゴールど真ん中にシュートを決めた。


 とうとう逆転できたのだ。


 思わず興奮したチームメイトが、部長さんのまわりに集まり、彼をもみくちゃにした。

 それを受け、部長さんは大きく笑っている。


 部長さん:

「おっしゃあ! 見たか中曽根め! お前ばっかにカッコつけさせねーからな!」


 なぜか部長さんは、中曽根くんに対して指を突きつけてそう言った。


 中曽根 悠:

「すげー! さすがッス先輩!」


 中曽根くんは本当に嬉しいらしく、破顔して答えたものだから、部長さんも「そ、そうか」と少したじろぐ。

 うーん、サッカー部って、仲がいいんだなぁ。


 さとみん:

「逆転できたってことは、勝ったの?」


 そう井本くんに聞いたさとみんの言葉にドキッとする。


 井本:

「いや、まだだ。次で大谷が止められたら俺たちの勝ち。止められなかったら、また決まるまでサドンデスだ」


 望月 美羽:

「……!」


 次の相手選手の1球。

 それがどうなるかで、また試合が決まってしまう。


 私は、緊張した面持ちでグラウンドを見た。

 5球目を蹴る相手選手のキッカーが、すでに立って大谷くんと対峙していた。

 あの選手って、確か前半戦で最初にゴールしてた子だ……!


 私は今日1番の緊張感をもって見つめた。

 その視線の先には、もちろん大谷くん。

 腰を落とし、前方の選手を睨みつけるように体を揺らしている彼は真剣だった。


 望月 美羽:

(頑張れ大谷くん……!)


 今日1日で何度つぶやいたかわからないその言葉を、これで最後と心で叫ぶ。

 思わず祈るように、手を胸の前で組んだ。

 グラウンドは静寂に包まれる。


 そして。


 大谷 圭介:

「───っ!」


 大谷くんは大きく飛び上がった。


 空に溶け込むんじゃないかと思うくらい、高く。


 差し出された左手が、放たれたボールに追いつこうと伸ばされる。


 望月 美羽:

(大谷くん──!)


 思わず、ぎゅっと目をつむってしまう。

 そんな私の耳に、飛び込んできた音。



 パシン!



 それは、たしかにボールが叩かれた音。

 と同時に、大きな歓声が私の周りを包んだんだ。


 戸田 るり:

「ひゃあー! 大谷くんすごい!」


 早乙女 茉莉:

「本当に逆転しちゃった! 」


 望月 美羽:

「!! 」


 るりっちとマリリンの言葉で、私は大谷くんがボールを止められたことを把握した。


 え、え、え、本当に!?

 本当に勝っちゃったの!?


 いつの間にか、テント内の選手たちもグラウンドに集まって、井本くんや1年生にももみくちゃにされている大谷くんの姿があった。

 小池くんはさすがに駆け寄れなかったけど、隣のテントで嬉しそうに大きく拍手をしている。

 喜んでいるサッカー部の子たちは、本当に嬉しそうに勝利を分かち合っていた。


 中曽根 悠:

「大谷、まじファインプレー!」


 御手洗 満:

「今日だけでいくつボール止めてるんだよ! すげーじゃん!」


 大谷 圭介:

「ハッハッハッ! 守護神大谷と呼びたまえ!」


 のっぽの大谷くんは、みんなから頭1つ分飛び出してそんな風に笑っていた。

 土と汗で汚れたユニフォームの中、眩しいほどの笑顔で。

 それを見て、私の心臓はやたらドキドキした。


 よかった、大谷くんたちが勝てて。


 でも……。


 望月 美羽:

(キス……することなっちゃった!?)


 いまさらながらに、私は恥ずかしくなっていた。




 ◇ 続く ◇

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