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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.26 背中の向こう側(7)「後半戦の英雄」

 大谷 圭介:

「望月! 俺、頑張るからな!」


 恥ずかしげもなく、そう言ってくれた大谷くん。


 望月 美羽:

「う、うん!」


 恋愛感情を自覚したばかりの私は、慌てて応えてしまう。

 そう、いつもこの真っ直ぐな大谷くんの気持ちが嬉しかった。

 杉野先輩に失恋した痛みが薄かったのも、きっと大谷くんの存在があったからだ。


 頑張れ、大谷くん!


 そっと私は心でつぶやく。

 選手が集まったグラウンドで、ついに後半スタートのホイッスルが鳴り響いた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 背中の向こう側

(7)「後半戦の英雄」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 後半戦。

 ガラリと青葉中の動きが変わったのが、私でもわかった。

 前半は大谷くんの前にボールが集まることが多かったのに、今は向こうの陣地に運ばれることが多くなる。

 落ち着いたパスと機敏な動きが、相手の隙をついていた。


 小池 隼人:

「こっちも、攻撃重視に切り替えたんだね」


 隣のテントに座る小池くんがつぶやいた。

 今は2つのテントの間に座る井本くんが、その言葉を受け取る。


 井本:

「ああ、攻撃は最大の防御ってな! 坂本先生が指示出してたぜ」


 なるほど、こっちが攻撃に力を入れれば、自然と守りも楽になる。

 大谷くんの負荷が減ったのだ。


 それに。


 早乙女 茉莉:

「なんか中曽根くん、すごいね」


 戸田 るり:

「……うん!」


 マリリンが言ったように、後半が始まってからの中曽根くんの動きはすごかった。

 相手のマークをすり抜けながら、ボールを操る。

 ゴールを狙うような動きも増えてきた。

 さっき、大谷くんと何か真剣に話していたから、その効果なのかな。


 隣を見ればるりっちが、口に手を当てて必死に声が出るのをこらえてた。

 でもるりっち……目がハートだよ!


──と、その時!


 小池 隼人:

「いけ! 悠くん!」


 小池くんの声とともに。

 中曽根くんが、鋭いシュートを相手ゴールに叩きつけた。

 左上に鋭角に蹴り上げられたボールは、ゴールキーパーの頭と手をすり抜ける。


 わぁ! と歓声があがった。


 中曽根 悠:

「っしゃあ!」


 シュートを決めた中曽根くんが、大きく拳を振り上げる。

 チームメイトもそのまわりに集まって、中曽根くんをもみくちゃにした。


 桑原 志帆:

「キャー! 中曽根くんカッコイイー!」


 早乙女 茉莉:

「さすがエースだね!」


 ライバルと友達が褒め称えている中、るりっちは真っ赤になってコクコクと何度もうなずく。

 るりっちは緊張したり興奮すると、声を失うようだ。

 小池くんと井本くんも歓声を送りながら、会話を続けている。


 小池 隼人:

「いい展開だね!」


 井本:

「ああ! 中曽根が決めたら、部長のケツにも火ぃ着くしなー」


 さとみん:

「部長ってどの人?」


 井本:

「あの10番だよ。上手いけど、怖えんだよなー」


 井本:

「まぁ、今日の練習試合で引退するっつってたから、今日までのガマンだな」


 さとみんの問いに井本くんが答えると、るりっちが「あの人、部長なんだ……」と一瞬イヤそうな顔をした。

 るりっちがそんな顔するなんて、めずらしい。


 そんな会話をしている間にも、試合は進む。

 小池くんたちの言ったとおり、ゼッケン10番の部長さんのゴールを狙う動きが増えてきた。


 部長:

「おらっ!!」


 と荒々しい声をあげて、ゴールへとシュートを放つ。

 しかしそれはバーに当たり、相手選手にキャッチされる。

 すぐに攻防が切り替わり、青葉中はディフェンスの動きへと変わった。


 大谷くんが守るゴールへと、あっという間にボールが運ばれる。


 望月 美羽:

(ああ、またゴールされちゃう!)


 前半戦の嫌な記憶がよみがえって、緊張する。

 しかし、ゴール前に立つ大谷くんの雰囲気は、前半戦とは違っていた。

 大きく腕を広げて腰を落とし、そしてなぜか笑っている。


 大谷 圭介:

「 ハッハッハッ! ここは俺が制す!」


 そんなセリフに相手選手も躊躇したのか、蹴ったボールは大谷くんの飛んだ方へ向かい、あっけなく弾かれる。

 その後2回、ゴールに向かわれシュートを打たれたけれど……。


 大谷 圭介:

「てや! 」


 大谷 圭介:

「どっせい! 」


 まるでトビウオのようにボールの方へと飛ぶ大谷くんは、鮮やかにシュートを止めていく。


 小池 隼人:

「すごいケイちゃん! 気迫が違う!!」


 井本:

「ああ! あれぞエロ……もとい愛の力だ!」


 井本くんがまた変なことを言ってる。

 お、男の子って単純……?


 大谷くんが弾いたボールは味方選手に渡り、また青葉中の攻撃になる。

 雪崩れるように、また選手たちは移動した。


 大谷 圭介:

「いけー! お前らー! 」


 チームメイトの背を押すように叫ぶ大谷くん。


 御手洗 満:

「任せとけよ!」


 そう答えたのは、小池くんの代わりに入った御手洗くんだった。

 私はあまり知らない子だけど、彼は落ち着いてボールをドリブルしている。


 御手洗 満:

「中曽根!」


 御手洗くんは先を走っている右サイドの中曽根くんと目を合わすと、何度か彼とのパスを交互に繰り返しながら、駆け抜けた。


 望月 美羽:

(中曽根くん……もう1点、お願い!)


 私がそう祈ったときだった。


 御手洗くんは中曽根くんを見たまま、反対の左サイドへとボールを蹴った。

 相手選手の間をすり抜けてそれは、ゴール近くにいた青葉中1年生の選手に渡る。

 受け取ったその子は、体の向きをすぐに変えて、シュートを打った。


──そして。


 そのボールは鮮やかに、地面スレスレに駆け抜け、ゴールキーパーの向こうのネットを揺らした。

 2点目がついに決まり、同点になる。


 井本:

「出た〜! 御手洗のノールックパス!」


 小池 隼人:

「すごい! 同点に追いついたよ!」


 井本くんたちを含めたサッカー部員テントでは、大きな歓声と称賛の声があふれだす。

 私たちのテントからも、黄色い歓声が上がって興奮に包まれた。


 さとみん:

「うわー! やったー!!」


 望月 美羽:

「同点になったね!」


 私もさとみんたちと抱き合って喜ぶ。

 今、ゲームの流れは確実に青葉中となっている!

 もしかしたらこのまま逆転しちゃうのかも?


 望月 美羽:

(でも、そうなったら……)


 望月 美羽:

(き、キス!?)


 それが現実味を帯びてきて、少し焦ってしまう。

 大谷くんのことは好きだけど、みんなの前でキスはやっぱり恥ずかしいかも。


 そうして同点となった後半戦は、青葉中のサッカー部メンバーが各自活躍し、逆転できぬまま試合は進んだ。

 青葉中も東中も、どちらもすごかった。

 シーソーのように選手たちはコートを行ったり来たりしながら、とうとうゲームの終了が近づく。


 ピッピー!!


 ついに試合終了のホイッスルがグラウンドに鳴り響き、選手たちの足が止まる。

 スコアボードは2対2。

 同点となって、後半戦は終了したのだった。




 ◇ 続く ◇

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