Ep.26 背中の向こう側(6)「圭介の画策」
ゴールキーパーというのは、基本的に点を入れることができない。
ゴールからの超ロングシュートやゴールから離れてオフェンスにまわる、なんてのもルール上はできるらしいが、現実的でない。
では、キーパーとして点を入れるために、どう動くべきか。
大谷 圭介:
(考えろ、考えろ俺ー!)
男、大谷圭介。人生最大のチャンスが巡ってきている。
この試合に勝てたのならば、望月からのキス(ほっぺだけど)が待っているのだ!!
大谷 圭介:
(やっぱりここは……エースに頑張ってもらうしかない!)
後半開始5分前。
俺はのん気にストレッチをしている中曽根の元へ、駆け寄った。
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背中の向こう側
(6)「圭介の画策」
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大谷 圭介:
「中曽根! お前絶対にゴールしろよ!」
中曽根 悠:
「わかってるよ、大谷」
先ほどのやりとりを見ていた中曽根はそう応える。
しかし、あの東中から逆転するためには、そんなヘラヘラした気合いでは足りんのだ!
大谷 圭介:
「戸田も勝ったら、チューしちゃおうかな~なんて言ってたぞ!」
中曽根のやる気を引き出すためにそう言った。嘘八百である。
中曽根 悠:
「………嘘だろ」
大谷 圭介:
「うっ」
あっさり見破られた。
中曽根はじとりと、冷めた視線をこちらに向けてくる。
中曽根 悠:
「るりが、そんなこと言うわけねーもん」
大谷 圭介:
「ぐぬぬ……っ」
さすがは幼馴染みだ。互いの性格はわかりきっているというわけか。
しかし、こっちだって超必死なのだ。
そっちも必死になってもらわないと困る!
俺は考えた。
イケメン中曽根は、カッコつけたがる面がある。それは彼女に対してなら尚更だろう。
それならば。
大谷 圭介:
「……バラすぞ」
中曽根 悠:
「ん?」
大谷 圭介:
「ゴールしなかったら、サッカー部更衣室の秘伝のエロ本まわし読み、お前も参加してたの戸田に言うぞ!」
中曽根 悠:
「!!」
ガーーーン!
と中曽根の背景に、そんな効果音が現れた。
中曽根 悠:
「そんなんしたら、お前だってバレるだろうが!」
大谷 圭介:
「ふっ、甘いな中曽根」
中曽根 悠:
「!? 」
大谷 圭介:
「俺はもうエロ親父キャラが望月にバレている……すなわち、俺は困らない!!」
中曽根 悠:
(ガーーーン!)
背景どころか口から飛び出た中曽根のショック音。
ハッハッハッ、中曽根クン、イケメン爽やかキャラがあだになったようだねぇ!
中曽根 悠:
「ひ、卑怯者め……っ」
大谷 圭介:
「なーに、ゴールを決めたら言わねえよ」
わっはっはっ、と俺は声に出す。
悔しがる中曽根から、ゴォッとやる気の炎が上がったのを見届けると、よしよしと立ち去った。
しかし、中曽根だけでは心もとない。
俺はもう1人のエースストライカーである部長に駆け寄った。
偉そうに後輩をこき使う部長は嫌いだが、今回ばかりはそうも言ってられないのだ。
大谷 圭介:
「部長、よろしく頼んます!」
部長:
「おー、大谷! お前ってマジで面白いなー」
さいわいにも、部長にとって今回の騒動は面白いものらしい。
よし、運も味方についてる!
俺はすれるだけのゴマをすった。
大谷 圭介:
「中曽根だけじゃ頼りになんないんで、部長がっつり決めちゃってくださいよ!」
部長:
「はっはー! 中曽根なんかに任せられっか! 俺がお前にチューをプレゼントしてやる!」
大谷 圭介:
「部長、その言い方は誤解を招くッス……」
やたら中曽根をライバル視している部長をたきつけて、俺はそそくさと後にした。
さて、これでゴールを決める役割のフォワードには、やる気を確認できた。
あとは、フォワードにパスをまわす要のミッドフィルダーである。
本当なら、隼人がうまく回してくれてたんだけど……。
大谷 圭介:
(隼人……大丈夫かな)
怪我をした隼人のことがずっと気にかかっている。
あいつがいないサッカーコートは、物足りなくて、寂しいよ。
御手洗 満:
「よ、大谷。はりきってるな」
大谷 圭介:
「御手洗」
隼人の代わりに入った御手洗が、声をかけてきた。
落ち着いている御手洗は、ミッドフィルダーとしても十分動いてくれるやつだ。
大谷 圭介:
「よろしく頼むぜ、御手洗!」
御手洗 満:
「ああ。小池に負けないくらい、頑張るよ」
パン、と軽く御手洗と手を打つ。
すると御手洗は俺の後ろを見て、何やらハッとした。
御手洗 満:
「お、小池のやつ、戻ってきてるじゃん」
大谷 圭介:
「え!」
慌てて俺が振り返ると、そこにはテント下で座る隼人の姿があった。
右足に包帯を巻いていて痛々しいが、元気に手を振っている。
大谷 圭介:
「隼人、大丈夫だったのか!?」
猛ダッシュして隼人に駆け寄った。
隼人はそんな俺を見て、大きくしっかりうなずく。
小池 隼人:
「うん、大丈夫! だからケイちゃんたちも、気にせず頑張って!」
そしてコソッと、内緒話するようにささやいた。
小池 隼人:
「あと、望月さんの件も聞いたよ。絶対に勝たなきゃだね!」
大谷 圭介:
「! おう!」
自分のことのように照れてそう言った隼人。
昔から俺を励ましてくれたり、そばにいてくれた。
そんな親友に見守られて。
そして横のテントには、望月もいて。
俺のやる気は十分に満ちた!
望月に向けて、俺は声を張り上げる。
大谷 圭介:
「望月! 俺、頑張るからな!」
望月 美羽:
「!」
望月 美羽:
「う、うん!」
その言葉を聞いて、グラウンドへと俺は戻る。
スコアボートはまだ、0対2のまま。
それでも俺は、背中に望月と隼人の応援を受けて、気合いは十分に入っていた。
◇ 続く ◇




