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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.26 背中の向こう側(6)「圭介の画策」

 ゴールキーパーというのは、基本的に点を入れることができない。

 ゴールからの超ロングシュートやゴールから離れてオフェンスにまわる、なんてのもルール上はできるらしいが、現実的でない。

 では、キーパーとして点を入れるために、どう動くべきか。


 大谷 圭介:

(考えろ、考えろ俺ー!)


 男、大谷圭介。人生最大のチャンスが巡ってきている。

 この試合に勝てたのならば、望月からのキス(ほっぺだけど)が待っているのだ!!


 大谷 圭介:

(やっぱりここは……エースに頑張ってもらうしかない!)


 後半開始5分前。

 俺はのん気にストレッチをしている中曽根の元へ、駆け寄った。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 背中の向こう側

(6)「圭介の画策」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 大谷 圭介:

「中曽根! お前絶対にゴールしろよ!」


 中曽根 悠:

「わかってるよ、大谷」


 先ほどのやりとりを見ていた中曽根はそう応える。

 しかし、あの東中から逆転するためには、そんなヘラヘラした気合いでは足りんのだ!


 大谷 圭介:

「戸田も勝ったら、チューしちゃおうかな~なんて言ってたぞ!」


 中曽根のやる気を引き出すためにそう言った。嘘八百である。


 中曽根 悠:

「………嘘だろ」


 大谷 圭介:

「うっ」


 あっさり見破られた。

 中曽根はじとりと、冷めた視線をこちらに向けてくる。


 中曽根 悠:

「るりが、そんなこと言うわけねーもん」


 大谷 圭介:

「ぐぬぬ……っ」


 さすがは幼馴染みだ。互いの性格はわかりきっているというわけか。

 しかし、こっちだって超必死なのだ。

 そっちも必死になってもらわないと困る!


 俺は考えた。

 イケメン中曽根は、カッコつけたがる面がある。それは彼女に対してなら尚更だろう。

 それならば。


 大谷 圭介:

「……バラすぞ」


 中曽根 悠:

「ん?」


 大谷 圭介:

「ゴールしなかったら、サッカー部更衣室の秘伝のエロ本まわし読み、お前も参加してたの戸田に言うぞ!」


 中曽根 悠:

「!!」


 ガーーーン!


 と中曽根の背景に、そんな効果音が現れた。


 中曽根 悠:

「そんなんしたら、お前だってバレるだろうが!」


 大谷 圭介:

「ふっ、甘いな中曽根」


 中曽根 悠:

「!? 」


 大谷 圭介:

「俺はもうエロ親父キャラが望月にバレている……すなわち、俺は困らない!!」


 中曽根 悠:

(ガーーーン!)


 背景どころか口から飛び出た中曽根のショック音。

 ハッハッハッ、中曽根クン、イケメン爽やかキャラがあだになったようだねぇ!


 中曽根 悠:

「ひ、卑怯者め……っ」


 大谷 圭介:

「なーに、ゴールを決めたら言わねえよ」


 わっはっはっ、と俺は声に出す。

 悔しがる中曽根から、ゴォッとやる気の炎が上がったのを見届けると、よしよしと立ち去った。


 しかし、中曽根だけでは心もとない。

 俺はもう1人のエースストライカーである部長に駆け寄った。

 偉そうに後輩をこき使う部長は嫌いだが、今回ばかりはそうも言ってられないのだ。


 大谷 圭介:

「部長、よろしく頼んます!」


 部長:

「おー、大谷! お前ってマジで面白いなー」


 さいわいにも、部長にとって今回の騒動は面白いものらしい。

 よし、運も味方についてる!

 俺はすれるだけのゴマをすった。


 大谷 圭介:

「中曽根だけじゃ頼りになんないんで、部長がっつり決めちゃってくださいよ!」


 部長:

「はっはー! 中曽根なんかに任せられっか! 俺がお前にチューをプレゼントしてやる!」


 大谷 圭介:

「部長、その言い方は誤解を招くッス……」


 やたら中曽根をライバル視している部長をたきつけて、俺はそそくさと後にした。


 さて、これでゴールを決める役割のフォワードには、やる気を確認できた。

 あとは、フォワードにパスをまわす要のミッドフィルダーである。

 本当なら、隼人がうまく回してくれてたんだけど……。


 大谷 圭介:

(隼人……大丈夫かな)


 怪我をした隼人のことがずっと気にかかっている。

 あいつがいないサッカーコートは、物足りなくて、寂しいよ。


 御手洗 満:

「よ、大谷。はりきってるな」


 大谷 圭介:

「御手洗」


 隼人の代わりに入った御手洗が、声をかけてきた。

 落ち着いている御手洗は、ミッドフィルダーとしても十分動いてくれるやつだ。


 大谷 圭介:

「よろしく頼むぜ、御手洗!」


 御手洗 満:

「ああ。小池に負けないくらい、頑張るよ」


 パン、と軽く御手洗と手を打つ。

 すると御手洗は俺の後ろを見て、何やらハッとした。


 御手洗 満:

「お、小池のやつ、戻ってきてるじゃん」


 大谷 圭介:

「え!」


 慌てて俺が振り返ると、そこにはテント下で座る隼人の姿があった。

 右足に包帯を巻いていて痛々しいが、元気に手を振っている。


 大谷 圭介:

「隼人、大丈夫だったのか!?」


 猛ダッシュして隼人に駆け寄った。

 隼人はそんな俺を見て、大きくしっかりうなずく。


 小池 隼人:

「うん、大丈夫! だからケイちゃんたちも、気にせず頑張って!」


 そしてコソッと、内緒話するようにささやいた。


 小池 隼人:

「あと、望月さんの件も聞いたよ。絶対に勝たなきゃだね!」


 大谷 圭介:

「! おう!」


 自分のことのように照れてそう言った隼人。

 昔から俺を励ましてくれたり、そばにいてくれた。

 そんな親友に見守られて。

 そして横のテントには、望月もいて。

 俺のやる気は十分に満ちた!

 望月に向けて、俺は声を張り上げる。


 大谷 圭介:

「望月! 俺、頑張るからな!」


 望月 美羽:

「!」


 望月 美羽:

「う、うん!」


 その言葉を聞いて、グラウンドへと俺は戻る。

 スコアボートはまだ、0対2のまま。

 それでも俺は、背中に望月と隼人の応援を受けて、気合いは十分に入っていた。




 ◇ 続く ◇

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