Ep.26 背中の向こう側(4)「ピンチは突然に」
突然の出来事だった。
小池 隼人:
「うわぁ!!」
小柄な小池くんが、相手選手に激突されて地面に転がる。
相手選手も勢いを殺しきれずに一緒に倒れ、グラウンドとテント下から悲鳴が上がった。
望月 美羽:
「小池くん……!」
私も口を覆い、叫んでしまいそうになる。
大谷 圭介:
「隼人!!」
ゴール前にいた大谷くんも駆け寄る。
ゲームは一時中断となり、転がる2人のまわりにみんなが集まりだした。
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背中の向こう側
(4)「ピンチは突然に」
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小池くんは足を痛めて試合から抜けることになった。
シートの簡易担架で運ばれて行く小池くんは、とても悔しそうに顔を歪めている。
足の痛みよりも、心が痛い。
そんな顔だった。
坂本先生:
「小池の代わりは御手洗、お前いけるか」
御手洗 満:
「わかりました!」
隣のテントで、坂本先生が険しい顔をして指示を出している。
指名された御手洗くんという男の子は、落ち着いた様子でウォーミングアップを始めた。
テント前には、今まで試合していた子たちが集まって、その中に大谷くんや中曽根くんもいる。
中曽根 悠:
「あの野郎、力も緩めず小池にぶつかりやがって!」
中曽根くんは怒った顔をして、そんな風に言った。
大谷 圭介:
「よせよ中曽根。あの勢いなら、仕方なかったよ」
中曽根 悠:
「そうだけど……っ」
チームメイトをなだめる大谷くん。
でも……でも、大谷くん。
そんな大谷くんも、とても辛そうだよ。
大谷くんと小池くんは仲が良い。
小学校時代からいつも2人は一緒だった。
本当なら、担架に運ばれる小池くんを1番心配しているのは、大谷くんなんだ。
それなのに彼は胸を張る。
腕を大きく広げて、チームメイトみんなに声をかけた。
大谷 圭介:
「隼人の仇を取ってやろうぜ! 戻ってきたら『僕必要ないじゃないのぉ~』ってあいつが泣いちゃうくらいにさ!」
突然の、大谷くんの変なモノマネ。
みんながプッと吹き出した。
中曽根 悠:
「大谷、今のモノマネひっでー!」
御手洗 満:
「小池じゃなくて、違うキャラだったぞ!」
大谷 圭介:
「なはは、隼人には内緒な!」
瞬間。
そのおかげでテント下にあった不穏な空気が、変わったのがわかった。
大谷くんの言葉が、笑顔が、みんなの緊張をほぐした。
そんな空気だった。
その様子を見ていた坂本先生は柔らかく笑って、自分より大差ない大谷くんの近い頭を、ポンポンと叩く。
目を細めて、いつもの大声でサッカー部メンバーに声をかけた。
坂本先生:
「よし。じゃあ、お前ら戻るぞ!」
サッカー部メンバー:
「はい!! 」
出場メンバーは大きく声を響かせて、グラウンドへと駆け出していく。
散らばるその中の大谷くんの背中を、私はじっと見つめた。
望月 美羽:
(大谷くん……)
大谷くんが大きいのは体だけじゃない。
心も大きくしようと、一生懸命頑張っている。
でも……。
今見ているその背中は、なんだか……。
井本:
「大谷、大丈夫かなぁ」
望月 美羽:
「!」
ボソッとつぶやいた井本くんの声に、私は反応した。
望月 美羽:
「え?」
井本:
「いや、あいつ意外とメンタル弱ぇから。なんか無理してないかなって」
望月 美羽:
「……」
井本くんって、案外人のことをよく見てる。
私が感じていた不安を口にした井本くんは、じっとグラウンドを見ていた。
そんな私たちの不安は、的中したのかもしれない。
グラウンドに戻った大谷くんの動きは、芳しくなかった。
せっかく大谷くんの掛け声で他メンバーの動きはよくなったのに、ゴール前の大谷くんの守りがヒヤッとする場面が多くなる。
そして、ついに。
戸田 るり:
「あ! 2点目入れられた!」
望月 美羽:
「……!!」
大谷くんが飛んだ逆の方向に相手選手はゴールを決め、2点目を決められてしまった。
大谷くんは地面に這いつくばって、悔しそうに唇を噛みしめる。
結局0対2で前半は終了となり、休憩となった。
また、テント前にサッカー部メンバーが集まる。
テントに戻った大谷くんは、ユニフォームで汗を拭っていた。
坂本先生:
「大谷どうした、らしくないぞ」
坂本先生が、大谷くんに声をかける。
大谷 圭介:
「はい、すみません……」
さっきみんなにかけた声よりも低く、大谷くんはつぶやいた。
その背中は丸まっていて、土だらけ。
よく見れば、大谷くんもあちこちすり傷だらけで体は痛そうなのに、表情はそんなのに気付いてないように落ち込んでいた。
望月 美羽:
(大谷くん……そんな顔しないで)
──ううん。
しないで、じゃなくて。
しちゃ駄目なんだから!
望月 美羽:
「大谷くん!」
気づけば私は、大谷くんに駆け寄っていた。
大谷 圭介:
「え?」
驚いた大谷くんを見上げて指さし、私は言った。
望月 美羽:
「背中、曲がってる!」
大谷 圭介:
「へ!?」
そしてそのまま背伸びをして、両手で大谷くんの顔を挟んだ。
望月 美羽:
「顔も下、向いてるし!」
大谷 圭介:
「!」
そして自分の腕にかけていたピンク色のタオルを、大谷くんの首にかける。
望月 美羽:
「土だらけで顔も暗い! これで拭いちゃいなさい!」
大谷 圭介:
「望月……」
大谷くんには似つかわしくないパッションピンクのタオルが、彼の呆然とする顔のまわりを彩る。
私はそれを見て、うわぁ似合わない、なんて思って笑ってしまった。
望月 美羽:
「……大谷くん、ピンク似合わない~」
大谷 圭介:
「……!」
大谷 圭介:
「に、似合ってなくてもいいし!」
大谷くんはそんな私を見て、ようやく笑ってくれた。
その笑顔は、さっきの無理してるようなやつじゃなくて、どこかホッとしたようなもの。
そうだよ、やっぱり大谷くんは、こうやって笑わないと!
つられて私もホッとしてしまう。
大谷 圭介:
「ありがとう。励まして……くれたんだよな?」
望月 美羽:
「ううん! からかっただけー」
大谷 圭介:
「ひ、ひでぇー!」
望月 美羽:
「へへー。……ん?」
嬉しくて、ついここがみんなのいるテントだということを忘れていた。
気がつけば、るりっちたちもサッカー部の子たちも、私たちを見ている。
望月 美羽:
「!!」
望月 美羽:
(わわわ! 恥ずかし~)
うわぁ、穴があったら入っちゃいたいよ!
でも大谷くんは気づいてないのか、まだにこにこしている。
うう、困ったな。
井本:
「ふむ……」
私たちを見ていたうちの1人、井本くんが突然、近寄ってきた。
井本:
「……よし、大谷! 頑張ったらお前に褒美をやろう!」
なぜだか偉そうに、大谷くんと私の前にバーン! と手のひらを向けて立つ。
大谷 圭介:
「は?」
きょとんとする大谷くんにビシッと指をさし、井本くんはとんでもないことを口にした。
井本:
「この試合、勝ったら望月からのキッスが待ってるぞ!!」
望月 美羽:
「へ!?」
大谷 圭介:
「……な……」
大谷 圭介:
「何だとーーー!? 」
◇ 続く ◇




