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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.26 背中の向こう側(2)「小さな痛み」

 我が青葉中学校と東中学校のサッカー部練習試合は、明日となった。

 金曜日の今日は園芸部があったので、さとみんと一緒に帰っている。

 その中で、明日の話をしていた。


 望月 美羽:

「明日も暑いから、熱中症対策しとかないとね! ドリンクとかタオルとか」


 さとみん:

「そだねー。あと、カラフルなタオル持ってったら、応援にも使えるんじゃない?」


 望月 美羽:

「あ、それいいね!」


 ちょっと、ワクワクしてきちゃった。

 スポーツ大会の時にも思ったけど、私って運動は苦手だけど、観るのは好きみたい。

 頑張っている人や、自分にはない身体能力を発揮する姿は、すごいなって思うもん。


 望月 美羽:

(大谷くんも、頑張るんだろうな)


 いつか廊下の窓から見た、大谷くんが投げたサッカーボールの放物線。


 それはとってもキレイな弧を描いていて、虹みたいだなぁなんて思ったんだ。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 背中の向こう側

(2)「小さな痛み」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 そして当日。

 サッカー部の応援には、私と、さとみん、るりっち、マリリンの4人で行くことになった。

 梢ちゃんも誘ったんだけど、今回は予定が合わなかったらしい。うう、残念。


 学校のグラウンドに着くと、サッカー部の子たちは当たり前だけどもういて、各々ストレッチやリフティングなどをしていた。


 その中で、私はすぐに大谷くんを見つける。近くに井本くんもいた。


 望月 美羽:

「あ、いたいた」


 さとみん:

「こっち気づくかなぁ?」


 4人でぞろぞろ歩いているけど、サッカー部の子たちは私たちに気づかず、真剣にボールを操っている。

 大谷くんはこっちに背中を向けて、座り込み開脚のストレッチをしていた。

 大きな上半身を左右に曲げて、柔らかそうに曲げている。

 すると後ろから、男の子の声が聞こえた。


 中曽根 悠:

「よ、着いたんだな」


 戸田 るり:

「悠!」


 るりっちの彼氏の中曽根くんが、いつの間にか私たちの後ろに立っていた。

 なぜか、上半身がビショビショだ。


 戸田 るり:

「なんでそんなに濡れてるの?」


 中曽根 悠:

「だってあっちーんだもん。水飲み場で浴びてきた」


 戸田 るり:

「水飲み場は、シャワー室じゃありません!」


 るりっちはプンプンしながら、中曽根くんにタオルを渡した。それを彼は嬉しそうに受け取って、ガシガシと頭を拭く。


 うわぁ……なんか。


 望月 美羽:

(本当に、彼氏彼女って感じ)


 なんてこっちがドキドキしちゃう。

 今さらだけど、本当にこの2人は付き合っているんだなぁ〜なんて考えちゃう。


 友達の頃の2人と、今のカレカノである2人は違う雰囲気だ。

 付き合うって、そういうことなのかな。

 友達のときとは違う関係になる。

 そういうこと。


 望月 美羽:

「……」


 何となく、じっと2人のやり取りを見守っていると、賑やかな声が響いてきた。

 どうやら今日の対戦相手、東中学のメンバーが到着したようだ。


 先頭には、やたらイケメンな先生が引率して、その後ろにゾロゾロと運動着姿の男の子たちが続いて歩いている。

 見ていた私たちの横を、すっとサッカー部顧問の坂本先生が通ってそちらへと向かった。


 坂本先生:

「やあやあ、山川先生。ご足労いただきありがとうございます」


 山川先生:

「お久しぶりです、坂本先生。今日はよろしくお願いしますね」


 山川先生と言われた東中の先生は、そんな坂本先生に軽く手をあげて爽やかに笑った。

 うわぁ、なんだか俳優さんみたい。


 山川先生:

「さあみんな、挨拶しろー」


 後ろに並んでいた東中のサッカー部メンバーが、大きく声を張り上げた。


 東中サッカー部:

「よろしくお願いします!! 」


 すると、こちらのサッカー部メンバーも集まってきた。

 その中に頭一つ飛び抜けて立つ大谷くんもいて、他の子たちと同じように坂本先生の横に並んでいる。

 一瞬私と目が合って、嬉しそうに笑った。


 坂本先生:

「お前らも挨拶するぞー」


 坂本先生の号令で、サッカー部の子たちも同じように「よろしくお願いします!」と声を張り上げる。

 私たち応援隊は、そんな様子を傍で見ているしかできなかった。


 望月 美羽:

(ふぇ〜、運動部って感じ)


 園芸部の私には親しみのない雰囲気に、圧倒されそうになる。


 先生同士は打ち合わせをすることになったのか、向き合ってなにやら話を始めた。

 東中の子たちは部長らしき男の子の号令でグラウンドの向こう側へ移動し、ストレッチを開始する。


 こちらのサッカー部メンバーもまた散らばって、それぞれ動き始めた。

 そんな中、大谷くんが私たちの元へと駆け寄った。


 大谷 圭介:

「望月! 今日は来てくれてありがとな!」


 望月 美羽:

「うん! 気合い入ってるね〜」


 暑さのせいで汗が飛び散っている大谷くん。

 さっきの、るりっちたちの光景がちらっと浮かんでしまう。


 望月 美羽:

(私も、タオル渡したほうがいいのかなぁ)


 カラフルなピンクのタオルが、私のカバンには入っている。

 でもこんな色のタオル、大谷くんは嫌かもしれない。

 なんて考えていたら。


 桑原 志帆:

「大谷くん! すっごい汗だねぇ」


 大谷 圭介:

「あれ、桑原先輩も来てんの?」


 望月 美羽:

「!」


 るりっちのライバルであるはずの、桑原先輩がいつの間にか来ていた。

 な、なぜ中曽根くんの方じゃなく、大谷くんに!?


 桑原 志帆:

「はい、拭いてあげるよ〜」


 大谷 圭介:

「へ!? あ、どうも?」


 望月 美羽:

「……!」


 桑原先輩は持っていたハンドタオルで、大谷くんの額を拭ってあげた。

 ちょっと背が高めの桑原先輩は、大谷くんともちょうどいい身長差で、自然に手を伸ばしている。


 チクン。チクン。


 そんな音が胸からしたような気がして、ついうつむいた。

 大谷くんはなぜか、慌てた様子で桑原先輩に声をかける。


 大谷 圭介:

「あのえっと、中曽根なら、あっちだけど?」


 桑原 志帆:

「もう行ったけど、るりちゃんとラブラブなんだもん! やんなっちゃうー」


 そこで桑原先輩はプゥ、と頬を膨らませた。

 その視線の先には、ちょっと離れたところでおしゃべりしている、るりっちと中曽根くんがいる。

 すごくお似合いだ。


 桑原 志帆:

「だから大谷くん相手して! 中曽根くんちょっとヤキモチ妬くかも!」


 大谷 圭介:

「あ、当て馬じゃん! 勘弁して〜」


 大谷くんは、ぴゅうっと走り去ってしまった。


 あー、私、大谷くんに「頑張ってね」って言えなかった!


 つい、じろりと桑原先輩を見てしまう。

 とてもキレイなその人は、まだふくれっ面をしていて正直可愛かった。


 桑原 志帆:

「当て馬じゃなくて、本命でもいいんだけどな〜」


 望月 美羽:

「!」


 望月 美羽:

「せ、先輩って、中曽根くんが好きなんじゃないの?」


 なぜか慌ててしまった私は、つい敬語を忘れてそんなことを聞いていた。

 桑原先輩はきょとんと私を見て、クスクスと笑う。


 桑原 志帆:

「だって、彼女いる子より、いない子狙った方が落としやすいじゃない?」


 望月 美羽:

「……そ、そんなの、大谷くんに失礼だよっ」


 あっちがダメならこっちって、そんなの彼に失礼だ!

 そう思って言ったのに。


 チクン。


 またあの痛みが、私の心を締め付けた。

 それはさっきとまた違う、ちょっと鋭い痛み。

 なぜか今、大谷くんが私に告白してくれた時の言葉を思い出してしまう。



………………………………


 大谷 圭介:

「今はすぐそんなこと考えられないと思うから、まだ返事はいいんだ!」


…………………………………



 あの時、失恋したての私に気を遣って、そう言ってくれた大谷くん。

 それに甘えている今の私。

 一体どっちが、彼に対して失礼なんだろう?


 望月 美羽:

「………」


 わかってる。

 今の私に、桑原先輩を非難する資格なんてない。


 だって私も、彼にとても失礼なことを、しているんだから。




 ◇ 続く ◇

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