↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
PR
122/273

Ep.26 背中の向こう側(1)「応援に行こう」

 二学期の9月のある日。

 夏の間に日焼けして、すっかり肌が黒くなった大谷くんが、登校してきた朝一でにこにこしながら話しかけてきた。


 大谷 圭介:

「望月! 来週の土曜日ってヒマ?」


 望月 美羽:

「え? 土曜日?」


 きょとんとした私に、大谷くんは続けて言う。


 大谷 圭介:

「サッカー部の練習試合があるんだ! よかったら観に来いよ」


 そうしてニカッと笑った大谷くん。

 私は自分の予定を思い出しながら「ううーん」と上を見た。


 望月 美羽:

「土曜日なら、大丈夫だと思う」


 大谷 圭介:

「本当か! なら……」


 望月 美羽:

「うん、行くよー」


 大谷 圭介:

「やりー!」


 大谷くんは目を細めて笑った。

 ちょうどそこに、教室の片隅から彼を呼ぶ声が聞こえて、彼は「おー、今行くー」と答える。


 大谷 圭介:

「じゃ、詳細はまた後でな」


 望月 美羽:

「うん」


 立ち去る彼を見送って、私は手を振った。

 大きな背中を見つめながら、少しだけぼーっとしてしまう。


 私、望月美羽は大谷くんに、この春告白をされた。

 返事はいつでもいいよ、と言った彼の言葉。

 それに私は今、甘えている。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 背中の向こう側

(1)「応援に行こう」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 井本:

「あいつ、本当に望月のこと好きだよなー」


 斜め前の席で寝ていたはずの井本くんが、話しかけてきた。

 大谷くんと同じサッカー部で、彼と仲がいい。


 望月 美羽:

「えっ」


 井本:

「全然隠さねーよな。おバカというか、真っ直ぐというか」


 そこでクァ、とアヒルみたいなあくびを一度して井本くんはニヤニヤとこちらを見る。


 井本:

「で、望月はあいつのことどう思ってんの? 好きなの?」


 望月 美羽:

「えー……」


 困ってしまう。

 だってそれは、私がこの半年ずっと考えて、答えの出ていないものだったから。


 大谷くんのことは、好き。

 優しいし面白いし、一緒にいて楽しい。


 でもそれが、恋愛感情なのかと聞かれると、よくわからないんだ。

 それに今、大谷くんとは同じクラスで、もし付き合うなんてことになったら……。


 望月 美羽:

(付き合ったらまた……変わるのかなぁ)


 望月 美羽:

(どう変わるのかなぁ?)


 なんて考えていると、返事がなかなかできなかった。

 井本くんの質問に困っていると、彼の頭をボンっと叩く女の子が現れる。

 私の友達のさとみんだ。


 さとみん:

「こら井本! 不躾な質問しないの!」


 井本:

「いってーなぁ、里美〜!」


 井本くんと幼馴染のさとみんは、彼の世話役だ。

 この2人は会えば減らず口ばかり叩いていて、仲が良いのか悪いのかよくわからない。

 同じ幼馴染でも、ラブラブなるりっちと中曽根くんとはまた違うみたい。

 私は苦笑しながら、さとみんに話しかけた。


 望月 美羽:

「ねぇさとみん、さとみんも土曜日空いてる?一緒にサッカー部の練習試合、観に行こうよ」


 さとみん:

「へー、練習試合? 面白そうだね」


 すると井本くんが「ゲッ」と、露骨に嫌そうな顔をした。


 井本:

「里美が応援なんかしたら、勝てるもんも勝てねーよ!」


 さとみん:

「何を、井本ぉー!」


 怒ったさとみんは、井本くんをヘッドロックして首を絞める。

 おお……さとみん意外に、やんちゃっ子!


 井本:

「ギ、ギブギブ!!」


 顔を真っ赤にして井本くんは机を叩く。

「反省しなさい」なんて言って彼を解放したさとみんを井本くんは睨んで、そして気を取り直そうとしてゴホン、と咳をした。


 井本:

「ま、来るならしっかり応援してくれよな。今度相手する東中、けっこう強いんだ」


 望月 美羽:

「へえ、そうなんだ」


 井本:

「おう。坂本先生も今回、やたら気合い入ってるしさ」


 井本:

「大谷なんてレギュラーだから、かなりしごかれてるぞ」


 望月 美羽:

「期待されてるんだね」


 つい、ちらりと教室片隅の大谷くんを見る。

 彼は背中をこちらに向けて、友達とじゃれ合うようにしゃべっていた。


 井本:

「まぁ、1年生のキーパーがまだ育ってないからな。あいつにけっこう、かかってんだよ」


 望月 美羽:

「……そっかぁ」


 サッカー部の期待と信頼が乗っかっているという大谷くんの背中。

 それをじっと見ていたら、視線に気がついたのか、肩越しに振り返る大谷くんと目が合った。


 望月 美羽:

「!」


 大谷 圭介:

「!」


 大谷くんはニカッと、またはにかむように笑う。

 それが何だかくすぐったくって、私もちょっと笑ってしまった。



 ・   ・   ・



 昼休みに1組に遊びに行った私は、るりっちも練習試合観戦に誘うことにした。

 廊下側の窓側に席があるるりっちに、窓越しに声をかけている。


 望月 美羽:

「ね、るりっちも行こうよ!」


 すると、るりっちは嬉しそうに「うんっ」と応えてくれた。


 戸田 るり:

「悠から練習試合あることは聞いてたけど、観に行ったら嫌がるかなぁって悩んでたんだ」


 そんな風に言うるりっちは、付き合って1年も経つのにまだ中曽根くんに遠慮しているみたい。

 もう、本当にるりっちは可愛いなぁ。


 そんなるりっちの隣には、早乙女茉莉ちゃんもいたから声をかけてみた。

 同じクラスにはなったことがない子で面識は少なかったけど、るりっちと最近仲がいいらしく、一緒にいるところをよく見る。


 望月 美羽:

「マリリンもどう?」


 早乙女 茉莉:

「ま、マリリン!?」


 私は友達にすぐにニックネームをつけちゃう癖があった。

 茉莉ちゃんだから、マリリン! と思ってそう言ったら、マリリンは目をまんまるくして驚いた。


 早乙女 茉莉:

「わ、私もいいの?」


 望月 美羽:

「もちろん! こういうのは大人数のがいいんだから」


 この後に梢ちゃんも誘いに行こうと私は考えていた。

 せっかく応援に行くんだから、華やかな応援隊を作ってあげようじゃない! なんてはりきっている。


 早乙女 茉莉:

「マリリン…… 」


 ぼそっとマリリンが、自分につけられたニックネームを呟いた。

 あれれ、嫌だったかな? ……と思ったけど。


 早乙女 茉莉:

「えへへ」


 小さく笑っているマリリンを見て、私はるりっちと目を合わせて笑った。

 何だか、るりっちがこの子と仲良い理由がわかるなぁ。

 なんてことを考えていたら。


 ?:

「あ、それ私も行くから」


 知らない声が、私の背後からかかった。

 振り返るとそこには、廊下に立つキレイな女の先輩がいた。

 ええっと、誰だろう?


 戸田 るり:

「く……桑原先輩!」


 とたんにるりっちの口端が引きつる。

 珍しいその表情に、私はふとあることを思い出す。

 以前るりっちから、ライバル宣言を先輩からされたことを聞いていた。

 中曽根くんにやたらラブコールを送るキレイな先輩。

 もしかして、それがこの人?


 桑原 志帆:

「私も、同じクラスのサッカー部の子から聞いて知ってたんだ〜」


 桑原 志帆:

「中曽根くんのサッカー姿、かっこいいもんねー♡ 楽しみー!」


 キャピキャピ笑う先輩に向け、るりっちは「むむむ」と小さくうなっている。


 うわぁ、これぞ女の戦い!


 私とマリリンはちょっとドキドキしながら、そんな2人の火花散る戦いを見守る。

 でも。


 桑原 志帆:

「最近、大谷くんてっ子もカッコよくなってきたし、サッカー部は要チェックだよね〜」


 その言葉に、ドキッと私の心臓が跳ねた。


 望月 美羽:

「え!?」


 桑原 志帆:

「ん? なぁに?」


 私の反応に、先輩がきょとんとこちらを見た。


 望月 美羽:

「い、いえ。別に……」


──大谷くんがカッコいい?


 まさか、他の女の子からそんな言葉が出てくるとは思わなくて、驚いてしまう。

 だって大谷くんって、お調子者でオヤジキャラだから女子にはあんまり人気なかったのに……。


 チクン。


 望月 美羽:

(……ん?)


 ちょっと慣れない、胸の痛み。

 それに気を取られていた私の横では、るりっちと先輩が相変わらずバチバチと火花を散らして、それを困ったようにマリリンが見守っていた。




 ◇ 続く ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。