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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.25 秘密にしないで(3・終)「嬉しくて」

 ドン、ドン、と大輪の花火が、夜空に咲いく。


 それを私は、悠と橋の上から見上げていた。

 欄干に手を置いて2人並んで花火を見ながら、まわりの歓声を聞いている。


 戸田 るり:

「キレイだねぇ」


 そう言って横にいる悠を見れば。


 中曽根 悠:

「あ、うん」


 すぐに目が合って、彼は笑ってくれた。


 幸せだなぁ、なんて思う。

 すると、腕にぶら下げていた巾着から、メッセージ着信の音が小さく聞こえた。

 スマホを取り出すと、お母さんからのメッセージを確認する。


 戸田 るり:

(……ん?)


 その内容に私は目を丸くする。


 戸田 るり:

(『お父さんの言動は気にしないで、って悠くんに伝えといて』……?)


 何だろう、このメッセージの意味は。

 ──何だかちょっぴり、イヤな予感もする。


 中曽根 悠:

「どうした?」


 隣できょとんとした悠。

 私は苦笑して、そのメッセージを彼に伝えると、悠は「わ、わかった」とほっぺをポリポリと掻いたのだった。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 秘密にしないで

(3)「嬉しくて」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 花火も見終わり、帰路につく。

 今日は私の家まで悠が来てくれるともあって、少しドキドキしながら歩いていた。


 悠はいつもより、ゆっくりな下駄の私に合わせて歩いてくれる。手はずっとつないでいて、こんなに長時間つないでいるのは初めてだった。


 中曽根 悠:

「玄関とこで挨拶でいいのかな?」


 戸田 るり:

「うん、それでいいと思う」


 なんて軽く打ち合わせをする。

 こういうのって、みんなはどうしているのだろう。

 周りで他に付き合っている子を知らないから、私たちは模索して進むしかなかった。


 そうしてついに、いつもは分かれる交差点にたどり着く。

 ここでいつもは「バイバイ」をしていたけれど、今日は悠も一緒に私の家へ続く道へと曲がる。

 そこから約50メートルほど先が、私の家。

 玄関テラスの明かりがついていて、両親が私の帰りを待っていることがわかった。


 中曽根 悠:

「るりの家、久しぶりだな」


 戸田 るり:

「そうだね。もしかして幼稚園以来?」


 中曽根 悠:

「かもな」


 なんて話すうちに、玄関についてしまった。

 私は少しだけ緊張して、悠と手を離すと玄関扉を開けて「ただいま」と、少し大きく言った。


 すると。


 お母さん:

「おかえりなさい」


 まるで待っていたかのように、リビングの扉からお母さんがすぐに出てきた。

 パタパタとスリッパを鳴らし、玄関に並ぶ私と悠の前でにこやかに立つ。

 悠はすぐに、挨拶をしてくれた。


 中曽根 悠:

「こんばんは。お久しぶりです、おばさん」


 ちょっと慣れないように、ぺこっと小さく頭を掻きながら下げる。


 お母さん:

「悠くん久しぶりね〜。大きくなったわね」


 お母さんは、何だかとっても嬉しそうに悠と目を合わせた。


 お母さん:

「今日は、るりを送ってくれてありがとう。お祭り楽しんできた?」


 中曽根 悠:

「はい」


 お母さん:

「そう、ならよかった」


 お母さんと悠が喋っているなんて、変な感じ。

 私は物珍しさも手伝って、そんな2人の会話を横でくすぐったい気持ちで聞いていた。

 でも。


 戸田 るり:

(あれ? お父さんは?)


 気になってリビングの方をもう一度見ると。

 そこの扉から、お父さんがちょうど、ゆっくりと体を出してきた。


──なぜか、腕組みをしながらしかめっ面をしている。


 お父さん:

「……久しぶりだね、悠くん」


 いつもより低い声で、お父さんはお母さんの後ろに立った。


 中曽根 悠:

「こ、こんばんわ」


 お母さんとの会話で少し緊張をほぐしたはずの悠が、お父さんの登場で少したじろいだ。


 う、お父さん何で、いつもと声が違うの?

 そして何で、悠を睨んでいるの?


 お父さん:

「………悠くん」


 お父さんの不穏な声が響く。


 中曽根 悠:

「はいっ」


 悠が隣でピシッと姿勢を正した。


 お父さん:

「るりに変なことしたら……絶対にダメだからな!!」


 中曽根 悠:

「は、はい!?」


 戸田 るり:

「お父さん!! 」


 焦った私と悠の前で、お父さんの脇腹にお母さんの拳がクリーンヒットした。


 お父さん:

「ごふっ!! 」


 お母さん:

「お父さん、失礼なこと言わないの」


 お父さん:

「だ、だって……るりが、俺のるりが〜…!」


 お父さんは涙目でお母さんと私を見る。

 もう! 私はお父さんのものになった覚えはありません!

 ついプリプリしてしまった私は、お父さんをギッと睨む。


 戸田 るり:

「お父さん! 悠に謝って!」


 お父さん:

「る、るりぃ〜。お父さんよりそんなやつの味方をするのか……」


 そんなやつだなんて、本当に悠に失礼だ!

 小さい頃遊びに来た時は、あんなに悠を可愛がってくれたのに。

 お父さんの手のひら返しに、つい腹が立ってしまう。

 でも隣の悠は、そんな私とお父さんのやり取りを見て、少し焦ったように間に入ってきた。


 中曽根 悠:

「えっと、大丈夫だよ、るり」


 しかしその一言に。


 お父さん:

「呼び捨てにするんじゃない!! 」


 ピシャリとお父さんが悠に言うもんだから、私とお母さんは目をつり上げて叫ぶ。


 お母さん:

「お父さん! 」


 戸田 るり:

「お父さん!! 」


 お父さん:

「!  ううっ……」


 ああもう、お父さんのバカ!


 何だか恥ずかしくってたまらない。

 もう一度、悠に謝りたくて隣を見た。

 すると悠はなぜだか、くすぐったそうに笑っている。


 中曽根 悠:

「……はは」


 中曽根 悠:

「おじさんも、るりが大好きなんだね」


 お父さん:

「!」


 少しだけ赤くなって笑った悠に、思わず私もお母さんもそちらに視線を向けた。

 お父さんはまだ強面のまま、悠を見つめる。

 でも悠は、ポリポリと頭を掻きながら言葉を続けた。


 中曽根 悠:

「あの、俺……るりちゃんと真面目に付き合ってます」


 中曽根 悠:

「心配させないように、しっかり頑張ります」


 中曽根 悠:

「えっとだから、よろしくお願いします!」


 そうして、ぺこりと頭を下げてくれた。

 今回は小さくじゃなくって、つむじが見えるくらいにしっかり下げて。


 戸田 るり:

(……悠……)


 悠ってば、いつの間にそんなにしっかりしたんだろう。

 私も慌てて、悠に追いつけるように頭を下げた。


 戸田 るり:

「わ、私からもお願いします! お父さん」


 お父さん:

「!! るり……」


 お父さんが戸惑ったのが、なんとなくわかった。

 ちらりと顔をあげてみれば、お父さんの情けない顔が私と悠を見ている。

 大きくため息をついて、小さくつぶやく。


 お父さん:

「はぁ……。悠くん、顔をあげなさい」


 お父さんの言葉に、悠も顔をあげた。

 そんな悠をお父さんはちょっと眩しそうに見て、もう一度腕組みをして言い放つ。


 お父さん:

「るりを泣かせるんじゃないぞ!!」


 中曽根 悠:

「! は、はいっ」


 ピシッとまた、真っ直ぐに立つ悠。

 お母さんはそんな光景を、やれやれと苦笑して見ていた。

 私はというと、お父さんの言動に穴があったら入りたいくらい、恥ずかしく感じている。

 でも、悠の言葉がとても嬉しくて。

 そうして私も結局、苦笑したのだった。



 ・   ・   ・



 無事に両親への挨拶を終えた悠を、門の前まで私は見送った。


 戸田 るり:

「ごめんね、なんかお父さんが変なこと言って」


 門の向こう側に立った悠に、もう一度謝った。

 悠はゆるくかぶりを振る。


 中曽根 悠:

「謝るなよ。いいお父さんじゃん」


 戸田 るり:

「そうなのかなぁ」


 中曽根 悠:

「そうだよ」


 まあたしかに、お父さんは私にとことん甘い。

 今日の言動もそれゆえのものだということは、重々わかってはいるんだけど……。

 はぁ、とため息を吐いた私。

 するとそんな私の頭を、悠が撫でてくれた。


 戸田 るり:

「!」


 中曽根 悠:

「おじさんとおばさんに心配させないよう、早く中に入りなよ」


 戸田 るり:

「……うん!」


 どうやら悠は、私が中に入るまで門から離れないらしい。

 私は手を振って、扉を名残惜しく閉めた。


──今日は、悠のいろんな顔を見れた気がする。


 男の子っぽくなっただけじゃなく、大人の考えもちゃんと身につけだした彼。

 そんな彼に追いつきたい。

 まだ子どもっぽい私も、つり合うようになりたいよ。


 私はリビングに戻ると、ソファに座っていたお父さんに近寄った。

 お父さんは雑誌片手に、そんな私をちらりと見る。


 お父さん:

「……あいつは帰ったのか」


 戸田 るり:

「うん」


 そうして私は、お父さんをソファの後ろから、ちょっとだけ力を込めて抱きしめた。


 お父さん:

「!」


 戸田 るり:

「お父さん、私を大切に思ってくれてありがとう」


 お父さん:

「るり……」


 お父さんに感謝を伝えるのって、お母さんの時よりもちょっぴり苦手。

 だから、照れ隠しも付け加えてしまう。


 戸田 るり:

「でも、悠をいじめたら嫌いになるからね」


 お父さん:

「!!」


 お父さん:

「る、るりぃ〜〜」


 ふふ。なーんて、また嘘をついちゃった。

 お父さんのこと、嫌いになんてならないよ。


 でもこの嘘なら、鼻が伸びてもいいや、なんて思って、私は困り顔のお父さんに久しぶりに笑いかけたのだった。




 ◇ 終わり ◇

❀次エピソードへ続く

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