Ep.25 秘密にしないで(3・終)「嬉しくて」
ドン、ドン、と大輪の花火が、夜空に咲いく。
それを私は、悠と橋の上から見上げていた。
欄干に手を置いて2人並んで花火を見ながら、まわりの歓声を聞いている。
戸田 るり:
「キレイだねぇ」
そう言って横にいる悠を見れば。
中曽根 悠:
「あ、うん」
すぐに目が合って、彼は笑ってくれた。
幸せだなぁ、なんて思う。
すると、腕にぶら下げていた巾着から、メッセージ着信の音が小さく聞こえた。
スマホを取り出すと、お母さんからのメッセージを確認する。
戸田 るり:
(……ん?)
その内容に私は目を丸くする。
戸田 るり:
(『お父さんの言動は気にしないで、って悠くんに伝えといて』……?)
何だろう、このメッセージの意味は。
──何だかちょっぴり、イヤな予感もする。
中曽根 悠:
「どうした?」
隣できょとんとした悠。
私は苦笑して、そのメッセージを彼に伝えると、悠は「わ、わかった」とほっぺをポリポリと掻いたのだった。
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秘密にしないで
(3)「嬉しくて」
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花火も見終わり、帰路につく。
今日は私の家まで悠が来てくれるともあって、少しドキドキしながら歩いていた。
悠はいつもより、ゆっくりな下駄の私に合わせて歩いてくれる。手はずっとつないでいて、こんなに長時間つないでいるのは初めてだった。
中曽根 悠:
「玄関とこで挨拶でいいのかな?」
戸田 るり:
「うん、それでいいと思う」
なんて軽く打ち合わせをする。
こういうのって、みんなはどうしているのだろう。
周りで他に付き合っている子を知らないから、私たちは模索して進むしかなかった。
そうしてついに、いつもは分かれる交差点にたどり着く。
ここでいつもは「バイバイ」をしていたけれど、今日は悠も一緒に私の家へ続く道へと曲がる。
そこから約50メートルほど先が、私の家。
玄関テラスの明かりがついていて、両親が私の帰りを待っていることがわかった。
中曽根 悠:
「るりの家、久しぶりだな」
戸田 るり:
「そうだね。もしかして幼稚園以来?」
中曽根 悠:
「かもな」
なんて話すうちに、玄関についてしまった。
私は少しだけ緊張して、悠と手を離すと玄関扉を開けて「ただいま」と、少し大きく言った。
すると。
お母さん:
「おかえりなさい」
まるで待っていたかのように、リビングの扉からお母さんがすぐに出てきた。
パタパタとスリッパを鳴らし、玄関に並ぶ私と悠の前でにこやかに立つ。
悠はすぐに、挨拶をしてくれた。
中曽根 悠:
「こんばんは。お久しぶりです、おばさん」
ちょっと慣れないように、ぺこっと小さく頭を掻きながら下げる。
お母さん:
「悠くん久しぶりね〜。大きくなったわね」
お母さんは、何だかとっても嬉しそうに悠と目を合わせた。
お母さん:
「今日は、るりを送ってくれてありがとう。お祭り楽しんできた?」
中曽根 悠:
「はい」
お母さん:
「そう、ならよかった」
お母さんと悠が喋っているなんて、変な感じ。
私は物珍しさも手伝って、そんな2人の会話を横でくすぐったい気持ちで聞いていた。
でも。
戸田 るり:
(あれ? お父さんは?)
気になってリビングの方をもう一度見ると。
そこの扉から、お父さんがちょうど、ゆっくりと体を出してきた。
──なぜか、腕組みをしながらしかめっ面をしている。
お父さん:
「……久しぶりだね、悠くん」
いつもより低い声で、お父さんはお母さんの後ろに立った。
中曽根 悠:
「こ、こんばんわ」
お母さんとの会話で少し緊張をほぐしたはずの悠が、お父さんの登場で少したじろいだ。
う、お父さん何で、いつもと声が違うの?
そして何で、悠を睨んでいるの?
お父さん:
「………悠くん」
お父さんの不穏な声が響く。
中曽根 悠:
「はいっ」
悠が隣でピシッと姿勢を正した。
お父さん:
「るりに変なことしたら……絶対にダメだからな!!」
中曽根 悠:
「は、はい!?」
戸田 るり:
「お父さん!! 」
焦った私と悠の前で、お父さんの脇腹にお母さんの拳がクリーンヒットした。
お父さん:
「ごふっ!! 」
お母さん:
「お父さん、失礼なこと言わないの」
お父さん:
「だ、だって……るりが、俺のるりが〜…!」
お父さんは涙目でお母さんと私を見る。
もう! 私はお父さんのものになった覚えはありません!
ついプリプリしてしまった私は、お父さんをギッと睨む。
戸田 るり:
「お父さん! 悠に謝って!」
お父さん:
「る、るりぃ〜。お父さんよりそんなやつの味方をするのか……」
そんなやつだなんて、本当に悠に失礼だ!
小さい頃遊びに来た時は、あんなに悠を可愛がってくれたのに。
お父さんの手のひら返しに、つい腹が立ってしまう。
でも隣の悠は、そんな私とお父さんのやり取りを見て、少し焦ったように間に入ってきた。
中曽根 悠:
「えっと、大丈夫だよ、るり」
しかしその一言に。
お父さん:
「呼び捨てにするんじゃない!! 」
ピシャリとお父さんが悠に言うもんだから、私とお母さんは目をつり上げて叫ぶ。
お母さん:
「お父さん! 」
戸田 るり:
「お父さん!! 」
お父さん:
「! ううっ……」
ああもう、お父さんのバカ!
何だか恥ずかしくってたまらない。
もう一度、悠に謝りたくて隣を見た。
すると悠はなぜだか、くすぐったそうに笑っている。
中曽根 悠:
「……はは」
中曽根 悠:
「おじさんも、るりが大好きなんだね」
お父さん:
「!」
少しだけ赤くなって笑った悠に、思わず私もお母さんもそちらに視線を向けた。
お父さんはまだ強面のまま、悠を見つめる。
でも悠は、ポリポリと頭を掻きながら言葉を続けた。
中曽根 悠:
「あの、俺……るりちゃんと真面目に付き合ってます」
中曽根 悠:
「心配させないように、しっかり頑張ります」
中曽根 悠:
「えっとだから、よろしくお願いします!」
そうして、ぺこりと頭を下げてくれた。
今回は小さくじゃなくって、つむじが見えるくらいにしっかり下げて。
戸田 るり:
(……悠……)
悠ってば、いつの間にそんなにしっかりしたんだろう。
私も慌てて、悠に追いつけるように頭を下げた。
戸田 るり:
「わ、私からもお願いします! お父さん」
お父さん:
「!! るり……」
お父さんが戸惑ったのが、なんとなくわかった。
ちらりと顔をあげてみれば、お父さんの情けない顔が私と悠を見ている。
大きくため息をついて、小さくつぶやく。
お父さん:
「はぁ……。悠くん、顔をあげなさい」
お父さんの言葉に、悠も顔をあげた。
そんな悠をお父さんはちょっと眩しそうに見て、もう一度腕組みをして言い放つ。
お父さん:
「るりを泣かせるんじゃないぞ!!」
中曽根 悠:
「! は、はいっ」
ピシッとまた、真っ直ぐに立つ悠。
お母さんはそんな光景を、やれやれと苦笑して見ていた。
私はというと、お父さんの言動に穴があったら入りたいくらい、恥ずかしく感じている。
でも、悠の言葉がとても嬉しくて。
そうして私も結局、苦笑したのだった。
・ ・ ・
無事に両親への挨拶を終えた悠を、門の前まで私は見送った。
戸田 るり:
「ごめんね、なんかお父さんが変なこと言って」
門の向こう側に立った悠に、もう一度謝った。
悠はゆるくかぶりを振る。
中曽根 悠:
「謝るなよ。いいお父さんじゃん」
戸田 るり:
「そうなのかなぁ」
中曽根 悠:
「そうだよ」
まあたしかに、お父さんは私にとことん甘い。
今日の言動もそれゆえのものだということは、重々わかってはいるんだけど……。
はぁ、とため息を吐いた私。
するとそんな私の頭を、悠が撫でてくれた。
戸田 るり:
「!」
中曽根 悠:
「おじさんとおばさんに心配させないよう、早く中に入りなよ」
戸田 るり:
「……うん!」
どうやら悠は、私が中に入るまで門から離れないらしい。
私は手を振って、扉を名残惜しく閉めた。
──今日は、悠のいろんな顔を見れた気がする。
男の子っぽくなっただけじゃなく、大人の考えもちゃんと身につけだした彼。
そんな彼に追いつきたい。
まだ子どもっぽい私も、つり合うようになりたいよ。
私はリビングに戻ると、ソファに座っていたお父さんに近寄った。
お父さんは雑誌片手に、そんな私をちらりと見る。
お父さん:
「……あいつは帰ったのか」
戸田 るり:
「うん」
そうして私は、お父さんをソファの後ろから、ちょっとだけ力を込めて抱きしめた。
お父さん:
「!」
戸田 るり:
「お父さん、私を大切に思ってくれてありがとう」
お父さん:
「るり……」
お父さんに感謝を伝えるのって、お母さんの時よりもちょっぴり苦手。
だから、照れ隠しも付け加えてしまう。
戸田 るり:
「でも、悠をいじめたら嫌いになるからね」
お父さん:
「!!」
お父さん:
「る、るりぃ〜〜」
ふふ。なーんて、また嘘をついちゃった。
お父さんのこと、嫌いになんてならないよ。
でもこの嘘なら、鼻が伸びてもいいや、なんて思って、私は困り顔のお父さんに久しぶりに笑いかけたのだった。
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




