↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
PR
120/273

Ep.25 秘密にしないで(2)「恥ずかしくて」

 姫泣祭の最終日は、花火が上がるともあって人がたくさんいた。

 はぐれないために、悠と手をつなぐ。

 人の群れのおかげでそれも見えない。

 安心して祭を楽しんでいたら、突然、悠が立ち止まった。


 中曽根 悠:

「うわ、姉貴だ」


 戸田 るり:

「え?」


 悠はパッと手を離して、ポケットに両手を突っ込んでしまう。

 向こう側から、手を振って笑っているキレイな女の人が歩いてきた。


 それは久しぶりに会う、悠のお姉さんの雫さんだった。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 秘密にしないで

(2)「恥ずかしくて」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 中曽根 雫:

「やほー、偶然~」


 ひらひらと手を振る雫さんは、どうやら1人らしい。

 私たちは向き合うと、人の邪魔にならないよう道の端に寄った。


 中曽根 悠:

「偶然って、姉貴、俺が行くの知ってたろ」


 悠は珍しくブスッとした表情をしていた。

 中曽根雫さんは、悠の4つ年上のお姉さんだ。

 小さい頃、まだ悠と無邪気に遊んでいた頃には、雫さんが一緒に面倒を見てくれたこともあった。

 しっかりしていて美人で、面倒見がいい。

 ひとりっ子の私にとっては当時、そんなお姉さんがいる悠が、羨ましく思えたんだ。


 戸田 るり:

「お久しぶりです、雫さん」


 中曽根 雫:

「るりちゃん久しぶり!浴衣姿が可愛いね~」


 そう言う雫さんは、ロングワンピースにサンダル姿だ。

 雑誌のモデルさんに見えちゃうくらい、キレイで可愛い。

 そんな素敵な雫さんは、女優のような白い歯を見せて笑う。


 中曽根 雫:

「こいつにはもったいないくらい。どう? こいつ迷惑かけてない?」


 戸田 るり:

「え? は、はい」


 雫さんは、私たちのこと知っているのかな?

 そんな疑問は、すぐに解消された。


 中曽根 雫:

「まったく、あんたは幸せ者だねー。こんな可愛い彼女がいて」


 中曽根 悠:

「るっさいなぁ。姉貴は1人で何してんだよ」


 戸田 るり:

「!」


 悠、雫さんには私のこと話してるんだ。

 そんな事実を知って、胸がドキドキしてしまう。


 中曽根 雫:

「1人じゃないわよ。向こうで友達といたんだけど、あんたがチラッと見えたからさ。からかってやろうと思って」


 中曽根 悠:

「からかうな!」


 雫さんの前では、悠もすっかり弟の顔をして、どこかぶっきらぼうに言葉を返している。

 その隣で私はただ、2人の会話を聞いているしかなかった。


 中曽根 雫:

「帰りはちゃんと、家まで送ってあげなよ。なんか最近、痴漢出るとか噂になってるから」


 中曽根 悠:

「わかってるよ」


 中曽根 雫:

「送り狼に、なるなよ?」


 中曽根 悠:

「……っなるか!!」


 うわぁ、あの悠が翻弄されてる。

 珍しい光景に、ついクスクス笑ってしまった。

 雫さんはそんな私と目を合わせると、ニコリと笑う。


 中曽根 雫:

「じゃあ楽しんでね。るりちゃん、また家に遊びにおいでよ」


 戸田 るり:

「は、はい!」


 雫さんは「じゃあね~」とまた颯爽と去っていった。

 隣では悠が、そんな雫さんに相変わらず仏頂面を向けていて、私はまた小さく笑ってしまう。


 戸田 るり:

「雫さん、相変わらずだねぇ」


 中曽根 悠:

「もう少し、落ち着いてほしいよなー」


 そうして悠は、また手をつないできた。

 雫さんがいたときには、頑なにポケットに入れていたのに。

 やっぱり悠も、家族の前では恥ずかしいらしい。


 戸田 るり:

「………」


 戸田 るり:

「悠、雫さんに私のこと言ってたんだね」


 ぽつりと呟いた。


 中曽根 悠:

「あ? うん」


 中曽根 悠:

「てかもう、家族皆が知ってるよ。姉貴が言いふらしてるからさ」


 戸田 るり:

「え!? 」


 衝撃の言葉に、私は目を見開いて悠を見つめた。

 悠はそんな私を、きょとんと見ている。


 中曽根 悠:

「るりは言ってないの?」


 戸田 るり:

「……う、うん」


 つい、うつむいてしまう。

 まさか悠の両親まで、知っているとは思わなかった。

 小さい頃、遊びに行ったことのある悠の家。

 優しそうなおじさんとおばさんの顔を、ぼんやりと思い出していた。


 中曽根 悠:

「……そっか」


 隣で悠が小さく呟いた。

 その声が何だか寂しそうに聞こえて、私はハッとして顔をあげる。


 戸田 るり:

「あの……違うからね!」


 中曽根 悠:

「え?」


 戸田 るり:

「悠のこと隠したいとか、そういうことじゃなくて……その……」


 戸田 るり:

「……は、恥ずかしくて……」


 中曽根 悠:

「………」


 ああ、私って嫌な彼女かもしれない。

 これじゃあ、悠と付き合うのが恥ずかしいみたいな言い方じゃない。


 そうじゃなくて……ええと……。


 またうつむいてしまいそうになる。

 そんな私の手を、悠はぎゅっと強く握りしめた。


 中曽根 悠:

「今日さ」


 戸田 るり:

「?」


 中曽根 悠:

「今日送ってく時、挨拶するよ」


 戸田 るり:

「え!? 」


 心臓が大きく跳ねた。

 そ、それってつまり……!


 中曽根 悠:

「いい機会だと思うし。そうしよう」


 戸田 るり:

「……悠……」


 ぎゅっと心臓が痛い。


──ああ、雫さんに伝えなきゃ。

 もったいないのは、私の方だって。


 悠は、こんな情けない私をフォローしてくれようとしている。

 こんな彼氏、私にはもったいないよ。


 戸田 るり:

「…………っ。ゆ、悠」


 中曽根 悠:

「ん?」


 私もぎゅっと、手を握り返した。


 戸田 るり:

「ありがとう」


 中曽根 悠:

「……うん」


 どうしよう。

 どうしたら私、悠につり合う彼女になれる?


 そんなのわかってる。

 ちゃんと、大人にならなくちゃ。

 姿形だけに気を取られるんじゃなくて。

 中身もしっかりしなくちゃいけない。

 私は浴衣の襟をぎゅっと掴んだ。


 この浴衣だって。

 お父さんが働いたお金で買ったものだ。

 お母さんが着付けてくれたものだ。

 それなのに私は、自分勝手にワガママに、それを当たり前のように着ている。

 恥ずかしい。

 こんな自分は、恥ずかしいよ。


 戸田 るり:

「……悠、お母さんに連絡、入れていい?」


 中曽根 悠:

「うん」


 私は悠に断ると、少し離れて人気のない場所でスマホを取り出した。

 本当なら、帰りの連絡はメッセージで伝えるつもりだった。

 でも私は、電話アプリを立ち上げた。

 お母さんの電話番号を呼び出す。


 ちゃんと口で伝えたいって、思ったから。


 ほどなくして、お母さんが電話に出た。


 お母さん:

「あら、どうしたの 」


 お母さんも電話で連絡が来るとは思ってなかったのだろう。少し驚いたようにそう言う。


 戸田 るり:

「お母さん、あのね」


 コクンと小さく喉を鳴らした。


 戸田 るり:

「今日……本当は、友達とじゃなかったの」


 お母さん:

「!」


 スマホの向こうでお母さんが一瞬驚いた──ような気がした。


 戸田 るり:

「じ、実は私、付き合ってる男の子がいて……」


 戸田 るり:

「中曽根悠くんなの」


 お母さん:

「……あらあら」


 お母さんは、柔らかく相槌を打つ。

 そのおかげか、私は緊張しつつも言葉を続けることができた。


 戸田 るり:

「今日送ってってくれるの。だからその、ちゃんと紹介……したくて」


 するとお母さんは「やだー、嬉しい」なんて軽く答える。

 もう、こっちがどれだけ緊張してるかわかってるのかなぁ?

 でも、そんなお母さんの反応がくすぐったくて気恥ずかしくて、私は小さく息を吐く。


 戸田 るり:

「あの……」


 戸田 るり:

「ごめんなさい。今まで黙ってて」


 戸田 るり:

「たくさん嘘……ついちゃって」


 お母さん:

「……ふふ、いいのよ」


 お母さんの声があまりにも優しいから、私の心はまたきゅっとなる。

 と同時に、ずっと抱いていた後ろめたさはスッとなくなり、軽くなる。


 何で、恥ずかしいなんて思っていたんだろう。

 もっと早く言えばよかった。


 帰る時間を伝えて会話を終わらせると、スマホをしまった。

 少し離れてたところで待つ悠に近づく。


 戸田 るり:

「お待たせ」


 中曽根 悠:

「おう」


 そして私たちは、自然に手をつないだ。

 時刻は夜の8時。

 もうすぐ花火が、打ち上げられる時間となっていた。




 ◇ 続く ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。