Ep.25 秘密にしないで(2)「恥ずかしくて」
姫泣祭の最終日は、花火が上がるともあって人がたくさんいた。
はぐれないために、悠と手をつなぐ。
人の群れのおかげでそれも見えない。
安心して祭を楽しんでいたら、突然、悠が立ち止まった。
中曽根 悠:
「うわ、姉貴だ」
戸田 るり:
「え?」
悠はパッと手を離して、ポケットに両手を突っ込んでしまう。
向こう側から、手を振って笑っているキレイな女の人が歩いてきた。
それは久しぶりに会う、悠のお姉さんの雫さんだった。
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秘密にしないで
(2)「恥ずかしくて」
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中曽根 雫:
「やほー、偶然~」
ひらひらと手を振る雫さんは、どうやら1人らしい。
私たちは向き合うと、人の邪魔にならないよう道の端に寄った。
中曽根 悠:
「偶然って、姉貴、俺が行くの知ってたろ」
悠は珍しくブスッとした表情をしていた。
中曽根雫さんは、悠の4つ年上のお姉さんだ。
小さい頃、まだ悠と無邪気に遊んでいた頃には、雫さんが一緒に面倒を見てくれたこともあった。
しっかりしていて美人で、面倒見がいい。
ひとりっ子の私にとっては当時、そんなお姉さんがいる悠が、羨ましく思えたんだ。
戸田 るり:
「お久しぶりです、雫さん」
中曽根 雫:
「るりちゃん久しぶり!浴衣姿が可愛いね~」
そう言う雫さんは、ロングワンピースにサンダル姿だ。
雑誌のモデルさんに見えちゃうくらい、キレイで可愛い。
そんな素敵な雫さんは、女優のような白い歯を見せて笑う。
中曽根 雫:
「こいつにはもったいないくらい。どう? こいつ迷惑かけてない?」
戸田 るり:
「え? は、はい」
雫さんは、私たちのこと知っているのかな?
そんな疑問は、すぐに解消された。
中曽根 雫:
「まったく、あんたは幸せ者だねー。こんな可愛い彼女がいて」
中曽根 悠:
「るっさいなぁ。姉貴は1人で何してんだよ」
戸田 るり:
「!」
悠、雫さんには私のこと話してるんだ。
そんな事実を知って、胸がドキドキしてしまう。
中曽根 雫:
「1人じゃないわよ。向こうで友達といたんだけど、あんたがチラッと見えたからさ。からかってやろうと思って」
中曽根 悠:
「からかうな!」
雫さんの前では、悠もすっかり弟の顔をして、どこかぶっきらぼうに言葉を返している。
その隣で私はただ、2人の会話を聞いているしかなかった。
中曽根 雫:
「帰りはちゃんと、家まで送ってあげなよ。なんか最近、痴漢出るとか噂になってるから」
中曽根 悠:
「わかってるよ」
中曽根 雫:
「送り狼に、なるなよ?」
中曽根 悠:
「……っなるか!!」
うわぁ、あの悠が翻弄されてる。
珍しい光景に、ついクスクス笑ってしまった。
雫さんはそんな私と目を合わせると、ニコリと笑う。
中曽根 雫:
「じゃあ楽しんでね。るりちゃん、また家に遊びにおいでよ」
戸田 るり:
「は、はい!」
雫さんは「じゃあね~」とまた颯爽と去っていった。
隣では悠が、そんな雫さんに相変わらず仏頂面を向けていて、私はまた小さく笑ってしまう。
戸田 るり:
「雫さん、相変わらずだねぇ」
中曽根 悠:
「もう少し、落ち着いてほしいよなー」
そうして悠は、また手をつないできた。
雫さんがいたときには、頑なにポケットに入れていたのに。
やっぱり悠も、家族の前では恥ずかしいらしい。
戸田 るり:
「………」
戸田 るり:
「悠、雫さんに私のこと言ってたんだね」
ぽつりと呟いた。
中曽根 悠:
「あ? うん」
中曽根 悠:
「てかもう、家族皆が知ってるよ。姉貴が言いふらしてるからさ」
戸田 るり:
「え!? 」
衝撃の言葉に、私は目を見開いて悠を見つめた。
悠はそんな私を、きょとんと見ている。
中曽根 悠:
「るりは言ってないの?」
戸田 るり:
「……う、うん」
つい、うつむいてしまう。
まさか悠の両親まで、知っているとは思わなかった。
小さい頃、遊びに行ったことのある悠の家。
優しそうなおじさんとおばさんの顔を、ぼんやりと思い出していた。
中曽根 悠:
「……そっか」
隣で悠が小さく呟いた。
その声が何だか寂しそうに聞こえて、私はハッとして顔をあげる。
戸田 るり:
「あの……違うからね!」
中曽根 悠:
「え?」
戸田 るり:
「悠のこと隠したいとか、そういうことじゃなくて……その……」
戸田 るり:
「……は、恥ずかしくて……」
中曽根 悠:
「………」
ああ、私って嫌な彼女かもしれない。
これじゃあ、悠と付き合うのが恥ずかしいみたいな言い方じゃない。
そうじゃなくて……ええと……。
またうつむいてしまいそうになる。
そんな私の手を、悠はぎゅっと強く握りしめた。
中曽根 悠:
「今日さ」
戸田 るり:
「?」
中曽根 悠:
「今日送ってく時、挨拶するよ」
戸田 るり:
「え!? 」
心臓が大きく跳ねた。
そ、それってつまり……!
中曽根 悠:
「いい機会だと思うし。そうしよう」
戸田 るり:
「……悠……」
ぎゅっと心臓が痛い。
──ああ、雫さんに伝えなきゃ。
もったいないのは、私の方だって。
悠は、こんな情けない私をフォローしてくれようとしている。
こんな彼氏、私にはもったいないよ。
戸田 るり:
「…………っ。ゆ、悠」
中曽根 悠:
「ん?」
私もぎゅっと、手を握り返した。
戸田 るり:
「ありがとう」
中曽根 悠:
「……うん」
どうしよう。
どうしたら私、悠につり合う彼女になれる?
そんなのわかってる。
ちゃんと、大人にならなくちゃ。
姿形だけに気を取られるんじゃなくて。
中身もしっかりしなくちゃいけない。
私は浴衣の襟をぎゅっと掴んだ。
この浴衣だって。
お父さんが働いたお金で買ったものだ。
お母さんが着付けてくれたものだ。
それなのに私は、自分勝手にワガママに、それを当たり前のように着ている。
恥ずかしい。
こんな自分は、恥ずかしいよ。
戸田 るり:
「……悠、お母さんに連絡、入れていい?」
中曽根 悠:
「うん」
私は悠に断ると、少し離れて人気のない場所でスマホを取り出した。
本当なら、帰りの連絡はメッセージで伝えるつもりだった。
でも私は、電話アプリを立ち上げた。
お母さんの電話番号を呼び出す。
ちゃんと口で伝えたいって、思ったから。
ほどなくして、お母さんが電話に出た。
お母さん:
「あら、どうしたの 」
お母さんも電話で連絡が来るとは思ってなかったのだろう。少し驚いたようにそう言う。
戸田 るり:
「お母さん、あのね」
コクンと小さく喉を鳴らした。
戸田 るり:
「今日……本当は、友達とじゃなかったの」
お母さん:
「!」
スマホの向こうでお母さんが一瞬驚いた──ような気がした。
戸田 るり:
「じ、実は私、付き合ってる男の子がいて……」
戸田 るり:
「中曽根悠くんなの」
お母さん:
「……あらあら」
お母さんは、柔らかく相槌を打つ。
そのおかげか、私は緊張しつつも言葉を続けることができた。
戸田 るり:
「今日送ってってくれるの。だからその、ちゃんと紹介……したくて」
するとお母さんは「やだー、嬉しい」なんて軽く答える。
もう、こっちがどれだけ緊張してるかわかってるのかなぁ?
でも、そんなお母さんの反応がくすぐったくて気恥ずかしくて、私は小さく息を吐く。
戸田 るり:
「あの……」
戸田 るり:
「ごめんなさい。今まで黙ってて」
戸田 るり:
「たくさん嘘……ついちゃって」
お母さん:
「……ふふ、いいのよ」
お母さんの声があまりにも優しいから、私の心はまたきゅっとなる。
と同時に、ずっと抱いていた後ろめたさはスッとなくなり、軽くなる。
何で、恥ずかしいなんて思っていたんだろう。
もっと早く言えばよかった。
帰る時間を伝えて会話を終わらせると、スマホをしまった。
少し離れてたところで待つ悠に近づく。
戸田 るり:
「お待たせ」
中曽根 悠:
「おう」
そして私たちは、自然に手をつないだ。
時刻は夜の8時。
もうすぐ花火が、打ち上げられる時間となっていた。
◇ 続く ◇




