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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.25 秘密にしないで(1)「言えなくて」

 去年は、同小メンバーみんなで行った姫泣祭。

 でも今年は、悠と2人で行く約束をした。


 中曽根 悠:

「待ち合わせどうする? 迎えにいこうか?」


 そう提案してくれた悠に。


 戸田 るり:

「あ、大丈夫! いつもどおり、交差点のところで待ち合わせしよ?」


 と慌てて答えた。

 何も知らない悠は、とくに気にせず「オッケー」と笑う。


 戸田 るり:

「……」


 私、戸田るりと中曽根悠は付き合って1年が経つ。

 1年前よりも近くなって。

 幼馴染みの付き合いから、ガラリと変わった距離感にも、ようやく慣れた。


 問題は、ただひとつ。

 このことを、私はまだ親に内緒にしているんだ。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 秘密にしないで

(1)「言えなくて」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 巻きつけられた帯が、胸を圧迫していて苦しい。

 でも全身鏡をのぞけば、いつもと違う自分がいて、嬉しくなってくるくる回った。

 うん、やっぱりこの柄にしてよかった!


 戸田 るり:

「お母さん、ありがとう!」


 お母さん:

「どういたしまして」


 ふう、とお母さんは息をはいた。

 去年に引き続き、着付けをしてくれたお母さんにはとっても感謝している。

 とくに今年は、ちょっとワガママを言って、新しい浴衣に新調してもらったのだから。


 2回目になる、悠とのお祭り。

 去年と同じ浴衣じゃなくて、新しい浴衣にしたかった。

 髪の毛もちょっとコテで巻いている。

 鏡の前でご満悦にしていると、後ろからお母さんが声をかけてきた。


 お母さん:

「今年は誰と行くの? また同じ小学校の子たち?」


 戸田 るり:

「……!う、うん」


──あ、やっちゃった。

 また嘘をついてしまった。


 お母さんはまだ、私が悠と付き合っていることを知らない。

 恥ずかしいからなかなか言えなくて、今日まできてしまった。

 お母さんは幼馴染みの悠のことを、もちろん知っている。

 でも、その子が彼氏になったんだよって一言が、どうしても私は言えない。

 もしも私がピノキオだったら、鼻は伸びきっているに違いなかった。


 お母さん:

「帰ってくるときは、ちゃんと連絡入れるのよ」


 戸田 るり:

「うん」


 後ろめたさを隠して答える。

 そんな私とお母さんのもとに、お父さんがやってきた。


 お父さん:

「お、るり! かっわいいなぁ~」


 お父さんはそう言って、私をぎゅっと抱きしめた。


 戸田 るり:

「や、やめてよ、お父さん!」


 怒ってお父さんの腕から逃れる。

 もう! せっかくの浴衣が着崩れちゃうじゃない!


 お父さん:

「そんなに嫌がらなくても……」


 しゅんとなったお父さんに悪いなと思いつつも、プリプリしてしまう私。

 どうしてかな、最近お父さんとのスキンシップが、ちょっと苦手。

 なんていうかお父さん、臭いんだもん。


 お母さん:

「るりも、もうお年頃なのよ」


 お母さんはフォローするようにそう言って、お父さんの肩を叩いた。お父さんはそれを受けて「うぅ」なんてうなだれている。

 もう、お父さんも、そろそろ子離れをしてほしい。


 戸田 るり:

「あ、そろそろ行かなくちゃ」


 スマホで時間を確認すると、私は慌てて玄関へ向かった。

 はき慣れない下駄に足を通して、扉を開ける。


 お母さん:

「行ってらっしゃい」


 お父さん:

「知らないやつについてくなよ!」


 両親に見送られて、私は少しだけ申し訳ないと思いつつも、ウキウキと出かけたのだった。



 ・   ・   ・



 待ち合わせ場所の交差点には、すでに悠が立っていた。

 急ぎつつも下駄でうまく走れない私。謝りながら近寄る。


 戸田 るり:

「ごめんね、待った?」


 中曽根 悠:

「おー、大丈夫だ。慌てるなよ」


 転ぶぞ、と付け加えて悠は笑う。

 歩くスピードを緩めてそんな彼に近づくと、悠はジッと私を見てきた。


 中曽根 悠:

「あれ? 去年と違うやつ?」


 すぐに、浴衣のことに気がついてくれた。

 それが私は嬉しくて、袖を広げてみせる。


 戸田 るり:

「うん! どうかな?」


 去年は薄いピンクでちょっと幼い浴衣だったけど、今年はスミレ色の少し落ち着いたものにした。

 大人っぽい雰囲気にしたくて、すごく悩んで選んだ一着。悠は気に入ってくれるだろうか。


 中曽根 悠:

「いいんじゃない? 可愛い可愛い」


 戸田 るり:

「……ありがとう」


 うーん……なんだろ。

 言い方がとても軽い。

 たしか、去年もこんな感じだったな~、なんて思い出す。


 あの頃は告白したすぐ後で、本当に付き合ってるの? なんて不安になっていた時期だったから「可愛い」て言ってくれただけでもすごく嬉しかった。

 でも、今は同じ言い方にちょっぴり不満。

 本当に可愛いと思ってるのかなぁ、なんて考えちゃう。


 戸田 るり:

(だって……不安なんだもん)


 ちらりと悠を見上げた。

 悠はTシャツにジーパン、サンダルととってもシンプル。

 それなのに、部活で日に焼けた肌は最近、筋肉っぽくなってきてちょっとたくましい。

 すっかり男の子だなぁなんて、私はあの応援団以来ドキドキしている。


 そして、モテる悠に私はいつもヤキモキしているんだ。

 今年は可愛い先輩にライバル宣言までされているし。

 それなのに、悠はいつでも飄々としていて私を振り回している。

 でも。


 中曽根 悠:

「今日は、ゆっくり歩こう」


 差し出された左手と、優しい言葉に。


 戸田 るり:

「うん……ありがとう」


 やっぱり敵わないなぁ、と私は赤くなって手を伸ばした。




 ◇ 続く ◇

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