Ep.25 秘密にしないで(1)「言えなくて」
去年は、同小メンバーみんなで行った姫泣祭。
でも今年は、悠と2人で行く約束をした。
中曽根 悠:
「待ち合わせどうする? 迎えにいこうか?」
そう提案してくれた悠に。
戸田 るり:
「あ、大丈夫! いつもどおり、交差点のところで待ち合わせしよ?」
と慌てて答えた。
何も知らない悠は、とくに気にせず「オッケー」と笑う。
戸田 るり:
「……」
私、戸田るりと中曽根悠は付き合って1年が経つ。
1年前よりも近くなって。
幼馴染みの付き合いから、ガラリと変わった距離感にも、ようやく慣れた。
問題は、ただひとつ。
このことを、私はまだ親に内緒にしているんだ。
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秘密にしないで
(1)「言えなくて」
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巻きつけられた帯が、胸を圧迫していて苦しい。
でも全身鏡をのぞけば、いつもと違う自分がいて、嬉しくなってくるくる回った。
うん、やっぱりこの柄にしてよかった!
戸田 るり:
「お母さん、ありがとう!」
お母さん:
「どういたしまして」
ふう、とお母さんは息をはいた。
去年に引き続き、着付けをしてくれたお母さんにはとっても感謝している。
とくに今年は、ちょっとワガママを言って、新しい浴衣に新調してもらったのだから。
2回目になる、悠とのお祭り。
去年と同じ浴衣じゃなくて、新しい浴衣にしたかった。
髪の毛もちょっとコテで巻いている。
鏡の前でご満悦にしていると、後ろからお母さんが声をかけてきた。
お母さん:
「今年は誰と行くの? また同じ小学校の子たち?」
戸田 るり:
「……!う、うん」
──あ、やっちゃった。
また嘘をついてしまった。
お母さんはまだ、私が悠と付き合っていることを知らない。
恥ずかしいからなかなか言えなくて、今日まできてしまった。
お母さんは幼馴染みの悠のことを、もちろん知っている。
でも、その子が彼氏になったんだよって一言が、どうしても私は言えない。
もしも私がピノキオだったら、鼻は伸びきっているに違いなかった。
お母さん:
「帰ってくるときは、ちゃんと連絡入れるのよ」
戸田 るり:
「うん」
後ろめたさを隠して答える。
そんな私とお母さんのもとに、お父さんがやってきた。
お父さん:
「お、るり! かっわいいなぁ~」
お父さんはそう言って、私をぎゅっと抱きしめた。
戸田 るり:
「や、やめてよ、お父さん!」
怒ってお父さんの腕から逃れる。
もう! せっかくの浴衣が着崩れちゃうじゃない!
お父さん:
「そんなに嫌がらなくても……」
しゅんとなったお父さんに悪いなと思いつつも、プリプリしてしまう私。
どうしてかな、最近お父さんとのスキンシップが、ちょっと苦手。
なんていうかお父さん、臭いんだもん。
お母さん:
「るりも、もうお年頃なのよ」
お母さんはフォローするようにそう言って、お父さんの肩を叩いた。お父さんはそれを受けて「うぅ」なんてうなだれている。
もう、お父さんも、そろそろ子離れをしてほしい。
戸田 るり:
「あ、そろそろ行かなくちゃ」
スマホで時間を確認すると、私は慌てて玄関へ向かった。
はき慣れない下駄に足を通して、扉を開ける。
お母さん:
「行ってらっしゃい」
お父さん:
「知らないやつについてくなよ!」
両親に見送られて、私は少しだけ申し訳ないと思いつつも、ウキウキと出かけたのだった。
・ ・ ・
待ち合わせ場所の交差点には、すでに悠が立っていた。
急ぎつつも下駄でうまく走れない私。謝りながら近寄る。
戸田 るり:
「ごめんね、待った?」
中曽根 悠:
「おー、大丈夫だ。慌てるなよ」
転ぶぞ、と付け加えて悠は笑う。
歩くスピードを緩めてそんな彼に近づくと、悠はジッと私を見てきた。
中曽根 悠:
「あれ? 去年と違うやつ?」
すぐに、浴衣のことに気がついてくれた。
それが私は嬉しくて、袖を広げてみせる。
戸田 るり:
「うん! どうかな?」
去年は薄いピンクでちょっと幼い浴衣だったけど、今年はスミレ色の少し落ち着いたものにした。
大人っぽい雰囲気にしたくて、すごく悩んで選んだ一着。悠は気に入ってくれるだろうか。
中曽根 悠:
「いいんじゃない? 可愛い可愛い」
戸田 るり:
「……ありがとう」
うーん……なんだろ。
言い方がとても軽い。
たしか、去年もこんな感じだったな~、なんて思い出す。
あの頃は告白したすぐ後で、本当に付き合ってるの? なんて不安になっていた時期だったから「可愛い」て言ってくれただけでもすごく嬉しかった。
でも、今は同じ言い方にちょっぴり不満。
本当に可愛いと思ってるのかなぁ、なんて考えちゃう。
戸田 るり:
(だって……不安なんだもん)
ちらりと悠を見上げた。
悠はTシャツにジーパン、サンダルととってもシンプル。
それなのに、部活で日に焼けた肌は最近、筋肉っぽくなってきてちょっとたくましい。
すっかり男の子だなぁなんて、私はあの応援団以来ドキドキしている。
そして、モテる悠に私はいつもヤキモキしているんだ。
今年は可愛い先輩にライバル宣言までされているし。
それなのに、悠はいつでも飄々としていて私を振り回している。
でも。
中曽根 悠:
「今日は、ゆっくり歩こう」
差し出された左手と、優しい言葉に。
戸田 るり:
「うん……ありがとう」
やっぱり敵わないなぁ、と私は赤くなって手を伸ばした。
◇ 続く ◇




