Ep.24 ブラザー(6・終)「こうするんだよ」
夏休みの間に両親は手続きを終え、正式に離婚をした。
俺と克弘は母さんの元へ残ることにし、父さんだけが家からいなくなる。
もともとあまり家にいないやつだったから、そこまで大きな変化はない。
ただ名前だけが、俺にとっては大きな変化だった。
苗字が、母さんの旧姓に変わった。
堂本信広。それが俺の新しい名前になる。
ある日、克弘は俺の部屋にきて、雑談の中でこう言った。
堂本 克弘:
「……ランク下がったな」
堂本 信広:
「は?」
堂本 克弘:
「ほら、金田から堂本だから『金』から『銅』にー、なーんて……」
堂本 信広:
「………」
堂本 克弘:
「……ノブ、ここは笑え」
堂本 信広:
「笑えるか!」
やっぱり、こいつの考えはよくわかんねぇ。
ただあの日以来、軽口を俺に叩くようになった克弘の顔は、以前よりも柔らかく見えた。
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ブラザー(6)
「こうするんだよ」
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夏休みが明け、2学期になる。
始業式後のホームルームで、俺の苗字変更がクラスメイトに知らされた。
離婚なんてめずらしくもない昨今、クラスメイトたちは一瞬騒ぎつつも、すぐに落ち着いた。
クラスメイト:
「金から銅だなー!」
バカなクラスメイトがそう言って、教室内に笑いが小さく起こる。
なんだこれは。今後、俺のネタになるのかよ。
じろっとバカなクラスメイトを睨んだら、やつは小さくおどけた。
ああ、やっぱりまわりはバカばっかりだ。
そう思いつつ席に戻る一瞬、羽鳥と目が合った。
羽鳥 梢:
「……」
堂本 信広:
「……」
祭りの夜を思い出す。
俺たちの間にあったことはなかったかのように、すぐに目をそらして視線を切った。
・ ・ ・
ホームルームも終わり、帰宅時間になる。
部活のあるやつは部活へ、ないやつはそれぞれ散らばって、解散している。
部活なんて入ってない俺は、今日の暇な半日をどう過ごそうか思案しながら、賑やかな廊下を歩いていた。
今の俺には、何もない。
好きなことも、夢中になれるものも。
それは、今まで怠惰に過ごしてきたツケなのだとわかっている。
でもそれをどうにかしてやろう、という気力まで今は持てなかった。
ただ、このままじゃ駄目なんだろうなと、漠然とした何かが胸の奥でくすぶっている。
ふと前を向くと、見慣れつつある後ろ姿を見つけてしまった。
堂本 信広:
(……羽鳥)
あいつの後ろ姿が、俺は嫌いだった。
真っ直ぐで、キレイに背筋を伸ばすあいつの背中。
でも今は、両手に何かを抱えているせいか、その背中は少し丸い。
俺は横を通り過ぎようと、早足で羽鳥に近づいた。
どうやら羽鳥は、大量のノートを抱えているようだ。
夏休みの提出物かなにかだろう。
委員長のこいつは、雑務をいつも引き受ける。
あともう少しで、羽鳥を追い抜く瞬間。
羽鳥 梢:
「……あっ」
開け放たれた廊下の窓から舞い込んだ風に、羽鳥はバランスを崩す。
堂本 信広:
「! 」
反射的につい、崩れかけたノートを支えてしまった。
何で、ちょうど横を過ぎようとしたときに!
したくもなかった手助けをしてしまった俺が羽鳥を見ると、彼女はパチパチと目を瞬かせていた。
羽鳥 梢:
「ありがとう」
またしても礼を言われてしまう。
羽鳥 梢:
「何だか、金田くんには助けてもらってばっかだね」
こっちは助けるつもりなんて、サラサラないっつーの。
俺はフン、とそっぽを向く。
羽鳥 梢:
「あ、今は堂本くんか。なんか慣れないね」
そう言って、よいしょと持っていたノートを抱え直す。
あごの下まで届きそうな量のノートは、重そうだ。
隣に俺がいるのに、何も言わずに当たり前のように、ノートを持って歩き出そうとする。
堂本 信広:
「………」
堂本 信広:
「お前は、1人で頑張りすぎなんだよ」
羽鳥 梢:
「え?」
俺は、ノートを半分以上羽鳥から奪い取った。
堂本 信広:
「こんなのはなぁ……」
キョロキョロとまわりを見渡し、ちょうどそこに通りかかったクラスメイトを捕まえる。
さっき、俺の名前でおちゃらけたバカなクラスメイトだ。
堂本 信広:
「お前、これ持て!」
クラスメイト:
「へ!?」
そいつに無理やり、ノートを押し付けた。
突然の行動にクラスメイトは困惑しつつも受け取り、羽鳥は目を丸くする。
俺はそんな羽鳥に、言い放つ。
堂本 信広:
「こうやって、他に頼れ! 」
羽鳥 梢:
「!」
羽鳥の黒目が最大にまで見開いて、俺はすぐにフン、と鼻を鳴らして背中を向けた。
ノートを持った2人を置いて、足早に去ろうとする。
そんな俺の背中に。
羽鳥 梢:
「──あのっ」
羽鳥 梢:
「ありがとう……堂本くん!」
羽鳥が、俺の新しい名前を呼んだ。
また「ありがとう」だって。
何回言ってんだ。
羽鳥の声が届いた背中が、むず痒い。
キュッと廊下の音を鳴らして、下駄箱へ向かった。
さあ、帰ったら何をしようか。
とりあえず腹が減ってるから、何か食うか。
そうだな、ちょっと自分で作ってみてもいいかもしれない。
時間はたくさんあるんだ。
余ったら、克弘や母さんに食わせてやってもいい。
そんなことを考えながら、俺は帰路についた。
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




