Ep.3 さよならシザーガール (2)「リレーメンバー」
どうしてこうなったのだろう。
初夏を迎えた、眩しい日差しが照りつけるグラウンド。
私は、400メートルリレー走のメンバーとして、練習のため外に出ていた。
遠くでは、他の競技にそれぞれ分かれて固まるクラスメイトの姿が見える。
羽鳥 梢:
「えーとまずは、 走る順番から決めようか 」
学級委員長でもある羽鳥さんは、私含めた他の3人に向けてそう告げた。
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さよならシザーガール
(2)「リレーメンバー」
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松宮 茜:
「やっぱり、アンカーから決めた方がいいんじゃない?」
そう言ったのは、松宮茜さんだった。
バスケ部でもある彼女のスタイルは、長身でスレンダー。
短髪を耳にかけている様は、女の子なのにカッコイイとも思えた。
飯田 詩音:
「アンカーね、私はパスだな」
そう答えたのは、飯田詩音さん。
バレー部に所属している彼女は、勝気な瞳で他のメンバーを見回す。
正直、ちょっと苦手なタイプかもしれない。
早乙女 茉莉:
「………」
私はそんな2人の後ろにそっと隠れて、羽鳥さんの言葉を待った。
羽鳥 梢:
「……早乙女さんは?」
早乙女 茉莉:
「え?」
羽鳥 梢:
「早乙女さんは、アンカーどう?」
早乙女 茉莉:
「……私、は」
ああ、やだな。
どうして羽鳥さんは、こうも私の意見を聞こうとするのだろう。
あのときだってそうだった。
400メートルリレー走のメンバーをしないかと聞いてきたときも、こんなふうにまっすぐに見つめられたんだ。
それに負けて、無愛想に「いいけど」と答えたのは、私だけど。
でもさすがにアンカーは、したくない!
早乙女 茉莉:
「アンカーはちょっと……」
羽鳥 梢:
「そっか」
松宮 茜:
「…………」
飯田 詩音:
「…………」
私の答えに、羽鳥さん以外の2人は何も言わない。
うう、私、変なこと言ってないよね!?
妙にポーカーフェイスな2人に、私の不安が少しずつ募る。
羽鳥 梢:
「それじゃあ、アンカーは私がやるね!」
なかなか決まらない最終走者の穴を埋めたのは、やっぱり羽鳥さんだった。
ホッとした私の前で、他の2人も少し和らいだ声を出した。
松宮 茜:
「サンキュ、羽鳥」
羽鳥 梢:
「その代わり、しっかり前で距離縮めといてよー? 運動部には頼ってるんだから 」
飯田 詩音:
「あはは、任せといてよ」
早乙女 茉莉:
「…………」
ここで。
ここで私も何か、ひとこと言えたならいいのに。
それなのに私は、言葉が見つからない。
ここで出すべき言葉はどれなのか。
どれが正解なのかを探しているうちに、タイミングを逃してしまう。
松宮 茜:
「じゃあ、私がトップ行くわ! 最初にガツンと距離あけてあげるよ 」
飯田 詩音:
「お、強気な態度。 じゃあ私が引き継いであげますか 」
羽鳥 梢:
「ということは、早乙女さんは第3走者──私の前でいい?」
早乙女 茉莉:
「え! あ……うん」
かける言葉を見つけられないまま、走る順番が決まってしまった。
・ ・ ・
その日から週に2日、バトン練習を朝練ですることになった。
これは飯田さんの案である。
飯田 詩音:
「やっぱり、リレーの要はバトンだよ!」
スポーツ少女らしく、率先してそう言った彼女はやはり、私とはまったく違う次元にいるように思えた。
早乙女 茉莉:
(朝くらい、ゆっくりさせてよ……)
なんて言えるはずもなく。
私はあくびをしながら、朝練に向かうため登校の道を歩いていた。
早乙女 茉莉:
「ふあぁ〜…」
大きなあくびが一つ、口から逃げるように抜け出る。
ああ、今日もいい天気だ。
早乙女 茉莉:
(雨だったら、中止になるのに)
なんて考えちゃう私は、嫌なやつだと思う。
松宮 茜:
「おはよう、早乙女さん」
早乙女 茉莉:
「!」
ふいに声をかけられて、慌てて大きな口を閉ざす。
校門の近くで声をかけてくれたのは、第1走者の松宮さんだった。
早乙女 茉莉:
「あ、おはよう」
松宮 茜:
「でっかいあくびだったね」
あはは、と豪快に笑う松宮さんは、どうやらさっきの私を見ていたようだ。
うわ、恥ずかしい!
思わず無言になってしまった私は、うつむいてしまった。
早乙女 茉莉:
「………」
松宮 茜:
「………あ! ごめん、嫌味じゃないよ? 」
早乙女 茉莉:
「えっ? ………あ 」
嫌味だなんて、そんな。
そんなふうに私、思ってないよ!
必死にぶんぶんとかぶりを振ると、どうやらその思いは伝わったようだ。
最初はきょとんと私を見ていた松宮さんも、また笑いを零してくれた。
松宮 茜:
「あはは! そんなに頭振ると、脳みそ飛び出ちゃいそう 」
早乙女 茉莉:
「………」
早乙女 茉莉:
「えへへ」
そんな言葉になんだか胸の奥がじんわりして、私も小さく笑みをこぼした。
松宮 茜:
「うん、なんか」
松宮 茜:
「なんとなーく、わかったよ。 早乙女さんのキャラ 」
早乙女 茉莉:
「え?」
なんのこと?
と聞こうとしたら。
羽鳥 梢:
「おはよー! 2人とも早いね! 」
また、後ろから声がかかった。
羽鳥さんだ。
松宮 茜:
「おはよう、羽鳥」
早乙女 茉莉:
「おはよう、羽鳥さん」
松宮さんにつられて、私も自然に朝の挨拶をすることができた。
そんな何でもないことに小さくホッとして、私は静かに息を吐く。
羽鳥さんは、今日もみんなを安心させるような笑顔で、グラウンドを指差した。
羽鳥 梢:
「ねぇ、見て見て! 詩音ちゃんが待ってるよ!」
羽鳥さんが指差す方を見れば、何ともう、グラウンドの奥で飯田さんがジャージ姿でスタンバイしていた。
柔らかい朝日に照らされて、こちらに向け手を振っている。
そんな飯田さんに向かって私たち3人は、競争するように駆け出していた。
◇ 続く ◇




