表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/42

Ep.3 さよならシザーガール (2)「リレーメンバー」

どうしてこうなったのだろう。

初夏を迎えた、眩しい日差しが照りつけるグラウンド。

私は、400メートルリレー走のメンバーとして、練習のため外に出ていた。

遠くでは、他の競技にそれぞれ分かれて固まるクラスメイトの姿が見える。


羽鳥 梢:

「えーとまずは、 走る順番から決めようか 」


学級委員長でもある羽鳥さんは、私含めた他の3人に向けてそう告げた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


さよならシザーガール

(2)「リレーメンバー」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



松宮 茜:

「やっぱり、アンカーから決めた方がいいんじゃない?」


そう言ったのは、松宮茜まつみや あかねさんだった。

バスケ部でもある彼女のスタイルは、長身でスレンダー。

短髪を耳にかけている様は、女の子なのにカッコイイとも思えた。


飯田 詩音:

「アンカーね、私はパスだな」


そう答えたのは、飯田詩音いいだ しおんさん。

バレー部に所属している彼女は、勝気な瞳で他のメンバーを見回す。

正直、ちょっと苦手なタイプかもしれない。


早乙女 茉莉:

「………」


私はそんな2人の後ろにそっと隠れて、羽鳥さんの言葉を待った。


羽鳥 梢:

「……早乙女さんは?」


早乙女 茉莉:

「え?」


羽鳥 梢:

「早乙女さんは、アンカーどう?」


早乙女 茉莉:

「……私、は」


ああ、やだな。

どうして羽鳥さんは、こうも私の意見を聞こうとするのだろう。


あのときだってそうだった。

400メートルリレー走のメンバーをしないかと聞いてきたときも、こんなふうにまっすぐに見つめられたんだ。

それに負けて、無愛想に「いいけど」と答えたのは、私だけど。

でもさすがにアンカーは、したくない!


早乙女 茉莉:

「アンカーはちょっと……」


羽鳥 梢:

「そっか」


松宮 茜:

「…………」


飯田 詩音:

「…………」


私の答えに、羽鳥さん以外の2人は何も言わない。

うう、私、変なこと言ってないよね!?

妙にポーカーフェイスな2人に、私の不安が少しずつ募る。


羽鳥 梢:

「それじゃあ、アンカーは私がやるね!」


なかなか決まらない最終走者の穴を埋めたのは、やっぱり羽鳥さんだった。

ホッとした私の前で、他の2人も少し和らいだ声を出した。


松宮 茜:

「サンキュ、羽鳥」


羽鳥 梢:

「その代わり、しっかり前で距離縮めといてよー? 運動部には頼ってるんだから 」


飯田 詩音:

「あはは、任せといてよ」


早乙女 茉莉:

「…………」


ここで。

ここで私も何か、ひとこと言えたならいいのに。


それなのに私は、言葉が見つからない。

ここで出すべき言葉はどれなのか。

どれが正解なのかを探しているうちに、タイミングを逃してしまう。


松宮 茜:

「じゃあ、私がトップ行くわ! 最初にガツンと距離あけてあげるよ 」


飯田 詩音:

「お、強気な態度。 じゃあ私が引き継いであげますか 」


羽鳥 梢:

「ということは、早乙女さんは第3走者──私の前でいい?」


早乙女 茉莉:

「え! あ……うん」


かける言葉を見つけられないまま、走る順番が決まってしまった。



・   ・   ・



その日から週に2日、バトン練習を朝練ですることになった。

これは飯田さんの案である。


飯田 詩音:

「やっぱり、リレーの要はバトンだよ!」


スポーツ少女らしく、率先してそう言った彼女はやはり、私とはまったく違う次元にいるように思えた。


早乙女 茉莉:

(朝くらい、ゆっくりさせてよ……)


なんて言えるはずもなく。

私はあくびをしながら、朝練に向かうため登校の道を歩いていた。


早乙女 茉莉:

「ふあぁ〜…」


大きなあくびが一つ、口から逃げるように抜け出る。

ああ、今日もいい天気だ。


早乙女 茉莉:

(雨だったら、中止になるのに)


なんて考えちゃう私は、嫌なやつだと思う。


松宮 茜:

「おはよう、早乙女さん」


早乙女 茉莉:

「!」


ふいに声をかけられて、慌てて大きな口を閉ざす。

校門の近くで声をかけてくれたのは、第1走者の松宮さんだった。


早乙女 茉莉:

「あ、おはよう」


松宮 茜:

「でっかいあくびだったね」


あはは、と豪快に笑う松宮さんは、どうやらさっきの私を見ていたようだ。

うわ、恥ずかしい!

思わず無言になってしまった私は、うつむいてしまった。


早乙女 茉莉:

「………」


松宮 茜:

「………あ! ごめん、嫌味じゃないよ? 」


早乙女 茉莉:

「えっ? ………あ 」


嫌味だなんて、そんな。

そんなふうに私、思ってないよ!


必死にぶんぶんとかぶりを振ると、どうやらその思いは伝わったようだ。

最初はきょとんと私を見ていた松宮さんも、また笑いを零してくれた。


松宮 茜:

「あはは! そんなに頭振ると、脳みそ飛び出ちゃいそう 」


早乙女 茉莉:

「………」


早乙女 茉莉:

「えへへ」


そんな言葉になんだか胸の奥がじんわりして、私も小さく笑みをこぼした。


松宮 茜:

「うん、なんか」


松宮 茜:

「なんとなーく、わかったよ。 早乙女さんのキャラ 」


早乙女 茉莉:

「え?」


なんのこと?

と聞こうとしたら。


羽鳥 梢:

「おはよー! 2人とも早いね! 」


また、後ろから声がかかった。

羽鳥さんだ。


松宮 茜:

「おはよう、羽鳥」


早乙女 茉莉:

「おはよう、羽鳥さん」


松宮さんにつられて、私も自然に朝の挨拶をすることができた。

そんな何でもないことに小さくホッとして、私は静かに息を吐く。

羽鳥さんは、今日もみんなを安心させるような笑顔で、グラウンドを指差した。


羽鳥 梢:

「ねぇ、見て見て! 詩音ちゃんが待ってるよ!」


羽鳥さんが指差す方を見れば、何ともう、グラウンドの奥で飯田さんがジャージ姿でスタンバイしていた。

柔らかい朝日に照らされて、こちらに向け手を振っている。

そんな飯田さんに向かって私たち3人は、競争するように駆け出していた。




◇ 続く ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ