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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
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Ep.3 さよならシザーガール (2)「リレーメンバー」

 どうしてこうなったのだろう。

 初夏を迎えた、眩しい日差しが照りつけるグラウンド。

 私は、400メートルリレー走のメンバーとして、練習のため外に出ていた。

 遠くでは、他の競技にそれぞれ分かれて固まるクラスメイトの姿が見える。


 羽鳥 梢:

「えーとまずは、 走る順番から決めようか 」


 学級委員長でもある羽鳥さんは、私含めた他の3人に向けてそう告げた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 さよならシザーガール

(2)「リレーメンバー」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 松宮 茜:

「やっぱり、アンカーから決めた方がいいんじゃない?」


 そう言ったのは、松宮茜《まつみや あかね》さんだった。

 バスケ部でもある彼女のスタイルは、長身でスレンダー。

 短髪を耳にかけている様は、女の子なのにカッコイイとも思えた。


 飯田 詩音:

「アンカーね、私はパスだな」


 そう答えたのは、飯田詩音《いいだ しおん》さん。

 バレー部に所属している彼女は、勝気な瞳で他のメンバーを見回す。

 正直、ちょっと苦手なタイプかもしれない。


 早乙女 茉莉:

「………」


 私はそんな2人の後ろにそっと隠れて、羽鳥さんの言葉を待った。


 羽鳥 梢:

「……早乙女さんは?」


 早乙女 茉莉:

「え?」


 羽鳥 梢:

「早乙女さんは、アンカーどう?」


 早乙女 茉莉:

「……私、は」


 ああ、やだな。

 どうして羽鳥さんは、こうも私の意見を聞こうとするのだろう。


 あのときだってそうだった。

 400メートルリレー走のメンバーをしないかと聞いてきたときも、こんなふうにまっすぐに見つめられたんだ。

 それに負けて、無愛想に「いいけど」と答えたのは、私だけど。

 でもさすがにアンカーは、したくない!


 早乙女 茉莉:

「アンカーはちょっと……」


 羽鳥 梢:

「そっか」


 松宮 茜:

「…………」


 飯田 詩音:

「…………」


 私の答えに、羽鳥さん以外の2人は何も言わない。

 うう、私、変なこと言ってないよね!?

 妙にポーカーフェイスな2人に、私の不安が少しずつ募る。


 羽鳥 梢:

「それじゃあ、アンカーは私がやるね!」


 なかなか決まらない最終走者の穴を埋めたのは、やっぱり羽鳥さんだった。

 ホッとした私の前で、他の2人も少し和らいだ声を出した。


 松宮 茜:

「サンキュ、羽鳥」


 羽鳥 梢:

「その代わり、しっかり前で距離縮めといてよー? 運動部には頼ってるんだから 」


 飯田 詩音:

「あはは、任せといてよ」


 早乙女 茉莉:

「…………」


 ここで。

 ここで私も何か、ひとこと言えたならいいのに。


 それなのに私は、言葉が見つからない。

 ここで出すべき言葉はどれなのか。

 どれが正解なのかを探しているうちに、タイミングを逃してしまう。


 松宮 茜:

「じゃあ、私がトップ行くわ! 最初にガツンと距離あけてあげるよ 」


 飯田 詩音:

「お、強気な態度。 じゃあ私が引き継いであげますか 」


 羽鳥 梢:

「ということは、早乙女さんは第3走者──私の前でいい?」


 早乙女 茉莉:

「え! あ……うん」


 かける言葉を見つけられないまま、走る順番が決まってしまった。



 ・   ・   ・



 その日から週に2日、バトン練習を朝練ですることになった。

 これは飯田さんの案である。


 飯田 詩音:

「やっぱり、リレーの要はバトンだよ!」


 スポーツ少女らしく、率先してそう言った彼女はやはり、私とはまったく違う次元にいるように思えた。


 早乙女 茉莉:

(朝くらい、ゆっくりさせてよ……)


 なんて言えるはずもなく。

 私はあくびをしながら、朝練に向かうため登校の道を歩いていた。


 早乙女 茉莉:

「ふあぁ〜…」


 大きなあくびが一つ、口から逃げるように抜け出る。

 ああ、今日もいい天気だ。


 早乙女 茉莉:

(雨だったら、中止になるのに)


 なんて考えちゃう私は、嫌なやつだと思う。


 松宮 茜:

「おはよう、早乙女さん」


 早乙女 茉莉:

「!」


 ふいに声をかけられて、慌てて大きな口を閉ざす。

 校門の近くで声をかけてくれたのは、第1走者の松宮さんだった。


 早乙女 茉莉:

「あ、おはよう」


 松宮 茜:

「でっかいあくびだったね」


 あはは、と豪快に笑う松宮さんは、どうやらさっきの私を見ていたようだ。

 うわ、恥ずかしい!

 思わず無言になってしまった私は、うつむいてしまった。


 早乙女 茉莉:

「………」


 松宮 茜:

「………あ! ごめん、嫌味じゃないよ? 」


 早乙女 茉莉:

「えっ? ………あ 」


 嫌味だなんて、そんな。

 そんなふうに私、思ってないよ!


 必死にぶんぶんとかぶりを振ると、どうやらその思いは伝わったようだ。

 最初はきょとんと私を見ていた松宮さんも、また笑いを零してくれた。


 松宮 茜:

「あはは! そんなに頭振ると、脳みそ飛び出ちゃいそう 」


 早乙女 茉莉:

「………」


 早乙女 茉莉:

「えへへ」


 そんな言葉になんだか胸の奥がじんわりして、私も小さく笑みをこぼした。


 松宮 茜:

「うん、なんか」


 松宮 茜:

「なんとなーく、わかったよ。 早乙女さんのキャラ 」


 早乙女 茉莉:

「え?」


 なんのこと?

 と聞こうとしたら。


 羽鳥 梢:

「おはよー! 2人とも早いね! 」


 また、後ろから声がかかった。

 羽鳥さんだ。


 松宮 茜:

「おはよう、羽鳥」


 早乙女 茉莉:

「おはよう、羽鳥さん」


 松宮さんにつられて、私も自然に朝の挨拶をすることができた。

 そんな何でもないことに小さくホッとして、私は静かに息を吐く。

 羽鳥さんは、今日もみんなを安心させるような笑顔で、グラウンドを指差した。


 羽鳥 梢:

「ねぇ、見て見て! 詩音ちゃんが待ってるよ!」


 羽鳥さんが指差す方を見れば、何ともう、グラウンドの奥で飯田さんがジャージ姿でスタンバイしていた。

 柔らかい朝日に照らされて、こちらに向け手を振っている。

 そんな飯田さんに向かって私たち3人は、競争するように駆け出していた。




 ◇ 続く ◇

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