Ep.3 さよならシザーガール (1)「無難でいたい」
ジャキン
と切ったら
パラリ
と落ちた。
早乙女 茉莉:
(……切りすぎた)
敷かれた新聞紙の上に、無残に落ちた髪。
それを見て私は、短くなった前髪をくしゃりと掻く。
鏡の中でハサミを持ったまま、恨めしそうにこちらを見てくる自分と目が合った。
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さよならシザーガール
(1)「無難でいたい」
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お母さん:
「あらー、潔く切ったね」
午前7時。
制服に着替えリビングに行くと、お母さんは私の顔を見るなりそう言った。
私は、なんでもないようにテーブルの席に着く。
早乙女 茉莉:
「これくらい、いいでしょ」
嘘。
本当は切りすぎたって思ってるし、気にくわない。
でもそれを隠して、朝食に手をつけ始めた。
お母さん:
「茉莉ったら、素直じゃないんだから」
お母さんは苦笑して、キッチンでお弁当を詰めている。
悪かったわね、と私は心で思いながら、用意されたトーストにかじりついた。
素直じゃない。
口から出るのはいつも、つっけんどんな物言い。
それが私、早乙女茉莉の小さい頃からの変わらない性格だ。
早乙女 茉莉:
(こんなんだから、クラスでまだ浮いてるだなんて……言えない)
今日もいそいそとお弁当を用意してくれているお母さん。
まさかそのお弁当を、娘は一人で食べているなんて、思っていないんだろう。
思えば、最初の自己紹介がまずかったのだ。
・ ・ ・
大谷 圭介:
「大谷圭介です! 元南小です! 好きなのはサッカーと食べることと寝ること! あと ナイスバディ南国美人でっす!! 」
早乙女 茉莉:
(!?)
中学に入学して迎えた、初めてのホームルーム。
名前順で席に並ぶ私たちは、順番に自己紹介をさせられた。
3つの小学校から集まるこの中学では、知らない子も多くいる。
多くの知らない子たちが、詰め込まれた教室内。
自分の順番がまわってくるのを緊張していた私は、突然のおちゃらけた男子の自己紹介に面食らった。
それなのに教室内では、どっと笑いが起きる。
男子生徒1:
「大谷、まじバカだー!」
男子生徒2:
「よ、スケベ大魔王!」
大谷 圭介:
「誰が大魔王だ! プリンスと呼べ! 」
男子生徒1・2:
「スケベはいいんかい!!」
バカな男子のやり取りに、女子もくすくすと笑っている。先生も笑っていて、たしなめたりしない。
さっきまで全員が緊張していた空気が、少し変わったのを感じ取った。
でも、問題はそこからだ。
大谷とかいう男子のせいで、自己紹介に「好きなもの」を述べることが、流れとしてできてしまったのだ。
私は無難に、名前と出身校だけにしたかったのに!
早乙女 茉莉:
(ど、どうしよう……)
早乙女 茉莉:
(好きなもの、好きなもの……)
好きなものが、ないわけじゃない。
でもそれを自己紹介でのべて、皆にどう反応されるのか怖かった
チョコレートが好き。
──そんなのどうでもよくない!?
ミステリードラマが好き。
──なんか根暗っぽくない!?
浮かんでくる「好きなもの」ではいい結果が見えなくて、頭がぐるぐる混乱する。
そして気づけば私の番が来て、立ちすくんだまま低く声を絞り出した。
早乙女 茉莉:
「……早乙女茉莉。元北小。好きなものは…… 」
早乙女 茉莉:
「………別にないです」
その時。
一瞬、しんと教室が静まった気がした。
そして私は思う。
早乙女 茉莉:
(───あ)
早乙女 茉莉:
(…………終わった)
そして、今に至るわけである。
・ ・ ・
最初につまずいた中学校生活は、なかなかうまく軌道修正できない。
というか、もともと小学校でも、友達が少なかった私だ。
何を今更、嘆く必要なんてあるだろう。
早乙女 茉莉:
(早く、みっちゃんと帰りたい……)
小学校時代から仲良くしていたみっちゃんは、4組で違う教室にいる。
登下校を一緒にしてくれるみっちゃんだけが、今は私の心の拠り所だった。
そんな私の嘆きをよそに、黒板の前では学級委員長である羽鳥梢さんが、騒ぐみんなに声をかけている。
羽鳥 梢:
「はーい! では今から、1つずつ競技名を言っていくので、希望する人は挙手をお願いしまーす! 」
ハキハキと声を出す羽鳥さんの後ろでは、男の子の学級委員長が、キレイな字でせっせと競技名を書いていく。
もうすぐ、スポーツ大会が始まる。
7月夏休み前に行われるこの行事は「クラスの団結を早いうちに深める」という目的があるとかないとか。
早乙女 茉莉:
(……はぁ。憂鬱だ)
案外にノリのいいこのクラスは、どんどん立候補で競技者が決まっていく。
早乙女 茉莉:
(……余ったとこにでも、滑りこもう)
全員参加競技以外のどれか1つには、必ず参加しなければならない。
それなら、余ったところに私は入ろう。
特にやりたい競技もないし、挙手なんて目立つことしたくないし。
と、考えていたら。
羽鳥 梢:
「女子400メートルリレー走! あと1名、誰かいませんかー? 」
早乙女 茉莉:
(ん?)
羽鳥さんが困った様子で、皆に訴えていることに気がついた。
どうやら、女子400メートルリレー走の最後の1人が埋まらないようである。
メンバーは羽鳥さんも入っており、他2人はクラスでも足の速い子だった。
早乙女 茉莉:
(……リレーか)
走るのは、嫌いじゃない。
でもリレーは、嫌いだった。
だってリレーって、団体戦じゃない。連携じゃない。
そんなの私には無理。
無理無理。
しかし、そこで。
早乙女 茉莉:
(あ)
羽鳥 梢:
「!」
羽鳥さんと、目が合ってしまった。
羽鳥 梢:
「早乙女さん! そういえば足速かったよね? どう? 」
早乙女 茉莉:
「!?」
突然の名指しに、私は肩をビクッとさせ、目を見開いた。
え、 えええ!?
なんで私!?
みんなの視線が、あっという間に私に集まってくる。
みんなが、私を見ている。
普段クラスであまり目立たない、この私をだ。
早乙女 茉莉:
「え……と、……その……」
しどろもどろになってしまう私は、突然の展開にたらりと変な汗をかいてしまった。
◇ 続く ◇




