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Ep.3 さよならシザーガール (1)「無難でいたい」

ジャキン

と切ったら

パラリ

と落ちた。


早乙女 茉莉:

(……切りすぎた)


敷かれた新聞紙の上に、無残に落ちた髪。

それを見て私は、短くなった前髪をくしゃりと掻く。


鏡の中でハサミを持ったまま、恨めしそうにこちらを見てくる自分と目が合った。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


さよならシザーガール

(1)「無難でいたい」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



お母さん:

「あらー、潔く切ったね」


午前7時。

制服に着替えリビングに行くと、お母さんは私の顔を見るなりそう言った。

私は、なんでもないようにテーブルの席に着く。


早乙女 茉莉:

「これくらい、いいでしょ」


嘘。

本当は切りすぎたって思ってるし、気にくわない。

でもそれを隠して、朝食に手をつけ始めた。


お母さん:

茉莉まりったら、素直じゃないんだから」


お母さんは苦笑して、キッチンでお弁当を詰めている。

悪かったわね、と私は心で思いながら、用意されたトーストにかじりついた。


素直じゃない。

口から出るのはいつも、つっけんどんな物言い。

それが私、早乙女さおとめ茉莉の小さい頃からの変わらない性格だ。


早乙女 茉莉:

(こんなんだから、クラスでまだ浮いてるだなんて……言えない)


今日もいそいそとお弁当を用意してくれているお母さん。

まさかそのお弁当を、娘は一人で食べているなんて、思っていないんだろう。

思えば、最初の自己紹介がまずかったのだ。



・   ・   ・



大谷 圭介:

「大谷圭介です! 元南小です! 好きなのはサッカーと食べることと寝ること! あと ナイスバディ南国美人でっす!! 」


早乙女 茉莉:

(!?)


中学に入学して迎えた、初めてのホームルーム。

名前順で席に並ぶ私たちは、順番に自己紹介をさせられた。


3つの小学校から集まるこの中学では、知らない子も多くいる。

多くの知らない子たちが、詰め込まれた教室内。

自分の順番がまわってくるのを緊張していた私は、突然のおちゃらけた男子の自己紹介に面食らった。

それなのに教室内では、どっと笑いが起きる。


男子生徒1:

「大谷、まじバカだー!」


男子生徒2:

「よ、スケベ大魔王!」


大谷 圭介:

「誰が大魔王だ! プリンスと呼べ! 」


男子生徒1・2:

「スケベはいいんかい!!」


バカな男子のやり取りに、女子もくすくすと笑っている。先生も笑っていて、たしなめたりしない。

さっきまで全員が緊張していた空気が、少し変わったのを感じ取った。


でも、問題はそこからだ。

大谷とかいう男子のせいで、自己紹介に「好きなもの」を述べることが、流れとしてできてしまったのだ。

私は無難に、名前と出身校だけにしたかったのに!


早乙女 茉莉:

(ど、どうしよう……)


早乙女 茉莉:

(好きなもの、好きなもの……)


好きなものが、ないわけじゃない。

でもそれを自己紹介でのべて、皆にどう反応されるのか怖かった


チョコレートが好き。

──そんなのどうでもよくない!?

ミステリードラマが好き。

──なんか根暗っぽくない!?


浮かんでくる「好きなもの」ではいい結果が見えなくて、頭がぐるぐる混乱する。

そして気づけば私の番が来て、立ちすくんだまま低く声を絞り出した。


早乙女 茉莉:

「……早乙女茉莉。元北小。好きなものは…… 」


早乙女 茉莉:

「………別にないです」


その時。

一瞬、しんと教室が静まった気がした。


そして私は思う。


早乙女 茉莉:

(───あ)


早乙女 茉莉:

(…………終わった)


そして、今に至るわけである。



・   ・   ・



最初につまずいた中学校生活は、なかなかうまく軌道修正できない。

というか、もともと小学校でも、友達が少なかった私だ。

何を今更、嘆く必要なんてあるだろう。


早乙女 茉莉:

(早く、みっちゃんと帰りたい……)


小学校時代から仲良くしていたみっちゃんは、4組で違う教室にいる。

登下校を一緒にしてくれるみっちゃんだけが、今は私の心の拠り所だった。


そんな私の嘆きをよそに、黒板の前では学級委員長である羽鳥梢さんが、騒ぐみんなに声をかけている。


羽鳥 梢:

「はーい! では今から、1つずつ競技名を言っていくので、希望する人は挙手をお願いしまーす! 」


ハキハキと声を出す羽鳥さんの後ろでは、男の子の学級委員長が、キレイな字でせっせと競技名を書いていく。


もうすぐ、スポーツ大会が始まる。

7月夏休み前に行われるこの行事は「クラスの団結を早いうちに深める」という目的があるとかないとか。


早乙女 茉莉:

(……はぁ。憂鬱ゆううつだ)


案外にノリのいいこのクラスは、どんどん立候補で競技者が決まっていく。


早乙女 茉莉:

(……余ったとこにでも、滑りこもう)


全員参加競技以外のどれか1つには、必ず参加しなければならない。

それなら、余ったところに私は入ろう。

特にやりたい競技もないし、挙手なんて目立つことしたくないし。


と、考えていたら。


羽鳥 梢:

「女子400メートルリレー走! あと1名、誰かいませんかー? 」


早乙女 茉莉:

(ん?)


羽鳥さんが困った様子で、皆に訴えていることに気がついた。

どうやら、女子400メートルリレー走の最後の1人が埋まらないようである。

メンバーは羽鳥さんも入っており、他2人はクラスでも足の速い子だった。


早乙女 茉莉:

(……リレーか)


走るのは、嫌いじゃない。

でもリレーは、嫌いだった。

だってリレーって、団体戦じゃない。連携じゃない。

そんなの私には無理。

無理無理。


しかし、そこで。


早乙女 茉莉:

(あ)


羽鳥 梢:

「!」


羽鳥さんと、目が合ってしまった。


羽鳥 梢:

「早乙女さん! そういえば足速かったよね? どう? 」


早乙女 茉莉:

「!?」


突然の名指しに、私は肩をビクッとさせ、目を見開いた。


え、 えええ!?

なんで私!?


みんなの視線が、あっという間に私に集まってくる。

みんなが、私を見ている。

普段クラスであまり目立たない、この私をだ。


早乙女 茉莉:

「え……と、……その……」


しどろもどろになってしまう私は、突然の展開にたらりと変な汗をかいてしまった。




◇ 続く ◇

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