↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
PR
105/273

Ep.22 隠したがり彼女(1)「恋愛偏差値」

 俺の名前は坂本平八。二十八歳。

 しがない公立中学の体育教師である。


 昔から体を動かすことが好きで、少年時代は野球にサッカー、大学ではアメフト部に所属して汗を流していた。


 スポーツを楽しむ間に、時間は充実して過ぎていく。

 だから、というのは言い訳かもしれないが。

 恋愛ごとにはてんで疎く、俺にとっては遠い世界のことだった。


 ちなみに彼女は、大学時代に別れたきりできていない。

 もしも、恋愛偏差値があるのならば、俺のそれはいかほどか。


 きっと、目も当てられない数値に違いない。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 隠したがり彼女

(1)「恋愛偏差値」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 坂本 平八:

(よ……よし!)


 スマホを持つ手が、震えている。

 自分の体よりはるかに小さなそれにビビりながら、俺は送信ボタンをタップした。


 坂本 平八:

(いけ!)


 タン! と押したメッセージ。

 それにすぐ既読がついて、心臓が跳ねた。


 坂本 平八:

(はやっ!?)


 しばらく画面を見ていると、返信のメッセージが表示された。マナーモードにしてあるのでランプだけが光る。

 画面には「はい、喜んで」と簡略な、けれど俺にとっては嬉しい文字が、映し出されていた。

 返信元の人の名前は「篠田かなえ」。

 うちの中学の養護教諭である。


 坂本 平八:

(……っや)


 坂本 平八:

(やったぞーーー!!)


 小さくガッツポーズを決めた。

 そんな俺の肩を背後から叩いたのは、数学教師の犬井先生だった。


 犬井先生:

「どうしたの坂もっちゃん。何か当たったの?」


 坂本 平八:

「あ、いやぁ。ははは」


 慌ててスマホを隠し、ここが夜の職員室だったことを思い出す。

 すっかり外は真っ暗で、残っているのは俺と犬井先生だけのようだ。

 俺と二つ違いの犬井先生は、気さくな表情を浮かべてにこにこと笑っている。


 犬井先生:

「しかし坂もっちゃんは、遅くまで頑張るねぇ。明日から夏休みだし、無理するなよ?」


 坂本 平八:

「そう言う犬井先生こそ」


 わはは、と俺たちは薄い笑いを浮かべる。

 そう、明日から夏休みである。

 しかし教師にとって夏休みなど、休みではない。

 ここぞとばかりに入れられる研修や勉強会の嵐が待っているのだ。

 世間では、教師の八月は夏休みだから楽なんでしょ、なんて風潮があるが、とんでもない。休みなのは生徒だけである。

 正直、普段の業務の方が少なくとも俺は楽だ。


 坂本 平八:

(でも、今年の夏休みは……いいこともある)


 犬井先生にバレないように、スマホを覗いてこっそり微笑む。

 部活動や研修で忙しい俺の夏休みに、唯一取り入れられたオアシスのような予定。

 篠田先生との初デートだ。


 坂本 平八:

(が……頑張るぞ!)


 小さく拳を握った俺に、犬井先生は「坂もっちゃん、燃えてるねー」と、わけもわからずにはやし立てていたのだった。



 ・   ・   ・



 篠田先生とは2回、食事に行ったことがある。

 1回目は俺がバレンタインのお礼にと誘い、2回目は篠田先生からだった。


 その中で、何となく……篠田先生も俺に好意を抱いてくれているのかな、と思えるところはあった。


 篠田 かなえ:

「坂本先生、彼女はいないんですか?」


 篠田 かなえ:

「どんな女性のタイプが好きなんですか?」


 淡々と、でも指先だけくるくる忙しく回している彼女の気持ちは、よくわからないが。

 でも俺だって、もう大人の男だから。

 そういうことを2人きりの食事で聞く意図は、何となくだが推測できる。


 坂本 平八:

(好いてくれているんだよな……たぶん)


 最後に「たぶん」をつけてしまうあたりに、俺の恋愛面の弱さが表れてしまっている。

 確証がないと自信を持てない。

 なんてったって、俺の恋愛偏差値は低い。


 坂本 平八:

(篠田先生は……)


 坂本 平八:

(俺よりは高いんだろうなぁ)


 あれだけの美人だ。

 今まで男に放っておかれたはずがない。


 そんな人が、なぜ俺なんかに目を向けてくれたのかはわからないし、いやむしろ俺の勘違いかもしれないのだから、自信はますますなくなっていく。


 でも。……だけど!


 坂本 平八:

(男、平八……勝負をつけるぞ!)


 昔から、逃げることや簡単に諦めることは嫌いだった。

 何事にも全力でぶつかる性根はなかなか変わらないし、変わる予定もない。

 こんな性格だから、中学教師にもなれた気はする。

 思春期真っ盛りの奴らを相手にするのは、とにかく体力とハートの勝負。

 仕事は辛いが天職でもあると考えていた。


 そんな俺は、今度の初デートに賭けていた。

 篠田先生に、俺は、一世一代の告白をする。




 ◇ 続く ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。