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理系令嬢、没落公爵家を科学で救う  作者: 此花サギリ


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第74話 聖女の網――王太子への接近

隣国の町で、キャサリン・フランの薬屋は日ごとに評判を高めていた。教会の圧力を巧みに演出し、町の住民や貴族たちの信頼を得たことにより、彼女の存在は「単なる薬屋令嬢」以上の意味を持ち始めていた。


「フフ……次は宮廷ね」キャサリンは自室の机に肘をつき、静かに微笑む。薬屋で得た評判と聖女の称号は、王太子リカルドに接近するための切符に過ぎない。重要なのは、直接的に王太子とその側近たちに自分の価値と影響力を印象付けることだった。


アルトが慎重に話しかける。「令嬢、宮廷への接触には計画が必要です。王太子は警戒心が強く、突然の接触は不信を招くかもしれません」


「大丈夫よ」キャサリンは落ち着いて答える。「直接会う必要はないの。まずは側近たちを通して私の存在を知らしめ、自然な形で王太子の視界に入るの。重要なのは、私が“無視できない存在”だと思わせること」


ビンセントが苦い顔で言う。「しかし、側近たちも簡単には動かないでしょう。彼らの信頼を得るには、実績と影響力が必要です」


キャサリンは机の上に広げた地図と宮廷図を見つめ、指先で王宮の位置をなぞる。「ふふ……その通り。だから薬屋で町の貴族や住民に信頼を積み上げたの。側近たちの目には、私はすでに確固たる存在として映っているはずよ」


まずキャサリンは、町の貴族を介して王太子リカルドの側近たちに小さな贈り物や健康相談の提案を届けさせた。漢方薬の特製ブレンドや健康管理に関するアドバイス、それにさりげない聖女としての助言――側近たちは驚きとともに、キャサリンの存在を一目置くようになる。


「これは……ただの薬屋令嬢じゃない」側近のひとり、騎士団長子息のフェリクスは感心する。彼は慎重に言葉を選びながらも、キャサリンの提案を受け入れ、王太子への報告に繋げる。


キャサリンはその反応を見て、心の中でほくそ笑む。「いい感じ……。これで王太子も自然と私のことを意識するはず」


次に、宮廷での公的な集会や舞踏会の情報を側近たちから収集する。アルトは王太子の日程や行事、信頼する人物や趣味を詳細に調べ、キャサリンに報告する。ニコルは町の貴族や商人を通じて、宮廷における噂や関心を逐一伝える。


「舞踏会や祝祭で自然に接触するのが理想よ」キャサリンは微笑む。「無理に近づく必要はない。側近たちが王太子に私を紹介する流れを作れば、それで十分」


やがて機会が訪れる。宮廷の小規模な祝賀会で、王太子リカルドが町の代表としてキャサリンの薬屋の功績を耳にしたのだ。彼は興味を抱き、自然な形で薬屋を訪れることになる。


キャサリンは慎重に準備を整えた。香水の香りは控えめに、立ち振る舞いは聖女らしくも親しみやすく、漢方薬の実演や相談を通じて王太子と側近たちに自分の知識と価値を示す。


「王太子殿下、町での活動をご覧いただければ、私の思いが少しでもお分かりいただけるかと」


王太子リカルドは最初、警戒心を見せる。しかし、キャサリンの冷静で自信に満ちた態度、そして町の人々からの信頼を裏付ける実績に次第に心を開く。側近たちも、彼女の存在が宮廷内で無視できないことを理解し始める。


「この令嬢、ただ者ではないな……」リカルドは側近に小声でつぶやく。


夜が深まる中、薬屋の明かりが静かに輝く。キャサリンは側近たちに指示を出し、町や宮廷での評判管理、王太子や側近との接触のタイミング、住民や貴族への影響力維持――細部に至るまで緻密に計画を進める。


「隣国での舞台は、これから本格化する」キャサリンは心の中で決意を固める。「王太子リカルドも、側近たちも、私の網にかかれば、誰も無視できなくなる。薬屋、聖女の称号、側近の忠誠……すべてを駆使して、この国での影響力を完全なものにするわ」


こうして、キャサリン・フランは隣国の王太子とその側近たちに接近する第一歩を踏み出し、薬屋と聖女の権威を駆使して宮廷内外で影響力を拡大する準備を着実に進めたのだった。



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