第32話 王都の挑戦
王太子の婚約者を決めるお茶会から数日が経った。13歳のマリアンヌ・フォン・ルーベルは、王都のタウンハウスで忙しく事業に取り組んでいた。レストランの新メニュー開発、服飾事業の展示会準備、化粧品の改良試作――彼女の手帳は今日もびっしり埋まっている。
「王太子の婚約話? あんなの、私には関係ないわ」
マリアンヌは前世の合理的思考をフル活用し、目の前の課題に集中することを最優先にした。社交界の騒ぎも、王太子の注目も、領地や事業の発展には直接関係しない。
その日も、セバスチャンから領地の進捗報告が届いた。小学校と中学校での教育は順調で、青田刈り対象の優秀な生徒たちは王都の事業や行政に配置され始めている。農地の生産効率も上がり、収益は計画以上だ。
「ふふ、これでさらに王都での影響力が強まるわね」
マリアンヌは手紙を整理しつつ、次の戦略を考えた。まず、レストランの厨房に派遣している青田刈り生徒の能力をさらに活かす。料理の技術だけでなく、サービスの効率化も含めた改善案を送るのだ。
「お客様に最良の体験を提供できるように、少しだけ手順を変えてみて」
同時に、服飾事業では新作の試作ドレスを王都に献上する準備を進める。王妃の後ろ盾もあるため、展示会は成功がほぼ約束されているが、マリアンヌは妥協せず、布地の質や裁縫の精密さまで確認した。
「ファスナーの特許申請も忘れずに……これで独占できるわ」
化粧品事業もさらに進化を遂げる。毒のない安全な製品は王都で大人気となり、追加生産の指示書を領地へ送る。青田刈りで育てた人材たちが生産ラインを支えており、効率は最大化されていた。
王太子のことを思い出す瞬間はほとんどない。社交界の話題に上がるたびに、マリアンヌは心の中で冷笑する。
「王太子? ふふ、興味ない。私の時間を奪う存在じゃないもの」
しかし、その無関心さが逆に王都で注目を集める。王太子や王族は、マリアンヌの才覚と実務能力に興味を持ち始め、自然と彼女の動向を追うようになる。マリアンヌ自身はそんな視線に気づきつつも、全く気にせず計画を進める。
午後、マリアンヌはタウンハウスの書斎で書類を整理しながら、青田刈りで育てた中学生たちの配置を見直す。鍛冶や大工の才能を持つ生徒は建設現場に、医学に秀でた生徒は診療所に、文官や武官志望は行政や訓練場に割り振る。こうして、王都と領地の双方で即戦力となる優秀な人材を確保しているのだ。
「科学と知識、工夫、領民の協力、王家の後ろ盾……これさえあれば、無関心な令嬢でも影響力を拡大できるわ」
夕暮れ、タウンハウスの窓から王都の街並みを眺めるマリアンヌ。繁華街の灯りと、遠くで光る王宮の屋根が混ざり合い、まるで彼女の戦略の舞台のように見える。王太子や他の令嬢たちが華やかに動く中、マリアンヌは黙々と自らの計画を進める――それが、幼き令嬢の確かな意志だ。
夜、書斎で日誌を開き、今日の進捗を整理する。
•王都と領地の青田刈り人材配置の最適化
•レストラン新メニュー開発とサービス改善案
•服飾事業の新作ドレス試作と特許申請
•化粧品生産ラインの指示と品質管理
•領地の収益と教育進捗確認
「13歳の幼き令嬢でも、計画と実行力さえあれば、王都も領地も思い通りに動かせる……王太子の婚約話なんて、私にとっては些細なことよ」
マリアンヌは深呼吸をし、再び手元の書類に目を落とす。事業や教育、人材育成の指示書を書き終えたら、レストランの試作会議に出席し、服飾事業の進行状況も確認しなければならない。忙しい日々だが、それこそが彼女にとっての喜びであり、生きがいでもあった。
星が瞬く夜空の下、13歳のマリアンヌの瞳は、未来の領地と王都を支える人材たち、そして自身が築く影響力の光で輝いていた。王太子の婚約話に左右されることなく、幼き令嬢の挑戦は今日も着実に王都と領地の未来を形作っていく――それが、彼女の生きる証であり、使命だった。




