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偽聖女いわく、  作者: 陸路りん
1.偽物の理由

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8.ドレスの謎

(……なんかごめん)

 元はといえば必要なこととはいえルカがドレスをつかんだことが起因だ。それで殴るのはやり過ぎとはいえど、きっかけを作ったルカとしては肩身が狭い。

 というかジュードもやりすぎである。

 ジュードは後見人をしているだけあり、現国王派閥の人間だ。数年前まで第一王子クリスと第二王子である現国王のどちらが王位につくかで争っていたこともあってか、軍配が第二王子に上がった後にも関わらず、クリスに対するジュードの態度は必要以上に冷たく感じるふしがある。

(なんか政権争い的ななにかがあるのかなぁ)

 そんなことを考えていると、ジュードとばちりと目があった。

「何かわかったかい?」

「ドレスの外側より内側のほうがぬれてる範囲が広い……、気がする」

「それはつまり?」

「つまり……?」

 なんだろう。よくわからず首をひねる。彼も目線を合わせたままきょとんと同じ方向に首をひねった。

 エラが犯人である以上、ミシェルの頭上か脇かを飛び越えてワインをかける必要がある。しかし今のところその方法は思いつかない。

「とりあえず立ったらどうだい?」

 そう言って差し出された手をありがたくつかんで立ち上がる。

 そして目の前でジュードに手酷く切り捨てられたクリスを見ていたからだろう。青い顔をして立ちすくむマノンに視線を向けた。

「このドレス、どこに注文したとかどこに保管してたとか覚えてる?」

「え、ええ……」

 戸惑いながらも彼女はうなずいた。

「注文は……、わからないわ。用意してくれたのはエラだから。保管もエラのお屋敷よ」

「エラ嬢が?」

 その返答にルカは眉をひそめる。

 ルカの知る限りでは、エラとマノンが親戚である、ということはなかったはずだ。

 そしてマノンは男爵令嬢だが、エラはミシェルと同じく伯爵令嬢。マノンよりもエラのほうが立場は上なのである。

 いかに将来第一王子と結婚するかもしんれないといえど、

(そんなことまでするか?)

 第一、現国王はクリスの弟なのだ。今は王位継承権第一位とはいえ、それは国王に子どもができればあっさり第二位、三位に下がる程度のものだ。

 エラのほうを見ると、彼女は「なによ!」とそのブラウンの瞳を怒りにきらめかせた。

「マノンは男爵令嬢で裕福なわけでもないから、わたしが代わりに用意してあげてるのよ! じゃないと恥をかいちゃうかもしれないじゃない!」

「……優しいね?」

「何よ、その言い方!」

 ルカは首をすくめる。単純に不思議すぎて曖昧な反応になってしまっただけだ。

(まぁ確かに王子とダンスするのにみすぼらしい格好は良くない、か……?)

 そうだとしても対応するべきはクリスのほうな気はするが……、二人はまだ婚約者ではない。クリスの所有する金銭は国から、そして国民の税金から支給されるもののため、許可が出なかったのかもしれない。

 マノンのドレスを見る。清楚な水色のドレスには、ふんだんにレースやフリルが使われ、ところどころに真珠も縫い込まれていた。刺繍も非常に緻密で、それなのに派手な印象を与えないのは仕立屋の腕がいいのだろう。

 そばにいるエラのドレスはそれとは対照的に落ち着いた紺色のものだった。飾りはあまりなくシンプルで、身体のラインが出るものになっている。そのスタイルの良さが際立つ大人っぽいデザインだ。

 ルカは首をかしげた。

「マノン嬢、ドレスを着た時に気になることはなかった?」

「え、うーん……」

 その質問に彼女は少し考え込む。

「そういえば……」

「うん?」

「このドレス、最初に着た時は全体的に冷たかったかも……」

「へぇ……」

 彼女はルカのことを見た。

「あなた、濡れてる部分が冷たいって言ってたでしょ? そうじゃなくて、本当に着た時は全然濡れてるとかじゃなくて……、ただ布が少しひんやりしてたから、寒い部屋に置いてたんだと思ったのよ。今は冬だし、衣装部屋は暖房が効いてないのが普通だから別に変なことじゃないけど」

「でもいつもよりは冷たかった?」

「……うん、まるでお庭にでも置いてたみたい」

 彼女は正直な性分なのだろう。せいいっぱい変なことじゃないのだ、と友達であるエラのことをかばいながらも、違和感はあったようだ。

(うーん……)

 はっきり言って、証拠はない。

(けど、)

「それがなんだって言うのよ?」

 棘のある声が突き刺さる。

 エラだ。

 彼女はルカのことをきつくにらみつけた。

「もう説明は十分でしょ? それとも『真実の聖女』のくせにまだわからないの?」

「エラ、そんな言い方……」

「なによ! マノンはわたしのことをかばってくれないの!?」

 その声音にマノンは戸惑ったように伸ばした手をすくませた。

「そんなことはないけど……」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」

 ルカが口を挟むと鋭い視線でエラは振り返る。それにへらり、と笑いかけながらルカは、

「わかったよ」

 と答えた。

「は?」

「あんたがどうやってドレスをワインで汚したのかはわかった。それを今から説明しよう」

 ーーけれど、これがミシェルの犯行ではないという可能性を示す仮説は立った。

 先ほどまでの強気な態度は精一杯の虚勢だったのだろう。エラは威勢の良かった口を閉じた。その噛みしめられた青白い唇の端がわずかに震えている。

 ルカはしっかりとそのブラウンの瞳と目を合わせた。

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