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偽聖女いわく、  作者: 陸路りん
1.偽物の理由

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7.ジュードとクリス

 黒服の憲兵たち。彼らはいわゆる日本で言うところの警察の鑑識のようなものである。

 持っていたルーペは『魔道具を使用した痕跡を調べる』道具だ。

 そのルーペもそうだが、この世界では魔石を原動力にして動いている道具のことを『魔道具』と言う。

 魔道具を使用した犯罪は、当然だが多く存在する。そのためそれを抑制したり調べる手段も発達しているのだ。

 そして多くの場面において、魔道具の使用は制限されている。それは日本に銃刀法違反の法律があるのと同じ理由だ。

 限られた資格を持った人間が、限られた場面においてのみ使用を許可されているのだ。

 冷蔵庫などの生活用品はともかく、人を傷つける可能性のある魔道具などは特に厳しくその使用を制限されている。

(魔道具の使用は『なし』か……)

 ルカはちらりとエラのことを見る。続けてマノンに視線をうつすと、

「うーん……」

 うなりながら、はっし、とそのドレスを再びつかんだ。

「えっ?」

 マノンが戸惑ったように声をあげたが、それを無視してぬれている部分を指でなぞる。

「やっぱ冷たいなぁー」

 先ほど触った時にも気になってはいたのだ。

 ぬれていないところはそうでもないのだが、ワインでぬれているところだけが異様に冷たいのである。

 この会場には暖房が効いており、そもそも蝋燭による灯りでそれなりに暖かいにも関わらずそこはひんやりと冷めていた。

 かけられたワインは赤ワインだ。赤ワインは通常、あまり冷やさない。冷やしすぎると渋みや酸味が際立ってしまうからだ。冷やしてもいいがキンキンに冷やすということはしないことが多いし、この会場にある赤ワインはその定説に則ってそこまで冷やしてはいなかった。

 それは散々飲み散らかしたルカが保証する。

(ふむ……)

 ルカはドレスの何重にもかさなっている布地のうちの一枚をぺろりとめくった。

「きゃあっ!!」

「おい!」

 それにクリスが批難の声をあげ、ルカのことを突き飛ばした。

「聖女だかなんだか知らないが、丁重に扱えよ!」

「うんうん、ごめんごめん。足が見えるほどはめくってないから」

「当たり前だっ!!」

 床に打ってしまったおしりをさすりながら言うルカにクリスはますますいきり立つ。

「婦女子のドレスをめくるなど! 一体なんの確認だ!!」

(あ、まずい)

 ルカは悟る。見ると彼は怒りの感情そのままに、手を振り上げていた。

(ぶたれる)

 状況に感情が追いつかず、恐怖すら感じないままにルカはぼんやりとその拳を見た。

 ゆっくりと手が振り下ろされるーー、

「殿下」

 寸前、その手はさらに大きな手のひらによってつかまれた。

「……っ!!」

 端から見ている分にはわからないが、おそらくそれなりに強く掴まれているのだろう。痛みをこらえるようにクリスの顔がゆがむ。

「クリス殿下。大変申し訳ないが、これは真相解明のために必要な行為だよ」

「叔父上!!」

 手をつかんだのはジュードだった。彼はいつもの貼り付けた微笑みのままだ。

 クリスはというとまさか自分の叔父が無礼な聖女の肩を持つとは思わなかったのだろう。ショックを受けたように声をあげる。

「しかしこの者はマノンのドレスを……っ!!」

「それがどうした?」

 しかしその抗議はその一言で切り捨てられた。

 その口調はどこまでも穏やかだ。表情も確かに微笑んでいる。微笑んではいるが、目は笑っていない。

 アメジストの瞳がクリスを見下ろす。

「たかだが男爵家の娘のドレスを触ったくらいで、それがなんだと言うんだ。そこにいるのはこの国唯一の聖女だよ?」

「……っ!! マ、マノンはただの男爵令嬢ではありません!!」

「へぇ?」

 首をかしげるジュードの前で、彼は誇るように宣言した。

「俺の愛しい人です!!」

「殿下……」

 その言葉に感激したようにマノンは瞳を潤ませる。その二人の若者の感動的なシーンは、

「だから?」

 その一言で再び一刀両断された。

 叔父のどこまでも冷たい言葉にクリスは顔を引きつらせる。

「だ、だから? って……」

 さらに言いつのろうとして、彼もようやく気づいたらしい。

 ジュードのその絶対零度の視線に。

 彼は甥のていたらくにうんざりしたように髪をかきあげた。

「だからなんだと言うんだ、クリス。おまえの好意があったとて、その娘がただの男爵令嬢であることに変わりはないだろう。それともその娘はルカ以上の価値を示せる何かを持っているのか?」

「……っ!!」

「ないんだろう? ならばこの場で優先されるべきは聖女であるルカだよ。不躾なふるまいはつつしみなさい。頭が悪く見える」

 顔を真っ赤にして黙り込むクリスに、ジュードはその肩に軽く手を置いた。

 それは慰めではない。圧力を与えているのだ。

「それと、今は学校行事の場だ。おまえは確かに僕の甥だが、その前にただの生徒だよ。僕のことは学長と呼びなさい」

 この学園は国立である。つまり国のお金で運営されている学校だ。そのためこの国が王政であることもあり、ある時代から学長は王族の中から選出されていた。

 そして今代の学長はジュードだ。

 彼はどこまでも整った笑みを浮かべる。

「返事は?」

「はい、学園長先生……」

「よろしい」

 ジュードはそううなずくと、すぐに興味を失ったようにルカのことを見た。

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