4.前国王の弟、ジュード登場
「言いがかりはやめてちょうだい!」
その時、ぴしゃりとした声が割って入った。声の主は青い髪にブラウンの瞳をした少女だ。
彼女はその優しげな目元を今はつり上げ、ルカのことを批難するようににらんでいた。
「いきなり出てきてなんなの? わたしが親友であるマノンにそんなことするわけないでしょ!!」
「きみは……、えーと、」
「エラ・コリンズよ!」
エラと名乗った少女はそのままルカから目をそらすとマノンへと向き直った。
そして先ほどまでつり上げていた眉尻を下げ、慰めるように優しい声を出した。
「ああマノン! かわいそうに! このままでは風邪をひいてしまうわ! 早く休憩室でその汚れたドレスを着替えましょう!」
「エラ……、でもわたし代わりに着るものを持ってなくて……」
「大丈夫よ、わたしがすぐに手配してあげる! うちの使用人たちは優秀なんだから!」
(そんな簡単にドレスって手配できるっけ?)
さくっと無視されてしまったルカは手持ち無沙汰にそんなことを思う。そしてはっ、と気づいて慌てて挙手した。
「あ、じゃあ着替えた後はその汚れたドレスちょうだい」
「あげるわけないでしょ!」
ぴしゃりとはねのけられた。エラの目は冷たい。
そしてそのそばに立つマノンもドン引きした顔でこちらを見ている。
完全に不審者を見るまなざしだ。
エラがマノンをかばうようにして前に一歩出た。
「脱ぎたてのドレスをどうするつもりなのよ! この変態!!」
「いや、だから濡らした犯人が誰かを説明……」
「『真実の聖女』なんでしょ!」
彼女のブラウンの目が疑うようにこちらをにらんだ。
「ならいますぐ説明しなさいよ。全部見通せるんでしょ? ドレスなんて必要ないじゃない!!」
「……うっ」
ぐさりと胸にその言葉が刺さる。
(本当に『全部見通す』ことができたらどんなにいいことか!!)
しかし無理なものは無理なのだ。
ルカには犯人しかわからない。
エラの頭上に踊る「こいつが犯人」の文字は根拠の説明まではしてくれないのである。
(くそー、目覚めろー、自分の中のあるかもしれない聖女のちからぁー)
念じても文字は変わらない。変わらず「こいつが犯人」のままだ。
エラは鼻で笑った。
「どうやらできないみたいね! ならもう……」
『行くわよ』と言い切るより前に、
「まぁまぁお嬢さん、どうか落ち着いて」
その静かな声は差し込まれた。
(うお)
その聞き覚えのある声に、ルカは目を見張る。
なんというか、相変わらず『間のいい男』だ。
こつり、と彼の靴が大理石を踏む音がした。
けだるげなその声は、しかしその不穏な空気を引き裂くようによく響いた。綺麗に後方になでつけられた金髪にややつり目気味のアメジストの瞳。その左目の下には泣きぼくろがひとつ。
彫刻のように整った美しい顔立ちの男だが、そのけだるげな態度と貼り付けられたうっすらとした微笑みがどこか狐めいた印象を抱かせる。
彼が無駄に髪をかき上げてみせると、エフェクトのようにきらきらとした輝きが散る幻が見えた。
ついでに周囲からは黄色い歓声が上がる。
(どこにいても場違いな美形……)
ルカはそのド派手な登場に、状況を忘れてぼんやり眺めてしまった。
美人というのはどんな状況だろうとそこにいるだけで壮観である。
「ジュード叔父上!!」
『第一王子』のクリスが声を上げる。
それにジュードと呼ばれた悪目立ちする美形は静かにうなずいてみせた。
「確かに彼女は非常に下品で無礼でどうしようもない『飲んだくれ』だろう」
そういう彼の手のひらは明確にルカのことを示していた。
周囲の視線が彼のその手の動きに誘導されてルカに突き刺さる。
(もうちょっと弁解してくれ……)
否定はできない。確かに否定はできないが……、もうちょっと言いようがあるのではないだろうか?
じっと批難の目を向けるルカのことを彼はちらりと一瞬、目線だけで笑うと再びクリスへと視線を戻した。
「しかし彼女が本物の『聖女』であることは、この僕が保証しよう」
その断言に周囲がざわめく。
無理もない。この人物のお墨付きの価値は計り知れないのだから。
第一王子の『叔父上』。
そうこの目の前の男こそがルカのことを『聖女』に仕立て上げた張本人。
この国の前国王の弟にして、現国王と第一王子クリスの叔父、ジュード・レイ・ミレイスである。
ただの王族のうちの一人と侮るなかれ。彼はまだ幼い現国王を叔父であり後見人という立場からコントロールしていると言われている、実質的なこの国の支配者だ。
彼は柔らかな微笑みのまま、言葉を続ける。
「ただし、彼女が『真実を見通す』ためには情報がいる。事件が起こった時の状況や実際の被害状況などを確認する必要があるんだ。それらを踏まえた上で女神様に信託をお願いしないとあらゆる情報が流れ込んできて整理がつかなくなってしまうからねぇ」
そのような事実はない。ーーが、そうしておいた方が都合はいい。
ルカはとりあえず同調するように「うんうん」とうなずいておいた。
「さて皆さん、ここにいるのは我が国が誇る『真実の聖女』。彼女は本当にすべてを見通す。そしてそのことは過去の実績からも確かな事実として証明されている!」
しかし続けられた大演説にはうなずけなかった。『すべてを見通す』などという大風呂敷を広げられても困ってしまう。
慌ててルカはぶんぶんと首を横にふったが、ホールにいる人々はみな権力者であるジュードへと注目していてルカのことなど見てはいない。
対するジュードは周囲の反応に気をよくしたのだろう。にやり、と口の端を上げて笑うと、
「今回の一件、彼女に任せてもらおう」
胸に手を当ててそう堂々と宣言した。
「…………」
ルカはもう何も言えない。
加勢はありがたい。そのおかげでいろいろと情報収集ははかどりそうだ。
しかしここまで派手にぶち上げてくれとは誰も頼んでいない。
ルカは白目をむいた。




