5.エラの証言
「えーと、」
とはいえいつまでも白目ではいられない。
まずは状況確認である。
「さっき悲鳴をあげたのは、マノン嬢。あんたはドレスにワインをこぼされたことに驚いて悲鳴をあげた。そしてその犯人としてミシェル嬢が疑われている。ーーここまでは間違いないか?」
「え、ええ……」
ルカの確認にマノンは戸惑いながらもうなずいた。
「ーーで、あとの三人はその場に居合わせた、と」
ぐるりと見回す。クリスは不機嫌そうにこちらをにらんだ。
彼女たちのことはなんとなくだがルカも風の噂で知っている。
マノンは第一王子クリスのハートを射止めたラッキーガールだ。そしてエラはその友人。ミハエルと呼ばれていた少年はクリスの側近の騎士であり、ミシェルの双子の兄。そしてミシェルは第一王子の婚約者の最有力候補だったが、最近はマノンの出現によりその立場を危うくしている。
これだけを聞くとなるほど、確かにミシェルにはマノンを害する動機があるようにみえる。しかし奇妙なことに今回の犯人はマノンの味方であるはずのエラだ。
考えられる動機としては……、
(ミシェルに濡れ衣を着せて失脚させる気か?)
それが最も妥当な線である。
(だが……)
もしそうだったとして、一番気になるところは『マノンとクリスは共犯ではない』という点だ。
もしも共犯ならば、二人の頭上にも『犯人』の文字が出ているはずだ。しかしそれがないのだ。
つまりこれはエラ単独の犯行である。
「ミシェルがドレスにワインをわざとぶちまけたのよ!」
その時エラが声を荒げた。ルカはその顔を見返す。
「それを見たのか?」
「……っ、ええ! 見たわ! この目でしっかりとね!!」
「なるほど?」
あからさまな嘘だ。
犯人がエラである以上、そのようなことはありえない。
(ここから切り崩すか……)
状況的に本人の発言から破綻を引き出すのが一番手っ取り早いだろう。
「じゃあエラ嬢、あんたから見た状況を説明してくれ」
ルカはそう依頼した。それに彼女はここぞとばかりに鼻息荒くうなずいてみせる。
「もちろんよ!」
そして説明を始めた。
「マノンは第一王子殿下にエスコートされて今回のパーティに参加したの。ミハエル様は護衛として殿下のそばに控えていたわ。わたしは父にエスコートしてもらって会場についてすぐに三人と合流したのよ」
今回の舞踏会はフェリシィ学園の主催である。
学園は貴族の子息、子女たちが礼儀作法や知識、技術を学ぶ養成機関だ。今回の舞踏会もその授業の一環として、学園に通う生徒たちが世間に出る前に作法を身につける場として開かれたものだ。
そのため参加者は学園に在籍している生徒とその身内、そして教師のみである。
それゆえに婚約者がいる者以外はほぼ父兄にエスコートされ、家族で来ている生徒も多かった。
「一回目のダンスが終わった後、わたしたち四人はここで談笑していたわ」
ここ、とエラは今立っている場所を示す。
そこは休憩用の軽食が置かれたテーブルの近くだった。
「わたしはマノンと殿下にサンドイッチをとってあげようと思ってそこのテーブルに向かったの」
「一人で?」
「ええ、そしてお皿に取り分けてもらって振り返ったら……、マノンのドレスにワインをかけるミシェルの姿を見たのよ!」
そう言って彼女は強くミシェルのことをにらんだ。ミシェルはその視線に特に何の反応も示さず、ぼんやりと瞬く。そしてゆっくりと口を開いた。
「わたくしは……」
「わたしはこの目で見たのよ!!」
「ミシェル嬢」
興奮するエラのことをさえぎり、ルカはミシェルを見る。
「あんたの話も聞かせてもらえるか?」
「……」
「ちょっと! その女のことをかばう気!?」
いきり立つエラに、ルカは首を横に振る。
「自分はどちらの味方でもない。だから両方から公平に話を聞く」
「その女の話すことなんか嘘に決まって……っ!!」
「エラ嬢」
その時、けだるそうな声がエラの言葉を静かにさえぎった。
ジュードだ。
彼は穏やかに、しかし有無を言わせぬ圧力をもってエラのことを見た。
「状況は客観的にとらえねばならない。きみだけの意見を聞き入れる立場に彼女はないんだ。わかってもらえるね?」
「…………っ!」
まるで蛇に睨まれた蛙だ。
『平民出身の聖女』には噛みつけても、さすがに時の権力者には逆らえないのだろう。彼女は顔面を蒼白にして黙り込んだ。
「えーと、じゃあミシェル嬢、あんたの視点からも説明してもらえるか?」
なんとも冷え切った空気に気まずくなりながらもなんとか仕切り直したルカに、ミシェルはまるで人形のように淡々と「はい」とうなずいた。




