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偽聖女いわく、  作者: 陸路りん
3.ハゲは誰だ

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8.なぜ『今』なのか?

 その言葉を告げた後で、「もっとも!」と彼は語気を荒くして続けた。

「例えば他の王宮内の人物に昨夜のうちに手渡し、その三人目の共犯者が持ち出している可能性も十分に考え得る!」

「うんうん、確かにそれはあり得る」

 ルカはうなずく。しかし、

「だとすると、なぜ実行が今だったのかが気にかかるな」

 とも続けた。

「『今だったのか』……?」

「うん、宝冠は一時的に職人の部屋にあった。管理していた責任者はバルドゥルさんだ」

 そこまで言って、彼もルカの言いたいことに気がついたらしい。

「普通に考えて、盗んだのが知らない誰かだったとしても管理責任を負うのはバルドゥルさんだ。もしも自分がバルドゥルさんの立場だったら、そんなに共犯者がいるんだったら、盗むのは宝物庫にある時にするね」

「そ、それは……っ」

「それ以外にも、彼らは魔道具の使用がいつでも可能だ。ならばあらかじめ宝石をイミテーションとすり替えておき、宝石を売却した後で強盗の工作をすることも可能だったはずだ。数日間だったらイミテーションだということはバレない可能性が高いし、彼らは職人なのだからこんなに宝冠自体を破壊しなくとも宝石を取り出すくらいは容易にできるはずだ。そしてその場合もわざわざ自分たちのテリトリーで騒動を起こす必要はない。彼らの犯行にしては少しお粗末すぎる」

 そう、そこまで共犯者がいるのならば、ここまで突発的な犯行をしなくてもいいのだ。それこそもっと計画を練って、注目を集めるお披露目前の時期などではなく使われる予定のない時期に少し点検、とでも言ってとりだして細工してもいい。

「……っ」

 彼は黙り込んだ。しかしそれは不愉快そうに押し黙る、というよりは必死にどう考えたらいいのかを自分の中で整理していることによる沈黙のようだ。

(たぶんいい人なんだよなぁ)

 名前すらも知らないが、このリーダー憲兵はかなり善良で実直な人だ。ちょっとジュードのことが好きすぎてなぜかルカのことを嫌っているだけで。

「じゃあ話を戻そうか。以上の点から自分は宝石が盗まれたのは金庫に入れられた時ではなく、金庫に収められてから警報が鳴り響くまでの間だと考えている。もっと言うならば、さきほど言った『突発的な犯行であり、魔道具の使用は必須だった』という事情から警報が鳴った時に宝石は盗まれたのだと考えた」

 ルカは周囲を見る。今度はどこからも反論の声はあがらなかった。

「そして犯人は、協力者などいなくても、もっと確実に宝石が見つからない手段を持っていた。だからわざわざ魔道具を鳴らして、しかもこの注目を浴びている時期に盗むような真似をしたんだ」

(……待てよ?)

 そこまで言ってルカは気づく。

『なんで今なのか?』

 突発的な犯行。それはもしかしたら今までは盗む必要がなかったが、今だからこそ盗まなければならなくなったのではないか?

 お披露目会がある、『今』だからこそ

(いや、でもなぜだ)

 クレエはヘリングの乳母。彼女がそのヘリングの演説に泥を塗る理由などあるだろうか?

(泥を塗りたいわけじゃない……、はずだ。彼女のヘリングへの愛情は傍から見ていても明らか)

(……あ)

 そういうことか。

 クレエの動機がわかった。宝石を盗むために『そこまで』した理由も。

(彼女は宝石が欲しかったわけじゃない)

 それは盗んだ方法がわかった時には判明していた。ただ、どうしてそんな過激な真似をしたのかが理解できなかっただけだ。

(永遠に見つかって欲しくなかったんだ)

 正直、わかった上でルカには理解できない理由だが、衣装を担当するからこそ、不愉快だったのだろう。

「おい、聖女?」

 声をかけられてはっとする。突然黙り込んだルカに、憲兵は不審そうな目を向けていた。

「どうかしたのかい?」

 ジュードも声をかけてくるのに、「いや、話を続けよう」とルカは仕切り直す。

「じゃあ次の謎、どこに宝石を隠したのか、を説明しよう」

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