9.ダイヤモンドのゆくえ
「犯人は金庫を魔道具で破り、宝石を取り出した。ここにはおそらくなにも工夫などはない。見たとおりのことをしたんだと思う。そして犯人の意図通り、警報が鳴り響き憲兵が駆けつけた」
ルカは両手で警報が鳴ってから憲兵が駆けつけるまでの間隔をなんとなくの大きさで示して見せた。
「おそらくこの間は十分とかからない……、くらいじゃないか?」
「ああ、その通りだ」
リーダー憲兵は自慢げに胸を張ると帳面を取り出してみせた。
「記録では警報がなってから駆けつけるまでは……、およそ七分となっている。これは警報がなった時刻と部屋に到着した時刻を担当者が記録をつけていたから間違いない」
素晴らしいプロ集団である。おそらく集団で連携を取って駆けつけたため、現場を調べる係や記録係など元々の分担があったのだろう。
「七分」
ルカはこつこつと部屋を歩き回る。
「バルドゥルさん、お伺いしたいことがあります」
そして彼の目の前で足を止めた。
「なんだ」
渋面を浮かべる彼に、魔道具を持ってみせる。
「この魔道具で、ダイヤモンドを粉砕するのにかかる時間はどの程度でしょうか?」
「ーーっ!」
彼の目が驚きに見開かれた。いや、彼だけではない。その場に居る全員が驚きに息を呑んだ。
それくらい予想外の質問だったのだろう。
「ーー馬鹿なっ!」
まっさきに反論したのはやはりリーダー憲兵だった。
「ダイヤモンドを粉砕!? 目的の盗品を自分で破壊する馬鹿がいったいどこにいる!!」
「けどそれが一番『宝石を隠す』のに最適なやり方なんだ」
ルカはイミテーションのダイヤモンドを持ち上げた。そしてそれを窓の格子へと押し当てる。
「このままでは当然通らない。けど、これを破壊して通したのなら?」
粉々に砕け散った欠片。それを窓の外に捨てることならばきっと可能だったことだろう。それこそ、欠片を格子に押し当ててやるだけでいい。もしかしたら焦って投げたかもしれない。しかしそれでもその小さな欠片たちは格子をすり抜けて湖に落ちていったはずだ。
「どの程度砕かれたかはわからないが……、もしかしたら下の湖をさらったら破片が出てくるかもな?」
「……っ!! 探しに行け!」
そのリーダーの指示に何人かの憲兵がばたばたと走り去る音がした。
それを尻目にルカは視線をバルドゥルへと戻す。
「……、おそらく、全部砕くのに素人でも三分はかからねぇだろう。ダイヤモンドは確かに硬い。だが衝撃には弱いんだ。その魔道具は粉砕するのに適している」
その返事にルカは満足げにうなずいてみせた。もはやルカのこの『推測』に異を唱える者はいない。
ルカはぐるりとその場にいる全員の顔を見るふりをして、クレエの様子をうかがった。
さすがにあからさまに顔に感情を出してはいない。しかし表情は変わらずとも、その手元がほんのわずか、力を入れて自らの洋服のすそを握りしめているのが目に入った。
「そう、犯人の目的は『宝石を盗む』ことではなく、『宝冠を破壊すること』、そう考えればつじつまが合うんだ」
ルカの言葉にますますその手に力が入る。
「なぜ警報を鳴らす必要があったのか? それは『宝石を盗んだ』と誤認するであろう憲兵の目を誤魔化すのに、そのほうが『犯行直後に宝石を所持していない』ということが証明ができて都合が良かったからだ。『なぜ今決行したのか?』それはちょうど今ーー」
ルカはヘリングのことを見る。みんなの視線が彼に集まった。
「ヘリング陛下の演説の予定があったから」
「……っ! では、盗んだのは陛下の演説に泥を塗るためか!」
「うん、自分も最初はそうかと思ったんだ。でも、だとするとおかしい」
ルカは頷きつつもその意見を否定した。
「今のタイミング。確かに宝物庫から取り出されて手の出しやすいタイミングだったというのはそうだ。けど、今のまだ『衣装を用意している段階』ならば『無垢の魂』よりも価値は落ちるかもしれないが、代わりの宝冠を用意できる」
そう、長年続く王家だ。所持している宝冠は『無垢の魂』だけではない。
無垢の魂は素晴らしい宝冠だと聞く。所持している宝冠の中で一番価値が高いとも言われる大きなダイヤモンドが使用され、それ以外にも様々な宝石が彩られた豪奢な一品だ。しかしヘリングが普段使用している宝冠もあるし、それ以外にも歴代の王が作らせた物が宝物庫には保管されている。
盗まれたのは確かにスキャンダルだ。だが、致命傷を与えられるほどではない。
「ーーならば、どうしてかな?」
その時、ずっと黙っていたジュードが口を開いた。
「一体誰がなんの目的で、我らが陛下の心を痛めるような真似をしたのだろう?」
その口調はいつも通り穏やかだ。しかしその目は笑っていない。自らの支持する王を貶めるような真似をされて、心中穏やかではなかったのだろう。
冷え切ったその眼差しに、自らが責められているわけではないと理解しながらも、ルカはぶるりと身をふるわせた。
ただし、彼は勘違いをしている。
「ヘリングを、守るため、だ」
ルカはジュードの思い違いを指摘した。





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