↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偽聖女いわく、  作者: 陸路りん
3.ハゲは誰だ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/31

7.警報の理由

 右から順番に髪の薄さを気にするリーダー憲兵、潔い禿げのバルドゥル、潔くない禿げのリュック、そしてつるっ禿げのクレエが並んだ。

 そこから少し間を開けるようにしてジュードとヘリングが立っている。

(マジでごめん……っ!)

 ルカは反省した。

 ルカはただ犯人の自白を促したかっただけなのだ。禿げが犯人だと告げることで逃げ場はないのだと知らせ、クレエが白状してくれればそれでよかった。それがまさか……、

(こんなに禿げがいるとは……っ!)

 しかも容疑者が二名である。

 潔い禿げだけかもしくは髪の色が異なれば良かったのだが、リュックはくすみがかった銀髪、クレエは白髪、そして問題のかつらはどちらのものとしても通用しそうな角度によっては銀にも見える白い毛である。

(クレエが自白する気になってくれればいいんだけど……)

 そう思ってちらりと見た横顔は、とても涼しげな無表情で観念する気はなさそうだ。

 さてどうしたものか、と彼女を見つめていると、ふいにばちりと目が合った。

 彼女はその薄い唇にわずかな笑みをのせる。

「ねぇ真実の聖女様。あなたはこの中に犯人がいると思っているようだけど、この場にいる人間はみんな持ち物検査を受けていて宝石を持っていないの。ということはこの城内全体にいる白いかつらの人物を探す必要があるのではなくて?」

 その指摘はごもっともだ。しかしルカには見えているのだ。

 目の前にいるクレエが犯人である、と。

 わざわざ容疑者をさらに広げて禿げバレの被害を拡大するわけにはいかない。

(自分の良心の呵責のためにも!)

 話はここで終わらせなくてはならないのだ。

「残念ながら、クレエさん。自分はもう犯人がわかっている」

 しかしそんな内心はおくびにも出さず、ルカはいかにも余裕綽々といった様子でそう返した。

 指を二本立ててみせる。

「犯行方法、そしてその動機。その二つを考えれば、犯人はおのずと一人に絞られるんだ」

 犯行方法はともかく動機とはなんぞや。あと犯人をクレエに名指しするための根拠はどこ。

 とは内心思っていても言ってはいけないお約束である。

「まぁ」

 クレエはその言葉にわざとらしく目を見張ってみせた。

「よろしければお考えを聞かせていただきたいわ」

「……では、まずは犯行方法の説明から」

 体が異様に熱く、冷や汗が流れてくる。しかしなんとか説明している間に見つけなくてはなるまい。

 クレエが犯人だという根拠を。

「この盗難事件には二つの疑問点がある」

 そう言ってルカは指を二本立てて見せた。

「一つ目はなぜ警報が鳴る危険を置かしてまで魔道具が使用されたのか。警報が鳴れば当然事件の発覚は早くなる。逃亡する時間が減るリスクを置かしてまでなぜ魔道具を使用しなくてはならなかったのか。そして二つ目はこの巨大な宝石を犯人はどこに隠しているのか、だ」

 ルカは机に置かれたイミテーションの宝石を手に取った。見ればみるほどでかい宝石だ。こんなものを持ち歩いていればすぐに捕まってしまうだろう。

「この二つの疑問点が解決すれば、おのずと犯行方法も動機も見えてくる。そして犯人が誰か、もな」

 見えてくるといいな、とは思っている。

 ルカは意味深に笑うとクレエのことを見た。自白するなら今のうちだぞ、という目線だ。しかし彼女はわずかに小さく息を呑んだものの、「まぁ、楽しみですね」と言うのみだった。

(自白してくれよ……)

 もう数秒待ってみたが、「おい、早くしろ」と催促の声が上がってしまった。

 リーダー憲兵だ。

 彼は険しい顔で「もったいぶっている場合ではない。一刻も早く犯人を特定し宝石を取り戻さなくては、陛下の演説準備が間に合わなくなってしまうだろう!」と至極まともな心配を口にした。

 ルカは観念してしぶしぶ口を開く。

「ではまず一つ目の疑問から。今回の犯行は極めて突発的な犯行である、ということが理由のひとつにあげられる」

「まぁそれはわからなくもないねぇ」

 同意してくれたのはジュードだ。

「一時的にこの部屋の金庫に移されていたのはおおやけにはされていない情報だ。宝物庫の中から盗むよりは簡単だっただろうねぇ」

「うん。でもそれだけが理由ってわけでもない」

「どういうことだ?」

 リーダー憲兵の質問に、ルカは彼を見た。

「結論から言うならば『警報を鳴らすために魔道具は使用された』、と考えるのが自然だ」

 リーダー憲兵は不愉快そうに眉をひそめた。しかし彼が口を開かないのを見て取って、ルカは続ける。

「まずさきほどの言った突発的犯行だという点。突発的犯行であるがゆえに犯人は道具をたいしてそろえてはいなかった。ゆえに金庫を破るのに魔道具の使用は必須だった。しかしその一方で、警報を鳴らすことにより犯人にメリットがあったとしたらそれはなんだろう?」

「はぁ?」

 リーダー憲兵はあからさまに顔をしかめた。

「そんなことあるわけがないだろう」

「そうかな?」

 彼は小さく舌打ちをする。

「なにがいいたい」

「宝石が見つかっていない」

 ルカはそれだけを言った。それだけだったが、「なるほどねぇ」とジュードから納得の声があがる。

「つまり、警報が鳴ることでいつ盗まれたが明確になるわけだ。その上でその時間に自分が宝石を隠し持っていないことが証明できれば、自然と犯人から除外される」

「そういうこと」

 クレエは言ってしまえば第一発見者に近い位置にいる。宝物庫に宝冠を取りに行って宝冠と行き違いになってしまった、という状況に今居るわけだが、その後鍵番から職人の部屋に宝冠があるという情報を伝えられ、しかもその近辺をうろうろしていた重要参考人である。

 宝冠を探していたこともありかを知っていることも鍵番の証言があれば露見してしまう。そんな疑わしい状況で、それでも盗もうとするならば、犯人だと思われない状況を作り上げるしかない。

 すなわち、近くに居て盗める状況ではあったが、宝石を所持しておらず、どこかに持ち出す時間もなかった、と言い訳できる状態に、だ。

「だから警報が鳴ることは犯人にとって不測の事態ではなく作戦の内だった。そう考えるのが自然だ」

 そこまで言って、「ではまず前提条件をそろえようと思うんだが、」とルカはバルドゥルを見た。

「さっきあんたから聞いた話だが、まず状況的に見て、この金庫の中に宝冠が収められたのは確かだろう。バルドゥルさんとその弟子のリュックさん。二人でこの金庫に収めた。その際にリュックさんがバルドゥルさんの目を盗んで取りだしたということは考えづらい」

「まぁ、そうだな」

 バルドゥルはうなずく。

「俺は確かにこの目で金庫に入れたのを確認した。レプリカとすり替えたと考える奴もいるかもしれねぇが、このレプリカと本物を両方とも金庫に入れたんだ。すり替えるもなにもねぇ。二つとも金庫に入っているのをこの目で見た」

「うん。それにうまく取り出せたところで、バルドゥルさんの目を盗んで宝石だけを抜き出したり宝冠を破壊する工作ができるとは思えない。まさか宝冠をまるまんま上着に隠して持ち運ぶなんてこともできないだろ。金庫から取り出せてもこの部屋からは持ち出せないんだよ。そしてこの部屋の中に宝石がないのは調べてもらった通りだ」

「いや、だがこの二人が共犯だったらどうだ」

 しかしその意見に声があがった。

 リーダー憲兵だ。

 彼はまだ少し思案しながらも、ゆっくりとその考えを告げる。

「この二人が共謀して取り出した場合、この二人は魔道具に登録されている人間だ。警報を鳴らさずに魔道具を使うことができる。金庫にはレプリカのみを入れて宝石を外しておき昨晩のうちにそれを持ち出す。そして翌朝に外部の者の犯行を疑わせるために魔道具をわざと警報が鳴るように使用し、金庫を破壊して自室に素早く逃げ帰り、後から騒ぎを聞きつけたふりをした作業場に戻った。どうだ?」

 その考えにルカはびっ、と親指を立てた。

「鋭い! 自分も実はちょっとそれ思った!」

「『ちょっと』?」

「ちょっと」

 ルカのその言い草に彼の額に青筋が立った。それにどうどうと手で怒りを静めるジェスチャーをしながらルカは続ける。

 まぁ思っただけで、犯人がクレエだとわかっている時点でその説はすぐ捨てたのだが。

「その場合問題になるのは宝石を昨夜の間に王宮の外に持ち出すことができたかどうか、ということになる。鋭いリーダーさんのことだから、二人の自室は真っ先に調べたんじゃないか?」

「……っ」

 彼は息をつまらせた。

 そして首を横に振る。

「さきほど部下から報告があった。少なくとも非常に疑わしいそこの職人師弟とクレエの三人の王宮内の自室からは何も発見されていない。また、その三人が深夜に王宮を抜け出したという記録もなかった」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。