6.禿げは誰だ?
「今回の盗難事件、犯人は決定的な証拠を残していった」
ルカがそう話し出すと、みんなは無意識にかいずまいをただした。
クレエを覗けばみんな心当たりなどないだろうに、それでも緊張はするものなのだろう。この場面で平然としているのはジュードくらいのものだ。
「それは『これ』だ」
そう言ってルカが手に取って見せたのはーー、
「毛……?」
ヘリングの言葉にうなずく。それは金庫に残された馬の毛だった。
「それが一体なんだと言うんだ?」
「あんたの目にはこれが何に見える?」
質問に質問で返したルカに、リーダー憲兵はいらいらと足を踏みならす。
「だから『馬の毛』だとさっき言っただろう!」
「じゃあこうしたら?」
そう言ってルカはその馬の毛を頭に近づけてみせた。
「はぁ? それが一体なんだと……っ」
言いかけてその批難の言葉は途切れた。途中で彼も気づいたのだろう。
「なるほど、かつらかぁ」
のんびりとジュードが答えを告げた。
「そう、これは『かつら』だ」
ルカも女装のためにかつらを愛用しているからわかる。かつらの材料には人の髪の毛が使われる場合ももちろんあるが、動物の毛も使われることがある。それこそ綺麗な直毛の馬の毛などはよく使われる材料だ。
「付着していた油や蜜蝋、ハーブなどは整髪料、つまり髪を整えるために使われたものだ」
周囲を見渡す。ルカの発言に異を唱える人間はいなかった。みな納得したのだろう。
ルカはちらりとクレエのことを見る。彼女の髪に乱れはない。しかしそれは結い直しただけかもしれない。残されていた馬の毛は二センチほどと短いものだった。おそらくは魔道具であるドリルを使用した際に少しだけ髪の毛が巻き込まれて切れてしまったのだろう。それをそのまま使用して金庫に穴をあけたため、金庫内に数本、馬の毛が残ってしまったのだ。
「つまり……」
ルカの言葉に皆お互いの顔を見合わせた。ルカは重々しく告げる。
「犯人は……、禿げだ!」
部屋の中に緊張が走った。
「お、俺は禿げじゃない!!」
いの一番に声を上げたのはリーダー憲兵だった。彼は慌てたように警帽を脱ぎ、その丁寧に投げつけられたブラウンの髪をさらした。
「確かに俺の髪はすこし薄いかもしれない! でもこれは本物だ! もしもかつらならもっとふさふさにするに決まっているだろ!?」
しかも自ら髪の毛の薄さを気にしている自白までしてきた。そのおでこ部分をみると確かに若干……、後退しているような気もする。
「いや、このかつらは白いから……」
あんたのことははじめから疑ってないよ、とフォローし終える前に、「俺でもない!」と別のところから声が上がる。
職人のバルドゥルだ。
「俺は確かに禿げだ。しかし潔い禿げだ! かつらなんてかぶっておらんぞ!」
そう堂々と胸を張る彼の頭頂部は確かにつるっ禿げだ。
「ぼ、僕は……」
その隣でバルドゥルの弟子はうつむいた。
(え、まさか……)
嫌な予感のしたルカの目の前で、彼はずるり、と髪の毛ーー否、かつらを脱ぐ。
「た、確かに禿げだ……。しかもかつらもかぶっているせせこましい禿げです……。でも信じてください! 僕は犯人じゃないんです!」
そう言う彼の銀髪は、サイドだけを残したてっぺん禿げだった。こんなところまで師匠を見習わなくてもいいのに、というよく似た禿げっぷりだ。
「リュ、リュック……」
バルドゥルがショックを受けたように弟子の名前を呼ぶ。
「師匠……。信じてください……」
リュックと呼ばれた弟子は涙ながらに師匠に訴えた。
(なんか……、ごめん……)
まさかこんなに禿げがいるとは思わなかった。リュックには飛んだ巻き添え事故である。
もしや、と思いちらりとジュードの方を見ると彼は、
「ん? なんだい?」
と怖い顔をしてこちらに笑顔を向けてきた。
その頭頂部を見るが、なでつけられた金髪はふさふさに見える。
……その金髪が本物かどうかは定かではないが。
その時、ごほんと咳払いの音がした。それはクレエのものだった。
「……どうやら、かつらを使用しているのはわたしと彼だけのようですね」
そういうとクレエは自らの髪の毛をずるり、と取ってみせた。
明かされたその頭頂部は、見事なつるっ禿げだった。





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