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偽聖女いわく、  作者: 陸路りん
3.ハゲは誰だ

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5.現場検証②

 数時間後、案の定王宮内からは宝石を隠し持つ人間は見つからなかった。

「現在、王宮に住み込みで働いている者たちの居室を含め、どこかに隠していないか宝石の捜索を行っております」

 リーダー憲兵が報告する。

「そうか、よろしく頼むねぇ」

 それに寛容に頷きつつも、ジュードはちらりとルカの方を流し見た。

 その目が意味するところはひとつ。

『おまえがさっさとなんとかしろ』。

「えー、はーい……、ちょっといろいろ確認しようかなー」

 どこかしらから宝石が発見されないものかとささやかな期待を抱いて待っていたルカは、あきらめて重い腰を上げた。

 リーダー憲兵は露骨に嫌そうに顔を歪め、職人師弟はそういえば誰だこいつ、という顔で不審そうにこちらを見る。

 クレエはルカの素性を知っているからか表情をぴくりとも動かさなかった。

(自分がしゃしゃり出てくるのは想定済みーー、か?)

 まぁ国宝級の宝石が盗まれればジュードがルカのことを召喚するのは予想できそうなものである。

「る、ルーカ! な、何から調べるんだ?」

 好奇心に瞳を輝かせてそう尋ねてくれるのなんてヘリングくらいのものだ。ルカはその小さな頭をぽんぽんと軽く叩いてから目線を合わせるように少しかがんだ。

 ちなみに『国王の頭を触る』という無礼な行為にリーダー憲兵とクレエの額に青筋が浮かんでいたが、それは一端見なかったことにする。

「まずはここから宝石を持ち出す手段が本当になかったのかを確認しよう」

 リーダーの話ではクレエは宝石を隠し持っていなかった。そしてこの部屋にも当然宝石がないことは確認済みだろう。

(クレエが宝石を盗んでから憲兵が駆けつけるまで、そうたいした時間はかかっていない)

 ということは、この周辺に隠すか、この部屋から直接外部に持ち出す方法がある可能性が高い。

「これ、借りてもいい?」

 ルカはイミテーションの宝冠についたガラスの宝石を指さした。

「ああ、別にいいぞ。ただのガラクタだ」

「これ外せる?」

 バルドゥルは手慣れた仕草で木製の宝冠からガラスを外して渡してくれた。

「うーん……」

『ガラクタ』とバルドゥルは言ったが、この世界ではガラスはそれなりの高級品である。しかもこれだけ美しく研磨された宝石と見まごうほどのものとなればそれなりの値打ち物だろう。

 ふと、金庫の側にある窓が目に付いた。出窓になったそこに近づくと、窓ガラスを開いてもなお、鉄の格子がしっかりとはまっている。

「そこから外部の者に受け渡すのは無理だぞ」

 ルカの思考を読んだかのようにリーダーはそうぶすっと告げた。

「見ての通り格子がはまっていてそもそもその宝石は外に出せない。万が一出せることがあったとしても、外はその有様だ」

 指さされた指先を追うように、ルカは窓へと近づいた。そして納得する。

「確かにこりゃ無理かもなぁ」

 窓の下には湖が広がっていた。中庭にある貯水用の湖だ。もちろん建物のふちぎりぎりまで湖が広がっているわけではないが、この職人の部屋は少々張り出した位置にあり、その上この窓は出窓のため更に外側に出っ張っている。つまり真下に湖が位置するようになっているのだ。

 中庭に共犯者が待機していたとしても、これでは宝石は湖に落ちてしまうし、中庭を歩いているならともかく湖に船を浮かべて待機などしていたら目立ってしまってしかたがないだろう。

「ちなみに犯行時刻あたりに船とかは……」

「あるわけないだろう。あったら見回りの者が真っ先に声をかけている」

「……ですよね-」

 至極当然の話だ。

 それでも一応確認のためにイミテーションの宝石を格子に押し当ててみると、確かにリーダーの言う通り、宝石は隙間を通らなかった。

「お、大きい宝石だな」

 それを見ていたヘリングがつぶやく。

「その、て、て、鉄の棒はけっこう隙間が開いているのに」

「確かに」

 言いながらルカは握った手を格子の間に通した。横向きには入らないが、縦にすれば握った拳も隙間を通るほどには間隔が開いている。しかし宝石は形の関係かどの角度にしても隙間を通らなかった。

「無理矢理隙間を通したとしても、それじゃあ傷だらけになってしまうねぇ」

 その様子を見ていたジュードもつぶやく。

「だなぁ」

 ルカもそれに同意してようやく試すのをやめた。

(うーん、他のルートは……)

 窓はここにあるひとつのみ。その他は扉くらいしか出入りできる場所はない。

 しばらく机や棚の下なども覗いてみたが、外部につながるような隠し通路なども当然発見できなかった。

「満足されましたか? 真実の聖女」

 嫌みたっぷりにリーダーが言う。

「うーん……、なんか他に怪しい物とかあった?」

 尋ねると彼の額にぴきり、と新たな青筋が浮かび上がる。なにかを言おうとしてジュードの視線に気づいてその口を一度閉じる。そして何かを懐から取り出した。

「……金庫の中から発見されたものです」

 地獄のような重低音である。

(こわぁ……)

 怯えながらもそれを受け取ると、

「毛?」

 それは真っ白な毛であった。紙に包まれているその数本の細い毛をルカはためすがめつ眺める。

「分析したところ、馬の毛のようです」

「はぁ……」

 一瞬髪の毛かとも思ったが、触った感触は髪の毛よりも厚みがあってしっかりとしている。

「……なんかべたべたする」

「油が付着しておりましたので」

「油……」

 素手で触るんじゃなかった、と後悔するが後の祭りである。

(なんか汚い油とかじゃないよな……)

 恐る恐る鼻を近づけて匂いを嗅いでみるが、予想に反してそれはふんわりと甘い香りを漂わせていた。

(……ん? この香り……)

「蜜蝋やハーブなども混入されておりましたが、なぜこんなものがここにあったのかは不明です」

「……」

 渡された馬の毛を伸ばしてみると、長さは五センチほどだ。それが数本。色は白。

 ルカは順繰りにこの場にいる人間を見回した。

(うーん……、なるほど?)

 ふと、ルカの視界のすみに金属を加工するためのドリルが入った。

「これ、触っても?」

「ああ、かまわねぇよ。でもあぶねぇから起動させんなよ」

 手に取るとずっしりとした重みがあった。動力源なのか赤い魔石が埋められ、ドリル部分はまるでヤスリのようにざらざらしていた。

「これは?」

「ああ、研磨にも使うんだよ。垂直にすりゃあ穴を開けられるし斜めに寝かせて使えば研磨できる。これで金属を加工する」

 バルドゥルはルカからドリルを受け取ると起動させて見せた。甲高い金属音を響かせてそれは回転し、バルドゥルが適当に取り出した銅板を貫通する。

「あれ? 今は警報鳴らないけどなんで?」

 あまり深く考えていなかったが、そういえば魔道具を使うたびに警報が鳴っていたら仕事にならないではないか。

 そう思って尋ねると、「ああ」とバルドゥルはなんでもないことのようにうなずいた。

「魔道具に登録された魔力の人間が使う分には鳴らねぇんだよ。だから俺と弟子の場合はこの魔道具を使っても鳴らねぇ。まぁ、だからっつって、他の魔道具を使用したら鳴るわけだからすぐに容疑者から除外にはならねぇけどよ」

「……なるほど」

 魔力の登録制度などというものは初めて聞いた。つまり警報装置は部屋に仕掛けられており、その部屋に登録されていない魔道具や、魔道具に登録されていない魔力による使用があった場合に警報が鳴り響くわけである。

「んー……」

「なにかわかりましたかな、真実の聖女殿」

 顎に手を当てて考え込むルカに、嫌みたっぷりにリーダーが問いかけてきた。

「ああ、うん」

 それにルカは首肯する。

「は?」

「おやぁ、さすがだねぇ。もうわかったのかい?」

「うーん、まぁ、そうだね」

 顔を上げる。

 一体どうやってクレエに犯人だと白状させようかとずっと考えていたが、だいたい考えはまとまってきた。

(宝石がどこに消えたのかも検討はついたけど……)

 わからないのは動機ぐらいのものだ。

(まぁいけるか?)

 ルカは金庫内に落ちていたという『馬の毛』を見た。

(これがあれば……)

 にっ、と唇の端をあげる。

 そしてその場にいる全員の顔に一人一人目を合わせながらしっかりと見回した。

 ジュードにヘリング、リーダー憲兵、バルドゥルとその弟子、そしてクレエ。

「さて、」

 ルカは話し出した。

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