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偽聖女いわく、  作者: 陸路りん
3.ハゲは誰だ

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4.現場検証

 職人の部屋は想定よりも広かった。ルカはなんとなく四畳ほどの狭い部屋を漠然とイメージしていたが、実際は十畳ほどはありそうだ。しかし大きな棚やら机や機材が置かれているため人の可動できる範囲は少ない。

「宝冠はこの中に保管しておりました」

 そう丁寧に告げたのはバルドゥルと名乗る壮年の男だった。真っ白い白髪のそのてっぺんは禿げている。髪に反してふさふさの眉の下からは小さな緑色の瞳がのぞいていた。その近くには銀髪の若い男性も立っており、どうやら彼の弟子のようだ。

 この二人が、最後に宝冠を金庫におさめた職人たちらしい。

「これは?」

 ジュードが金庫をのぞき込んで中に入っていたものを取り出した。

「え、宝冠?」

 ルカは驚く。

 金であしらわれた台座にちりばめられる色とりどりの宝石。そしてちょうど額の中央に当たる部分には燦然と輝くこぶし大のダイアモンド。

 それは昨日の昼間、宝物庫で見せてもらった宝冠そのものだった。

「これはレプリカですな」

 バルドゥルはそう言うとジュードから宝冠を受け取るとぽんぽんと無造作に手の中でもてあそんだ。

「ほれ、この飾り。これはみんなガラスでできたもんです。だから宝石とは違って触ると冷たくないしとても軽い。台座も木でできたもんに黄色く装飾しているだけです」

「へぇー」

 近づいて見ると、確かに台座に木目が見えた。正直宝石とガラスの違いはわからないが、職人である彼が言うのならばそうなのだろう。

 ジュードはバルドゥルから宝冠を再び受け取ると、中央のダイアモンドをまじまじと見た。

「確かに……、これはガラスだねぇ」

「わかるのか?」

「エッジがぼやけている」

 ほら、と見せられてもやはりわからない。しばらく角度をかえてためすがめつ見てみたが、ルカはふん、と鼻を鳴らしてそれをそっと近くの机に置いた。

「確かに。ちょっと違う気がするかな!」

「絶対わかっていない言い方だねぇ」

 うるさい男である。

「ジュード殿下」

 そそそ、と周囲を調べていた憲兵の一人が近づいてきた。

 黒い軍服に銀色のボタン。彼は第一王子の時に魔道具の使用痕跡がないか調べていたリーダーの男だ。

「こちらを」

 そう言って彼が差しだしたのも、なんと宝冠だった。

「盗まれてないじゃん!」

 思わず叫んだルカに、彼は迷惑そうに眉をひそめる。

「ダイヤがないねぇ」

 しかしジュードのつぶやきに彼はまたすぐに真面目な表情を作ると、ジュードへと向き直った。

「はい。宝冠から無理矢理宝石だけを抜き取ったようです! おそらく、持ち運びやすくするためと売りやすくするためでしょう」

 確かに、とルカはうなずく。

 宝冠はそれなりに大きく持ち運ぶには目立つ。こんなものを抱えて歩いていればすぐに憲兵に捕まってしまうだろう。そのうえ売りさばこうにも見るからに高級そうな宝冠を何の疑いもなく買ってくれる店など少ない。前国王が使用していたものならばそれを覚えていて王宮に通報する人間もいるかもしれない。

 しかし宝石だけならば。大きいは大きいがそこまで目立たず懐に隠しやすいし、宝冠よりは宝石のみのほうが買い取り手がつきやすいだろう。

 リーダー憲兵はもうひとつの物を部下から受け取り、それもジュードへと見せる。

「こちらが今回の警報を鳴らした魔道具のようです。本来なら金属を加工するための職人の道具なのですが、金庫の鍵を破壊するのと、こちらの宝冠からダイヤモンドを取り出すために使用されたようです」

 それは小さいドリルのような工具にルカには見えた。先端が尖っているのはもちろん、その側面にも凹凸があり、奇妙な形をしている。

 金庫を見ると鍵穴の横に手が入りそうなほど大きな穴が開けられている。そこから中の錠前をいじって開けたのだろう。次に盗まれ損ねた宝冠を見ると、なるほど、確かに宝石がはまっていた台座とおぼしき部分が乱暴に粉砕された形跡があった。

「ひでぇなぁ……」

 職人のバルドゥルはそれを見て痛ましそうにつぶやく。ジュードは宝冠を彼へと手渡した。

「直せそうかい?」

「直せるには直せる。だがちっと時間はかかるな」

「年明けの演説には?」

「間に合わせろってんなら間に合わせるさ。ただし宝石がありゃあな」

 結局はそこに尽きる、ということだろう。

「現場の物を使ったことといい、警報を鳴らすようなヘマをしたことも含め、おそらく今回の窃盗は突発的なものかと思われます」

 それにはルカも同意する。なにせ宝冠が職人部屋に移されていたことは一部の人間しか知らなかったのだ。それはクレエもそうだったのだろう。宝冠を見に行こうとして宝物庫の鍵を取りに行き、そこで職人の部屋にあると聞いて盗めるかもしれないと出来心を起こしたのかもしれない。

(いや、もしくは……)

 そもそも宝物庫を訪れようとしたのも、その時に盗むつもりだったのかもしれない。

(うーん、いや、それはないか……?)

 その場合、宝物庫を見に行ったクレエが第一発見者ということになるだろう。なにせ鍵を借りに行っているのだ。その上デザイナーのことも待たせている。状況的に少し彼女の立場が悪すぎる。

(じゃあやっぱり突発的な犯行……)

 とすると、状況的にも彼女はまだ宝石を所持している可能性が高い。

「事件発覚後すぐにこの周辺を封鎖し、持ち物の検査をしておりますので、犯人はすぐに確保できるかと思われます」

 さすがに素早い。この分ならば彼女はすぐに捕まるだろう。

(なら今回は自分の出る幕はないなぁ……)

 そんなことを思いながら頭の後ろに腕なんて回してみつつ、ルカはふと思い立って確認してみた。

「あのー、ちなみにこの場にいる人はもう持ち物検査したんですか?」

 リーダー憲兵はルカに対して嫌そうに眉を上げながらもジュードの手前無下にもできないと言いたげな態度で口を開く。

「もちろんだ。この部屋にいる人間は陛下とジュード殿下、そして貴殿以外は全員検査済みだ」

「……そっかー」

 ちょっと話が変わってきたようだ。

いつも読んでいただきありがとうございます。


ご報告になりますが、この度『引き立て役の妹』のコミカライズ2巻の発売が決定いたしました!

発売日は2026年11月10日です。すでに予約開始しております。

リンクを下に貼っておきますので、よろしければ覗いてみていただけると嬉しいです。

コミカライズ2巻が出ましたのもいつも読んでくださる皆さまのおかげです。本当にありがとうございます。

どうぞよろしくお願いいたします。

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