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偽聖女いわく、  作者: 陸路りん
2.カフェテリアの目撃者

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20/25

8.聖女登場

 栗色の髪の少女は呆然とした表情で立っている。

 それはまるで幽霊でも見たかのような顔だった。

(うーん……)

 幽霊、ーーつまりルカは、ジュードの隣に立ったまま、難しい顔で腕を組む。

(気まずい……)

 出てきたタイミングがタイミングである。しかしまぁ、出てきてしまったものはしかたがない。

「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!」

 なんとなく言ってみた。

 四方八方から冷たい視線が飛んできた。

 そんな凍えそうな温度の中で、二組の拍手の音が響く。

「さすがお姉様、とってもおもしろい冗談ですわ……」

 ミシェルと、

「素晴らしいです、お姉様。このような場でそのような冗談を言う度胸には感服いたしました」

 ミハエルである。

 二人はちっとも面白くなさそうな無表情のまま熱心に拍手をしていた。

「よけいにみじめになるからやめてくれ……」

「そう思うなら最初からやるべきではないよ。まさかあれっぽっちのホットワインで酔ったのかい?」

 あきれたようにジュードが刺してくるが、今回ばかりは反論の余地がない。

 アメジストの瞳は愚かな生き物をみるような憐れみに満ちていた。

「……酒が飲みてぇ」

 酔ってすべてを忘れてしまいたい。

 現実逃避でぼやいたそんな戯れ言は、

「どうぞ」

 叶えられた。

 すっ、と目の前にワインが差し出されたのだ。

 それも酒精の抜けたホットワインではない。普通の少し冷えたワインである。

 差しだしてきたのはミハエルだった。

「……」

「……」

 二人は無言でしばし見つめ合う。

 なぜこんな場所にワインを持ってきているんだ。ワイングラスにそそいであるがまさかこのまま持ってきたわけじゃないよな。だとしたらワインボトルはどこに隠しているんだ。

(いや……)

 いろいろとつっこみたいことはあったが、ルカはそれを飲み込んで静かにそのグラスを受け取った。

 酒を飲みたかったのは本心だったからだ。

「さて」

 ごほんごほん、と咳払いで微妙な空気を仕切り直すようにしてジュードは口を開く。

「聖女は一目で屋上にいる少女がアニエス嬢とは別人であることを見抜いた。だから屋上に確認しに行ったんだよ。そこで予想通り、アニエス嬢ではなくコリーナ嬢を見つけたんだ」

「なっ、なん……っ!」

「『なんで別人だと思ったのか』と聞きたいようだね。しかしそれは僕からではなく、聖女本人から説明してもらったほうがいいだろう」

 ちらり、とアメジストの瞳がルカのことを流し見た。ふられた出番にルカは慌ててあおっていたワイングラスから唇を離す。

「えー、えっと、それじゃあ……、今回を三回目として、過去二件の事件もふくめて話を整理していこうか」

 えほんえほん、と咳払いをしつつ、ルカは話し出した。


「過去に三回の暴行事件が起きた。しかし犯人と思われるアニエス嬢はその時間に必ず遠い別の場所で目撃されている。ここまでは合ってるか?」

「ええ、問題ありません」

 同意してくれたのは教師ヘクターだ。彼はくたびれた表情を動かすことなく淡々とうなずいた。

「一件目は中庭の湖に浮かべたボートの上、二件目は音楽室……」

「そして今回が屋上、だな」

 彼の説明の後半をルカは引き取った。ヘクターはそれにも律儀にうなずいてくれる。

「その通りです」

「この目撃場所の共通点はわかるか?」

 しかし続けて投げられた質問に、彼はわずかに困ったように目を細めた。

 そして首をひねる。

「さて……?」

 ルカはちらり、とアニエスを見た。彼女は真っ青な顔でうつむいている。

「どれも遠い場所なんだ」

「は?」

 ヘクターは怪訝そうにする。

「確かにどの場所も犯行現場からは遠い場所です。ですから私どもは……」

「ああ、違う違う、そうじゃなくって」

 ルカは首を振って言い直す。

「どの場所も、目撃者は遠い場所からアニエス嬢を見ているんだ」

「……!」

 ヘクターの目が驚くように見開かれた。そのリスのようにまん丸な目を見てルカは少し笑う。

「一件目は岸から湖に浮かぶボートを見るという状況、そして二件目は窓越しにピアノを弾いている姿」

 ルカは指折り数える。それを見せつけるようにゆっくりと室内を歩き始めた。

「そして今回は屋上にいる姿をカフェテリアや校舎から見る、という状況だ」

 こつり、と音を立てて足を止めた。そこはちょうどアニエスの目の前だ。

 彼女は目の前に立ったルカのことなど存在しないかのように、かたくなに床を見つめている。

「……正直、自分にはアニエス嬢の顔なんて見えなかった」

「え」

 ルカの告白にアンナが驚いたように声を漏らした。それにくすりと笑って彼はすぐそばにいるミハエルへと話を振る。

「ミハエル、おまえもはっきりは見えなかっただろ」

「……ええ」

 少し考えてから首肯するミハエルにルカはうなずき返す。

 あの距離で目鼻立ちなどわかるわけがない。にも関わらずなぜルカたちはその姿をアニエスだと思ったのか。その理由はーー、

「『これ』を見てくれ」

 ルカはそう言うと手に持っていた物を差しだした。

「これは……」

 ヘクターがなにかに気づいたようにルカのことを見た。それに軽くうなずく。

 それは『真っ赤なリボン』だった。

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