2.銀の双子の兄妹
日の光にきらきらと輝く黄金の髪、アメジストのように美しい紫色の瞳とその左目の下にある泣きぼくろ、癖なのか後方になでつけられた髪をかき上げる仕草は様になっている。
手ぐしでかき上げられた髪の毛先からぱらぱらと輝きが弾けて消えるエフェクトの幻影が見えた。
(まぁ、たぶんだけど……)
その姿を見て一瞬気持ちが揺らぐが、しかし状況的に見て彼が事を仕組んだと考えるのが自然だろう。そもそもクリスとマノンの仲が良くなったのは偶然だと思いたいが、二人の婚約を後押しするような働きかけももしかしたら彼は元々していたかもしれない。
そうでなければ、まだ婚約していないにも関わらず、あそこまでおおっぴらに関係を公言する事態など本来ならありえない。
学園内は学長であるジュードの采配が最大限にふるえる場所だ。本当ならばジュードは、いの一番にそのふるまいを咎めてやめさせなくてはならないし、そうさせる権利と立場がある。しかし彼がそれをしている姿を少なくともルカは見たことがない。あまり意識していなかったが、もしかしたらクリスとマノンの行いを黙認することで、二人を増長させるような環境を彼が作っていたのだとしてもおかしくはない。
ふと、ルカの視線に気づいたのかジュードがこちらを見た。そしてにこりと微笑む。
アメジストの瞳が三日月のように尖った。
(うわぁ)
その完璧に整った微笑みを見てルカは思う。
(やってそう……)
さすがは『腹黒摂政』と影で噂されるだけのことはある。
「なにかな? まぁ僕はとても美しいからねぇ。きみが思わず見惚れてしまうのもわからなくはないが……」
しかしキラキラと輝く謎の光を飛ばしながら、そうのたまう彼の姿を見ていると、とてもそのような『重鎮』には思えない。
見た目の美しさと二十八歳という若さも相まって俳優か物語に出てくる王子のようだ。
(いや、王子ではあるのか……)
今はその地位も相まって『大公』と称されることが多いが、王位継承権を持っている王族の男子という意味では彼も立派な王子だ。
そんなことを若干の現実逃避で考えつつ、しかし視界の隅で輝く銀色の双子を無視できずにルカは口を開いた。
「……それで? これは一体なんの茶番なんだ?」
「彼女たちのことかい? なんでも我々のサロンに『参加したい』と言うのでね。演奏が気に入れば検討してあげようと伝えたら来てくれたんだよ」
「なんだってまた……、こんな意味のない暇つぶしの場所に……」
ルカはあきれる。
特に尋ねたつもりはなかったが、その声は双子たちに聞こえたらしい。二人はゆっくりと瞬くと、ぴったりそろった仕草で同時に口を開いた。
『『権力にはおもねるように』、と父からは言われました』
「正直だなー」
ルカの首ががくり、と落ちる。
確かに今回彼女たちは被害者とはいえ、その後のふるまいで派手に波風を立ててしまった。また、第一王子との婚約が完全に無くなったことにより、第一王子派閥の中ではその立場が揺らいでいる。
(だからといって、すぐさまジュードに乗り換えるって……)
決断力があると褒めるべきか、薄情者とそしるべきか、難しいところだ。
まぁ、貴族としては優秀なのだろう。
『でもそれだけではありません』
ますますあきれかえったルカに、しかし二人はさらに言葉を重ねた。
銀の美しい双子は楽器を片手に持ち替えた。空いた方の手を互いに絡める。そうして寄り添うようにして立つと、その銀色の瞳を真っ直ぐにルカへと向けた。
その四つの瞳は、平静とした無表情の中で浮き上がるように熱情にうるんでいる。
「汚名をすすいでくださった恩人をどうして慕わずにいられましょう……」
「あなたは僕たちの恩人です」
「……いや、そんな……、当たり前のことをしただけで……」
戸惑いながらしどろもどろに伝えた言葉は、
「あなたにとってはあれが『当たり前』のことなのですね」
「素晴らしいです……」
二人に喰い気味にさえぎられた。
そしてそのまま双子はにじり寄ってくる。
(近い近い近い近い……っ)
椅子に座っていて逃げ場のないルカはぎりぎりまでのけぞった。
うっかりするとまつげとまつげが絡み合ってしまいそうな距離だ。
ほぅ、と熱を含んだ二人の吐息がルカの鼻先をくすぐった。
「あれ以来、わたくしたちはあなた様の虜なのです……」
「どうか俺たちのこの気持ちを否定なさらないで」
「どうかあなた様のことを親しみを込めて……」
二対の銀色の瞳が熱に浮かされたような温度でこちらを見つめる。
『お姉様と呼ばせてください』
異口同音だ。
「お、『お姉様』……」
メンタルアラフォーのおじさんにはきつい呼び名である。
「よかったねぇ」
こちらの戸惑いなど素知らぬふりで、ジュードがにこにこと笑った。
どこか遠くでピチピチと鳥のさえずる声も聞こえた気がした。
実に平和である。




