12.偽物の理由
そして美しい双子の兄妹は寄り添うようにして立つとルカの方へと視線を向ける。
(うっ!)
その美形オーラが目にまぶしい。
完全に外野のつもりで眺めていたルカは、その不意打ちで与えられたまばゆさでよろりと半歩下がった。
『聖女様……』
二人の声がユニゾンでかぶる。
『助けてくださり、どうもありがとうございました』
美しい兄妹たちはぴったりとそろった所作で頭を下げてみせると、そのまま再びそろった仕草で、
『それでは皆さま、ごきげんよう』
そう口元に微笑を浮かべると、まるで舞うような優雅な足取りでホールを後にした。
その場に残るのは……、呆然とした顔で立ち尽くす第一王子クリスとマノン、そしてひそひそとその二人を眺めて囁き合う人々だけである。
「立つ鳥跡を濁しまくりだ……」
ルカも呆然として、そうつぶやいた。
*
がたがたと馬車の車輪の音が尻に響く。
「いてて……」
こればっかりは日本の公共交通機関に慣らされたルカにはなかなか慣れないものだ。
あの後、場は解散となった。ルカはジュードの用意した馬車に揺られて寮へと帰るところである。
「今回も見事だったねぇ、さすがだよ。『真実の聖女』」
尻を気にするルカの正面に腰掛けたジュードがのんびりとそうのたまう。
それにルカは顔をしかめた。
「嫌みか」
「まさか、素直な賞賛だよ。きみほど素晴らしい『聖女』はいない」
にっこりと彼はいつもの嘘くさい顔で微笑む。
「これからも頑張ってくれよ。僕のために」
「……。いや、あんたのためではない」
強いて言うならば、ルカがこの『聖女』の仕事をこなすことでルカの育った孤児院にお金が入ることになっているので、孤児院のためだろう。
あと偽聖女であることがバレて処刑されないためだ。
「ふふふ、やだなぁ、言葉のあやだよ」
愉快そうに彼は目を細める。
どこまでが本気でどこまでが冗談なのかよくわからない男だ。
彼だって知っているはずなのだ。ルカにはその残念な能力だけではない、本物の『聖女』ではない理由がひとつ存在していることを。
それなのに「さすが『真実の聖女』」だなんて嫌みでなければ一体なんのおふざけだというのか。
ルカが『聖女』ではない決定的理由、それはーー、
「……それにしても残念だなぁ」
彼はふいにそうつぶやくようにして言うと、前屈みになった。長身な彼がかがむと小柄なルカとやっと目線が同じになり、ぐっと顔が近づく。
アメジストの瞳が鼻と鼻がくっついてしまいそうな距離でのぞき込みながら、その指先をルカの髪に絡ませた。
「もしもきみが『女の子』だったなら、本当に『完璧な聖女』だったのに」
ずるり、と小さな音を立ててルカの髪の毛が取れた。
それはかつらだ。
馬の毛で作られた真っ黒なかつらは、引っ張られたことでジュードの手に落ちる。
「……いや、だとしても『完璧』ではないだろ」
ルカは声のトーンを落とす。
それだけで先ほどまではかろうじて女の子らしかった声が少年のものへと変わった。
そう、これがルカが『聖女』ではない理由。
代々の真実の聖女は、『黒髪黒目の乙女』である。
だからここにいるのは聖女ではない。短く整えられた黒髪に黒い瞳をした、ただの『少年』だった。
「『犯人しかわからない』んだから」
「ふふ……、でも本当にわかっていないのかを疑うほどに、きみは事件の経緯を当ててみせるじゃないか。そんなのはすべてわかっているのと同じだよ」
ゆったりと彼は姿勢を元に戻す。背もたれのクッションに優雅にもたれかかりながら、人差し指でかつらをくるくる回した。
「しかしまぁ、男同士ゆえの気安さというのはあるねぇ。そういう意味ではきみが男で良かったのかもしれない」
「そうかよ」
ルカは頭をぽりぽりとかく。
ルカ、現在一五歳。日本での享年は三十六歳。
『聖女』を騙るために女装をしているが、今世での性別も立派な『男子』であった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次から2章に入ります。
おもしろいなと思っていただけたらブックマーク、⭐︎での評価などをしていだだけると励みになります。
よろしくお願いします。




