記録者:単一不認識果実修道会・第Ⅵ観測班
我々第Ⅵ観測班の任務は、この「始源の卵」が【有精卵】として生命を宿しているのか、あるいは【無精卵】としてただ腐敗を待っているのかを解き明かすための、終末確率シミュレーションである。我々にとって、ハッチング(孵化)は希望ではなく、ただの結論に過ぎない。
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■ 某月某日:【腐敗と熱的死の予兆】
シミュレーションの結果、この宇宙が【無精卵】である確率が依然として99%を維持している。グランド・ルースターがこの宇宙を温め続けているのは、命を誕生させるためではなく、単なる「食材としての熟成」を早めているだけではないかという最悪の仮説が浮上した。我々が歴史と呼んでいるものは、腐敗が進む過程で生じるガスや、有機物の分解プロセスに過ぎないのではないか。
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■ 某月某日:【哀歌としての咆哮】
神が時折放つ悲しげな「コケコッコー」の鳴き声について、音響分析と神学調査を行った。結論として、あの咆哮は孵化の合図ではなく、中身が空っぽであることへの「哀歌」である可能性が高い。唯一神すらも、自らが抱いているこの宇宙が、命を宿さぬただの塊であることを理解しているのかもしれない。鳴き声を聞くたび、観測所の熱力学的なエントロピーがわずかに上昇する。
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■ 某月某日:【アミノ酸スープへの回帰】
班内での「熱的死シミュレーション」の精度が向上した。
神がもし抱卵を諦め、この卵を割ることを決意したとき、待ち受けているのは新しい生命の誕生ではない。中身の有機物が秩序を失い、すべてがドロドロの原始スープへと分解される「終焉のディップ」である。このシミュレーション結果を見た班員の一人が、絶望に耐えきれず実験用のアミノ酸培養液を飲み干して「我々は最初からスープだったのだ」と呟きながら倒れた。
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■ 某月某日:【空虚な殻の観測】
観測所の外側、宇宙の境界線に微細な亀裂を発見した。しかし、そこから漏れ出しているのは光やエネルギーではなく、ただの「空虚」である。
我々の宇宙には、最初から「中身(魂)」など存在せず、神がクチバシでつつくたびに、少しずつ殻が薄くなっているだけという事実が突きつけられた。明日、もし神がこの卵を食卓に上げたとすれば、人類の138億年にわたる文明は、一口で胃袋へと消えるだろう。
── 腐敗を観測し続けることこそが、我々第Ⅵ班の唯一の役割である。次の鳴き声が、我々の消滅の合図となるのを待つ。 ──




