記録者:単一不認識果実修道会・第Ⅴ観測班
我々第Ⅴ班の任務は、唯一神グランド・ルースターの巨大な眼球の瞬き(瞬膜の動作)を監視し、その瞬間に殻内宇宙で発生する物理法則のバグをログとして回収することである。神がまぶたを閉じるその数秒間、我々の宇宙は「存在する権利」を一時的に剥奪される。
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■ 某月某日:【3秒間の光速停止】
グランド・ルースターがゆっくりと、その冷徹な眼球を覆う瞬膜を閉じた。
わずか3秒間の出来事だが、その間、全宇宙における光の速度が完全に停止した。
近代物理学が築き上げた「光速不変の原理」は、神が視界を遮った瞬間に「ただの幻想」へと変わる。
観測所の時計は刻を止めることなく進んでいるが、光子が停止しているため、宇宙のあらゆる事象はフリーズした。我々が観測できるのは、神の「視線」こそがこの宇宙を回している動力源であるという、あまりにも残酷な真実だ。
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■ 某月某日:【数式のゼロ収束】
神の瞬きと連動し、観測所内の量子コンピュータが狂ったようなアラートを鳴らし始めた。
宇宙の根源的な物理定数が、一斉に「0」へと収束している。
重力定数、プランク定数、微細構造定数。人類が「不変の法則」と呼んでいるものは、神のまぶたが閉じた瞬間に無効化されるプログラムのサブルーチンに過ぎないらしい。
眼球が閉じている間、この宇宙は「計算の必要がない空白地帯」として処理され、すべてのデータが砂嵐へと書き換えられる。
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■ 某月某日:【存在確率のバグ】
瞬膜が閉じている間に観測所内で重大な事故が発生した。
神が視界を遮っている3秒間、物理法則の維持が放棄された結果、班員の一人の「質量」が一時的に消失したのだ。
彼は天井に張り付いたまま質量ゼロの存在と化し、神が再び目を開いた瞬間に、重力に従って床へと激しく落下した。
神に見捨てられた3秒間、我々は物質としての安定性を保つことすらできない、あまりにも脆い虚像の積み重ねなのだ。
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■ 某月某日:【不完全な再起動】
神が瞬膜を開き、観測を再開した。
しかし、今回の瞬きは完璧ではなかった。神の視線が戻った瞬間に、観測所のデータログに「1%の情報の欠損」が確認された。
どうやら、神が瞬きをするたびに、この宇宙は元の状態を完全には保持できず、少しずつ劣化し続けているようだ。
昨日まで存在していたはずの「ある星座」の光が、この瞬きを境に宇宙から消失した。神は自らの手で、この宇宙を少しずつ消しゴムのように消し去っている。
── 神のまぶたが閉じるたび、我々の宇宙は少しずつ「終わり」に近づく。次の瞬きが最後になることのないよう、祈るのみである。 ──




