第22話 冬休み②
そこから14日間、俺は冬休みミッションをこなし続けた。
朝は走って、冷水シャワーを浴びて、前日の復習を30分で終わらせる。昼はジムか勉強。バイトがある日は、行く前にできるだけ詰め込む。帰ってから読書と要点まとめ。寝る前にスキンケアとヘアケア。
毎日、順番を組み替えながら、どうにか条件を拾っていった。
対人ミッションは、LINE通話で補った。伊藤、川島、咲良、橘たちと話した。通話だと表情が見えないぶん、声のトーンや間を読む必要がある。最初は難しかった。でも、読書で学んだ「聴くこと」を意識すると、少しずつ相手が話しやすくなる感覚があった。
期間中、ステータスコミットはほとんど来なかった。
◇
最終日の夜。
全条件を確認した。かなり危なかった。完璧に毎日こなせたわけじゃない。むしろ、ほとんどの項目が崖っぷちだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━
【MISSION WARNING】
・数学 2回未達成
・英語 2回未達成
・国語 3回未達成
・理科 3回未達成
・社会 3回未達成
・読書・要点まとめ 3回未達成
・ジムトレーニング 2回未達成
・睡眠 3回未達成
・スキンケア・ヘアケア 1回未達成
※通算4回の未達成で
該当ステータスが低下します。
━━━━━━━━━━━━━━━━━
クリスマスの8時間勤務でかなり崩れた。他のバイト日でも時間は削られた。
それでも、4回目には触れていない。
全部を完璧にこなしたわけじゃない。崩れそうな全体を、最後まで管理しきった。
それが今回の勝ち方だった。
そのとき、パネルが光った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━
【MISSION COMPLETE】
難易度:極
冬休み終了まで、全条件を達成せよ。
全条件達成ボーナス発動
知識 56 → 60
学力 63 → 65
容姿 63 → 66
体格 62 → 65
会話力 60 → 62
運動神経 61 → 64
筋力 60 → 65
全項目平均:63.9
※身体への反映完了まで最大24時間かかります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━
続けて、別の通知が出た。
━━━━━━━━━━━━━━━━━
【NOTICE】
身長および顔立ちの一部は、遺伝子的限界値に到達しました。
ただし、容姿・体格は単一要素ではなく、肌状態・髪質・体脂肪率・筋肉量・姿勢などを含む総合評価です。
後天的改善余地は、なお残っています。
━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━
【NOTICE】
初期サポートによる成長補助は、現在も適用されています。
ただし、成長補助の終了まで残り1カ月を切っています。
終了後は、成長効率が通常状態へ移行します。
━━━━━━━━━━━━━━━━━
ミッションでの成長幅が大きい。
これが控えていたから、途中で数値がほとんど動かなかったのかもしれない。そう考えると、少し納得できた。
だが、遺伝子的限界値。
その言葉が、頭に残った。
◇
翌朝。3学期の初日。
身長を測ると、179cmだった。
1学期までの俺は、夜更かしばかりしていた。食事も偏っていた。運動もしていなかった。伸びるものも伸びなかったんだろう。
でも、背が高い才能があった、という感じとは少し違う。夜更かしをして何の努力もしなくても180cmを超えるやつはいる。一方で俺は、生まれてから限界まで背を高くする努力をしても179cm。
背を伸ばす才能はないほうなんだろう。
それでも、限界値という言葉は少し重かった。もう身長や顔立ちの一部は、大きく変わらない。
ただ、通知は同時に言っている。
容姿と体格には、まだ後天的な改善余地がある。
肌。髪。筋肉。姿勢。体脂肪。全体のまとまり。
きっとそこはまだ変えられる。
初期サポート終了まで、残り1カ月を切っている。ここから先が、今まで以上に重要だった。
洗面台で鏡を見る。
顔そのものが大きく変わった感じはない。目の形も、鼻筋も、輪郭も、土台は前のままだ。
でも、肌は明らかに違った。ニキビ跡の凹凸感はほとんど見えない。毛穴も前より目立たない。肌の色が均一で、光をやわらかく返している。
髪にも艶があった。毎晩トリートメントを続けた結果だ。指通りも前よりいい。
体の変化はさらにわかりやすかった。肩の丸み、胸の厚み、腕の輪郭。ジムで鍛えた分がそのまま出ている。
体重は70kg。夏の終わりより5kg増えているが、太った感じはない。筋肉で体が厚くなっていた。
制服を着ると、肩と胸、太もものあたりが少し窮屈だった。ただ、そのぶん体つきははっきりして見えた。
それは悪くなかった。
◇
リビングに降りると、里奈がソファにいた。ちょうどいいと思った。里奈なら正直な感想が聞ける。
「……どう? 第2進化した?」
俺は聞いた。
里奈が顔を上げた。俺を上から下まで一度見る。
「うわ……」
里奈が言った。少し間があった。
「なんか肌も髪も艶が出てる。しかも筋肉めっちゃついてない? 兄貴、マジで何を目指してるの?」
何を目指しているのか、と言われると困るな、と思った。
今は黒川を圧倒するステータスを目指している。だが、もしそれが完遂できたとしても、そこで終わるわけではない。
人より容姿が良くなりたい。賢くなりたい。強くなりたい。変わりたい。でも、その先に何があるかは、まだはっきり言葉になっていない。
何も返せないのも悔しいので、とりあえず適当に言った。
「……最終進化」
里奈が顔をしかめた。
「はあ? 最終進化とか何言ってんの。意味わかんないんだけど」
「いや、お前が最初に言い出したんだろ」
「は? 言いがかりだし」
こいつ、絶対覚えてるだろ。俺が呆れていると、里奈がスマホに視線を落とした。口元が少し動いていた。俺の反応に笑いをこらえているのか、それとも気のせいか。
もう里奈のことは気にしないことにして、制服を整えて鞄を持った。
今日は久しぶりの学校だ。
登校するのが、楽しみだった。




