九十五話 ラストスパート
PvPまで残り一週間を切り、プレイヤーたちの盛り上がりも最高潮に達しつつある。
ネット上の掲示板ではPvPの話題ばかりだ。
ログインしても、三人パーティーの姿を見かけるようになった。パーティー戦に出場すべく組んだのだろう。
試合当日だけの即席パーティーでは到底勝てない。
試合の仕様は普段のSOSに準じ、フレンドリーファイアが発生する。連携が未熟なパーティーでは、足を引っ張り合うのは目に見えている。
コダるプレイヤーが増え、不快な思いをしている人もいるらしいが、タゴサクたちはPK被害にあいにくくなった。
PKに襲われる頻度が低くなって助かる。
そのような会話をしながら、ソーニャやイアと一緒に【皇星ジャパン】を歩いていると、別の三人組を見かけた。
「あんた」
「チッ。おい、行くぞ」
タゴサクたちを見て、バツが悪そうな顔をして去って行った。
モンスターPKを二度も仕掛けてきた男性プレイヤーだ。
彼は二人の女性とパーティーを組んでいた。コダる卑怯者と断じてPKをしていたのに、自分がコダっているからバツが悪いのだと思う。
そそくさと立ち去る様子を見て、ソーニャは呆れたように言う。
「何あれ。コダるのが嫌なら、自分の方針を貫けばいいのに、中途半端ね」
「ヴァイスは貫いてるみたいだよな。イベントでもコダらないし、パーティー戦にも参加しないって。まあ、パーティーを組むかどうかは個人の自由だ。好きにすればいいだろ」
「今になってパーティーを組み始めたのが気に食わないのよ。PvPに向けて三人パーティーが増えてるから、今なら大丈夫だって考えたんでしょ」
「サクさんのことをハーレム野郎って言ってたのに、自分も女性二人と一緒だもんね。矛盾してるよ」
周囲に合わせて行動するのは悪くない。波風を立てない賢い生き方だ。
パーティーを組むプレイヤーが増える分には歓迎だし、彼を悪く言う気はない。
タゴサクは自分のやりたいようにやる。
「俺たちがコダってるのも、俺が美少女二人と一緒なのも事実だ。ハーレムって言われたくないなら、二人と一緒にいない。俺が一緒にいたいし、一緒に遊びたいんだよ。俺が悪く言われるよりも重要なんだ」
「キザね。ところで、ハーレムって具体的に何人から? 二人は少なくない?」
「知らん。バカなこと言ってないで、用事を済ませてレベリングしよう」
三人が向かっているのは職業斡旋所だ。ジョブを変えるつもりでいる。
金色になってからレベルも上がり、【不敗騎士】でスキルや魔法を覚えた。
そろそろ次のジョブにしてもいい頃だし、変更する。
ついでに、ソーニャとイアもジョブを変更すると言っている。
職業斡旋所に行き、ジョブ変更の手続きを行う。
就けるジョブの一覧が出るが、数が多いのでどれにするか悩んでしまう。金色のジョブなだけあり、強そうな名前がずらりと並ぶ。
「【天衣】ってのもいいが、【金剛仁王】もありだな」
天衣無縫から取っていると思われる【天衣】は強そうだ。
いかにも金色のジョブ然とした【金剛仁王】も捨てがたい。
他のジョブにも惹かれるし、優柔不断なタゴサクでは即決できない。
散々悩んだ末に、自分らしさを優先する。
「【金獅子】でお願いします」
金色になって以来ご無沙汰だが、昔はネコサクやシシサクに変身していた。
このジョブなら、金色のスキルでシシサクになれるかもしれない。ネコサクでイアにもふられるのは不満だが、シシサクは格好いいのでありだ。
金色の鬣をなびかせて敵を倒す自分の姿を妄想する。
イアも惚れ直してくれるに違いない。
新しいジョブになって二人と合流する。時間をかけて悩んでいたタゴサクが最後だったらしく、二人は退屈そうに待っていた。
「悪い、待たせた」
「随分遅かったけど、何にしたの?」
「【金獅子】だな。金色のシシサクだぞ。イアに『サクさん、素敵です』って言わせてやるからな」
「獅子よりも猫ちゃんがいいです。猫ちゃんをもふもふしたいです」
「現実で猫のタゴサクをもふってろ。ソーニャとイアのジョブはなんだ?」
「私は【歌姫】よ」
「わたしは【黒王】です! 黒の王! 単純だからこそ格好いいですよね! 黒の最高峰みたいな感じです!」
三人のジョブが決まり、これで試合に臨むことになる。
装備もほぼそろっており、モンスタードロップやクエスト報酬のレア装備を身に着けている。
タゴサクの武器は、例の【ニフナジュレタの赦し】だ。
剣でも槍でも斧でも、好きな武器にできる。何度でも変更可能な自由度の高い武器だし、攻撃力も高い。タゴサクは剣にして使っている。
防具もいい物を入手済みだ。
ソーニャは、試合用に一張羅を購入したと言っていた。
当日のお楽しみと言われ、タゴサクは見せてもらっていないが、可愛いらしい。
一億九千万スターというバカな値段の和装だ。しかも、購入するにはクエストをクリアしなければならない。
ソーニャは、クエストをクリアした上に、所持金をはたいて購入したのだ。
可愛いだけで防御力が紙である服を。なんの効果もない和装を。
こだわりもここまでくれば立派なものだ。
イアの武器は【闇夜に落ちしギンサギンシの暗槍】という長ったらしい名前だ。
厨二病患者の心に大ヒットしたようで、「銀砂で銀糸なのに闇夜の暗槍なのが最高です!」とハイテンションになっていた。
防具も黒で統一しており、全身真っ黒になっている。
大鎌の武器である【大虐葬送殺無塵】も予備として持っているし、さらにジョブが【黒王】。お前は何を目指しているのだと突っ込みたい。
ともあれ、準備はあらかた整っている。
あとは今のジョブで少しでもレベルを上げよう。
三人で職票斡旋所を出て、行先は【難星グンマー】だ。
ジャパンステラで最高難易度を誇る星だが、今の三人ならモンスターともギリギリ戦える。ここでレベリングだ。
「どこまでレベルを上げられるかだな」
タゴサクの言葉は独り言であり、話しかけたわけではなかったが、イアが反応してくれる。
「試合で格好いい姿を見せてくれるんですよね?」
「見せるぞ。俺がSOSを引退する時は、答えが欲しい」
「ほんのちょーっと考えてあげるだけですからね。ほんのちょーっとだけですよ」
「素直じゃないな」
イアの中では、ほとんど答えは出ているはずだ。タゴサクの自惚れではなく好きになってくれている。
ここまで思わせぶりな態度を取っておきながら、やっぱり付き合いませんとなれば、ショックで女性不信になりそうだ。
色よい返事を期待させてもらう。
「金色の試合で優勝でもしてくれれば、ほんのちょーっとからちょっとにしてあげてもいいです。わたしは優しいご主人様ですからね」
「マジで素直じゃねえな。俺の恋人になったら覚えとけよ。これまで焦らされた分も含めて、やることをやりまくるぞ」
「サクさんはエッチです! セクハラです!」
「俺は、デートしたり手をつないだりって考えたが、イアは何を想像したんだ?」
ニヤニヤと笑いながら、意地悪な質問を投げかけた。
デートや手をつなぐのも重要だが、タゴサクは当然スケベな行為を考えた。
では、イアは何を考えたのか。
「誘導尋問です! 卑怯なサクさんは格好悪いです!」
「イアがお望みなら、そっちもやるぞ。ネコサクになってもふられてたが、本当なら俺がイアをもふって声を出させたいんだ。性的に『らめぇぇ!』って言わせてやるからな。性的に攻め立てて、『壊れりゅうぅぅ!』とか言ってもやめてやらん。性的に攻めまくってやる」
「妄想お疲れ様です。どれだけ『性的に』を強調したいんですか」
「童貞のお兄ちゃんらしい妄想よね。エッチな本の読み過ぎよ」
「サクさん、そんなの読んでるんですか? 浮気ですか?」
「お兄ちゃんの愛読書を、今度教えてあげるわ」
「なんでお前が知ってんだ!」
タゴサクは年頃の男なので、その手の本は読んでいる。
ただし、紙媒体の本や電子書籍を購入したのではない。年齢確認が厳しく、高校生では購入不可能だ。
インターネットから落としてきた物になる。ベッドの下に隠しているとかではないため、タゴサクが教えない限りソーニャが知りようのない内容だ。
当然教えていないのに、この妹様はなぜか知っていると豪語する。
「さあて、なんででしょうね。いくつかタイトルを挙げると」
ソーニャはイアに耳打ちを始めた。
「……巨乳ばっかり」
「実妹物とかがないのは、私的には評価するわよ。あればドン引きだったわ」
「セクハラです」
「運営に通報する? 現実で持ってるエッチな本じゃ通報できないけど、さっきのセクハラ発言でね」
「えっと、運営に通報する方法は……」
「やめてください!」
PvP間近でアカウント削除になっては敵わない。しかも、こんなにもバカバカしい理由で。
今までの苦労が水の泡だ。
ソーニャやイアもセクハラ発言をするのに、タゴサクがすれば加害者にされてしまうのは、理不尽極まりない。
理不尽でも耐えるしかなかった。
「罰として猫ちゃんですって言えなくなったんですよね。【金獅子】で猫ちゃんになるスキルを覚えてください」
「スキルは、俺の努力じゃどうにもならんぞ。システム的に実装されてなけりゃ覚えようがない」
「今こそシステムの限界を超える時です!」
いつも通りの漫才をしつつ、【難星グンマー】のフィールドでレベリングだ。
意外なことに、高レベルプレイヤーが多い【難星グンマー】でも、パーティーを組んでいる人をちらほら見かけた。
「あの人、この前わたしとソーニャちゃんが戦った人です」
「お兄ちゃんが女神様の神殿に行く時に足止めしたけど、そこにいたわね。あっちの人もそうよ」
コダるプレイヤーを忌避し、PKしていたのに、パーティーを組んでいる。
二度モンスターPKを仕掛けてきた男性プレイヤーもだが、方針を変更してパーティーを組み出すプレイヤーが増えていた。
よい変化だと思いたい。
好んでソロになるならなればいい。孤独を好む人に友情を押し付けるのは、大きなお世話だ。
ソロが好きならソロ、パーティーが好きならパーティー。ハーレムや逆ハーレムを作りたいなら作る。
ゲームなのだし、自由に遊ぶのが一番だ。
SOS内の変化を感じつつ、フィールドでモンスターと戦う。
「【全力】!」
タゴサクは熟練度上げも兼ねて【全力】を使う。
二人から苦情は出ない。強敵相手でも使い物になるほど、タゴサクの【全力】は強くなっている。
「【バースト】!」
魔法も同様だ。初期に覚えたとは思えない威力を発揮する。
「【夢ノ庭ニ笑顔ノ花咲ク】!」
「【我ハ黒ノ執行者】!」
ソーニャは橙色の奥義、【夢ノ庭ニ笑顔ノ花咲ク】。
イアは黒色の奥義、【我ハ黒ノ執行者】。
二人が育てようとしている奥義になる。
どちらも熟練度が限界を超え、育てまくっているので、非常に強力だ。
ただし欠点もあり、熟練度が限界を超えれば消費MPやSPも増える。
タゴサクの【全テヲ滅スル光】は初期の奥義だからか、増加量は誤差のようなものだ。
ソーニャやイアのように強力な奥義を育てると、バカにならない。
戦闘が一度終わるごとにアイテムで回復している。
「お金が足りないわ。モンスターを倒しても赤字よ」
「一億九千万もする服を買う奴が悪い。ここまでくりゃ、普通は金欠にならないもんだぞ」
「欲しかったのよ。後悔はしてない!」
「試合も買った服で参加するんだよな? パーティー戦は俺とイアでフォローできるが、美少女プレイヤーランキングの試合も和装か?」
「当然! 防御力なんて飾り! 私のポリシーよ!」
「好きにすりゃいいんだが、アホな奴」
イアの厨二病と並び、タゴサクには理解できない。
戦闘面ではデメリットしかない。イアが入手した【雪女の衣】なら、冷属性の攻撃に強いというメリットがあるが、ソーニャの服は本当に可愛いだけだ。
理解はできなくとも、ゲームを楽しむのが一番だとは思う。装備したくない物を装備する必要はない。
装備したくないで思い出したが、あの杖はどうしたのだろうか。
「ソーニャは、【キングイーンイカタコ】のドロップはどうしたんだ? あの触手みたいな杖」
「とっくに売ったわよ。服を買うための金策にしたわ」
「強かったんだろ?」
「少なくとも、今の杖よりは強いわね。でも可愛くないしダメ」
「レアドロップなのにもったいねえ」
徹頭徹尾、可愛いを基準にするソーニャであった。
タゴサクは使い道のない剣も売らずに持っている。
序盤に購入した物、モンスタードロップの【蟷螂剣】や【ゴブリンレイピア】、今は装備できなくなった鈍色専用武器。
どれもこれも思い出の詰まった品だ。【ゴブリンレイピア】は使った経験がないが、ジャングルでゴブリン狩りをしたことを思い出す。
あっさり売り払うソーニャが冷たいとは言わない。タゴサクも全てのアイテムに感情移入しているわけではなく、剣だけだ。
ソーニャだって、可愛い服には愛着がある。人それぞれ異なるということだ。
気分転換の雑談はここまでにし、レベリングの続きをする。
一日戦えばゲームは終わりだ。回復のために宿屋に入り、ログアウト前に成果を確認しつつだべるのがいつもの流れになる。
「レベルは上がったが、いいアイテムはドロップしないか」
「今のままでも十分でしょ。なんか欲しい物あるの?」
「俺は特にないな。ソーニャは?」
「強いて言えば杖ね。可愛い杖」
「また可愛いかよ」
「わたしの基準は厨二病的で格好いい。ソーニャちゃんの基準は可愛い。サクさんは……なんです?」
「お兄ちゃんはギャンブルでしょ。もしくは猫」
「猫は勘弁だ。ギャンブルにしといてくれ」
三人とも独自色を打ち出している。タゴサクだけが少々アレなのはご愛嬌だ。
オリジナリティあふれる三人パーティーになる。
そして、このパーティーを飾るにふさわしいある名前を決めなければならない。
「パーティー戦に登録するパーティー名はどうする?」
PvPのパーティー戦では、パーティー名を登録する。
他の試合は個人戦になるのでプレイヤー名になるが、パーティー戦では自由に名前を決められるのだ。
「ご主人様とペットと可憐な少女」
「却下だ。つうか、自分で自分を可憐な少女とか」
「猫ちゃん」
「却下だ。俺はネコサクにならないし、関連がない」
ソーニャとイアの意見は、考慮するに値しない。
「じゃあ、お兄ちゃんの意見は?」
「錯綜の愛」
タゴサク、ソーニャ、イアの名前を組み合わせたパーティー名だ。意味はない。
意味はないつもりだが、男一人に女二人のパーティーが錯綜の愛では、他人は意味を考える。
入り組んで混乱した複雑な愛。すなわち修羅場かと。
自分で言っていて、これはないと思った。
「却下」
「却下です」
相談するが、パーティー名は決まらなかった。
まだ時間はある。慌てて決める必要もないので保留とし、ログアウトだ。
明日からもPvPに向けてレベリングする。
残りわずかな期間、ラストスパートをかけよう。
次で第4章最終話となります。




