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たった一つの輝くもの  作者: ともむらゆう
第4章 オーロステラ
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九十五話 ラストスパート

 PvPまで残り一週間を切り、プレイヤーたちの盛り上がりも最高潮に達しつつある。

 ネット上の掲示板ではPvPの話題ばかりだ。

 ログインしても、三人パーティーの姿を見かけるようになった。パーティー戦に出場すべく組んだのだろう。


 試合当日だけの即席パーティーでは到底勝てない。

 試合の仕様は普段のSOSに準じ、フレンドリーファイアが発生する。連携が未熟なパーティーでは、足を引っ張り合うのは目に見えている。


 コダるプレイヤーが増え、不快な思いをしている人もいるらしいが、タゴサクたちはPK被害にあいにくくなった。

 PKに襲われる頻度が低くなって助かる。

 そのような会話をしながら、ソーニャやイアと一緒に【皇星ジャパン】を歩いていると、別の三人組を見かけた。


「あんた」

「チッ。おい、行くぞ」


 タゴサクたちを見て、バツが悪そうな顔をして去って行った。

 モンスターPKを二度も仕掛けてきた男性プレイヤーだ。

 彼は二人の女性とパーティーを組んでいた。コダる卑怯者と断じてPKをしていたのに、自分がコダっているからバツが悪いのだと思う。

 そそくさと立ち去る様子を見て、ソーニャは呆れたように言う。


「何あれ。コダるのが嫌なら、自分の方針を貫けばいいのに、中途半端ね」

「ヴァイスは貫いてるみたいだよな。イベントでもコダらないし、パーティー戦にも参加しないって。まあ、パーティーを組むかどうかは個人の自由だ。好きにすればいいだろ」

「今になってパーティーを組み始めたのが気に食わないのよ。PvPに向けて三人パーティーが増えてるから、今なら大丈夫だって考えたんでしょ」

「サクさんのことをハーレム野郎って言ってたのに、自分も女性二人と一緒だもんね。矛盾してるよ」


 周囲に合わせて行動するのは悪くない。波風を立てない賢い生き方だ。

 パーティーを組むプレイヤーが増える分には歓迎だし、彼を悪く言う気はない。

 タゴサクは自分のやりたいようにやる。


「俺たちがコダってるのも、俺が美少女二人と一緒なのも事実だ。ハーレムって言われたくないなら、二人と一緒にいない。俺が一緒にいたいし、一緒に遊びたいんだよ。俺が悪く言われるよりも重要なんだ」

「キザね。ところで、ハーレムって具体的に何人から? 二人は少なくない?」

「知らん。バカなこと言ってないで、用事を済ませてレベリングしよう」


 三人が向かっているのは職業斡旋所だ。ジョブを変えるつもりでいる。

 金色になってからレベルも上がり、【不敗騎士(インビンシブルナイト)】でスキルや魔法を覚えた。

 そろそろ次のジョブにしてもいい頃だし、変更する。


 ついでに、ソーニャとイアもジョブを変更すると言っている。

 職業斡旋所に行き、ジョブ変更の手続きを行う。

 就けるジョブの一覧が出るが、数が多いのでどれにするか悩んでしまう。金色のジョブなだけあり、強そうな名前がずらりと並ぶ。


「【天衣(イノセント)】ってのもいいが、【金剛仁王(ヴァジュラ)】もありだな」


 天衣無縫から取っていると思われる【天衣】は強そうだ。

 いかにも金色のジョブ然とした【金剛仁王】も捨てがたい。

 他のジョブにも惹かれるし、優柔不断なタゴサクでは即決できない。

 散々悩んだ末に、自分らしさを優先する。


「【金獅子(レオーネ)】でお願いします」


 金色になって以来ご無沙汰だが、昔はネコサクやシシサクに変身していた。

 このジョブなら、金色のスキルでシシサクになれるかもしれない。ネコサクでイアにもふられるのは不満だが、シシサクは格好いいのでありだ。


 金色の(たてがみ)をなびかせて敵を倒す自分の姿を妄想する。

 イアも惚れ直してくれるに違いない。

 新しいジョブになって二人と合流する。時間をかけて悩んでいたタゴサクが最後だったらしく、二人は退屈そうに待っていた。


「悪い、待たせた」

「随分遅かったけど、何にしたの?」

「【金獅子】だな。金色のシシサクだぞ。イアに『サクさん、素敵です』って言わせてやるからな」

「獅子よりも猫ちゃんがいいです。猫ちゃんをもふもふしたいです」

「現実で猫のタゴサクをもふってろ。ソーニャとイアのジョブはなんだ?」

「私は【歌姫(ディーヴァ)】よ」

「わたしは【黒王(ブラックキング)】です! 黒の王! 単純だからこそ格好いいですよね! 黒の最高峰みたいな感じです!」


 三人のジョブが決まり、これで試合に臨むことになる。

 装備もほぼそろっており、モンスタードロップやクエスト報酬のレア装備を身に着けている。


 タゴサクの武器は、例の【ニフナジュレタの(ゆる)し】だ。

 剣でも槍でも斧でも、好きな武器にできる。何度でも変更可能な自由度の高い武器だし、攻撃力も高い。タゴサクは剣にして使っている。

 防具もいい物を入手済みだ。


 ソーニャは、試合用に一張羅を購入したと言っていた。

 当日のお楽しみと言われ、タゴサクは見せてもらっていないが、可愛いらしい。

 一億九千万スターというバカな値段の和装だ。しかも、購入するにはクエストをクリアしなければならない。

 ソーニャは、クエストをクリアした上に、所持金をはたいて購入したのだ。

 可愛いだけで防御力が紙である服を。なんの効果もない和装を。

 こだわりもここまでくれば立派なものだ。


 イアの武器は【闇夜に落ちしギンサギンシの暗槍】という長ったらしい名前だ。

 厨二病患者の心に大ヒットしたようで、「銀砂で銀糸なのに闇夜の暗槍なのが最高です!」とハイテンションになっていた。

 防具も黒で統一しており、全身真っ黒になっている。

 大鎌の武器である【大虐葬送殺無塵だいぎゃくそうそうさつむじん】も予備として持っているし、さらにジョブが【黒王】。お前は何を目指しているのだと突っ込みたい。


 ともあれ、準備はあらかた整っている。

 あとは今のジョブで少しでもレベルを上げよう。

 三人で職票斡旋所を出て、行先は【難星(なんせい)グンマー】だ。

 ジャパンステラで最高難易度を誇る星だが、今の三人ならモンスターともギリギリ戦える。ここでレベリングだ。


「どこまでレベルを上げられるかだな」


 タゴサクの言葉は独り言であり、話しかけたわけではなかったが、イアが反応してくれる。


「試合で格好いい姿を見せてくれるんですよね?」

「見せるぞ。俺がSOSを引退する時は、答えが欲しい」

「ほんのちょーっと考えてあげるだけですからね。ほんのちょーっとだけですよ」

「素直じゃないな」


 イアの中では、ほとんど答えは出ているはずだ。タゴサクの自惚れではなく好きになってくれている。

 ここまで思わせぶりな態度を取っておきながら、やっぱり付き合いませんとなれば、ショックで女性不信になりそうだ。

 色よい返事を期待させてもらう。


「金色の試合で優勝でもしてくれれば、ほんのちょーっとからちょっとにしてあげてもいいです。わたしは優しいご主人様ですからね」

「マジで素直じゃねえな。俺の恋人になったら覚えとけよ。これまで焦らされた分も含めて、やることをやりまくるぞ」

「サクさんはエッチです! セクハラです!」

「俺は、デートしたり手をつないだりって考えたが、イアは何を想像したんだ?」


 ニヤニヤと笑いながら、意地悪な質問を投げかけた。

 デートや手をつなぐのも重要だが、タゴサクは当然スケベな行為を考えた。

 では、イアは何を考えたのか。


「誘導尋問です! 卑怯なサクさんは格好悪いです!」

「イアがお望みなら、そっちもやるぞ。ネコサクになってもふられてたが、本当なら俺がイアをもふって声を出させたいんだ。性的に『らめぇぇ!』って言わせてやるからな。性的に攻め立てて、『壊れりゅうぅぅ!』とか言ってもやめてやらん。性的に攻めまくってやる」

「妄想お疲れ様です。どれだけ『性的に』を強調したいんですか」

「童貞のお兄ちゃんらしい妄想よね。エッチな本の読み過ぎよ」

「サクさん、そんなの読んでるんですか? 浮気ですか?」

「お兄ちゃんの愛読書を、今度教えてあげるわ」

「なんでお前が知ってんだ!」


 タゴサクは年頃の男なので、その手の本は読んでいる。

 ただし、紙媒体の本や電子書籍を購入したのではない。年齢確認が厳しく、高校生では購入不可能だ。

 インターネットから落としてきた物になる。ベッドの下に隠しているとかではないため、タゴサクが教えない限りソーニャが知りようのない内容だ。

 当然教えていないのに、この妹様はなぜか知っていると豪語する。


「さあて、なんででしょうね。いくつかタイトルを挙げると」


 ソーニャはイアに耳打ちを始めた。


「……巨乳ばっかり」

「実妹物とかがないのは、私的には評価するわよ。あればドン引きだったわ」

「セクハラです」

「運営に通報する? 現実で持ってるエッチな本じゃ通報できないけど、さっきのセクハラ発言でね」

「えっと、運営に通報する方法は……」

「やめてください!」


 PvP間近でアカウント削除になっては敵わない。しかも、こんなにもバカバカしい理由で。

 今までの苦労が水の泡だ。

 ソーニャやイアもセクハラ発言をするのに、タゴサクがすれば加害者にされてしまうのは、理不尽極まりない。

 理不尽でも耐えるしかなかった。


「罰として猫ちゃんですって言えなくなったんですよね。【金獅子】で猫ちゃんになるスキルを覚えてください」

「スキルは、俺の努力じゃどうにもならんぞ。システム的に実装されてなけりゃ覚えようがない」

「今こそシステムの限界を超える時です!」


 いつも通りの漫才をしつつ、【難星グンマー】のフィールドでレベリングだ。

 意外なことに、高レベルプレイヤーが多い【難星グンマー】でも、パーティーを組んでいる人をちらほら見かけた。


「あの人、この前わたしとソーニャちゃんが戦った人です」

「お兄ちゃんが女神様の神殿に行く時に足止めしたけど、そこにいたわね。あっちの人もそうよ」


 コダるプレイヤーを忌避し、PKしていたのに、パーティーを組んでいる。

 二度モンスターPKを仕掛けてきた男性プレイヤーもだが、方針を変更してパーティーを組み出すプレイヤーが増えていた。

 よい変化だと思いたい。


 好んでソロになるならなればいい。孤独を好む人に友情を押し付けるのは、大きなお世話だ。

 ソロが好きならソロ、パーティーが好きならパーティー。ハーレムや逆ハーレムを作りたいなら作る。

 ゲームなのだし、自由に遊ぶのが一番だ。

 SOS内の変化を感じつつ、フィールドでモンスターと戦う。


「【全力(パワー)】!」


 タゴサクは熟練度上げも兼ねて【全力】を使う。

 二人から苦情は出ない。強敵相手でも使い物になるほど、タゴサクの【全力】は強くなっている。


「【バースト】!」


 魔法も同様だ。初期に覚えたとは思えない威力を発揮する。


「【夢ノ庭ニ笑顔ノ花咲ク(アルヴヘイム)】!」

「【我ハ黒ノ執行者(メタトロン)】!」


 ソーニャは橙色の奥義、【夢ノ庭ニ笑顔ノ花咲ク】。

 イアは黒色の奥義、【我ハ黒ノ執行者】。

 二人が育てようとしている奥義になる。

 どちらも熟練度が限界を超え、育てまくっているので、非常に強力だ。

 ただし欠点もあり、熟練度が限界を超えれば消費MPやSPも増える。


 タゴサクの【全テヲ滅スル光(ラグナロク)】は初期の奥義だからか、増加量は誤差のようなものだ。

 ソーニャやイアのように強力な奥義を育てると、バカにならない。

 戦闘が一度終わるごとにアイテムで回復している。


「お金が足りないわ。モンスターを倒しても赤字よ」

「一億九千万もする服を買う奴が悪い。ここまでくりゃ、普通は金欠にならないもんだぞ」

「欲しかったのよ。後悔はしてない!」

「試合も買った服で参加するんだよな? パーティー戦は俺とイアでフォローできるが、美少女プレイヤーランキングの試合も和装か?」

「当然! 防御力なんて飾り! 私のポリシーよ!」

「好きにすりゃいいんだが、アホな奴」


 イアの厨二病と並び、タゴサクには理解できない。

 戦闘面ではデメリットしかない。イアが入手した【雪女の衣】なら、冷属性の攻撃に強いというメリットがあるが、ソーニャの服は本当に可愛いだけだ。

 理解はできなくとも、ゲームを楽しむのが一番だとは思う。装備したくない物を装備する必要はない。

 装備したくないで思い出したが、あの杖はどうしたのだろうか。


「ソーニャは、【キングイーンイカタコ】のドロップはどうしたんだ? あの触手みたいな杖」

「とっくに売ったわよ。服を買うための金策にしたわ」

「強かったんだろ?」

「少なくとも、今の杖よりは強いわね。でも可愛くないしダメ」

「レアドロップなのにもったいねえ」


 徹頭徹尾、可愛いを基準にするソーニャであった。

 タゴサクは使い道のない剣も売らずに持っている。

 序盤に購入した物、モンスタードロップの【蟷螂剣(とうろうけん)】や【ゴブリンレイピア】、今は装備できなくなった鈍色専用武器。

 どれもこれも思い出の詰まった品だ。【ゴブリンレイピア】は使った経験がないが、ジャングルでゴブリン狩りをしたことを思い出す。


 あっさり売り払うソーニャが冷たいとは言わない。タゴサクも全てのアイテムに感情移入しているわけではなく、剣だけだ。

 ソーニャだって、可愛い服には愛着がある。人それぞれ異なるということだ。


 気分転換の雑談はここまでにし、レベリングの続きをする。

 一日戦えばゲームは終わりだ。回復のために宿屋に入り、ログアウト前に成果を確認しつつだべるのがいつもの流れになる。


「レベルは上がったが、いいアイテムはドロップしないか」

「今のままでも十分でしょ。なんか欲しい物あるの?」

「俺は特にないな。ソーニャは?」

「強いて言えば杖ね。可愛い杖」

「また可愛いかよ」

「わたしの基準は厨二病的で格好いい。ソーニャちゃんの基準は可愛い。サクさんは……なんです?」

「お兄ちゃんはギャンブルでしょ。もしくは猫」

「猫は勘弁だ。ギャンブルにしといてくれ」


 三人とも独自色を打ち出している。タゴサクだけが少々アレなのはご愛嬌だ。

 オリジナリティあふれる三人パーティーになる。

 そして、このパーティーを飾るにふさわしいある名前を決めなければならない。


「パーティー戦に登録するパーティー名はどうする?」


 PvPのパーティー戦では、パーティー名を登録する。

 他の試合は個人戦になるのでプレイヤー名になるが、パーティー戦では自由に名前を決められるのだ。


「ご主人様とペットと可憐な少女」

「却下だ。つうか、自分で自分を可憐な少女とか」

「猫ちゃん」

「却下だ。俺はネコサクにならないし、関連がない」


 ソーニャとイアの意見は、考慮するに値しない。


「じゃあ、お兄ちゃんの意見は?」

「錯綜の愛」


 タゴサク、ソーニャ、イアの名前を組み合わせたパーティー名だ。意味はない。

 意味はないつもりだが、男一人に女二人のパーティーが錯綜の愛では、他人は意味を考える。

 入り組んで混乱した複雑な愛。すなわち修羅場かと。

 自分で言っていて、これはないと思った。


「却下」

「却下です」


 相談するが、パーティー名は決まらなかった。

 まだ時間はある。慌てて決める必要もないので保留とし、ログアウトだ。

 明日からもPvPに向けてレベリングする。

 残りわずかな期間、ラストスパートをかけよう。

次で第4章最終話となります。

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